他称・異世界の魔女は自由を選ぶ

一色ほのか

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お話をしましょう。

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 告白します。
 
 私、雛森ユナは一国を滅ぼしました。
 理由は、復讐です。
 

 全ての始まりは、あの日です。
 私と、クラスメイトで学園一の美少女と言われる姫川セリナさんが某国に召喚されたあの日。
 今でも覚えています。
 座り込んだ石の床の冷たさ、恐怖から私にしがみつく姫川さんの弱弱しさ、私に向けられた彼らの胡乱気な視線。
 
 私が冷静で居られたのは、状況を理解していたからでした。
 そうですね、私がいた世界では、このような状況を夢想した書物……物語がありまして。
 私はそれが大好きで、よく読んでいましたから。
 だから、私は姫川さんと違って置かれた状況を一瞬で理解してしまったんです。
 
 私は姫川さんに巻き込まれたんだ・・・・・・・・・・・・・・・、と。
 
 その時彼女のそばにいたのが運の尽きだったんでしょう。
 望まず、望まれず。
 私はこの世界に来てしまったのです。
 
 ……予想通り、彼らが求めていた【巫女】とやらは姫川さんでした。
 なんでも、【巫女】は聖なる力(笑)を持っているとかで神官はそれを見抜けるそうです。
 なので私は違うということを彼らはすぐに分かったそうで。
 
 私は完全なる被害者だったんですよ。ええ、分かるでしょう?
 でも彼らは、余計なものは要らないと。
 処分しろと言うのです。
 彼らの中で最も偉そうな男がそういうのです、騎士らしい男は剣を抜きました。
 ええ、恐怖でした。
 
 それに待ったをかけたのは、姫川さんでした。
 私を殺したら、自分も死ぬと。一人になるのは嫌だと。
 泣いて私を離さない彼女を、とにかくあやしました。
 そばにいてと泣く彼女に、母性というよりも憐れみを覚えました。
 ほんの少しの優越感も。
 
 だって私は、彼女の所為でこんな状況にいるわけで。
 
 彼らは姫川さんの言葉に従い、私を生かしました。
 
 それからは、そうですね。
 彼女の侍女のようなことをしていました。
 私の姿が見えないと不安がって泣くんです。
 彼らもそれには辟易していたみたいですね。
 それでも私が居れば問題ないので、見える範囲に追いやっては彼女を甘やかし囲い込み、真綿で締め上げていきました。
 
 優しくされれば、情も移る。
 それが麗しい外見の男性たちならば、女ならば恋の一つや二つも覚えるでしょう。
 
 彼女は次第に彼らに心を開き、恋の駆け引きを始めました。
 
 彼女は天性の悪女ですよ。
 だってあの当時、彼女は5人の男を手玉に取っていたんですから。
 彼らは、馬鹿ですね。
 手玉に取っているつもりが、取られていたんですから。
 
 そうして、私は必要なくなりました。
 彼女は変わらず私に接しますが、その眼に映る優越は隠せません。
 私を連れまわしては、5人の男たちとのやり取りを見せつけてくるわけです。
 私はこんなにも愛されてるのよ、羨ましいでしょう?―――― そんな彼女の言葉が聞こえてくるようでした。
 
 ここが潮時・・・・・だ、と感じました。
 
 彼女が私を必要としなくなったことを、無論彼らも気付いています。
 そして、常に傍にいる私に嫉妬しているようでして。
 このままでは最初のあの時のように、処分しろと言われるのも時間の問題だと。
 
 だから私は、ささやかな復讐を仕掛け、それを最後に某国を去ろうと。
 
 彼女を含めた彼らを赦すなど、私の中ではありえないことでした。
 故郷を、家族を、全てを奪った彼らが憎い。許せない。
 当然のことでしょう?
 
 私は彼らの前から姿を消しました。
 
 予想外に、彼らは私を探しました。
 それはもう必死に。
 大方、【巫女】とともに召喚されたというだけで利用価値があると。
 【巫女】にとって害悪になりかねないとでも思ったのでしょう。
 
 そして私は、私を探す彼らの前に現れました。
 私とは全く別の、美しく儚い、姫川さんとはまた違った美しい少女の姿で。
 どなたかをお探しなのでしょうか?でしたらお手伝いをしますわ―――とね。
 
 それは、私がこの世界に来た時に得た能力によるものでした。
 世界を超えるという異常現象・・・・・・・・・・・・・が起きた時、そういったことがあると、書物で読んで知っていたので。
 何か得ていないかと調べたんですよ。
 
 その後は――まあお判りでしょうが、私は彼らを恋愛面で堕としていきました。
 楽しかったですよ?姫川さん絶対主義の彼らが、だんだんと私に靡いていく光景は。
 私を殺せそうなほど憎しみのこもった眼で見る、姫川さんの姿は。
 
 しかし、終わりの時は近付いていました。
 これは私とは関係なく、水面下で進んでいたことです。
 私は便乗し、ほんの少し、水面下の人々の手助けをしただけ。
 
 その日、私は姫川さんに呼び止められました。
 振り返った途端、平手打ちですよ?酷いと思いません?
 そして悪し様に私を罵ったのです、泥棒猫!と。 
 
 姫川さんは『偶然』通りかかった騎士の彼らに取り押さえられました。
 『偶然』騎士とともにいた王太子には、軽蔑の視線を向けられるだけでした。
 私と『偶然』城下の聖堂で出会い、宿へと送ってくれていた神官と文官には、私にしたように悪し様に罵られました。
 
 彼女は泣いていました。
 ええ、憐れでした。あの日の彼女のようで。
 一人ぼっちの、可哀想な姫川さん。
 
 その時です。
 
 轟いたのは爆発音で、燃え上がっているのは王城でした。
 慌てふためき王城へと駆け出した彼らの背後で、私は大声で笑いました。
 おかしくておかしくて。
 ちょっと手を貸しただけで、水面下の彼らは本当にやってしまいました。
 そう、革命・・です。素晴らしいですね。
 
 笑う私を彼らは足を止め振り返り、見ています。
 当然ですね、この状況で笑い出すなんて、怪しんでくれと言っているようなものです。 
 私は彼らを堕とした儚い笑顔で言いました。

 革命に、私は関係ありませんわ。ただ、貴方方の目を引いただけ。
 革命を起こされるほど、貴方方は愚かだった。ただそれだけですわ。
 
 そう、見た目に騙されて色に狂ったお前らが悪い。
 
 言葉と同時に、私は私に戻ります。
 あの時の、彼らの顔!驚愕と、絶望に染まった表情!
 ああ、馬鹿らしい。
 
 姫川さんに愛をささやく彼らを見ていた私には、彼らの好みやそそる言動、表情は手に取るようにわかりました。
 手玉に取られ、それでも姫川さんに恋い焦がれる彼らが、癒しを求めていたことも。
 だから私は癒しになってあげたのです。
 嫋やかで儚く、穏やかな娘を演じてあげました。
 
 騙される方が悪いんだよ。
 これは復讐だから、お前らはそれを甘受する義務がある。
 まあ国が滅びるのは、仕事にかまけて姫川セリナに溺れたお前らの自業自得だから私は関係ないけど!
 復讐は終わったし、じゃ、私行くから。
 
 こうして私は、某国から離れました。




 ああ、随分と長々と話してしまいましたね。
 ご清聴、ありがとうございます。
 
 楽しかった?
 そうですか、それは恐悦。
 
 ではもう少しだけ、お付き合いくださいませ。
 
 その後私は、世界を旅して周りました。
 時には人助けをし、時には義賊の真似事を、時には復讐の手伝いを。
 その最中に某国が革命からの流れで完全に滅び、新しい国が興ったと知りました。
 
 まあ、私には関係ありませんね。
 彼らの、自業自得が起こした事態ですから。
 
 ええ、お察しの通り。
 私は呼び出されたその日、姫川さんに巻き込まれたと気付いた時からあの国を出るつもりでした。
 その為に隙をついては情報を集め、水面下でずっと行動していたんですよ。
 だから、水面下の彼らに気付いた。
 
 国に憎悪を持つ同志、手を取るまで時間はかかりませんでしたね。
 ただ、あくまでも利害の一致。
 ことを起こすまでのそれまでの話です。
 
 私は彼らの目を姫川さんに一身に向けさせ。
 彼らが気付かないように噂を操り。
 もっと大きな事柄で違和感を覆い隠し。
 
 そしてその時はやってきて、国が滅びた。
 
 それだけです。ええ、それだけ。
 結局私がしたことは、目くらましと、噂を流すことと、彼らを溺れさせるだけです。
 
 それだけで、国というものはあっさり崩れてしまうんですねぇ。
 
 ……ああ、もうお時間ですか?
 長々とお付き合いいただきありがとうございます。
 私もこれでお暇させていただきましょう。
 
 故郷へ帰られる。そうですか。
 道中はお気を付けくださいね。
 あの辺りは、まだ荒れておりますから。
 
 しかし、貴方も不幸でしたね。
 愚鈍な弟に謀られ、暗殺されかけて。国を追われて逃げ出して。
 でもそれが、命運を分けたようです。
 
 さあ、国へお戻りください。
 水面下の彼らが、貴方の帰りをずっと待っていますよ。
 貴方が戻ればきっと、老害どもも鎮まるでしょう。
 
「ではさようなら、今は亡き某国の第一王子様」
「ふっ…、また会おう、異世界の魔女殿?」





 ―――行方知れずだった某国の第一王子、真の王太子の姿が完全に見えなくなり。
 
 私は大きく溜め息を吐いた。
 
「だぁれが魔女よ、誰が」
 
 結局最後まで尻拭いである。酷いものだ。
 
 あの国を出て1年半。私はずっと、彼を探していた。
 水面下の彼らが、逃げ延びているだろう彼を探し出してくれというから。
 あのバカ王子達から逃げるために最後に借りを作ってしまったから、こうして探し出してやったわけだけど。
 あれから大分時間が経ってしまっているが、大丈夫だろうか?
 
「まあ、私には関係ないね」
 
 そうして私はまた姿を変える。
 こうしてしまえば、もう誰も私を追えないでしょう?
 
 異世界で求められた【巫女】とやらとは違うチート能力を得た私の、ちょっとしたお話。
 これから私は、終わらせた物語を振り返らずに自由に生きていく。
 とりあえず、逆ハー女は死にさらせ。
 滅びろ。
 
 さて。
 行くとしようか。
 

 
 そうして去って行く彼女に、追従する小さな影。
 青い色の小さな小鳥は、彼女を追って飛び続ける。
 
 小さな小さな、存在さえ気付かれていない――――誰かさんの、使い魔である。
 
 気付かない彼女はこの先、あの青い鳥よく見るなー、などとのんきに過ごすことだろう。
 それが、誰かさんが彼女を捕まえるための道しるべとなること・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・も知らずに。


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