57 / 77
第1章 幼少期(7歳)
55 ★レイオス視点
しおりを挟む
翌朝早く、母上に呼び出され会いに行くと、半月後にアーシャとの婚約を正式に発表すると告げられた。
それ自体は構わないんだけど、決める前に一言欲しかったな。今、こっちは面倒なことになっているし。
そのことを伝えると、母上は少し悩む素振りをしてから、『半月後までに事実が明らかにならなかった場合、全てをヴィクトリア・シュベーフェルに被らせ処理をする』、と言われた。
確かにこれ以上分からなかったそうするしかないけど……あの屋敷にいつまでも人員を割くわけにもいかないし、長く続けば他家に気取られる。
そこまでがタイムリミット、か。
カトリーナ・ベルジュが落ち着くまで待ってやれそうにない。
少し気落ちしながらも離宮に戻ると、カトリーナ・ベルジュに付けていた監視役から、彼女が面会を望んでいる、と伝えられた。例の手紙に着いて話したいことがあるらしい。
随分と早いな。昨日の今日だぞ?
こちらとしては助かるけど。
その足でカトリーナ・ベルジュの下へ向かう。
余所にやるわけにもいかないから離宮の一室に留め置いていたんだよね。
――――与えられた部屋で、彼女は静かに佇んでいた。
その表情はあの日のヴィクトリア・シュベーフェルとよく似ている。
何か、覚悟を決めた表情。
「お初にお目にかかります、第一王子殿下。カトリーナ・ベルジュと申します。正気ではない間、何度も見苦しい姿をお見せしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
そう謝罪をし、淑女の礼をする。
そういえば彼女は元々ベルジュ本家の娘だったんだっけ。
正気でない間が酷過ぎて実感がなかった。
「まずは、こちらを。トリシアから受け取った手紙です」
「ああ」
手紙を受け取る。
見ていて気付いてはいたが、随分と薄い。
これでは、中身は期待できないだろう。
「中身は、確認していただければすぐに分かると存じますが、私への謝罪と真実は自室に隠してあり、それは孫娘に探させるように、との指示のみです」
「なんだと?」
カトリーナ・ベルジュの言葉に、手紙を開き内容を確認する。
……確かに、中にはカトリーナ・ベルジュへの簡単な謝罪と、真実を描いた手紙を自室に隠したこと、それをアーシャに探させ、中身についてはアーシャに熟慮させろと。次期当主としてどんな事実であっても受け止め自ら判断するという役目を果たすようにと書かれていた。
「ふざけているのか」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
だが、そうだろう?
誤魔化し続け、自らの命を絶ってまで頑なに口にしなかった事実とやらが、碌でもないことじゃないはずがない。
それを、アーシャに背負えとこの女は言っているんだ。
アーシャを否定し排除しようとしてきたくせに。
こんな女に罪悪感など持たなければよかった。むしろそのために目の前で飛んだんじゃないか?
消えてなお人の神経を逆撫でするとは。本当に腹立たしい。
「不敬を承知の上で、進言させていただきます。トリシアは恐らく、手紙に直系の血縁のみ解ける封印を施していると思われます」
「……ああ。そういえば、あったな。でもまだ当主としての教育を受けていないあの子には解除できないだろう」
それぞれの家ごとに異なる、直系の者のみに受け継いでいく封印の術。
重大な事ならばそれが施されているということ自体は分かる。だが。
それならばアーシャではなく、現当主でありそれを継いでいるだろうオリオン・シュベーフェルでも構わないはずだ。アーシャは解除の術をまず間違いなく知らない。
それなのにアーシャを指名してきた辺りに、あの女の意地の悪さを感じる。
「……シュベーフェル家の封印は、血に反応するものと聞いています。解除の方法を知らずとも、近しい血に反応すると……トリシアは言っていました」
「…………最悪だ」
つまり解除する必要はない、と。
直系の血筋ならば、封印を無視することができるから。
そして、封印を無視できる者はもう一人、存在する。
オリオン・シュベーフェルの弟。
そいつがこの件に関わっているかは不明だが、母親が死んだ以上何もしないということはないだろう。
事は急がなければならない。
オリオン・シュベーフェルを動かすことは――――無理か。
あれは今、被害者としてシュベーフェル本家の掃除をしている。下手に動かせない。
そもそもあの家に王家が手を出し過ぎるのは不味い。
そうなると……今動けるのは、やっぱりアーシャしかいないということになる。
アーシャはきっと、行くと言うだろう。
元々情報を得る為ならヴィクトリア・シュベーフェルに会うのも構わないようだったし、この状況で嫌とは言わないどころか行くのを急かしそうだ。
「はぁ……。ひとまず話は通しておこう。貴方はどうしたい」
黙ったままのカトリーナ・ベルジュに問う。
彼女も当事者ではある。手紙を受け取ったからな。
「私は……。……希望としては同行させていただきたいですが、その場合変装させていただきたく思います」
「そう。まあ、許可しよう」
つまりアーシャに面と向かって会う気はない、ということか。
監視を付けるのは当たり前として、同行自体はさせておこう。あの女はカトリーナ・ベルジュに対してのみ動きを見せたのだし、一応のため。
拘わらせたくなかったのに、結局関わらせることになってしまったか。
あの屋敷の者達がどんな反応をするかも分からないのに。アーシャはあの女に色以外瓜二つだから。
不測の事態にちゃんと備えて行動しないとならない。
本当に、ままならないものだな……。
それ自体は構わないんだけど、決める前に一言欲しかったな。今、こっちは面倒なことになっているし。
そのことを伝えると、母上は少し悩む素振りをしてから、『半月後までに事実が明らかにならなかった場合、全てをヴィクトリア・シュベーフェルに被らせ処理をする』、と言われた。
確かにこれ以上分からなかったそうするしかないけど……あの屋敷にいつまでも人員を割くわけにもいかないし、長く続けば他家に気取られる。
そこまでがタイムリミット、か。
カトリーナ・ベルジュが落ち着くまで待ってやれそうにない。
少し気落ちしながらも離宮に戻ると、カトリーナ・ベルジュに付けていた監視役から、彼女が面会を望んでいる、と伝えられた。例の手紙に着いて話したいことがあるらしい。
随分と早いな。昨日の今日だぞ?
こちらとしては助かるけど。
その足でカトリーナ・ベルジュの下へ向かう。
余所にやるわけにもいかないから離宮の一室に留め置いていたんだよね。
――――与えられた部屋で、彼女は静かに佇んでいた。
その表情はあの日のヴィクトリア・シュベーフェルとよく似ている。
何か、覚悟を決めた表情。
「お初にお目にかかります、第一王子殿下。カトリーナ・ベルジュと申します。正気ではない間、何度も見苦しい姿をお見せしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
そう謝罪をし、淑女の礼をする。
そういえば彼女は元々ベルジュ本家の娘だったんだっけ。
正気でない間が酷過ぎて実感がなかった。
「まずは、こちらを。トリシアから受け取った手紙です」
「ああ」
手紙を受け取る。
見ていて気付いてはいたが、随分と薄い。
これでは、中身は期待できないだろう。
「中身は、確認していただければすぐに分かると存じますが、私への謝罪と真実は自室に隠してあり、それは孫娘に探させるように、との指示のみです」
「なんだと?」
カトリーナ・ベルジュの言葉に、手紙を開き内容を確認する。
……確かに、中にはカトリーナ・ベルジュへの簡単な謝罪と、真実を描いた手紙を自室に隠したこと、それをアーシャに探させ、中身についてはアーシャに熟慮させろと。次期当主としてどんな事実であっても受け止め自ら判断するという役目を果たすようにと書かれていた。
「ふざけているのか」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
だが、そうだろう?
誤魔化し続け、自らの命を絶ってまで頑なに口にしなかった事実とやらが、碌でもないことじゃないはずがない。
それを、アーシャに背負えとこの女は言っているんだ。
アーシャを否定し排除しようとしてきたくせに。
こんな女に罪悪感など持たなければよかった。むしろそのために目の前で飛んだんじゃないか?
消えてなお人の神経を逆撫でするとは。本当に腹立たしい。
「不敬を承知の上で、進言させていただきます。トリシアは恐らく、手紙に直系の血縁のみ解ける封印を施していると思われます」
「……ああ。そういえば、あったな。でもまだ当主としての教育を受けていないあの子には解除できないだろう」
それぞれの家ごとに異なる、直系の者のみに受け継いでいく封印の術。
重大な事ならばそれが施されているということ自体は分かる。だが。
それならばアーシャではなく、現当主でありそれを継いでいるだろうオリオン・シュベーフェルでも構わないはずだ。アーシャは解除の術をまず間違いなく知らない。
それなのにアーシャを指名してきた辺りに、あの女の意地の悪さを感じる。
「……シュベーフェル家の封印は、血に反応するものと聞いています。解除の方法を知らずとも、近しい血に反応すると……トリシアは言っていました」
「…………最悪だ」
つまり解除する必要はない、と。
直系の血筋ならば、封印を無視することができるから。
そして、封印を無視できる者はもう一人、存在する。
オリオン・シュベーフェルの弟。
そいつがこの件に関わっているかは不明だが、母親が死んだ以上何もしないということはないだろう。
事は急がなければならない。
オリオン・シュベーフェルを動かすことは――――無理か。
あれは今、被害者としてシュベーフェル本家の掃除をしている。下手に動かせない。
そもそもあの家に王家が手を出し過ぎるのは不味い。
そうなると……今動けるのは、やっぱりアーシャしかいないということになる。
アーシャはきっと、行くと言うだろう。
元々情報を得る為ならヴィクトリア・シュベーフェルに会うのも構わないようだったし、この状況で嫌とは言わないどころか行くのを急かしそうだ。
「はぁ……。ひとまず話は通しておこう。貴方はどうしたい」
黙ったままのカトリーナ・ベルジュに問う。
彼女も当事者ではある。手紙を受け取ったからな。
「私は……。……希望としては同行させていただきたいですが、その場合変装させていただきたく思います」
「そう。まあ、許可しよう」
つまりアーシャに面と向かって会う気はない、ということか。
監視を付けるのは当たり前として、同行自体はさせておこう。あの女はカトリーナ・ベルジュに対してのみ動きを見せたのだし、一応のため。
拘わらせたくなかったのに、結局関わらせることになってしまったか。
あの屋敷の者達がどんな反応をするかも分からないのに。アーシャはあの女に色以外瓜二つだから。
不測の事態にちゃんと備えて行動しないとならない。
本当に、ままならないものだな……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
47
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる