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序章
10 覚醒
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あまりの眩しさに意識がぼんやりと浮上した。
瞼は閉じられているというのに、目を刺す光。
顔を横にそらし、開いた視界に飛び込んできたのは緑の木々だった。
一気に意識が覚醒した。
「……どこ、ここ」
森だった。
見渡す限り木、木、木。地面は低い草で覆われ、視線を上げれば葉の隙間から注ぐ太陽の光。
現代の都会では、絶対に有り得ない光景。
のろのろと、上半身を起こす。
きょろりと辺りを見回してみるが、やはり、森。どう見ても森。言うまでもなく森。
「…………還れてない。失敗?捨てられたのかな……」
間違いなくここは元の世界じゃない。
だからって、ルフィスさんの屋敷でもない。
最終手段は失敗に終わった、それはひとまずいい。元々五分五分の可能性だった。
でも間違いなく……死んだよね、私。氷の刃に腹を貫かれて。死んだでしょ、絶対。なのに生きてる。
意味が分からない。死体になったらなったで実験台にされそうだと思ったんだけど。
分からないながらもひとまず立ち上がろうと、視点を下に落とす。
そして固まった。
あ、なんかデジャブ……。
視界に飛び込んできたのは、黒いマニキュアの塗られた爪。そして、レースをふんだんに使った黒い服。ゴスロリ服である。
見覚えがある。ありすぎる。
慌てて立ち上がると、ころんとこれまた黒いレースのカサが転がった。
これは確定ですか。
恐る恐る、なんとなーく重さというか違和感がある、頭の、耳よりちょっと上のあたりに手をやる。
固く丸みを帯びたものに触れた。
形をなぞるように辿っていくと、先は尖っている。っていうか耳も尖ってる。
これは決定じゃないか。
「これは……レスタペルラ、だ」
ECOでのマイキャラ、魔族の魔導師・レスタペルラ。
それが仮想ではなく私として、ここに在った。
思わずレスタペルラであることにも構わず地に膝を付いてしまった。
ああ、キャラじゃないよう。
ECOではロールプレイヤーだったのだ。
だってゲームだもん。演じたっていいじゃない。厨二だっていいじゃない。
それができる容姿と舞台だったんだから。
「うぅ……。いつまでもこうしてる場合じゃないよね。とりあえずスキルとかが使えるか試しながら、休める場所を探そう……」
立ち上がり、ぱたぱたとスカートについた土や草を落とす。愛用のカサ(ユニーク武器。杖代わりだ)も忘れずに。
さあ行こう、と一歩踏み出したら、こつんと靴に何か当たった。
なんだろう、と見ると。
「何故あるし」
拾い上げたそれは、ルフィスさんの家紋のペンダントだった。琥珀のやつ。
ますます意味が分からない。……でも、私が私として召喚され、彼の屋敷で世話になっていたという証にはなる。
彼には悪いことをしてしまった。結果は想像の斜め上を行ったが、結局のところ恩があったというのに逃げ出してきてしまった。
しかもこの姿では私が私であると証明することもできず、恩を返すことはできそうにない。これも、返すことはできないだろう。
彼等にとって魔族は敵である。
だがしかし捨てるに捨てられないし、持っているしかないな。
結局何一つ分からないまま問題は先送りで、溜め息を零しつつも歩くことにした。
「あー、もう。意味分からないよーぅ」
風が木々を揺らす音、小鳥が飛び去る音。
ECOと同じようで全然違う、これは全て現実だ。生命が生きている。作り物じゃない。
その中で異物なのは私。
召喚された。
小城春奈だった。
死んだ。
レスタペルラになった。
死んでからレスタペルラになるまでの間に一体どんな超常現象が起きたんだ。
そしてここはどこ。
――――後者の答えは、しばらく歩いた後判明した。
「…………敢えて言おう。1200年の間に崩れもせず蔓植物に蒔かれることもなく無事な建物ってなに」
森を適当に進んでいった結果辿り着いたのは、見慣れたエンブレムが刻まれた石造りの塔だった。
うん、憶えてるよ、憶えてる。つまり1200年前のものね。そして上の発言に至る。
普通に考えてないじゃん。1200年て、どんだけ長い時間だと思ってるの。まるで今も誰かが生活しているとでもいうように綺麗なままで、……え、いやないでしょ。
だってこの世界的には1200年経ってるわけで。
ないよね、ないない。
「そういえば、復活地点ギルドホームに設定してたっけ…」
現実逃避のように思い出したことを呟いた。
この場合の現実とは、目の前の有り得ないくらいECO当時のままの姿で存在する自分が所属するギルドのギルドホームである。
私の現状自体異常だが、これも異常だ。
あ、そういえばスキルは普通にECO通り使えた。
スキルウィンドウやスロットウィンドウは当然ながらないけど。
敵モブ、ここでは魔物?とは運良く鉢合わせなかった。
うん、まだ攻撃する勇気はないわ…。
「とりあえずホームがどうなってるのか見てみようか……」
現実逃避もそこそこ、ギルドホームへと向かい歩き出した。
瞼は閉じられているというのに、目を刺す光。
顔を横にそらし、開いた視界に飛び込んできたのは緑の木々だった。
一気に意識が覚醒した。
「……どこ、ここ」
森だった。
見渡す限り木、木、木。地面は低い草で覆われ、視線を上げれば葉の隙間から注ぐ太陽の光。
現代の都会では、絶対に有り得ない光景。
のろのろと、上半身を起こす。
きょろりと辺りを見回してみるが、やはり、森。どう見ても森。言うまでもなく森。
「…………還れてない。失敗?捨てられたのかな……」
間違いなくここは元の世界じゃない。
だからって、ルフィスさんの屋敷でもない。
最終手段は失敗に終わった、それはひとまずいい。元々五分五分の可能性だった。
でも間違いなく……死んだよね、私。氷の刃に腹を貫かれて。死んだでしょ、絶対。なのに生きてる。
意味が分からない。死体になったらなったで実験台にされそうだと思ったんだけど。
分からないながらもひとまず立ち上がろうと、視点を下に落とす。
そして固まった。
あ、なんかデジャブ……。
視界に飛び込んできたのは、黒いマニキュアの塗られた爪。そして、レースをふんだんに使った黒い服。ゴスロリ服である。
見覚えがある。ありすぎる。
慌てて立ち上がると、ころんとこれまた黒いレースのカサが転がった。
これは確定ですか。
恐る恐る、なんとなーく重さというか違和感がある、頭の、耳よりちょっと上のあたりに手をやる。
固く丸みを帯びたものに触れた。
形をなぞるように辿っていくと、先は尖っている。っていうか耳も尖ってる。
これは決定じゃないか。
「これは……レスタペルラ、だ」
ECOでのマイキャラ、魔族の魔導師・レスタペルラ。
それが仮想ではなく私として、ここに在った。
思わずレスタペルラであることにも構わず地に膝を付いてしまった。
ああ、キャラじゃないよう。
ECOではロールプレイヤーだったのだ。
だってゲームだもん。演じたっていいじゃない。厨二だっていいじゃない。
それができる容姿と舞台だったんだから。
「うぅ……。いつまでもこうしてる場合じゃないよね。とりあえずスキルとかが使えるか試しながら、休める場所を探そう……」
立ち上がり、ぱたぱたとスカートについた土や草を落とす。愛用のカサ(ユニーク武器。杖代わりだ)も忘れずに。
さあ行こう、と一歩踏み出したら、こつんと靴に何か当たった。
なんだろう、と見ると。
「何故あるし」
拾い上げたそれは、ルフィスさんの家紋のペンダントだった。琥珀のやつ。
ますます意味が分からない。……でも、私が私として召喚され、彼の屋敷で世話になっていたという証にはなる。
彼には悪いことをしてしまった。結果は想像の斜め上を行ったが、結局のところ恩があったというのに逃げ出してきてしまった。
しかもこの姿では私が私であると証明することもできず、恩を返すことはできそうにない。これも、返すことはできないだろう。
彼等にとって魔族は敵である。
だがしかし捨てるに捨てられないし、持っているしかないな。
結局何一つ分からないまま問題は先送りで、溜め息を零しつつも歩くことにした。
「あー、もう。意味分からないよーぅ」
風が木々を揺らす音、小鳥が飛び去る音。
ECOと同じようで全然違う、これは全て現実だ。生命が生きている。作り物じゃない。
その中で異物なのは私。
召喚された。
小城春奈だった。
死んだ。
レスタペルラになった。
死んでからレスタペルラになるまでの間に一体どんな超常現象が起きたんだ。
そしてここはどこ。
――――後者の答えは、しばらく歩いた後判明した。
「…………敢えて言おう。1200年の間に崩れもせず蔓植物に蒔かれることもなく無事な建物ってなに」
森を適当に進んでいった結果辿り着いたのは、見慣れたエンブレムが刻まれた石造りの塔だった。
うん、憶えてるよ、憶えてる。つまり1200年前のものね。そして上の発言に至る。
普通に考えてないじゃん。1200年て、どんだけ長い時間だと思ってるの。まるで今も誰かが生活しているとでもいうように綺麗なままで、……え、いやないでしょ。
だってこの世界的には1200年経ってるわけで。
ないよね、ないない。
「そういえば、復活地点ギルドホームに設定してたっけ…」
現実逃避のように思い出したことを呟いた。
この場合の現実とは、目の前の有り得ないくらいECO当時のままの姿で存在する自分が所属するギルドのギルドホームである。
私の現状自体異常だが、これも異常だ。
あ、そういえばスキルは普通にECO通り使えた。
スキルウィンドウやスロットウィンドウは当然ながらないけど。
敵モブ、ここでは魔物?とは運良く鉢合わせなかった。
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