よくある異世界転移モノ、と思いきや?

一色ほのか

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序章

8 それではさようなら

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 …………来たか。無駄に早いな。
 
 ルフィスさんは眉間に皺を寄せ、椅子から立ち上がり私の横までやってきた。
 私も立ち上がる。
 やっぱり背、高いな。大体真っ正面から向き合うばかりでこうして隣に並ぶのは初めてだろう。
 その袖を引き、少し屈んでもらって、耳元で頼みを口にする。

「っ!?」

 ルフィスさんが目を見開いて私を見ている。
 意味を捉えかねているようだったが、私はそれに構わず小さく微笑んだ。
 言い間違いでも、聞き間違いでもないと言うように。
 意味が分からないだろう。諦めていないと言うのに、頼みの内容は。
 
だいじょうぶです・・・・・・・・
 
 まるで呪いのようなたった一言。
 
「――――殺してくださいな、ルフィスさん」
 
 きっと今の私の微笑みは、【レスタペルラ】によく似ていたことだろう。
 他の生物を蠱惑する魔族のそれ・・と。
 
 返事がないことに痺れを切らしたのか、ばたん、と扉が開く音がした。
 同時に失礼する!という大声。
 がちゃがちゃと金属同士が擦れる音。

 玄関からここまでの距離は目と鼻の先ほど。
 
 さあ時間はないですよ?
 
 ルフィスさんの指輪をした左手が動いた。
 私は突き飛ばされ、床に尻餅をつく。
 彼は、無表情だ。

 無粋な騒音。近付いてくる足音。
 心が麻痺している。これは恐怖するべき場面。

 なのに。

 私は嗤っている。

 
 一瞬の衝撃と、熱さ。遅れて鋭い痛みが冷たさを伴って襲ってきた。
 私は床に倒れている。
 腹を貫いているのは氷の刃。
 でっかい氷柱を想像して欲しい。あんなやつ。
 確かこれは、【魔術士】が使う下級水属性魔法だ。

 痛いし冷たいし見上げたルフィスさんが超無表情で恐いし。
 いや、それは私の所為なんだけどね。
 あー、壊れてきてるのかな、こんな状態でも考えてることが普段どおりだわ。
 
「――――ありがとう、ルフィスさん」
 
 小さく呟く。
 もう感覚がわけ分からない。指の先もぴくりとも動かない―――ああ、煩い。本当に無粋な連中だ。
 でも最終手段の結果がどう転ぶかによって証言する第三者がいるのはいいことかもね。

 ごめんね、ルフィスさん。
 

 次に目が覚めたとき全てが夢で、元の世界だったらいい。
 駅のホームで電車待ちの間に寝落ちてたとか、そんなオチだったらな。


 
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