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左手の指輪はそれなりに効果があったようだ。
いつも煩い女共は静かだし、粗探しに絡んでくる男共も今日は寄ってこない。
仕事で話すことはあっても、指輪に目線が向くし気にしている様子はあるが聞いてくる奴は皆無。単なる虫除け扱いされる可能性も考えていたんだが。
昼休憩でも特に絡まれることはなく、そろそろ終業時間になる。
それならそれで別にいい。結局その程度だったというだけの話だ。少しだが手間も省ける。
ただ明日は情報が回って真正面から来る奴が出ると思う。
その時は盛大に惚気てやるとするか。今なら余裕で話せる。
そんなことを考えながら作業をしていたのだが――――。
「透哉」
「なんだ、手短に言え」
「あの女が突然謝ってきたんだが何かしたか?」
「……………………は?」
長い沈黙の後、思わずといった風に身体ごと振り返った透哉と目が合う。
嘘を言っている顔ではないな。本気で驚いている。
――――――ついさっきのことだ。
特に残業もないしさっさと帰ろうとしているところにあの女から声を掛けられ、俺が関わるとまた面倒事になりかねないからひとまず無視しようとした、が、それを実行するよりも早く、深々と頭を下げられて。
呆気に取られている間に『八つ当たりに貴方を巻き込んでしまい申し訳ありませんでした』、と謝られた。
『私は周りを巻き込むつもりはもうありません』とも。
「それと俺なのか透哉なのかは知らないが、軽く見ている連中はまだ居そうだ」
「…………あれがそう言ったのか」
「憶測になるんだが私はを僅かに強調していた。透哉関連じゃないならあの女の周囲で何かあったのかもしれない」
一度は手を組んでいたわけだし。
そうじゃなくても接触してきた以上一度調べた方がいいだろう。
流石に昨日の今日だから俺達の件は無関係な気がするが。いくらなんでも早過ぎる。
相手側に誰が居るとして、そんなにすぐ情報を入手できるとは思えない。
だが、もしも。万が一があるとしたら。…………疑うべきは、身内だろうな。
家族はない。透哉も反応からしてない。あるとしたら三等親の内だろうか。
面倒だから違ってほしい。
「…………分かった。誰がいつ手の平を返すかも分からない。用心はしておけ」
「分かっている」
結局は今までと変わらない対応だ。
ただ、もう俺一人じゃないからしっかり考えて行動する必要はある。
結婚するまでは確実に横槍がある前提で動かないとな。
俺の物に手出しはさせない。
「報告はそれだけだ。今日はもう帰る。俺側に問題があったら教えてくれ」
「ああ。…………随分と急いでいるな」
「見せつけてやるのは大切だろう?」
今までと違う行動は目立つものだ。
指輪だけでもここまで反応が変わるのだから、他にも分かりやすくやっておいた方がいい。
単にさっさと帰りたいというのもあるが。
天音さんはもう帰っているだろうか?
残業がなければ帰りの時間は似たようなものだと言っていた。
移動時間が変わって前後はするだろうけど、と。夕飯の買い物がどうとかも言っていたはず。
「――――――気色悪い」
不意に、透哉が言う。
その表情からは感情は見て取れない。
快も不快もないなら、単なる感想だ。
「まあ、自覚はある」
今まですぐ近くで俺を見てきたんだ。そう思うのは分かる。
自分で考えている以上に、知っている者から見たら俺は相当浮かれているんだろう。
でも欲しいものがようやく手に入ったんだから仕方ないと思う。
「それはペットに対するものと違うのか」
「違う。その程度に金も時間も掛けるわけない。というか俺はお前と違ってその類のは面倒で嫌いだ」
透哉含めたその手の囲いを作ってる奴を見ていると本当に面倒でしかないなと思う。少なくとも管理できる力がなければ必ず破綻する。
そもそも俺はそこまで好色じゃないし。むしろそういうのに積極的な女は嫌いだ、碌なものじゃない。
一度、その類の女に酷い目に遭わされかけたし。
もうずっと昔の話で、当時まだ色々とよく分かっていない俺に代わって兄姉が徹底的に潰してくれたんだが。あまり思い出したくない話だ。
「昔、女関係で面倒があったんだったか。だが、だからこそ理解できない。一体何が良かったんだ」
「俺とお前じゃ趣向が違い過ぎるから当然だろ?…………言っておくけど彼女におかしな手出しをしたら許さないぞ」
「するか、そこまで馬鹿じゃない」
「ああ、そうであってくれ。じゃあもう行くぞ」
「さっさと行け」
しっしと手で追い払う仕草をする。
聞いてきたのはそっちだろうに。
まあこれ以上話すこともないし釘も刺せたからこのまま帰ろう。
天音さんも流石にもう帰り着いてる気がする。
いつも煩い女共は静かだし、粗探しに絡んでくる男共も今日は寄ってこない。
仕事で話すことはあっても、指輪に目線が向くし気にしている様子はあるが聞いてくる奴は皆無。単なる虫除け扱いされる可能性も考えていたんだが。
昼休憩でも特に絡まれることはなく、そろそろ終業時間になる。
それならそれで別にいい。結局その程度だったというだけの話だ。少しだが手間も省ける。
ただ明日は情報が回って真正面から来る奴が出ると思う。
その時は盛大に惚気てやるとするか。今なら余裕で話せる。
そんなことを考えながら作業をしていたのだが――――。
「透哉」
「なんだ、手短に言え」
「あの女が突然謝ってきたんだが何かしたか?」
「……………………は?」
長い沈黙の後、思わずといった風に身体ごと振り返った透哉と目が合う。
嘘を言っている顔ではないな。本気で驚いている。
――――――ついさっきのことだ。
特に残業もないしさっさと帰ろうとしているところにあの女から声を掛けられ、俺が関わるとまた面倒事になりかねないからひとまず無視しようとした、が、それを実行するよりも早く、深々と頭を下げられて。
呆気に取られている間に『八つ当たりに貴方を巻き込んでしまい申し訳ありませんでした』、と謝られた。
『私は周りを巻き込むつもりはもうありません』とも。
「それと俺なのか透哉なのかは知らないが、軽く見ている連中はまだ居そうだ」
「…………あれがそう言ったのか」
「憶測になるんだが私はを僅かに強調していた。透哉関連じゃないならあの女の周囲で何かあったのかもしれない」
一度は手を組んでいたわけだし。
そうじゃなくても接触してきた以上一度調べた方がいいだろう。
流石に昨日の今日だから俺達の件は無関係な気がするが。いくらなんでも早過ぎる。
相手側に誰が居るとして、そんなにすぐ情報を入手できるとは思えない。
だが、もしも。万が一があるとしたら。…………疑うべきは、身内だろうな。
家族はない。透哉も反応からしてない。あるとしたら三等親の内だろうか。
面倒だから違ってほしい。
「…………分かった。誰がいつ手の平を返すかも分からない。用心はしておけ」
「分かっている」
結局は今までと変わらない対応だ。
ただ、もう俺一人じゃないからしっかり考えて行動する必要はある。
結婚するまでは確実に横槍がある前提で動かないとな。
俺の物に手出しはさせない。
「報告はそれだけだ。今日はもう帰る。俺側に問題があったら教えてくれ」
「ああ。…………随分と急いでいるな」
「見せつけてやるのは大切だろう?」
今までと違う行動は目立つものだ。
指輪だけでもここまで反応が変わるのだから、他にも分かりやすくやっておいた方がいい。
単にさっさと帰りたいというのもあるが。
天音さんはもう帰っているだろうか?
残業がなければ帰りの時間は似たようなものだと言っていた。
移動時間が変わって前後はするだろうけど、と。夕飯の買い物がどうとかも言っていたはず。
「――――――気色悪い」
不意に、透哉が言う。
その表情からは感情は見て取れない。
快も不快もないなら、単なる感想だ。
「まあ、自覚はある」
今まですぐ近くで俺を見てきたんだ。そう思うのは分かる。
自分で考えている以上に、知っている者から見たら俺は相当浮かれているんだろう。
でも欲しいものがようやく手に入ったんだから仕方ないと思う。
「それはペットに対するものと違うのか」
「違う。その程度に金も時間も掛けるわけない。というか俺はお前と違ってその類のは面倒で嫌いだ」
透哉含めたその手の囲いを作ってる奴を見ていると本当に面倒でしかないなと思う。少なくとも管理できる力がなければ必ず破綻する。
そもそも俺はそこまで好色じゃないし。むしろそういうのに積極的な女は嫌いだ、碌なものじゃない。
一度、その類の女に酷い目に遭わされかけたし。
もうずっと昔の話で、当時まだ色々とよく分かっていない俺に代わって兄姉が徹底的に潰してくれたんだが。あまり思い出したくない話だ。
「昔、女関係で面倒があったんだったか。だが、だからこそ理解できない。一体何が良かったんだ」
「俺とお前じゃ趣向が違い過ぎるから当然だろ?…………言っておくけど彼女におかしな手出しをしたら許さないぞ」
「するか、そこまで馬鹿じゃない」
「ああ、そうであってくれ。じゃあもう行くぞ」
「さっさと行け」
しっしと手で追い払う仕草をする。
聞いてきたのはそっちだろうに。
まあこれ以上話すこともないし釘も刺せたからこのまま帰ろう。
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