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第1章 幼少期(7歳)
41 原因の断定
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何の知らせもなかったから最近の日課のようになっている資料の清書をしようとイース様の執務室に訪れると、
「そっちは置いておいて、こっちにおいで」
と、呼ばれた。
なんだろうと近寄ると椅子に座るように促される。
「現時点で裏が取れていて、アーシャに知らせても問題がない部分を説明する。一度しか言わないから覚えてね」
つまりメモの類は取るな、と。
当然と言えば当然かしら。7大貴族の中で既に3家が関わっていて、王家も関わっているのだし。
記憶力はいい方だと思うし、まあ問題はないと思うけれど……覚えられなければそこまでで、いずれは話についていけなくなる。
試されているのかしら?
「まずは結論から言うと、君の属性鑑定で発覚したシュベーフェル家の異変は、全て君の祖母であるヴィクトリア・シュベーフェルに原因があるとほぼ断定された」
やっぱりそうなるわよね。
でも……
「ほぼ、ですか?」
「うん。したことに関しては自白は取れているんだけど、何故そうしたのか、目的がまだはっきりしていない。体調不良や思い出したように他の情報を上げることで躱している」
ほぼ断定なのに、まだ目的がはっきりしていないの?
この場合、お婆様が上手、なのかしら。
そんなにも表に出したくないことなの?
お婆様の元々の地位から単純に考えればシュベーフェル家を裏から支配したい、とかではないかと思うけれど……それだけなら、ここまで隠さないわよね。
「そこまで隠す理由が、何か他にあるのかもしれません」
「そうだね。私もそう思う。……彼女の体調が思った以上に悪くて、それなのに治療は受けたがらない。オードスルス家にこれ以上弱みを見せたくないとは言うけれど、本当にそれだけなのか」
「お婆様の体調は、そんなにも悪いのですか?」
「ああ。ほとんど自力での歩行が不可能なほどだ」
「そんなに……!?」
自力で歩けない、なんて。
お婆様の体調はそれほどに悪い状態なの?
前もお婆様は年齢としてはお若い内に亡くなられた。
だけど歩行も困難なんて一体どんな病なのだろう。
分からないけれど、目的も分からないままに死に逃げられるのは嫌ね。
「彼女への聞き取りは今後も続けられる。早くはっきりとしたらいいのだけど。次にイグニアス家についてだけれど、別件になった。だからもう私では手を出せない」
「そう……ですか」
シュベーフェル家の件には拘わってはいないけれど、問題としては調査は続けられる。ってことかしら。
イース様でも関われないということは、やっぱり面倒事だったようね。
シュベーフェル家が変な関わり方をしていないといいのだけれど。
「この件が分かる切っ掛けとなった、マーサ夫人のことだけど。実はマーサ夫人の死は偶発的なもので、彼女の手が入っていないと判明した」
「…………え?で、でも」
マーサ先生の死がお婆様の手によるものじゃ、ない?
そんなはずないわよね?だってマーサ先生の持つ情報はお婆様にとって邪魔なはずよ。
そもそも亡くなった状況とタイミングを考えると全く関係ないなんてあるはずないわよね?
「言いたいことは分かるよ。彼女はもちろんマーサ夫人の口を封じるつもりだった。でもできなかったんだ。自分が処分する前にマーサ夫人が殺されたことで、動けなくなった」
「それは。……では、まさか、今こうして調査が進んでいるのは」
「本人が亡くなっている以上言いづらいけれど、マーサ夫人のお陰だよ」
「――――ああっ!」
マーサ先生。
心から貴方へ感謝を送りたいのに、貴方はいない。
貴方のお陰でお婆様に辿り着けたのに。
どうして終わってしまったことがどうしようもないことがこんなにも重いのだろう。
貴方の事では本当に、後悔ばかりだわ。
「ある程度落ち着いたら、マーサ夫人にお礼を言いに行こうか」
「はい……行きたいです」
墓前に手を合わせることしか、もうできないけれど。
精一杯の感謝と貴方のお陰で救われたことを伝えよう。
そして、書かれていた願いをきっと叶えてみせる、と。伝えよう。
それだけが、私が貴方にできる最初で最後の恩返しだわ。
「次に、アーシャの侍女だったカトリーナ・ベルジュのことなんだけど……やはりというか、思考誘導をされていた。それも随分と長い間。繕っている間――命令を実行している間は正気に見えていたけど、実際はほとんど正気ではない」
「……きっとそうなんだろうな、と思っていました。魔法を解除しても、駄目なのでしょうか」
「望み薄、かな」
「…………分かりました」
まあ、そうよね。最後の様子を思い出せば。
お母様とカトリーナは、同じだったのね。そして私も……。
だけど何故、私は今、正常な状態に戻れたのかしら。お母様とカトリーナと同じように長い間魔法を掛けられた状態だったのに。
違いがあるとすればラックのことだけれど……。
「今、アーシャに渡せる情報はこれくらいだ。何か聞きたいことはある?」
「そうですね……少し、考えをまとめる時間が欲しいです。そのあとに聞きたいことが出るかもしれませんので、その時でもいいですか?」
「いいよ。前もって教えてくれれば時間を取るから」
その言葉に、はい、と頷く。
とりあえず今は、得た情報を精査する時間が欲しい。
「そっちは置いておいて、こっちにおいで」
と、呼ばれた。
なんだろうと近寄ると椅子に座るように促される。
「現時点で裏が取れていて、アーシャに知らせても問題がない部分を説明する。一度しか言わないから覚えてね」
つまりメモの類は取るな、と。
当然と言えば当然かしら。7大貴族の中で既に3家が関わっていて、王家も関わっているのだし。
記憶力はいい方だと思うし、まあ問題はないと思うけれど……覚えられなければそこまでで、いずれは話についていけなくなる。
試されているのかしら?
「まずは結論から言うと、君の属性鑑定で発覚したシュベーフェル家の異変は、全て君の祖母であるヴィクトリア・シュベーフェルに原因があるとほぼ断定された」
やっぱりそうなるわよね。
でも……
「ほぼ、ですか?」
「うん。したことに関しては自白は取れているんだけど、何故そうしたのか、目的がまだはっきりしていない。体調不良や思い出したように他の情報を上げることで躱している」
ほぼ断定なのに、まだ目的がはっきりしていないの?
この場合、お婆様が上手、なのかしら。
そんなにも表に出したくないことなの?
お婆様の元々の地位から単純に考えればシュベーフェル家を裏から支配したい、とかではないかと思うけれど……それだけなら、ここまで隠さないわよね。
「そこまで隠す理由が、何か他にあるのかもしれません」
「そうだね。私もそう思う。……彼女の体調が思った以上に悪くて、それなのに治療は受けたがらない。オードスルス家にこれ以上弱みを見せたくないとは言うけれど、本当にそれだけなのか」
「お婆様の体調は、そんなにも悪いのですか?」
「ああ。ほとんど自力での歩行が不可能なほどだ」
「そんなに……!?」
自力で歩けない、なんて。
お婆様の体調はそれほどに悪い状態なの?
前もお婆様は年齢としてはお若い内に亡くなられた。
だけど歩行も困難なんて一体どんな病なのだろう。
分からないけれど、目的も分からないままに死に逃げられるのは嫌ね。
「彼女への聞き取りは今後も続けられる。早くはっきりとしたらいいのだけど。次にイグニアス家についてだけれど、別件になった。だからもう私では手を出せない」
「そう……ですか」
シュベーフェル家の件には拘わってはいないけれど、問題としては調査は続けられる。ってことかしら。
イース様でも関われないということは、やっぱり面倒事だったようね。
シュベーフェル家が変な関わり方をしていないといいのだけれど。
「この件が分かる切っ掛けとなった、マーサ夫人のことだけど。実はマーサ夫人の死は偶発的なもので、彼女の手が入っていないと判明した」
「…………え?で、でも」
マーサ先生の死がお婆様の手によるものじゃ、ない?
そんなはずないわよね?だってマーサ先生の持つ情報はお婆様にとって邪魔なはずよ。
そもそも亡くなった状況とタイミングを考えると全く関係ないなんてあるはずないわよね?
「言いたいことは分かるよ。彼女はもちろんマーサ夫人の口を封じるつもりだった。でもできなかったんだ。自分が処分する前にマーサ夫人が殺されたことで、動けなくなった」
「それは。……では、まさか、今こうして調査が進んでいるのは」
「本人が亡くなっている以上言いづらいけれど、マーサ夫人のお陰だよ」
「――――ああっ!」
マーサ先生。
心から貴方へ感謝を送りたいのに、貴方はいない。
貴方のお陰でお婆様に辿り着けたのに。
どうして終わってしまったことがどうしようもないことがこんなにも重いのだろう。
貴方の事では本当に、後悔ばかりだわ。
「ある程度落ち着いたら、マーサ夫人にお礼を言いに行こうか」
「はい……行きたいです」
墓前に手を合わせることしか、もうできないけれど。
精一杯の感謝と貴方のお陰で救われたことを伝えよう。
そして、書かれていた願いをきっと叶えてみせる、と。伝えよう。
それだけが、私が貴方にできる最初で最後の恩返しだわ。
「次に、アーシャの侍女だったカトリーナ・ベルジュのことなんだけど……やはりというか、思考誘導をされていた。それも随分と長い間。繕っている間――命令を実行している間は正気に見えていたけど、実際はほとんど正気ではない」
「……きっとそうなんだろうな、と思っていました。魔法を解除しても、駄目なのでしょうか」
「望み薄、かな」
「…………分かりました」
まあ、そうよね。最後の様子を思い出せば。
お母様とカトリーナは、同じだったのね。そして私も……。
だけど何故、私は今、正常な状態に戻れたのかしら。お母様とカトリーナと同じように長い間魔法を掛けられた状態だったのに。
違いがあるとすればラックのことだけれど……。
「今、アーシャに渡せる情報はこれくらいだ。何か聞きたいことはある?」
「そうですね……少し、考えをまとめる時間が欲しいです。そのあとに聞きたいことが出るかもしれませんので、その時でもいいですか?」
「いいよ。前もって教えてくれれば時間を取るから」
その言葉に、はい、と頷く。
とりあえず今は、得た情報を精査する時間が欲しい。
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