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第1章 幼少期(7歳)

34 今分かっていることとプレゼント

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 私に宿っていた無属性の精霊、ラックは私を強力な光属性の持ち主と言った。
 今、私は彼が宿っている影響で無属性になっている。力を使い果たしたという彼が回復し、私の中から出られるようになるまでこのままらしい。

 そこは、まあ納得できるの。
 問題は、前。どうして戻る前の私は水属性だったの?
 原因は正直に言うと、お母様しか思いつかない。だってお母様は水属性のオードスルス家の出身で、強力な水属性を持っていたという話だから。

 幼い頃から属性鑑定の日までに、一体何が起きたの?
 殆ど覚えていないけれど、大きなことと言えばお母様の死ぐらいよ。
 だけどそれが一体どう関係するというのかしら?
 ラックなら何か知っているかもしれないけれど、今は回復に集中していて殆ど眠っているらしく、まだ話は聞けていない。
 何よりここは人の目があるから、簡単には話ができないわ。
 ラックの存在は、今のところ知らせるつもりはない。そもそも普通なら見えない精霊の存在を、どう証明するというの?

 まさか、屋敷に早く帰りたいと思う日が来るなんて思わなかったわ。
 


「やあ。ごめんね、顔を出せなくて」
「イース様。 いいえ、もう大丈夫なのですか?」
「うん、私に手伝えることは現時点ではもうないから。本当は父上にアーシャを紹介する時間を作りたかったんだけど、駄目だったよ」
「そ、そんなにお忙しいのですか?国王陛下は……」
「そうだね。宰相は老齢だし、その補佐はまだ復帰できていない。まだまだ忙しいのは終わりそうにないかな」
 
 疲れた顔でソファに座るイース様。
 おいで、と手招きをされ、その隣に座る。
 話題に上がったからお父様のことを聞きたいけれど……今は止めておいた方がいいかしら。
 本当にお疲れの様子だもの。
 
「私が来ない間、何かあった?」
「はい。1つは、ミカエラのことです」
「ああ、そうだったね。ありがとう、アーシャ。君のお陰でミカエラが先祖返りだと断定された」
「偶然知っていただけではありましたが、良かったですわ。ええと、ミカエラもテッドと同じですか?」
「ん?いや、ミカエラはアエラス家当主夫妻からの依頼で先祖返りか調べていた時に紹介されたんだよ。……当時のミカエラは自分の事情を全て知っていた上、一度はと引き合わされた両親に拒絶されていて……人形みたいだった」
「え……、わざわざ全てを説明していたんですか?その上で、実の両親に?そんなこと」

 つい、非難するような言い方をしてしまう。
 だってミカエラがその当時何歳だったかは知らないけれど、親と思っていた人は親ではなく、実の両親には捨てられていて、自分が普通の人間ではないことを理由に拒絶されたなんて、トラウマになるようなことじゃない。

「出生に関しては、本家で育つ以上必須だ。引き合わせたのは本家預かりになったと知らしめるため。あとから誘拐だなどと言わせないためだよ」 
「それは……、はい。分かりました。あの、ミカエラの生家って」
「まだあるよ。ミカエラのこと以外ではそこそこ優秀らしいから。他にはどう?」
「ええと、スージーが侍女についてくれました。彼女の勧めで、庭を散策もしました」
「庭に出たんだ?」
「はい。とても見事でしたわ。庭師の腕が良いのですね。歩いた範囲はそれほどではないのですが、どこを見ても素晴らしかったです」
「ふふ、そうだろう?気に入った花があったら、部屋に飾らせようか」
「まあ!嬉しいです」
 
 先程までどことなく不機嫌そうだったけれど、今は普通ね。
 少しずつだけど感情の流れを分かるようになってきたけれど、なんていうか動き方が忙しいというか激しいというか……不安定、なのかしら?
 忙しさのせいかもしれない。少し心配だわ。原因の一つが言えることではないけれど。
 とりあえず適当に話を続けてみましょう。
 
「そういえば、どうして庭に立ち入り禁止の場所があるのですか?」
「ああ、あそこ?父上の命令なんだけど、実は私もよく知らないんだ。ここは私の前は父上が住んでいたから、その時に何かあったみたい。まあ、知らなくていいことだよ」
 
 あ。
 作り笑い。

 ……追及するな、ってことね?
 
「分かりました」
 
 やっぱりあそこで何かあったんだわ。それも、恐らくラックに関わる何か。
 精霊が関わること……まあ、機密よね。
 なんとかあの場所に行きたいけれど、今は駄目ね。不自然だもの。私があの場所に行きたがる理由がない。そして過去に起きたことによっては、面倒なことになる。
 話題を変えましょう。

「あの、……調査の方は、何か分かりましたか?」
「そっち?色々とあるよ。ただ話すとなると結構長くなるから改めて時間を取るよ。今は大きいところだけ教えてあげる」
「はい」

 あからさまに話題を変えたのに普通に話を進めるのね。
 よほど触れさせたくないのか、調査について話しておきたいことなのか。
 
「まずは君の祖母君のことだけど、身柄は押さえられた。ただ大分体調が優れないようで聞き取りは難航している」
「体調が……どこかお悪いのでしょうか」
「6年ほど前から体調を崩しがちになったらしい。そこは多くの使用人も証言している。彼女の主治医は……もういない・・・・・そうだ」
 
 つまり口を封じられた、と。
 私が介入していない以上、お婆様が私の幼い内に亡くなるのは前と同じだろうから、体調が悪いというのは納得できる。
 でも、6年前?少し引っかかるわ。
 今から6年前……流石に私が何か覚えているはずがないから、ラックの方かしら。
 聞くことが増えたわね。
 
「もう一つは、君の父君だが大体の聞き取りと確認を終えた。本人に問題はないとは言い切れないけど、今後の対応次第ではどうにでもなると判断されて、一足先にシュベーフェル家の屋敷に戻ることになった。職務復帰はまだ先だけど」
「……そう、ですか」
 
 お父様は解放されたのね。
 監視はあるのでしょうけれど。
 屋敷に戻られたということは、掃除・・をするのかしら。
 戻った時どうなっているか、見物だわ。
 流石にイース様の婚約者となった以上、今までのように冷遇はできないでしょうけれど。
 
 私達の間には情など無く、仮にお父様が私に歩み寄ってきたとして、私は受け入れない。
 普通に考えて、無理。
 私達の関係は、利用し利用されるくらいでいいのよ。
 私にとっては、何もかもが今更なのだから。
 その理由も……もう知ることもできないから。
 
「大きいところはこの辺りかな。あ、アーシャ、ちょっと後ろを向いてくれる?」
「え?はい」
 
 唐突な話題の転換に、驚きながらも言われた通りに後ろを向く。
 髪に触れている?何かしら?
 
「これでよし、と。やっぱり白の方が似合う」
「え?」
 
 訳が分からず戸惑っていると、スージーが手鏡を2つ持って近寄ってきた。
 そしてそれで、後ろが見えるように私を映す。

「リボン?」
 
 後ろ髪に、先程まではなかったリボンが編み込まれている。
 空色の髪に、白地に濃い緑の糸で刺繍されたリボンは良く映えていた。
 
「プレゼントだよ」
「あ、ありがとうございます」
 
 白――王家の色に、緑って。物凄く主張しているわ……。

 それはそれで突っ込みどころがあるんだけど、突然プレゼントって。ドレスとか、ここで必要なものは全てイース様が用意してくれているのに。
 あれかしら。私はまだまだ戻れないってことなのかしら。
 味方の居ない屋敷に戻されるのも嫌だからいいのだけれど。

 でもやっぱりこれはちょっと主張が強過ぎない……??
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