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序章
9 光とともに消えた少女 ★
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弟が【勇者】を召喚するなどと言い出したのは、つい三日前のこと。
大方周りの老害どもが口を出したのだろう。弟は外見の所為で誤解されがちだが、押しに弱く優柔不断だ。
しかしそれに父王まで賛成するとは予想外だった。
結果高い魔力を持つ私も勇者召喚の儀にほぼ強制的に参加させられた。
無駄なことを、と思う。勇者などと言いながら、捨て駒程度にしか考えていない。
ハイエルフもエルフも、純血思想が強い。
他種族を嫌い、聖樹の加護を一身に受ける一族だと驕っている。ただの守人に過ぎないというのに。
聖樹はただただ平等で、そこに存在するだけだ。
行われた勇者召喚の儀は、恐らくだが失敗した。
呼び出すのは即戦力となるただ一人のはずが、まだ幼い人間の子供が三人、召喚された。
幸いそのうちの二人は高い魔力を持っており、使えるということで一旦王城へと連れて行かれた。
残ったもう一人は少女で、ほんの気紛れで私が引き取った。
ハルナと名乗った少女は魔力こそ弱いものの聡明で、思慮深かった。
言葉の裏を読み、こちらの意を理解した上で発言や行動をしていたと思う。
少々、空気が読めていない所もあったが。それも計算だったのかもしれない。
できることならば、本人が望む通り元の世界に還してやりたかったが。それは叶わなかった。
いや、叶わないだろうことは分かっていた。この国はそういう国だ。
せめてハルナが人間ではなく他の種族であったなら話は別だったろうが……いいや、異世界から来た時点で、召喚したのがこの国であった時点でもう結果は決まっていた、か。
「……殺して、しまったのですか。兄上」
「ええ、死体でも充分かと思いまして。しかしまさか光となって消えてしまうとは思いませんでした。送還されたのでしょうか?」
「今まで召喚されたモノに関しまして、そういった報告はありませんが……恐らくはそうかと思われます」
召喚術について研究しているという名も知らぬ男が言う。
その目には私を非難する色が浮かんでいる。実験体が消えたことに落胆しているのだろう。
……ハルナを差し出すよう弟に言ったのは恐らくこの男だ。大方老害の身内だろう。
「何故、殺したのです」
「おや、私は三日ほど我慢していたのですが?持て余して、どうすればいいのか分からない弟のために。便利ではありましたけれど。アレは、人間ですよ?」
「そう、……でした。すみませんでした、兄上。もう戻られますか」
「ええ、休みは今日までですから。溜まった仕事を片付けなければなりません」
それだけ言い、踵を返して歩き出す。
王城にはあまりいたくはない。だからといって屋敷にもいたくはないのだが。
血の一滴も残らなかったが、彼女はそこで死んだのだ。
…………私が殺した。殺してくれと乞われて。
何故ハルナは諦めないと言いながら、殺してくれなどと頼んだのか。
ハルナは恐らく分かっていたのだろう。死ぬことが送還に繋がると。そして恐らくそれは正しかった。
あの消え方は、その証明だろう。
実験体として弄ばれるよりも賭けに出る方が良い、と。
「……ああ、そういえば。リーフェン、頼みがあります」
「頼み、ですか?」
「ええ。実はアレがあのペンダントを傷付けてしまいましてね。もう燃やしてしまいましたから、新しく用意してください」
「――――ッ!すぐに用意させます!」
ハルナに渡した家紋のペンダント。
ハルナは服のポケットに入れていたが、それは残らなかった。
これは私の落ち度であるが、元を正せば弟の愚行の所為だ。なくても困らないが、あれば便利ではある。王族の証明なのだから。
よい理由にもなった。これで弟も老害も手を下した原因を勝手に解釈してくれることだろう。
……あれを、ハルナは元の世界で持ち続けてくれるだろうか。
それの持つ意味も知らずに。
たった三日間であった。私が生きてきた、これから生きていく時間の上では瞬きにも満たない時間に過ぎない。
だというのに、その三日間の記憶はどうにも整理出来そうにない。それほどまでにあのハルナという『人間の』少女を気に入っていたとは、予想外だ。
「全く、恨みますよ」
弟をなのか老害をなのかハルナをなのか、それとも己自身をか。
はっきりしているのはただ一つ、ほんの三日間傍にいた少女がもういないということだけ。
大方周りの老害どもが口を出したのだろう。弟は外見の所為で誤解されがちだが、押しに弱く優柔不断だ。
しかしそれに父王まで賛成するとは予想外だった。
結果高い魔力を持つ私も勇者召喚の儀にほぼ強制的に参加させられた。
無駄なことを、と思う。勇者などと言いながら、捨て駒程度にしか考えていない。
ハイエルフもエルフも、純血思想が強い。
他種族を嫌い、聖樹の加護を一身に受ける一族だと驕っている。ただの守人に過ぎないというのに。
聖樹はただただ平等で、そこに存在するだけだ。
行われた勇者召喚の儀は、恐らくだが失敗した。
呼び出すのは即戦力となるただ一人のはずが、まだ幼い人間の子供が三人、召喚された。
幸いそのうちの二人は高い魔力を持っており、使えるということで一旦王城へと連れて行かれた。
残ったもう一人は少女で、ほんの気紛れで私が引き取った。
ハルナと名乗った少女は魔力こそ弱いものの聡明で、思慮深かった。
言葉の裏を読み、こちらの意を理解した上で発言や行動をしていたと思う。
少々、空気が読めていない所もあったが。それも計算だったのかもしれない。
できることならば、本人が望む通り元の世界に還してやりたかったが。それは叶わなかった。
いや、叶わないだろうことは分かっていた。この国はそういう国だ。
せめてハルナが人間ではなく他の種族であったなら話は別だったろうが……いいや、異世界から来た時点で、召喚したのがこの国であった時点でもう結果は決まっていた、か。
「……殺して、しまったのですか。兄上」
「ええ、死体でも充分かと思いまして。しかしまさか光となって消えてしまうとは思いませんでした。送還されたのでしょうか?」
「今まで召喚されたモノに関しまして、そういった報告はありませんが……恐らくはそうかと思われます」
召喚術について研究しているという名も知らぬ男が言う。
その目には私を非難する色が浮かんでいる。実験体が消えたことに落胆しているのだろう。
……ハルナを差し出すよう弟に言ったのは恐らくこの男だ。大方老害の身内だろう。
「何故、殺したのです」
「おや、私は三日ほど我慢していたのですが?持て余して、どうすればいいのか分からない弟のために。便利ではありましたけれど。アレは、人間ですよ?」
「そう、……でした。すみませんでした、兄上。もう戻られますか」
「ええ、休みは今日までですから。溜まった仕事を片付けなければなりません」
それだけ言い、踵を返して歩き出す。
王城にはあまりいたくはない。だからといって屋敷にもいたくはないのだが。
血の一滴も残らなかったが、彼女はそこで死んだのだ。
…………私が殺した。殺してくれと乞われて。
何故ハルナは諦めないと言いながら、殺してくれなどと頼んだのか。
ハルナは恐らく分かっていたのだろう。死ぬことが送還に繋がると。そして恐らくそれは正しかった。
あの消え方は、その証明だろう。
実験体として弄ばれるよりも賭けに出る方が良い、と。
「……ああ、そういえば。リーフェン、頼みがあります」
「頼み、ですか?」
「ええ。実はアレがあのペンダントを傷付けてしまいましてね。もう燃やしてしまいましたから、新しく用意してください」
「――――ッ!すぐに用意させます!」
ハルナに渡した家紋のペンダント。
ハルナは服のポケットに入れていたが、それは残らなかった。
これは私の落ち度であるが、元を正せば弟の愚行の所為だ。なくても困らないが、あれば便利ではある。王族の証明なのだから。
よい理由にもなった。これで弟も老害も手を下した原因を勝手に解釈してくれることだろう。
……あれを、ハルナは元の世界で持ち続けてくれるだろうか。
それの持つ意味も知らずに。
たった三日間であった。私が生きてきた、これから生きていく時間の上では瞬きにも満たない時間に過ぎない。
だというのに、その三日間の記憶はどうにも整理出来そうにない。それほどまでにあのハルナという『人間の』少女を気に入っていたとは、予想外だ。
「全く、恨みますよ」
弟をなのか老害をなのかハルナをなのか、それとも己自身をか。
はっきりしているのはただ一つ、ほんの三日間傍にいた少女がもういないということだけ。
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