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第二十二章:皇太子と王女の関係
133:真実を知った王女
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とても悠長に休んでいるような気持ちではなかったので、スーはオトに身支度を整えるように頼んだ。久しぶりにサイオンの衣装に袖を通すと、ますます自分らしさを取り戻したような気がする。
ディオクレアに囚われていた時はとてつもなく体調が悪かったが、それを差し引いても、なぜ自分があれほど弱気になっていたのか不思議でたまらない。
(ルカ様のことを思うと、涙が止まらなくなったわ)
スーは自分の部屋からつながるテラスに出る。外は上着を羽織って出ないと肌寒い。以前に庭を見た時よりも季節が移ろっている。自分が不在のあいだに花壇の様子も変わっていた。
(これからは寒くなるわね)
まだ室内に引き返したくなるほどの寒さでもない。スーがテラスの椅子にかけると、オトが温かい飲み物を用意してくれた。
「ありがとう、オト」
素直に感謝を伝えて、スーは自分に付き従うように傍らに立っていた女を仰いだ。
「あなたも一緒にどうですか?」
オトや館の者の様子には、自分とそっくりの女を警戒する様子はなかった。誰もがフェイと呼んで、スーが目覚めたことに対して感謝を表明しているほどである。
女は戸惑った顔をしたが、頷くとスーの向かいの席についた。オトが彼女にもスーと同じ温かい紅茶を淹れた。スーは女への警戒心をといて尋ねる。
「わたしはまだあなたの自己紹介を聞いたことがないのだけど、もうわたしにも名乗っていただけるのでしょうか」
歩みよる姿勢をみせると、フェイは座ったまま会釈する。
「失礼しました、スー王女。私はフェイと申します」
自分とうり二つの顔。そのことが示唆する事実は受け入れがたいが、呑み込まなければならない現実があるのかもしれない。少し緊張しながら、スーは少しずつ芽生えていた予感を打ち明ける。
「もしかして、あなたがディオクレア大公殿下の元からわたしを連れ出してくださったのですか?」
女――フェイは、少し迷ったように視線を伏せたが、ふたたびスーの目を見るとはっきりと答えた。
「スー王女を救い出したのは、皇太子殿下です」
「え?」
スーは意外な事実に、思わず身を乗り出してしまう。
「皇太子殿下って、ルカ様のこと?」
「はい、もちろんです」
「――そう、だったのですか」
スーは心の底から安堵する。知らずにこわばっていた肩から力が抜けた。
(ルカ様が来てくれた……)
彼にも何か不測の事態があったのかと危惧していたが、どうやら思い違いだったようである。
ディオクレアの策によって、スーと同時に、ルカにも危険が迫っているのではないかと考えていたのだ。けれどルカがディオクレアの元からスーを連れ出してくれたのであれば、その身を案じることもない。きっと今も公務に追われて多忙なだけだろう。
(考え過ぎただけ? でも、みんながあまりにも思わせぶりだから……)
心の片隅に引っかかるものがあったが、スーは最大の不安は解消したのだと前向きにとらえる。考えなければならないことはたくさんあった。
温かい紅茶を飲んでいても緊張で指先が冷たくなる。スーは深呼吸をすると、覚悟をきめて次の質問をした。
「さっき、ユエンが不在の理由を教えてくれたけれど、それは――、その」
「事実です」
フェイは迷わず宣告する。
(サイオンの抑制機構から逃れるためには、麗眼布の依存性を乗り越えなければなりません)
「麗眼布《れいがんふ》の依存性……」
それを事実だと認めることは、スーにとって強い抵抗があった。
でも、今となってはフェイが嘘をつく理由もないはずである。
麗眼布の正体。振り返れば、ディオクレアがそれを利用していたのは明らかだった。
パルミラへ向かう寝台車の個室では、薬物を与えられたかのように意識が朦朧としていた。窓のない部屋に監禁されてからの、禁断症状とも言える、とてつもない苦痛。
思い出すだけで、掌に汗がにじむ。
過酷な体験のすべてが、サイオンに秘められていた真実につながる。
スーの正体も、人々を支配する恐ろしい天女の呪縛も。
ディオクレアの言っていた荒唐無稽な話が、事実なのだと示している。
スーはふうっと大きくため息をついて、フェイを見つめる。
「サイオンの真実は、みんな知っていた事なの?」
「いいえ。これは永くサイオンの機密であり、その事実を知るのは、帝国においては皇帝陛下と皇太子殿下だけです」
スーは心臓がわし掴みにされたような衝撃に耐える。
(……やっぱり、ルカ様はすべて知っていた)
「私はそのサイオンの機密をディオクレア大公殿下に打ち明けてしまった。サイオンを呪縛から解放することを望んで……。私のしたことは裏目に出ましたが、今回のことは、すべてそこから始まったことです」
「では、わたしは本当に生贄としてルカ様に嫁いだの?」
「――はい。でも皇太子殿下はそんなことを望んでおられません。皇帝陛下も皇太子殿下も、ずっと王女とサイオンの自由のために動いてこられた」
フェイの語ることを疑うような気持ちは湧いてこない。これまでのルカの行いを思えば、彼がサイオンとの因習を断ち切ろうとするのは当然だと思える。
(ルカ様は優しいから、わたしに言えなかったのだわ。……わたしが何も知らずに慕っていたから)
フェイが続けて何かを語っていたが、もうスーの耳には入ってこなかった。
(わたしはずっとルカ様を困らせていた。でも、ルカ様はずっと私を大切にしてくれた)
ディオクレアが自分を見る眼差しはまるで異物を見るようだったが、ルカからはそんな非情さを感じたことがない。
(出会った時から、ずっと優しかった)
クラウディアとサイオンにどんな経緯があったとしても、その事実が失われることはない。
いつでも優しかった。
けれど、それはスーへの同情と、皇太子として責務の延長にあった振る舞いなのだろう。
(……おしどり夫婦は諦めなくちゃ)
ぼんやりとそんなことを思う。いまだにルカへの想いは強く胸に灯っている。でも、この思いは決して実らないのだ。
ルカに愛してもらうには、スーの出生はあまりにも歪すぎた。
(でも! ルカ様はこんな私にも思いやりをもって接してくれたわ!)
自分に言い聞かせるように、スーは自分の気持ちを確かめる。
(これはようするに、わたしが単にルカ様のタイプではなかったというだけの話よ! 残念だけど、わたしがルカ様を大好きなことは変わらない! 何も変わらない!)
泣きたくなるような気持ちを追い出すために、必死になって自分を鼓舞していると、テラスに執事のテオドールが飛び込んできた。
「スー様! ルキア様がいらっしゃいました!」
ひどく切迫しているテオドールの様子が、ふたたびスーに嫌な予感を芽生えさせる。「どうしたの?」と問いかけるより早く、ルキアもテラスに現れた。
「スー様!」
彼はものすごい勢いでスーの元へやって来る。
「火急の要件です! すぐに私とともに来てください!」
いつも冷静沈着なルキアからは考えられない剣幕である。スーは思わずしゃきんと立ち上がってしまった。
「な、何かあったのですか?」
「殿下が危篤です!」
ディオクレアに囚われていた時はとてつもなく体調が悪かったが、それを差し引いても、なぜ自分があれほど弱気になっていたのか不思議でたまらない。
(ルカ様のことを思うと、涙が止まらなくなったわ)
スーは自分の部屋からつながるテラスに出る。外は上着を羽織って出ないと肌寒い。以前に庭を見た時よりも季節が移ろっている。自分が不在のあいだに花壇の様子も変わっていた。
(これからは寒くなるわね)
まだ室内に引き返したくなるほどの寒さでもない。スーがテラスの椅子にかけると、オトが温かい飲み物を用意してくれた。
「ありがとう、オト」
素直に感謝を伝えて、スーは自分に付き従うように傍らに立っていた女を仰いだ。
「あなたも一緒にどうですか?」
オトや館の者の様子には、自分とそっくりの女を警戒する様子はなかった。誰もがフェイと呼んで、スーが目覚めたことに対して感謝を表明しているほどである。
女は戸惑った顔をしたが、頷くとスーの向かいの席についた。オトが彼女にもスーと同じ温かい紅茶を淹れた。スーは女への警戒心をといて尋ねる。
「わたしはまだあなたの自己紹介を聞いたことがないのだけど、もうわたしにも名乗っていただけるのでしょうか」
歩みよる姿勢をみせると、フェイは座ったまま会釈する。
「失礼しました、スー王女。私はフェイと申します」
自分とうり二つの顔。そのことが示唆する事実は受け入れがたいが、呑み込まなければならない現実があるのかもしれない。少し緊張しながら、スーは少しずつ芽生えていた予感を打ち明ける。
「もしかして、あなたがディオクレア大公殿下の元からわたしを連れ出してくださったのですか?」
女――フェイは、少し迷ったように視線を伏せたが、ふたたびスーの目を見るとはっきりと答えた。
「スー王女を救い出したのは、皇太子殿下です」
「え?」
スーは意外な事実に、思わず身を乗り出してしまう。
「皇太子殿下って、ルカ様のこと?」
「はい、もちろんです」
「――そう、だったのですか」
スーは心の底から安堵する。知らずにこわばっていた肩から力が抜けた。
(ルカ様が来てくれた……)
彼にも何か不測の事態があったのかと危惧していたが、どうやら思い違いだったようである。
ディオクレアの策によって、スーと同時に、ルカにも危険が迫っているのではないかと考えていたのだ。けれどルカがディオクレアの元からスーを連れ出してくれたのであれば、その身を案じることもない。きっと今も公務に追われて多忙なだけだろう。
(考え過ぎただけ? でも、みんながあまりにも思わせぶりだから……)
心の片隅に引っかかるものがあったが、スーは最大の不安は解消したのだと前向きにとらえる。考えなければならないことはたくさんあった。
温かい紅茶を飲んでいても緊張で指先が冷たくなる。スーは深呼吸をすると、覚悟をきめて次の質問をした。
「さっき、ユエンが不在の理由を教えてくれたけれど、それは――、その」
「事実です」
フェイは迷わず宣告する。
(サイオンの抑制機構から逃れるためには、麗眼布の依存性を乗り越えなければなりません)
「麗眼布《れいがんふ》の依存性……」
それを事実だと認めることは、スーにとって強い抵抗があった。
でも、今となってはフェイが嘘をつく理由もないはずである。
麗眼布の正体。振り返れば、ディオクレアがそれを利用していたのは明らかだった。
パルミラへ向かう寝台車の個室では、薬物を与えられたかのように意識が朦朧としていた。窓のない部屋に監禁されてからの、禁断症状とも言える、とてつもない苦痛。
思い出すだけで、掌に汗がにじむ。
過酷な体験のすべてが、サイオンに秘められていた真実につながる。
スーの正体も、人々を支配する恐ろしい天女の呪縛も。
ディオクレアの言っていた荒唐無稽な話が、事実なのだと示している。
スーはふうっと大きくため息をついて、フェイを見つめる。
「サイオンの真実は、みんな知っていた事なの?」
「いいえ。これは永くサイオンの機密であり、その事実を知るのは、帝国においては皇帝陛下と皇太子殿下だけです」
スーは心臓がわし掴みにされたような衝撃に耐える。
(……やっぱり、ルカ様はすべて知っていた)
「私はそのサイオンの機密をディオクレア大公殿下に打ち明けてしまった。サイオンを呪縛から解放することを望んで……。私のしたことは裏目に出ましたが、今回のことは、すべてそこから始まったことです」
「では、わたしは本当に生贄としてルカ様に嫁いだの?」
「――はい。でも皇太子殿下はそんなことを望んでおられません。皇帝陛下も皇太子殿下も、ずっと王女とサイオンの自由のために動いてこられた」
フェイの語ることを疑うような気持ちは湧いてこない。これまでのルカの行いを思えば、彼がサイオンとの因習を断ち切ろうとするのは当然だと思える。
(ルカ様は優しいから、わたしに言えなかったのだわ。……わたしが何も知らずに慕っていたから)
フェイが続けて何かを語っていたが、もうスーの耳には入ってこなかった。
(わたしはずっとルカ様を困らせていた。でも、ルカ様はずっと私を大切にしてくれた)
ディオクレアが自分を見る眼差しはまるで異物を見るようだったが、ルカからはそんな非情さを感じたことがない。
(出会った時から、ずっと優しかった)
クラウディアとサイオンにどんな経緯があったとしても、その事実が失われることはない。
いつでも優しかった。
けれど、それはスーへの同情と、皇太子として責務の延長にあった振る舞いなのだろう。
(……おしどり夫婦は諦めなくちゃ)
ぼんやりとそんなことを思う。いまだにルカへの想いは強く胸に灯っている。でも、この思いは決して実らないのだ。
ルカに愛してもらうには、スーの出生はあまりにも歪すぎた。
(でも! ルカ様はこんな私にも思いやりをもって接してくれたわ!)
自分に言い聞かせるように、スーは自分の気持ちを確かめる。
(これはようするに、わたしが単にルカ様のタイプではなかったというだけの話よ! 残念だけど、わたしがルカ様を大好きなことは変わらない! 何も変わらない!)
泣きたくなるような気持ちを追い出すために、必死になって自分を鼓舞していると、テラスに執事のテオドールが飛び込んできた。
「スー様! ルキア様がいらっしゃいました!」
ひどく切迫しているテオドールの様子が、ふたたびスーに嫌な予感を芽生えさせる。「どうしたの?」と問いかけるより早く、ルキアもテラスに現れた。
「スー様!」
彼はものすごい勢いでスーの元へやって来る。
「火急の要件です! すぐに私とともに来てください!」
いつも冷静沈着なルキアからは考えられない剣幕である。スーは思わずしゃきんと立ち上がってしまった。
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