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第二章:帝国クラウディアの皇太子
9:王女の様子
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私邸の主な管理を任せている執事とは別に、気遣いのできる女を選りすぐり、ルカはスーの身辺に気を配らせている。その女達をまとめる侍従長のオトを書斎に呼び、ルカは夕食の準備が整うまでの間、話を聞くことにした。
「ルカ様、お呼びでしょうか」
「オト、ご苦労だな。早速だが聞きたいことがある」
「はい、何なりと」
「王女と教師達の様子はどうだ? 無理な詰め込みをしていたりしないか?」
教師から聞くスーの評判は、オトを介して耳に入る。
「そうですね。……スー様はとても意欲的ですが、少し行き過ぎている感じもいたします」
「例えば?」
「私の眼には、休む暇もないように見えます。実際スー様がこちらに来てから、ゆっくりとご自分の時間を過ごしているのを見たことがありません。お部屋でも、侍女のユエン様を相手に、予習や復習に時間を割いておられるようで……」
「それでは、近いうちに疲れてしまうだろうな」
「はい。何度かスー様とユエン様にも、休息をとるようにご進言いたしましたが、ひどく意気込んでおられるようで何も変わりません」
「その意気込みは、どこから芽生えているのだろうな。なにかプレッシャーに感じることでもあるのだろうか? まぁ、故郷を離れて何もかもが変わってしまっただろうが……」
「スー様は毎日楽しそうですが、心に秘めていることまではわかりかねます」
「そうだな。……教師たちには、加減しろと伝えてほしい。できるだけ、王女には居心地が悪いと思われたくない」
「はい」
クラウディアを学ぶことが、サイオンの王女に楽しいはずがない。今は物珍しさで気持ちが昂ぶっているのだろうが、一時的な波が去った後の落胆に備える必要がありそうだ。
故郷であるサイオンに帰りたいと泣き出す恐れもある。王女が望むのであれば里帰りを許可したいが、皇太子妃には意味が伴う。葬った父の置き土産というべきか、帝国内の勢力図は複雑で油断ならない。皇太子妃となるスーを、自分の傍から離すことは避けたい。
「ですが、ルカ様。この屋敷の者はスー様を歓迎しております」
「もちろんだ」
「いえ、建前ではなく。とても親しみやすい姫君でいらっしゃいます。やはりサイオンという大らかな国で生まれ育った方だからでしょうか」
言われてみればルカの印象も同じだった。自分が十代の頃、良く目にしていた特権や階級で品定めをする貴族令嬢の刺々しさを感じない。
「私達を困らせるようなわがままを仰ることもありませんし、逆にこちらを気遣ってくださったりして……」
皇太子の私邸に勤める者は、侍従としての経歴を積んでいる。偏屈な主や高貴な令嬢に困らされた経験がない方が珍しいのだろう。
「おまえたちが王女を慕うなら、それに越したことはない」
ルカはふっとおかしくなる。突然飛びついて来たり、ルカの常識では測れない面もあるが憎めない。
スーとのやり取りを振り返るたびに、大きな珍獣を飼い始めた気分になる。
「ありがとう、オト。引き続き、王女の様子には気を配ってほしい」
「はい」
オトが退出すると、ルカは少し迷ってから後日のスケジュールを調整するために、書斎のデスクに備えられた端末のセンサーに触れた。
「ルカ様、お呼びでしょうか」
「オト、ご苦労だな。早速だが聞きたいことがある」
「はい、何なりと」
「王女と教師達の様子はどうだ? 無理な詰め込みをしていたりしないか?」
教師から聞くスーの評判は、オトを介して耳に入る。
「そうですね。……スー様はとても意欲的ですが、少し行き過ぎている感じもいたします」
「例えば?」
「私の眼には、休む暇もないように見えます。実際スー様がこちらに来てから、ゆっくりとご自分の時間を過ごしているのを見たことがありません。お部屋でも、侍女のユエン様を相手に、予習や復習に時間を割いておられるようで……」
「それでは、近いうちに疲れてしまうだろうな」
「はい。何度かスー様とユエン様にも、休息をとるようにご進言いたしましたが、ひどく意気込んでおられるようで何も変わりません」
「その意気込みは、どこから芽生えているのだろうな。なにかプレッシャーに感じることでもあるのだろうか? まぁ、故郷を離れて何もかもが変わってしまっただろうが……」
「スー様は毎日楽しそうですが、心に秘めていることまではわかりかねます」
「そうだな。……教師たちには、加減しろと伝えてほしい。できるだけ、王女には居心地が悪いと思われたくない」
「はい」
クラウディアを学ぶことが、サイオンの王女に楽しいはずがない。今は物珍しさで気持ちが昂ぶっているのだろうが、一時的な波が去った後の落胆に備える必要がありそうだ。
故郷であるサイオンに帰りたいと泣き出す恐れもある。王女が望むのであれば里帰りを許可したいが、皇太子妃には意味が伴う。葬った父の置き土産というべきか、帝国内の勢力図は複雑で油断ならない。皇太子妃となるスーを、自分の傍から離すことは避けたい。
「ですが、ルカ様。この屋敷の者はスー様を歓迎しております」
「もちろんだ」
「いえ、建前ではなく。とても親しみやすい姫君でいらっしゃいます。やはりサイオンという大らかな国で生まれ育った方だからでしょうか」
言われてみればルカの印象も同じだった。自分が十代の頃、良く目にしていた特権や階級で品定めをする貴族令嬢の刺々しさを感じない。
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「おまえたちが王女を慕うなら、それに越したことはない」
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スーとのやり取りを振り返るたびに、大きな珍獣を飼い始めた気分になる。
「ありがとう、オト。引き続き、王女の様子には気を配ってほしい」
「はい」
オトが退出すると、ルカは少し迷ってから後日のスケジュールを調整するために、書斎のデスクに備えられた端末のセンサーに触れた。
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