よくある異世界転移モノ、と思いきや?

一色ほのか

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序章

6 できることを

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「では私は溜まっている仕事を片付けますので、ひとまずはリビングの整理をお願いします。足の踏み場が出来る程度でよいので、壁際に積み上げていってください。基本的にこの屋敷には私達二人以外は居りませんし侵入はいってくることもないと思いますが、稀に仕事仲間が現れるのでそれには気をつけて下さいね」
「えーっと、それはどう対処すべきですか?」
「そうですね、これを見せて下さい。私の家紋です。これを預かるということ自体が意味を持ちますので」
「誰も来ないことを祈ってます」
 
 思わず即答してしまった。
 差し出されたのは家紋だろう文様の刻まれた恐らく琥珀のペンダント。目利きなんて出来ないが相当貴重なことは分かる。
 だって琥珀大きいんだもん。透明度高いし中に枝葉入ってるし。確かこういうの、価値高くなるんだよね?
 なにこれちょうこわい。

 素手で触るのも恐いからハンカチを取り出してその上に受け取った。
 ずしりと重たいそれは、綺麗だがやはり恐いとしか思えない。貴重品恐い。
 だがしかし、預からないという選択肢はなかった。
 だって多分事情知らない相手には私がここにいる=奴隷という認識になるだろうから。
 
「まあ間違いなく仕事仲間は来ると思いますから、上手くやり過ごして下さい。ここまで来る場合は事情を聞かされているはずですから6割方問題ないですよ」
「4割は充分に危険の範囲内かと思われます」
 
 いっそ誰が来ようと一言も喋らないで黙々と片付け作業してればいいのかな。
 でも奴隷制度なんてある場合の反応って大まかに分けて二つあるんだよね、無視するか、必要以上に突っかかるか。
 頼むから前者であってほしい。
 
 会話が止まり、しばらく沈黙が辺りを支配する。
 ルフィスさんはもう腹黒いとしか思えない柔和な笑みを浮かべ、では。と足の踏み場もない廊下の奥へと消えていった。
 
 …………改めて厄介な状況下に召喚されたものだと思う。
 世界じゃなくて、状況下。
 だって世界はECOのそれとほぼ同じっぽいんだもの。

 有り得ないと思う半面、知っているということが精神的に支えになっている。1200年経ってるらしいけど。
 今は呼び出されたばかりの上情報収集をしなければならない、ちょっとした切羽詰まった状態だからいいけど、落ち着いてきたら間違いなく取り乱すだろう。
 だって超常現象だよ?異世界召喚なんて物語やゲームの世界の出来事であって、現実には起こることじゃないはずだ。
 起こってしまった以上現実だけど。

 この現実で今私がすべきは取り乱すことじゃない。とにかく生きるための情報を集めることだ。
 落ち込むのも泣くのもあと。可能性は五分であるものの希望も存在している。
 絶望は、まだ必要ない。
 
 今現状を打破するための思考を投げ出し足を止めたらきっと、もう動けなくなる。
 
「……今は、今出来ることを」
 
 そうと決まったら、この本と紙まみれの汚部屋を整理しつつ情報収集だ。

 それにしても汚すぎる……。
 
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