執着から始まる

一色ほのか

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 分からなかった。
 どう答えればいいのか――――何を選択するのが、正しいのか。
 
 瀬能さんが言っていること自体は、正しい。
 レイプされかけた相手と縁を切る。当然のこと。
 そう、それが普通で、迷う必要なんてない。現実ならなおのことそうすべきだ。
 分かってる。ちゃんと理解してる。
 だけど……でも。
 その言葉に傷付いて、嫌だと思う私も、確かに存在していた。
 
 抵抗しても、拒絶しても止めてくれなくて、無理矢理触られて、嫌だったのに、怖かったのに。逃げたかったのに。
 相手瀬能さんは、好きな人で。
 それが分かったから多少平静は装えるけれど。……ゲームで一度体験したようなものだから。
 だけど、瀬能さんを怖いという思いも、当然あって。
 せめて、時間が欲しい。
 けど理不尽なことに彼は今決めろと言っている。
 こんな状況で、まともに考えるなんて無理に決まってるのに……。
 

 『 リアルで男がいるのか?だとしても、ゲームはゲームだから問題ないだろ 』
 『 ひあッ!あ、や、いな、けど、あっ!あんんッ! 』
 『 いないなら尚更問題ないよなぁ?ゲームの中で、気持ちよくセックスするだけだ 』


 …………。
 
 
 『 な、で、やッも、っきゃああぁッんッ! 』
 『 はは。…………今日はお前が『分かった』と言うまでセックスしような 』

 
 ……………………。


「と」
「ん?と?」
「とりあえずそれ、消して……!」
 
 物凄く、気が散る!
 自分以外の視点で自分の痴態を見るとかもう、…………無理!?
 
「あー……、はい」
 
 どこか気の抜けた返事をしつつ、私をその場に残して移動して、ノートパソコンをパタンと閉じた。
 ついでとばかりにさっき床に落ちた物を拾って、ノートパソコンの上に置く。どうやらパソコン用のリモコンのようだ。マウス代わりになるやつ。

 その後、戻って来て隣に腰を下ろした。
 
「そもそもなんなんですかあれっ!」
「…………まあ。流石に気付いてるとは思いますけど。所謂オカズ・・・です」
「っ!? な、なんっで……っ」
「それを貴方が言います?2週間も逃げておいて」
「それはっ、ちが、そうじゃなくてっ!なんで、私……っ」
 
 そういうのに使うのなんていくらでもあるだろうに、なんでよりにもよって私を使ってるの!!?
 ゲームのだから厳密には違うけど!
 
「そんなの、抱きたいのは貴方なんだから当然だろ」
 
 頬に手を添えて無理矢理目を合わせられてから、ドストレートに言われた。
 流石に唖然として言葉が出ない。
 そんな私に少し目を逸らし、んんっ、と誤魔化すように咳払いをする。
 
「こっちは同じだって知ってから会う度貴方に触りたくて仕方ないのを我慢してたんですよ」
「そっそんなこと言われたって!というかいつから気付いてっ!」
「合コンの件の時にはもう知ってました。だから部屋にも入れたんです。どうでもいい相手なら店に置いて帰ってますよ」
 
 それはそれでどうかと思う!?
 いやまあ、赤の他人を部屋に入れたくないのは分かるけど!
 というかそんなに前から知ってたの!?
 もう殆ど最初からって言っていいくらいじゃない!
 
 …………………………ん?
 
 ってことはつまり、その後の行動は……メールのこととか、飲みに誘われたのとかも分かってて、なんだよね?
 ええと、ええと、つまり。瀬能さんの言ってることを信じるなら。
 
「あの、前に言っていた、気になってる女性って」
「目の前に居ますね」
 
 あっさりとそう返された。
 うん……。
 つまり私と同じタイプ、どころかまさしく私、だったと。
 なのにわざわざ濁した言い方をしたのはきっと、
 
「ああでも言わないと、即逃げたでしょう?」
「…………ハイ」
「繋がりを切らないことを第一に考えていたのでああ言うしかなかったんですよ。事情を話すわけにもいかなかったので」
「それは全面的に貴方が悪いよ???」
 
 ゲームとはいえあんなことレイプしたから。
 それがなかったらもっと早くゲームでの繋がりを知れたかもしれない。
 …………それは流石に結果論か。
 
「分かってますよ、そんなこと」
 
 あっけらかんと答える。
 この人、完全に開き直ってない???
 なんていうか……言葉遣いとか色々と違っていても、こういう悪びれない感じとか、やっぱり零だわ、この人……。
 
「もう、本当、なんなの……」
「何がですか?」
「全部!貴方は一体何をどうしたかったの!」
「どう、ですか。そうですね、最初の時からは大きく変わりましたが。とりあえず今の俺の考えはさっき言いましたよ」
 
 答えになってるようでなってないような。
 
 …………さっきというと、私が駄目ならもう会わない、ってやつだよね。
 
 そういえば、そうだった。
 答えを出さなきゃいけないのは私の方だった。

 その会話も抜け落ちてしまうくらい色々な情報が後から後から出てくるから……。
 まあ、今のやり取りでこたえは決まったけども。
 正直思考停止というか、悪い意味合いで棚上げしたことしかない。問題の先送りだ。
 でも、うん。
 今の状況をどうにかする方が優先。流石にそろそろ不味い気がする。
 零は元々、気が長い方じゃない。
 
「ぁ、…………あの、えっと!」
 
 瀬能さんに向き直って口を開く。が。随分と上擦った声が出た。
 仕方ないとは思うものの、言葉を続けるよりも羞恥が勝る。
 やばい勢いがなくなって言葉が続けられない。
 
「…………決めました?」
 
 そんな私の様子を見て、瀬能さんがそう聞き返してきた。
 こんな状況じゃなければ素直に助け舟として受け取れるけど多分自分のためさっさと言えってことだろうなぁ、はは……。

 すぅ、ふー……。

 一つ。深呼吸をする。
 多分というか確実に自分に考える隙を与えてしまうと、またごちゃごちゃ悩むだけになる。
 だから。
 
「好き」
 
 もうシンプルに一言でいいや。
 この後どうなるのかすっっっごく怖いけど!!




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