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第1章 幼少期(7歳)

38 水属性の理由

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 この国は、思った以上に危ういのかもしれない。
 王家も7大貴族も色々な物を腹に抱えていて、均衡が崩れてしまえば一気に崩れてしまうのかも。
 だけど……何故なのかしら?
 私が今に戻ったのは、何か意味があるの?
 
 ラックと話をしなければいけない。
 彼は絶対に何かを知ってるはず。少なくとも、私よりは。
 だって、時間を戻したのは彼なのだから。
 


『 強く呼ぶから起きてしまった。何かあったのかい? 』
 
 深夜に目が覚めたと思ったら、そうラックの方から声を掛けられた。
 呼べば届くの?
 私の中に居るのだし、そういうものなのかしら。
 
「ラック。いくつか聞きたいことがあるわ」
『 うん?ああ、分かることなら 』
「十分よ。ひとつ目、これは分からないでもいいのだけど、6年前に何かなかった?私や、シュベーフェル家に関わることで」
『 6年前?つまりアリィが1歳の頃かな?うーん、僕は分からない。アリィのもとに辿り着いたのは、アリィが3歳くらいの頃だから 』
「え、そうだったの?じゃあ分からないわよね。何か引っかかったのだけど……。いいわ、次だけど、貴方は私を強い光属性の持ち主と言ったけれど、前の私は強い水属性の持ち主だった。それがどうしてか、分かる?」
『 分かるよ 』
「! なら教えてちょうだい!」
 
 時を戻る前の私が水属性だった理由。ようやく分かるのね。
 髪の色でいえば、正しいとも言える水属性。
 だけど、精霊がそれを違うという。
 精霊がそう言うのならば、正しいのよね?
 私は間違いなく、シュベーフェルの、光の子なのよね?
 
「…………ラック?」
 
 言葉を反してこないラック。
 まさかさっきの今で眠ってしまったの?
 肝心なことがまだ聞けていないのに!
 休養が必要だということは分かっているけれど、いくらなんでも酷いんじゃない?
 
『 きっと傷付く 』
 
 しばらく返答を待っていると、そう、返ってきた。
 
 傷付くって。
 その理由は、そんなに酷いことなの?
 だけど戻ってから今まで、傷付かないことの方が少なかったわ。
 こうなったらもう全て知ってしまった方がいいのではなくて?
 どうせいつ知っても傷付くならば。
 
『 そう……。きっと君は知りたがるだろうな、と思っていた。既に無くなった未来とはいえ、一度は通った道。君が歩んだ多くの苦しみがあった道だ。君には知る権利がある。だけどどうか理解してほしい。彼女は本当に、君を愛していたんだ 』
「それは、どういう、」
『 アリィ、君が水属性だったのはね。亡くなった君の母親が死した後君に憑依していたから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだよ。今の僕と同じように 』

「…………は?」
 
 お母様に、憑依されていた?
 ラックが今しているように私の中に、お母様が?
 亡くなってから――――6歳から、ずっと?
 
『 君の母親は、恐らく無自覚でかつ誰からも認識されていなかった先祖返りだ。それも、霊体系か精霊系の。本来ならば目覚めない・・・・・・・・・・それが彼女の未練・・・・・によって死した後に覚醒してしまい、君に取り憑いた。これが水属性であった理由。だけど悲劇はそれじゃない。……彼女は君の父親により、洗脳に近い思考誘導をされていた。幾重にも幾度も掛けられたそれは霊体となった後も解除されず、その結果本来の未練とは全く違う動きをしてしまった 』
「どういう、こと」
『 彼女はただ、生前と同じ行動をしていただけだよ。君の父親に尽くす。それだけ。ただ使っている身体が娘の物だという自覚はあったようだし未練のこともどこかで分かってはいたからか、君のためになる行動もしていた。君に向かう悪意を君の意識を沈めることで見せなかったり。君は一部、思い出せない記憶があるはずだ。明らかに時間が飛んでいる部分とか。それらは全て、君の母親が対処した部分だ 』
 
 お母様が、なんらかの先祖返り。
 それはこの際どうでもいい。
 
 私が水属性だった原因は、やっぱりお母様だった。
 記憶が途切れていたり、思い出せないことが多かった原因もお母様。
 まさか、こんな理由だったなんて思いもしなかった。
 お母様はずっと、私の中に居た――――私の、前の異常なほどのお父様への執着の原因は、お母様にあったんだ。

 どこかずれていた歯車が正しく噛み合っていく。
 結局は、結論は同じなんじゃない。
 少なくとも私が前に歩んだ道は、そうして至ってしまった結末の原因は。

 ――――――――全て、お父様。
 
 ふつふつと怒りが湧いてくる。
 悲しい思いがないわけじゃない。ショックを受けなかったわけじゃない。
 でもそれ以上に溢れてくるのは、怒り。
 
 全ては私が物心つく前には歪んでしまっていて、どうしようもなかった。
 こんなの私にどうにかできる状況じゃないし、前の終末に至ってしまったのもいっそ仕方がないのではないかと思える。
 お母様の憑依を許してしまった時点でもう行き着く先は決まっていたようなもの。
 でも6歳の子供に何ができたっていうのよ。
 理不尽よ。あまりにも、理不尽過ぎる。
 なんなのよ。
 どうして私だけ、こんな目に遭わなきゃならないのよ!
 
『 アリィは凄いね。その状況で、覚える感情が怒りなんだ 』
 
 感心したような声でラックが言う。
 こんなことで感心されても困るわ。

「当り前じゃない。私が無様に泣き喚くような性格じゃないのは知っているでしょう?」
『 うーん。今までは、アリィの母親が強かったから。彼女がそうなんだと思っていたよ。でも、そうか。たまに見た苛烈さと気の強さはアリィの元々の性格なんだね 』
「淑女に何て言い草かしら。貴方だから許すけど」
『 あはは。ありがとう 』
 
 人形だったのはお母様。
 そうしたのは、お父様。
 もともとお母様をそう扱っていたから、私を人形扱いすることを躊躇しなかったのね。
 酷いのはお父様。私とお母様にとっては、それで間違いない。
 だけどイース様はお父様も被害者だと言う。全ての原因はお婆様にあると。そしてそれは、凡そ間違っていない。

 全ての始まりは、お婆様。

 ようやく。私にとっての敵がはっきりした。
 歩んだ道は消えない。変わらない。過去だもの。
 だけどその過去は、ラックによって全て無くなったわ。もう私とラックの中にしか残っていない。
 思うところがないわけじゃない。
 整理がつかないから考えないようにしているところの方が多いわ。
 だけど、それは最後でいい。
 前の私にけじめをつけよう。その原因へやり返すことで。

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