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第1章 幼少期(7歳)
37 知らないことを知る
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「すまない。彼女――――ルルティアナ・オードスルスは、本人が軽く話していたけれど元王族で父上の叔母にあたる。私にとっては大叔母だ。……アーシャなら今の短い会話でも分かったと思うけど、色々と自覚の足りていない人で、アーシャにとって毒にしかならなそうだから遠ざけていたんだけれど……それが逆効果になってしまったみたいだ」
「いいえ……イース様は悪くありませんわ。全面的にあの人に問題があると思います」
彼女を追い払ってすぐ、場所を移動した。
出入りの容易な場所だと万が一にもまた入り込んできた時に面倒だと。
現在は、イース様の執務室にいる。
ちなみに二人きりよ。テッドは家庭教師を頼むはずだった人へ謝罪が必要だと大急ぎで使いに出て行ったわ。
「あの方は、ずっとああなのですか」
「そうだね。先祖返り、若い見目、現在の地位、現王族に近い元王族という事実。良くも悪くも甘やかされた弊害といえばいいのか……。オードスルス家で管理してくれとあれだけ言ったのにこれだから、もうちゃんとした対処をしないといけない」
見逃してやっていたのに。
暗にそう言うイース様。
多分、あの人は今までもイース様に対してああして不敬を繰り返していたんだわ。
だってテッドや騎士達の動きが早過ぎだし手慣れていたもの。
「彼女は、なんというか。どんなことでも自分が中心だと思っているきらいがある。それでも、夫の言うことだけは聞いていたんだ。今までは」
「夫の……今までは?」
「アーシャがここに来た日、居ただろう?その事で彼女の夫――オードスルス家現当主に抗議したんだ。彼女をアーシャに近付けないようにも言った。アーシャの母君を絶縁した以上近付くなとね。……今の今まで動かなかったあたり抑えてはくれたんだろうけど、逆に振り切れてしまったようだ」
「あ……。…………あの、イース様。もしお知りでしたら、教えていただきたいことがあります」
「うん?なにかな」
「その、お母様は……何故、オードスルス家から絶縁されてしまったのでしょうか」
いずれはと思っても、今は必要ないだろうと避けていた。
お母様の絶縁の理由が、私の件に関わっているかも分からないから。
だけどここまで来て、全くの無関係だとは思えなくなってきた。
なら、どんな些細な事でも知っていた方がいい。
というか多分だけど、全部が繋がっている気がするのよ。
少なくとも、シュベーフェル家が中心となっている問題に関しては。
お婆様。お父様。お母様。私。
全ての始まりは、どこ?
「あまり良い話ではない。一部、王家の恥でもある。それもあって内々に処理されたんだ。……聞く?」
「はい。知らなければならないことだと思います」
イース様は、聞いたら後戻りはできないと言いたいのね。
でも今更なのよ。
私は、その行き着く先で。斬首されたの。
それを考えると、私には知る権利があるわよね。例え全てが同じでなくとも。
「なら、君の母君――ウルティアネ夫人に焦点をあてて話そう。事の始まりは恐らく、ウルティアネ夫人が父君――オリオンに一目惚れをしてしまったことからだろうと推測されている」
「ひとめぼれ」
「そう。学園でオリオンに一目惚れをした彼女は、出会いから婚約に至るまで熱烈なアピールをしていたらしい。当時を知る者達はこぞって『母親にそっくりだ』と言っていたそうだ」
「そんなことが……」
母親にそっくり、か。
あまりいい意味ではなさそうね。
まあ、分かる部分もあるわ。だってお母様、お父様の話をし出すと止まらなかったもの。
でも……
「お母様とオードスルス夫人は、言うほど似ていませんでしたよ?」
覚えている限り、あんな誰にでも迷惑を振りまくような方ではなかったわ。
見た目も似ていないわよね。
似ていたら、最初にオードスルス夫人に会った時に気付いたと思う。
「見た目はそうだね。性格は――婚約してから落ち着いたと周りは言っている。生家から絶縁されてオリオンの言いなりにならざるを得ないのでは、とね」
「え、では」
「うん。ウルティアネ夫人はオリオンと婚約したことでオードスルス家から絶縁されたんだ」
「そんな、おかしくはないですよね?家柄的にも」
「普通なら、ね。シュベーフェルとオードスルス、悪い組み合わせではない。血もそこまで近くなかった。ならどうしてっていうと、あれが馬鹿なことをした」
「……つまり、それが原因?」
「そう、王家の恥の部分。前提条件として、シュベーフェル家側は婚約に反対していて、オードスルス家の当主は慎重に事を進めたがっていた。他家との兼ね合いもあったから。だけどそれを全てあれが台無しにした。あれはよりにもよって前国王陛下、つまり自身の父王の生誕祭の夜会で、二人が婚約したとさも確定されたように触れ回ったんだ。元王女が、大きな舞台で口にしてしまったせいで、それを両家は事実にするしかなくなってしまった」
忌々しそうに言うイース様。
相当に彼女が嫌いなのね。一応大叔母を、あれって。
「その行動の理由がまた意味不明でね。そのまま言うと、『周りが我儘を言って愛し合う二人を引き裂こうとしているから』だよ?そんな事実はないのにね。オリオンはいつも適当にあしらっていたらしい。もっと問い詰めて行ったら、最終的に『私の娘が好きだと言うから』と。結局はあれの我儘だったわけだ。だからこの件で前国王陛下は責任を取るとして表舞台から完全に姿を消した。そしてこれが一番の問題だけど、いくらかの貴族家はあれには強い影響力がまだあると勘違いして、あれを持ち上げるようになった」
「そうして、彼女は増長してしまった?」
「それらしい振る舞いはある。私に対する態度もそれだろう」
「……何故放っておくのですか?」
「間抜けを吊り上げる餌としては使えるから放置されているだけだよ。でも流石にもう手は打つ。……父上の仕事が大幅に増えることになるけど」
一つ面倒事を解決しようとしたら大幅に仕事が増えるって。
一体どういう状態なのよ。
「この国は今、そんなにも問題があるのですか?」
「そうだよ。だから私も困っているし、憤っている。だから、アーシャ。私を助けてくれる?」
「…………今の私にできることは少ないですが……もちろんですわ」
「ありがとう、アーシャ。今は居てくれるだけで十分だよ」
疲れた様子でそう微笑むイース様。
本当に十年後とは全く違う。
前の私は自分とお父様とシュベーフェル家以外、何も見えていなかった。
異変はこの頃から、いいえ、とっくの昔に始まっていたのに。
私は何も知らない。分からない。分かっていない。
知らなければならない。
ああもう、やらなければならないことばかりだわ。
ただ私が生きて自由になりたかっただけなのに、どうしてこうなってしまったのかしら?
「いいえ……イース様は悪くありませんわ。全面的にあの人に問題があると思います」
彼女を追い払ってすぐ、場所を移動した。
出入りの容易な場所だと万が一にもまた入り込んできた時に面倒だと。
現在は、イース様の執務室にいる。
ちなみに二人きりよ。テッドは家庭教師を頼むはずだった人へ謝罪が必要だと大急ぎで使いに出て行ったわ。
「あの方は、ずっとああなのですか」
「そうだね。先祖返り、若い見目、現在の地位、現王族に近い元王族という事実。良くも悪くも甘やかされた弊害といえばいいのか……。オードスルス家で管理してくれとあれだけ言ったのにこれだから、もうちゃんとした対処をしないといけない」
見逃してやっていたのに。
暗にそう言うイース様。
多分、あの人は今までもイース様に対してああして不敬を繰り返していたんだわ。
だってテッドや騎士達の動きが早過ぎだし手慣れていたもの。
「彼女は、なんというか。どんなことでも自分が中心だと思っているきらいがある。それでも、夫の言うことだけは聞いていたんだ。今までは」
「夫の……今までは?」
「アーシャがここに来た日、居ただろう?その事で彼女の夫――オードスルス家現当主に抗議したんだ。彼女をアーシャに近付けないようにも言った。アーシャの母君を絶縁した以上近付くなとね。……今の今まで動かなかったあたり抑えてはくれたんだろうけど、逆に振り切れてしまったようだ」
「あ……。…………あの、イース様。もしお知りでしたら、教えていただきたいことがあります」
「うん?なにかな」
「その、お母様は……何故、オードスルス家から絶縁されてしまったのでしょうか」
いずれはと思っても、今は必要ないだろうと避けていた。
お母様の絶縁の理由が、私の件に関わっているかも分からないから。
だけどここまで来て、全くの無関係だとは思えなくなってきた。
なら、どんな些細な事でも知っていた方がいい。
というか多分だけど、全部が繋がっている気がするのよ。
少なくとも、シュベーフェル家が中心となっている問題に関しては。
お婆様。お父様。お母様。私。
全ての始まりは、どこ?
「あまり良い話ではない。一部、王家の恥でもある。それもあって内々に処理されたんだ。……聞く?」
「はい。知らなければならないことだと思います」
イース様は、聞いたら後戻りはできないと言いたいのね。
でも今更なのよ。
私は、その行き着く先で。斬首されたの。
それを考えると、私には知る権利があるわよね。例え全てが同じでなくとも。
「なら、君の母君――ウルティアネ夫人に焦点をあてて話そう。事の始まりは恐らく、ウルティアネ夫人が父君――オリオンに一目惚れをしてしまったことからだろうと推測されている」
「ひとめぼれ」
「そう。学園でオリオンに一目惚れをした彼女は、出会いから婚約に至るまで熱烈なアピールをしていたらしい。当時を知る者達はこぞって『母親にそっくりだ』と言っていたそうだ」
「そんなことが……」
母親にそっくり、か。
あまりいい意味ではなさそうね。
まあ、分かる部分もあるわ。だってお母様、お父様の話をし出すと止まらなかったもの。
でも……
「お母様とオードスルス夫人は、言うほど似ていませんでしたよ?」
覚えている限り、あんな誰にでも迷惑を振りまくような方ではなかったわ。
見た目も似ていないわよね。
似ていたら、最初にオードスルス夫人に会った時に気付いたと思う。
「見た目はそうだね。性格は――婚約してから落ち着いたと周りは言っている。生家から絶縁されてオリオンの言いなりにならざるを得ないのでは、とね」
「え、では」
「うん。ウルティアネ夫人はオリオンと婚約したことでオードスルス家から絶縁されたんだ」
「そんな、おかしくはないですよね?家柄的にも」
「普通なら、ね。シュベーフェルとオードスルス、悪い組み合わせではない。血もそこまで近くなかった。ならどうしてっていうと、あれが馬鹿なことをした」
「……つまり、それが原因?」
「そう、王家の恥の部分。前提条件として、シュベーフェル家側は婚約に反対していて、オードスルス家の当主は慎重に事を進めたがっていた。他家との兼ね合いもあったから。だけどそれを全てあれが台無しにした。あれはよりにもよって前国王陛下、つまり自身の父王の生誕祭の夜会で、二人が婚約したとさも確定されたように触れ回ったんだ。元王女が、大きな舞台で口にしてしまったせいで、それを両家は事実にするしかなくなってしまった」
忌々しそうに言うイース様。
相当に彼女が嫌いなのね。一応大叔母を、あれって。
「その行動の理由がまた意味不明でね。そのまま言うと、『周りが我儘を言って愛し合う二人を引き裂こうとしているから』だよ?そんな事実はないのにね。オリオンはいつも適当にあしらっていたらしい。もっと問い詰めて行ったら、最終的に『私の娘が好きだと言うから』と。結局はあれの我儘だったわけだ。だからこの件で前国王陛下は責任を取るとして表舞台から完全に姿を消した。そしてこれが一番の問題だけど、いくらかの貴族家はあれには強い影響力がまだあると勘違いして、あれを持ち上げるようになった」
「そうして、彼女は増長してしまった?」
「それらしい振る舞いはある。私に対する態度もそれだろう」
「……何故放っておくのですか?」
「間抜けを吊り上げる餌としては使えるから放置されているだけだよ。でも流石にもう手は打つ。……父上の仕事が大幅に増えることになるけど」
一つ面倒事を解決しようとしたら大幅に仕事が増えるって。
一体どういう状態なのよ。
「この国は今、そんなにも問題があるのですか?」
「そうだよ。だから私も困っているし、憤っている。だから、アーシャ。私を助けてくれる?」
「…………今の私にできることは少ないですが……もちろんですわ」
「ありがとう、アーシャ。今は居てくれるだけで十分だよ」
疲れた様子でそう微笑むイース様。
本当に十年後とは全く違う。
前の私は自分とお父様とシュベーフェル家以外、何も見えていなかった。
異変はこの頃から、いいえ、とっくの昔に始まっていたのに。
私は何も知らない。分からない。分かっていない。
知らなければならない。
ああもう、やらなければならないことばかりだわ。
ただ私が生きて自由になりたかっただけなのに、どうしてこうなってしまったのかしら?
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