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第1章 幼少期(7歳)

46 ラックの正体

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 その後。
 スージーから控えめに苦言をもらってやっと、イース様は私を解放した。
 12歳と7歳相手に過剰な接触も何もないと思うけれど。
 まあ未婚の男女の距離ではなかったとは思うわ。お互いにもう少し年が上ならアウトだったのは間違いない。幼いから許されること、よね。
 私にはそんなことなかったけれど。
 
 
 
『 レイオスはアリィを大事にする気があるんだね 』
 
 その日の深夜。
 私を起こすなり、ラックがそう言ってきた。
 どことなく固い声音。
 何を言いたいのかしら。
 
『 王が接触してきて王子との関係を拒絶も否定もしなかったんだ。それどころかアリィの我儘を許している。今後アリィは誤魔化しようなく王族の婚約者として扱われる 』
「…………あ。確かにそうよね」
 
 今まではなんだかんだと国王陛下に会えず、王妃殿下には認められているもののなんというか宙ぶらりんな状態だった。
 けれど今日、国王陛下と遭い、レイオス殿下の居城にいることを認められた。
 それはきっと、こちらを窺っている者達にも伝わったはずだわ。
 
『 遠くないうちに正式な発表があるだろうね。気を付けるんだよ、アリィ。今の君は自分を守ることができない 』
「そうよね……分かったわ」
 
 前は水属性の魔法が使えたけれど、今はできない。そもそも魔力は全てラックに使われている。
 私は今、本当に無力な子供でしかない。
 気を付けないといけないわ。例えここ・・でも。
 敵は何処にでもいるし、やってくる。前もそうだったもの。
 ロバート殿下第二王子でも面倒だったんだもの、イース様第一王子は相当でしょうね。
 よく考えて行動しないと。
 

『 そうだアリィ、拾った物を出してくれるかい 』
 
 少しげんなりとしていると、ラックがそう言ってきた。
 そうだ、それもあったんだわ。
 拾った後は折りたたんだハンカチに隠しておいたそれ――――小さな、恐らく子供用の指輪。
 
「……ねえラック。貴方の名前、ランスロットって言うの?」
『 え?違うけれど、どうして? 』
「この指輪にそう彫られているのよ。貴方の落とし物だから貴方の名前だと思ったの」
『 そっか。でも違うよ、それは弟の名前だから 』
「そう。……やっぱり覚えていないなんて嘘だったのね?」
『 あ 』
 
 やってしまった、というような声音。
 こんなに簡単に引っかかって大丈夫なのかしら。

『 えっと。覚えていなかったのは本当だよ?ただアリィの行くところとか会う人とかが大体全部記憶を呼び覚ますようなのばかりでね? 』 
 
 しどろもどろと話す。
 慌て方は嘘を言っているようには聞こえないけれど……これは、あれね。
 嘘は言っていないけれど、話していないことがあるんだわ。
 
「ねえラック。貴方が私に話していないことは、きっと沢山あるんでしょう。それが貴方自身のためか私のためか、はたまた他の誰かのためかは私には分からないわ。だからお願いよ。話してもいいと思うことは、きちんと話して」
『 …………。すまない、アリィ。確かに話していないことはたくさんある。ただ、どう話せばいいのか分からない。信じてもらえるかも。だから――――話せる部分だけ話そう。どうか時が来るまで君の中だけに留めてほしい 』
「ええ、分かったわ」
 
 覚悟を決めたように言い、それからラックは語る。
 ラックは何者なのか。何故私の傍に居たのかを。
 
『 まず話すべきは、僕は元々人間であり、この国の王族だったこと。あの指輪は弟の物と言っただろう?それがここにあった時点で、薄々気付いていたと思うけれど 』
「ええ。ここは王族の離宮で、弟の私物が落ちているということは使用人や騎士ではありえないもの」
『 うん。それでね、僕はあそこで死んだんだ。原因は精霊の進化の余波 』
「えっ!?」
『 僕は君と同じで精霊が見えたんだ。あの子は光の精霊で、友人だった。……最後に見たあの子は泣いていて、慰めたかったけれど身体は動かなくて。次に気付いた時、僕はよく分からない状態だった。正直に言ってぼんやりとしか覚えていないけれど、あの子を探していた。あの子の強い光の気配を。そして幼い君の元に辿り着いたんだよ 』
「そうだったの……」
 
 それが、ラックが私の傍に居た理由。
 ラックにはラックで、目的があったのね。
 
『 その時点でこの国で一番強い光の属性持ちは君だった。僕はぼんやりとしていたから、少し変だと思いながらも君と居た。君が僕を見ないようになってからも。そしてあの日が訪れた。……君の命が失われた時、思い出したんだ。僕が何者だったのかを。僕の死がとんでもない悲劇の連鎖を起こしてしまったのだと、気付いてしまった。だから僕は君の時間を戻した……僕は既に精霊で、その資格を失っていたから。君に全てを押し付けることになると理解しながら、そうするしか道がなかったんだ 』
 
 悔しさと複雑さを滲ませる声音でいうラック。
 これが……私の時が戻った理由。
 
 ラックの元となった王族の死。そこから始まったという悲劇。
 王族が抱えている問題は、それのことかしら?シュベーフェルとの関わりは?
 ……多分、ないんじゃないかしら。
 なら、私に一体何ができるの?

『 前の時間は、全てが悪い方へ進んでいた。アリィはね、元々レイオスを支えるために生まれたんだ。それなのに予言を都合良く解釈し歪ませた人間がいる。今はアリィはレイオスの婚約者になっているし、ある程度の修正はできたと思う。無自覚にここまでできたなんてアリィは凄いよ 』
 
 複雑そうではあるものの、褒める言葉を口にするラック。
 ラックとしては心苦しいところがあるってことかしら。
 自分のせいで、と思っている?
 でも精霊に巻き込まれて、なんてどうしようもないのではない?

「私は私のしたいようにしただけよ。これまでも、これからも。貴方は私に何か罪悪感を感じているのかもしれないけれど、私は貴方に感謝しかないの。貴方のお陰で私は今を生きている。そして自由になれたわ。だから出来る範囲で手を貸すわ」
 
 礼には礼で返すものよ。命の対価なら当然だわ。
 
『 ふふ……、アリィは本当に素直ないい子だね。だけど手に余るような、全てを抱える必要はないんだって、覚えていて。君はもう僕にとって特別な子なんだって 』
 
 その言葉を最後に、限界、とラックは眠りについた。沢山話したものね。
 私も流石にもう寝ないと不味いわ。
 
 そうベッドに潜り眼を閉じてから、ふと思い出した。

「…………資料のこと、話していないわ」
 
 色々あり過ぎて、すっかり忘れていたわ……。
 
 
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