執着から始まる

一色ほのか

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 シャワールームの調子が悪い、というのは当然ながら嘘だ。
 一緒に外に出るため、中を見られないための嘘。
 汚れたシーツや処理に使ったタオルやらを見られたら不味いから。
 …………寝落ちしたのがそこらへんを放り込んだ後で本当に良かった。
 まあ恋人でもない男の部屋でシャワールームに入るなんてことは普通に考えてないと思うが。そこまで危機感が欠如しているということはないはず。

 ………………あとは、電車に乗せないためでもあった。
 聞いてしまった以上このままにはしておきたくない。
 が、それを強制できる関係でもない。

 今回できなかったのが痛いな……タイミングが悪すぎる。
 手を出してすぐに目覚めてしまった上に状況を把握されてしまったから、ゲームの中だと誤認させるしかなかった。
 電気は消していたし目隠しをしておいたから何も見えていなかったはずだが……それにしたって誤認するかは完全に賭けで、酔いの醒めた彼女がどういう反応をするかを確認するまでは気が気でなかったが、あの様子では何も覚えていないか、夢だと思っているのか。少なくとも俺に襲われたとは思っていないようだった。
 俺に襲われたと気付いているなら、いつも通りの様子ではいられないだろう。
 ひとまず安心だが。惜しいことをした。
 むしろあの状態でよく挿れなかったなと思う。
 正直に言えば最後までしたかったが、つい最近『挿れれば相手が寝ていても起きれば分かる』と透哉が言っていたのが思い出されて、ギリギリで踏み止まった。
 …………やったことあるのか?あいつ。
 いや、あいつの性活はどうでもいい。
 問題は、そう、次はどうやって約束を取り付ける連れ込むか、か。
 時間を置いているとはいえ、二度同じことがあったのだから流石にすぐには頷かないだろう。
 ただ、あまり間を置きたくはない。
 その間にも有象無象に触られているかもしれないと思うと腸が煮え繰り返る思いがする。
 彼女は、俺のモノなのに。
 
「…………ん?」
 
 今後どう進めるか考えていると、着信音が耳に届いた。
 誰かと確認してみれば、表示されていた名は。
 
『――――――一般人で遊ぶのは止めておけ』
 
 何の用だと問う前に、そう言われた。
 分かっていたことだが、こちらの行動は把握されているようだ。
 
『彼女はただのお人好しで一般家庭育ちの平凡な女性だ。遊ばれただけだと理解したら立ち直れなくなる可能性も十分にある。助けられた自覚があるなら、』

「単なる遊びならさっさとヤッて捨ててる」
 
 言葉を被せるように言う。
 俺の性格や行動パターンを知っている透哉なら、それが正しいことくらい分かるだろう。
 
『まさか、本気なのか?お前が?」
「…………さあ?ただ執着している自覚はある。付き合いもそろそろ3年に近いし」
『は?あの時が初対面だろう』
「間違ってはいない」
 
 会っているのはゲーム内であって、現実ではあれが初めてだ。
 それでももしやと、それを確認しようと思う程度には執着している。

 恋だの、愛だのではない。
 ただ『欲しい』と思う。
 だからこうして行動している。
 
『…………ひとまず、止める気はないということか?』
「ああ」
 
 手に入れた後どうなるかは分からないが。
 まあ彼女に関してはすぐに飽きるということは恐らくない。何せ2年も執着した相手だ。
 今もそれなりに金も労力も使っているしそうそうすぐに手放したりはしない。
 むしろいっそのこと、
 
『分かった。しばらくの間は見逃そう。だが少しでも問題があると判断したら、分かってるな』
 
 溜め息混じりの透哉の言葉に思考を中断される。
 折れてくれるらしい。
 そんなもしもは彼女に限ってないと思う。身内はどうか知らないが。その辺は透哉が勝手に調べてくれるだろう。
 ただあまり心配はしていない。彼女の年齢であんな無防備になるくらいだ、周りも似たようなものだろう。少なくとも近しい身内は。
 
『彼女の何が良いんだ?こう言ってはなんだがパッとしない平凡な女性だろう』
「普段はそうだな。でも口の悪いところ……というか露骨に煽ってくることもある」
『…………信じられないな』
 
 ゲームの中での話だからな。
 最近は少なくなったが。セックスの最中は従順なものだし。
 いや、最中に煽ってくることもあったか。

 ……………………セックスと言えば。
 
「そういえば前に言っていたけど寝ている相手に挿れたらやっぱりバレるか?」
『…………。状態にもよるだろうがバレる。俺の場合仕置きも兼ねていたから問題はないが』
「ああ、例の女」
 
 あの件の黒幕というか、便乗犯というか。
 元々透哉の囲いの1人で、住居が近場なこともあったのか前までは割合頻繁に相手をしていた女だが、ここ1年前後はほぼ放置されていた。何があったかは知らないが。
 要は自分が相手にされないから目に着く形で世話を焼かれている俺に馬鹿な男共に便乗して八つ当たりをしてきた、というのが事の全容になる。
 つまり俺は完全に巻き込まれただけ。
 透哉もそれを分かっているから、今回はしばらく目を瞑ることにしたんだろう。
 
「次はないだろ?」
『あれに関してはな。目は光らせておくが、誰が何をするかまでは制御できない。お前も自衛なり網を張っておくように』
「分かった。でも自分の範囲外からの唐突なちょっかいは俺のレベルじゃ手に負えないからな」
『………………分かっている』
 
 少し苛立った調子の返事と同時に、通話を切られた。
 自覚があるようで何より。
 例の件は結局、ほぼほぼ透哉の管理不足だからな。
 もしかしたら俺以外からもなんらかの苦言が出ていた可能性がある。
 俺が知ったことじゃないが。
 今回俺は偶然無事で済んだ被害者だ。
 
「さて……」
 
 目溢しが確定したわけだが。
 だからと言って、あまり時間はかけられない。
 ひとまずは今日の反応を見て今後を決めるかな。



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