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第1章 幼少期(7歳)
36 母方の祖母
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用意されるドレスや備品に、ちらほらと白地に緑や緑に白の装飾の物が増えてきた。
何か主張しなければならないことでもあったのかしら?私、ここからほぼ出ていないのだけれど。
ミカエラはなんだか楽しそうだけど、テッドは何か変なのよね。
私が知らないところで何か動いていることだけは確かみたい。
…………調査の結果は時間を取って話してくれるとは言っていたけど……ここに来て、もう一月前後経つ。そろそろ本格的に現状を知りたい。
調査はどれくらい進んでいて、私は今一体どんな立ち位置になっているのか、とか。
「家庭教師、ですか?」
「うん。勉強をしたがっていただろう?何人か用意しているから、合わなかったら言ってね」
「はい」
忙しい中でもちゃんと探してくれていたのね。
正直、電気の清書作業もある意味では勉強のようなものだったから、まあいいかと思っていたのよ。
家庭教師の選定にかかった時間が長いか短いかは分からないけど、イース様が用意したのなら、おかしな人はいないわよね。
イース様にエスコートされ、出入り口に近い客室に連れていかれた。
中には、女性が一人。……あら?
「は?」
あ、あら?
イース様……今、物凄く機嫌が落ちたわね?ええと……ルナを見て。
今度はちゃんとした貴族女性としての装いをしているけれど、この反応からして、ルナがここに居るのはおかしい、ってことよね?
「何故、貴方がここに居る」
「まあ、レイオスったら。別におかしなことではないわよ?」
「おかしいから聞いている。本来ここに居るはずの女性は」
「お帰りしてもらったわ。だって、私でもいいでしょう?」
「何を勝手なことを!」
イース様、本当に怒っているわ……。
なのにルナは何処吹く風という態度で、にこにこと笑顔で、私を見ている。
なんなの、一体。
意味が分からない。気味が悪い。
――――イヴリンみたいで、気持ち悪い。
頭を過ったそれに、無意識に一歩下がる。
と、後ろに控えていたテッドが私とイース様を庇うように前に出てきた。
「テッド、あの方は……」
イース様には話し掛けづらく、小声で聞いてみた、けれど。
その声は、ルナにも届いていたらしく。
「アリルシェーラちゃん。私は貴方のおばあちゃまよ」
「………………え」
なんですって?
つまりルナは、私の祖母?
だけどシュベーフェルの、ではない。つまり。
つまり――――
「以前は名乗らなかったわね。私は、ルルティアナ・オードスルスというの。オードスルス家現当主、ソーマ様の妻なの。嫁ぐ前は王女で、レイオスの大叔母にあたるわ。それでね?アリルシェーラちゃんが家庭教師を探しているって聞いて、是非私がしたいって思ったの。レイオスの婚約者だし、王族のマナーも必要でしょう?私以上に相応しい者はいないわ」
「馬鹿なことを。そんなことは許可できない!」
「どうして?そもそも、私がするって言ってるのよ?貴方の許可なんて必要ないわ。大体、ずっとアリルシェーラちゃんに会わせてって言ってるのに邪魔をして!娘はもういないし、孫も男の子ばかり。女の子の孫はアリルシェーラちゃんしかいないからずっと会いたかったのに!」
まるで駄々をこねる子供のように言うルナ――――オードスルス夫人。
イース様は酷く怒っているし、テッドも嫌そうで、私の姿がオードスルス夫人に見えないように隠している。
背後で、鎧が擦れる音がする。騎士も集まってきているみたい。
オードスルス夫人は、招かれざる者。
つまり。いいのよね?私が何を言っても。
このままオードスルス夫人に喋らせておくのは、不愉快だわ。
「お断りしますわ」
「え……、」
「貴方だけは、絶対に、お断りしますわ。無理です」
「あ、アリルシェーラちゃん、」
ショックを受けたような顔で、近寄ってこようとするオードスルス夫人。
でも、するりと入ってきた騎士に捕まり拘束され、動けなくされた。
「レイオス殿下への不敬、地位を利用した我儘、常識のない行動、どれをとっても貴方に私の家庭教師が務まるとは思えません。お引き取りくださいませ」
今。自分が酷く冷たい表情をしている自覚がある。
だってオードスルス夫人、私をおかしなものを見るような目で見ているもの。
彼女は私に、子供らしい女の子を期待していたようだけど。無理に決まっているじゃない。
今に限らず、前だって無理だったわよ。私には子供らしさなんて備わってないんだから。子供らしかった時期なんてマーサ先生が来てくださる前くらいで終わってるわ。
夜が怖くて、泣いた頃に。終わっている。
涙を拭ってくれるひとは、もう。
「私は、貴方の顔も見たくありませんわ」
もう一人のお婆様。今になるまで、存在も知らなかった人。
お母様の、お母様。
つまり――――お母様を絶縁した人。
お母様が何故、生家であるオードスルス家から絶縁されたのかは知らない。
それに、彼女がどう関わっていたのかも、知らない。
ただ分かるのは、彼女がそのことを酷く軽く考えているのだろうということ。
彼女は、お母様の死を悲しんでなんかいない。
そうでしょう?
悲しんでいるのなら、『娘はもういない』なんて、まるで他人事みたいに言うはずがないじゃない!
何か主張しなければならないことでもあったのかしら?私、ここからほぼ出ていないのだけれど。
ミカエラはなんだか楽しそうだけど、テッドは何か変なのよね。
私が知らないところで何か動いていることだけは確かみたい。
…………調査の結果は時間を取って話してくれるとは言っていたけど……ここに来て、もう一月前後経つ。そろそろ本格的に現状を知りたい。
調査はどれくらい進んでいて、私は今一体どんな立ち位置になっているのか、とか。
「家庭教師、ですか?」
「うん。勉強をしたがっていただろう?何人か用意しているから、合わなかったら言ってね」
「はい」
忙しい中でもちゃんと探してくれていたのね。
正直、電気の清書作業もある意味では勉強のようなものだったから、まあいいかと思っていたのよ。
家庭教師の選定にかかった時間が長いか短いかは分からないけど、イース様が用意したのなら、おかしな人はいないわよね。
イース様にエスコートされ、出入り口に近い客室に連れていかれた。
中には、女性が一人。……あら?
「は?」
あ、あら?
イース様……今、物凄く機嫌が落ちたわね?ええと……ルナを見て。
今度はちゃんとした貴族女性としての装いをしているけれど、この反応からして、ルナがここに居るのはおかしい、ってことよね?
「何故、貴方がここに居る」
「まあ、レイオスったら。別におかしなことではないわよ?」
「おかしいから聞いている。本来ここに居るはずの女性は」
「お帰りしてもらったわ。だって、私でもいいでしょう?」
「何を勝手なことを!」
イース様、本当に怒っているわ……。
なのにルナは何処吹く風という態度で、にこにこと笑顔で、私を見ている。
なんなの、一体。
意味が分からない。気味が悪い。
――――イヴリンみたいで、気持ち悪い。
頭を過ったそれに、無意識に一歩下がる。
と、後ろに控えていたテッドが私とイース様を庇うように前に出てきた。
「テッド、あの方は……」
イース様には話し掛けづらく、小声で聞いてみた、けれど。
その声は、ルナにも届いていたらしく。
「アリルシェーラちゃん。私は貴方のおばあちゃまよ」
「………………え」
なんですって?
つまりルナは、私の祖母?
だけどシュベーフェルの、ではない。つまり。
つまり――――
「以前は名乗らなかったわね。私は、ルルティアナ・オードスルスというの。オードスルス家現当主、ソーマ様の妻なの。嫁ぐ前は王女で、レイオスの大叔母にあたるわ。それでね?アリルシェーラちゃんが家庭教師を探しているって聞いて、是非私がしたいって思ったの。レイオスの婚約者だし、王族のマナーも必要でしょう?私以上に相応しい者はいないわ」
「馬鹿なことを。そんなことは許可できない!」
「どうして?そもそも、私がするって言ってるのよ?貴方の許可なんて必要ないわ。大体、ずっとアリルシェーラちゃんに会わせてって言ってるのに邪魔をして!娘はもういないし、孫も男の子ばかり。女の子の孫はアリルシェーラちゃんしかいないからずっと会いたかったのに!」
まるで駄々をこねる子供のように言うルナ――――オードスルス夫人。
イース様は酷く怒っているし、テッドも嫌そうで、私の姿がオードスルス夫人に見えないように隠している。
背後で、鎧が擦れる音がする。騎士も集まってきているみたい。
オードスルス夫人は、招かれざる者。
つまり。いいのよね?私が何を言っても。
このままオードスルス夫人に喋らせておくのは、不愉快だわ。
「お断りしますわ」
「え……、」
「貴方だけは、絶対に、お断りしますわ。無理です」
「あ、アリルシェーラちゃん、」
ショックを受けたような顔で、近寄ってこようとするオードスルス夫人。
でも、するりと入ってきた騎士に捕まり拘束され、動けなくされた。
「レイオス殿下への不敬、地位を利用した我儘、常識のない行動、どれをとっても貴方に私の家庭教師が務まるとは思えません。お引き取りくださいませ」
今。自分が酷く冷たい表情をしている自覚がある。
だってオードスルス夫人、私をおかしなものを見るような目で見ているもの。
彼女は私に、子供らしい女の子を期待していたようだけど。無理に決まっているじゃない。
今に限らず、前だって無理だったわよ。私には子供らしさなんて備わってないんだから。子供らしかった時期なんてマーサ先生が来てくださる前くらいで終わってるわ。
夜が怖くて、泣いた頃に。終わっている。
涙を拭ってくれるひとは、もう。
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お母様が何故、生家であるオードスルス家から絶縁されたのかは知らない。
それに、彼女がどう関わっていたのかも、知らない。
ただ分かるのは、彼女がそのことを酷く軽く考えているのだろうということ。
彼女は、お母様の死を悲しんでなんかいない。
そうでしょう?
悲しんでいるのなら、『娘はもういない』なんて、まるで他人事みたいに言うはずがないじゃない!
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