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第十三章:第三都ガルバ
74:古代王朝サイオンへの手がかり
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言われてみればここまでの話では、リオのかかわりが薄い。ルカは暗く塞がった気分を、素早く立てなおした。彼は持参していた端末機器を卓のうえに置くと、画面をルカの方へむける。
何かを比較した一覧だった。
「以前、殿下に古代王朝から発見された石のようなものを調査するように承りましたよね」
「はい。結果は天然の鉱石ではなく何らかの加工物と思えるが、全く手に負えないとの報告でしたが、その後、何かわかったのですか?」
リオが挑戦的な目をしている。
「これは、まだ私の仮説にすぎませんが、古代王朝サイオンの作り出した加工物ーーイグノの元となるのが、この鉱石である可能性が高いです」
ルカはひととき呼吸をするのを忘れてしまう。サイオンの超科学技術の手がかり。
まさかこんなところから明らかになるとは思いもよらない。
ルキアも茫然とした面持ちで、リオの示した端末に映された一覧に見入っている。
「イグノの原料が、この未知の鉱石だと言うのですか?」
ルキアの驚愕とともに、息をのんだルカの様子に、リオが満足げに笑った。
「私達がイグノと呼ぶサイオン王朝の加工物は、古代王朝の残した遺跡で何の副作用も代償もなく、半永久的に動力を生み出します。ガイアで造船される飛空艇も、動力部はサイオンの技術です。そしてイグノを抜きには大海に出ることも大空を飛ぶこともできません」
「はい」
リオの説明には正しくない部分があったが、ルカはただ頷いた。
サイオンの超科学技術は、何の代償もなく無尽蔵の動力を供給しているわけではない。秘匿された掟。真実を知るのは皇帝と皇太子だけである。
スーの顔が脳裏をよぎったが、ルカはすぐに新たに立ち上がった問題に意識を向ける。
「もしイグノの原料が、本当にその未知の鉱石なら……」
サイオンの超科学技術の一端が見えたことは喜ばしいが、一筋みえた光明の先に、ルカは暗い思惑が手をこまねいているのを感じた。
大公家ディオクレアが関わっている。
ルカは急激に嫌な予感が胸に充満していくのを感じた。
亡き父への疑惑が拭えない。サイオンとクラウディアの秘密が、もしディオクレアに伝わっていたのだとしたらーー。
王宮の最奥のサロンで、皇帝と交わした会話が重みをましはじめる。
(普通に考えれば誘拐よりは暗殺の方がたやすい。だから、誘拐を選んだ場合には意味があるというのが彼の考え方だ)
天女の守護者が示唆したこと。
(王女の美貌に目が眩んだ欲望の権化か、王女の本当の意味を知っているか、どちらかだろうと)
皇帝がルカに導きたかった真の道筋は、ここにあったのかもしれない。
黙って成り行きを見守っていたテオドラが、「殿下」と口を開いた。ルカが視線を向けると、テオドラは思いつめた生真面目な顔をしていた。
「ルクスは秘密裏に、この未知の鉱石の出所を探ります。ですが、殿下には何もご存じないものとして、目をつぶっていただきたく思います」
それがルクスがルカにできる恩返しだといいたげに、テオドラの目には静かな決意があった。
ディオクレアが関わる未知の鉱石についてを辿るのは、ルクスの情報網をもってしても容易ではないだろう。
ルカは多少の不道徳や不都合には、目をつぶる覚悟をきめる。
「ありがとうございます、ルクス総帥」
自然に頭が下がる。ルクスの協力は何ものにも変えがたい。幸運を噛み締めていると、リオの茶化すような声が、ルカとテオドラの間を割った。
「殿下、私はこの鉱石を調べる許可をいただきたいのですが?」
挙手するような仕草で声をあげたリオの申し出に、ルカは呆れてしまう。
「すでに好き勝手に調べておいて?」
「では、事後報告ということで」
深刻さのない態度に、ルカは戒めるように厳しい目を向けた。リオがぴくりと姿勢を正す。
「この件は重大な機密事項です。情報の漏洩には細心の注意を払うように」
「了解しました」
「リオ。この機密案件に必要なことがあるのなら申し出てください。可能な限り許可します」
「……殿下」
「期待しています」
決して紐解くことのできなかった古代王朝サイオンの超科学技術。その一端が掴めるのならば惜しむ必要はない。全力で探るだけである。
(令嬢との顔合わせのつもりが、まさかこんなことになるとはーー)
ディオクレアの影に不安を感じつつも、もたらされた情報に悲観的な気持ちは沸いてこない。
むしろ清々しい気分だった。
ルカは手元の珈琲カップを持ち上げる。
すっかり冷めた琥珀の水面が、未知の鉱石の金属的な輝きを真似たように、きらりと照明を反射する。まるで先途を占う光のように、一筋の煌めきがルカの目に映った。
何かを比較した一覧だった。
「以前、殿下に古代王朝から発見された石のようなものを調査するように承りましたよね」
「はい。結果は天然の鉱石ではなく何らかの加工物と思えるが、全く手に負えないとの報告でしたが、その後、何かわかったのですか?」
リオが挑戦的な目をしている。
「これは、まだ私の仮説にすぎませんが、古代王朝サイオンの作り出した加工物ーーイグノの元となるのが、この鉱石である可能性が高いです」
ルカはひととき呼吸をするのを忘れてしまう。サイオンの超科学技術の手がかり。
まさかこんなところから明らかになるとは思いもよらない。
ルキアも茫然とした面持ちで、リオの示した端末に映された一覧に見入っている。
「イグノの原料が、この未知の鉱石だと言うのですか?」
ルキアの驚愕とともに、息をのんだルカの様子に、リオが満足げに笑った。
「私達がイグノと呼ぶサイオン王朝の加工物は、古代王朝の残した遺跡で何の副作用も代償もなく、半永久的に動力を生み出します。ガイアで造船される飛空艇も、動力部はサイオンの技術です。そしてイグノを抜きには大海に出ることも大空を飛ぶこともできません」
「はい」
リオの説明には正しくない部分があったが、ルカはただ頷いた。
サイオンの超科学技術は、何の代償もなく無尽蔵の動力を供給しているわけではない。秘匿された掟。真実を知るのは皇帝と皇太子だけである。
スーの顔が脳裏をよぎったが、ルカはすぐに新たに立ち上がった問題に意識を向ける。
「もしイグノの原料が、本当にその未知の鉱石なら……」
サイオンの超科学技術の一端が見えたことは喜ばしいが、一筋みえた光明の先に、ルカは暗い思惑が手をこまねいているのを感じた。
大公家ディオクレアが関わっている。
ルカは急激に嫌な予感が胸に充満していくのを感じた。
亡き父への疑惑が拭えない。サイオンとクラウディアの秘密が、もしディオクレアに伝わっていたのだとしたらーー。
王宮の最奥のサロンで、皇帝と交わした会話が重みをましはじめる。
(普通に考えれば誘拐よりは暗殺の方がたやすい。だから、誘拐を選んだ場合には意味があるというのが彼の考え方だ)
天女の守護者が示唆したこと。
(王女の美貌に目が眩んだ欲望の権化か、王女の本当の意味を知っているか、どちらかだろうと)
皇帝がルカに導きたかった真の道筋は、ここにあったのかもしれない。
黙って成り行きを見守っていたテオドラが、「殿下」と口を開いた。ルカが視線を向けると、テオドラは思いつめた生真面目な顔をしていた。
「ルクスは秘密裏に、この未知の鉱石の出所を探ります。ですが、殿下には何もご存じないものとして、目をつぶっていただきたく思います」
それがルクスがルカにできる恩返しだといいたげに、テオドラの目には静かな決意があった。
ディオクレアが関わる未知の鉱石についてを辿るのは、ルクスの情報網をもってしても容易ではないだろう。
ルカは多少の不道徳や不都合には、目をつぶる覚悟をきめる。
「ありがとうございます、ルクス総帥」
自然に頭が下がる。ルクスの協力は何ものにも変えがたい。幸運を噛み締めていると、リオの茶化すような声が、ルカとテオドラの間を割った。
「殿下、私はこの鉱石を調べる許可をいただきたいのですが?」
挙手するような仕草で声をあげたリオの申し出に、ルカは呆れてしまう。
「すでに好き勝手に調べておいて?」
「では、事後報告ということで」
深刻さのない態度に、ルカは戒めるように厳しい目を向けた。リオがぴくりと姿勢を正す。
「この件は重大な機密事項です。情報の漏洩には細心の注意を払うように」
「了解しました」
「リオ。この機密案件に必要なことがあるのなら申し出てください。可能な限り許可します」
「……殿下」
「期待しています」
決して紐解くことのできなかった古代王朝サイオンの超科学技術。その一端が掴めるのならば惜しむ必要はない。全力で探るだけである。
(令嬢との顔合わせのつもりが、まさかこんなことになるとはーー)
ディオクレアの影に不安を感じつつも、もたらされた情報に悲観的な気持ちは沸いてこない。
むしろ清々しい気分だった。
ルカは手元の珈琲カップを持ち上げる。
すっかり冷めた琥珀の水面が、未知の鉱石の金属的な輝きを真似たように、きらりと照明を反射する。まるで先途を占う光のように、一筋の煌めきがルカの目に映った。
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