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第1章 幼少期(7歳)

45 我儘を言う、ということ

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 国王陛下に連れられ戻ってきたことをスージーに大層驚かれ、心配された。
 リボンは無事に回収できたことをしおらしく伝えると、次にまた同じようなことがあったら周りを頼るようにと諭されてしまった。
 まあ、そうでしょうね。
 そのやり取りを見、最後にあまり無理をしないように、と告げて国王陛下は離宮を後になさられた。

 ……出会い方が違えば、ここまで対応が変わるのね。
 今まではただ、恐ろしく理不尽な方だったけれど。穏やかで、優しい方だったわ。本来の国王陛下は、そういう方なのでしょう。
 王家内で起きていること……私も無関係ではないとして。一連の事件は、どう関わっているのかしら。
 どこかで繋がっているのか、はたまたただ重なってしまっただけなのか。
 どちらであるにしろ、とても面倒なことになっていることだけは確かそうだった。
 
 その後はスージーに部屋に居てほしいと乞われ、静かに刺繍をすることにした。
 ただ、一連の事をイース様にお伝えする必要があるからお戻りになられたら教えてほしいとは言っておいたけれど。

 それから夕方近くになってイース様が戻られたと聞いて、すぐにイース様の事務室へ向かった。
 話さなければならないことが沢山あった。


 
「どうしたの?何かあった?」
 
 許可を得て入室すると、そう問われた。
 室内にはテッドもいる。一緒に戻ってきていたのね。別々の場所に行っていたはずなのに。
 
「はい。もうお聞きになられたと思いますが、イース様の留守中に国王陛下がいらしておりました」
「父上が?」
 
 驚いたように声を上げるイース様。
 あら?
 その反応は、聞いていないみたいだわ。
 
「はい。庭でお会いして、少し会話を。道中お聞きになられませんでしたか?」
「ああ、情報を纏めることを優先したから。他の報告は後回しにしていた。……父上はなんて?」
「ここに来たのはただの息抜き、だと。イース様がいらっしゃらないことはご存じでした。ただ場所が……あの立ち入り禁止と言われたエリアでした。その、申し訳ありません。イース様にいただいたリボンが風でそこまで飛ばされてしまったのです」
 
 こういうことは、先に自分から口にして謝罪した方がいい。どうせすぐにバレるのだし。
 何より、ちょうどいい口実だわ。
 もしもそこでの過去が何か関わりがあるのなら、話してくれるかもしれない。
 
 ……しばらく反応を待ってみる。
 
 だけど、なんの言葉も反応も返ってこないため、落ち込んでいることを演出するため伏せていた顔をちらと上げると、イース様は何やら考え込んでいた。
 どうしたものかとイース様の後ろにいるテッドに視線をやると、黙って首を振られてしまう。
 待つしかないみたいだわ。
 
「……あの場所のことは父上が何も言っていないならいいよ。立ち入り禁止にしているのは父上だから。他には何も話していない?」
「他、ですか?ええと……ここでの暮らしはどうか、と、調査にはまだ時間がかかりそうだ、と。あと、その……、もう少し我儘を言ってもいい、と言われました」
「…………そう。おいで、アーシャ」
「え?はい」
 
 呼ばれ、イース様に近付く。
 なんだろうと思っていると、ひょいっと抱き上げられた。
 
 !?
 
「アーシャは育った環境が環境だから、我儘を言うことがそもそもできないんだって私が分かってなくちゃいけなかったね」
「え、あの、」
「これからちょっとずつでも我儘を言えるようになろうね、私に」
「えっ」
 
 待って、これはどういうこと?
 育った環境で我儘を言えない、というのは確かにそうかもしれないわ。一人でなんでも熟せるように教育されたし、そもそも言う相手もいなかったもの。
 幼い頃はカトリーナがいたけれど、その後は親しい者は誰一人いなかった。
 使用人は皆お父様とイヴリンの味方。
 私は、一人でなんでもできたから。我儘なんて、言う必要がなかったのよ。
 
「あの、降ろして下さい……」
「うーん。駄目」
「駄目?!」
「私も少し疲れたから、ちょっとだけ付き合って」
 
 私を抱えたままソファに座る。
 う、思いのほかがっちり抱き込まれていて逃げられないわ。
 離してくれないのなら大人しくしているしかない。
 私はぬいぐるみか何かではないのだけど。
 
 ……これってイース様が私に我儘を言っている状態よね?
 つまりこういう風に我儘を言えるようになれってことなのかしら?
 必要性が見出せないわ。
 でも多分、我儘を言わなければ言わないで咎められそうね。
 仕方がないわ、負担にならない程度に考えてみましょう。
 
 ところでテッドが凄い顔をしていたんだけど、放っておいていいのかしら?

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