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第1章 幼少期(7歳)

22 解読の依頼

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「ちょっと手を貸してほしい」

 2日ぶりに部屋にやってきたレイオス殿下が、困った様子でそう言ってきた。

 流石に今我儘を言うのは気が引けて、例の店のことが気になりつつも我慢して黙っていたのだけれど。
 私の手を借りたいって、一体何にかしら?

「貴方はここに残ってくれ」
「……はい」

 あら。
 わざわざカトリーナを外させるということは、知られたくないということ?
 ……殿下側では、カトリーナは信用に値しないという判断をしているのね。



 部屋から連れ出され、案内されたのは立ち入らないように言われていた区画にある部屋。
 どうやらレイオス殿下の執務室みたい。

「これは、あの書店の方から受け取ったあの資料ですか?」
「ああ。あの後店を探したけれどめぼしい物は見つかっていない。この中に何か紛れている可能性が高いと思うんだけど、手が足りなくてね」
「そうなのですか。つまり私は、この中にマーサ先生が何か残していないかを探せばいいのですね?」
「ああ、そうなる。できればそれの清書も」

 申し訳なさそうなレイオス殿下。
 まあそうでしょう、だってこれ……紙の山だもの。そして見た感じ、ほぼ、走り書き。これから探すってもう解読の域よ。 
 でも、興味はあるのよね。建国王様の知られざる歴史というのも。
 知れば口を封じられるレベルって、何かしらね?

 そう考えて、ふと気付く。

「これは、私が知っても良いことなのですか?」
「君は私の婚約者だから」
 
 知られても問題ない。或いは知った以上逃がさない。
 と、いうことかしら?
 笑顔がとても空々しいわね?
 
「断ってもいいんだよ?」
「……その代わり、もうこの件に関わらせてはもらえないのでしょう?やりますわ」
「そう、助かるよ。作業はここでしてね。あの侍女は駄目」
「分かりました。……カトリーナは危険ですか?」
「繋がりがまだ掴めていないから。君の敵ではない・・・・・・・がイコールで私達の味方・・・・・というわけではないよ」
「…………はい。分かりました」

 肯定を反すと、レイオス殿下は満足したように頷いた。
 それからこの机を使うように、と指示された。
 頷いて、机に向かう。

 私の敵ではない=味方、ではない。か。
 それは、そうよね。
 極論、私が無事なら――無事を約束していたら、他は売られる可能性があるのだわ。
 
 ……時間が経ち、知れば知るほどにカトリーナを信じられなくなっていく。

 彼女は今も、何を聞いても何一つとして話してくれない。
 更に気になるのは彼女の態度だ。
 二人きりになると、まるで母親のような態度をとる。
 私にとってカトリーナはカトリーナだ。侍女の、カトリーナ。母親ではない。
 あんなのではあったけれど、母親はお母様一人よ。
 カトリーナのそんな態度は、誕生日の日、教会から始まった気がする。
 目覚めた日も取り乱した私を抱き締めたけれど、あれは本当に咄嗟の行動に見えた。教会での、殿下と会ってから合流したカトリーナがしたようなわざとらしさはなかったわ。
 そう、あれは今思うとあまりにもわざとらしかったのよ。周りにそう認識させるためにわざとしたみたいに。
 
 カトリーナの目的は何かしら?
 私に何を望んでいるの?
 一度揺さぶってみるべきかしら?

 実をいうと思いつくことが一つだけあるのよ。
 カトリーナは今でこそ独り身だけれど、昔は結婚していて一人娘がいる。ただその一人娘はカトリーナの生家にあたる防衛を司る地属性のベルジュ家の養子になっているの。
 前の時、ロバート殿下の側近候補になっていたベルジュ家本家の次男が言っていた――気がする。
 何か怒っていた気がするけれど、思い出せない。
 学園内でのことのはずだから、おかしいわね。
 また一つおかしいことが見つかってしまったわ。
 一体何なの?
 
 ……少し前と今の差異をまとめてみましょう。
 
 まず私。
 大きいところから、水の属性ではなく無属性だった。
 婚約者がロバート殿下からレイオス殿下に変わった。
 あとは……お父様に対する盲信が消えた。
 
 次にカトリーナ。
 死ぬはずが生きていて、今も私の傍に居る。
 
 次にマーサ先生。
 前は5年先までは確実に生きていたのに亡くなられた。
 
 今のところはっきりとしている私に関する大きな違いはこんなところかしら。
 
 ……なんだか。マーサ先生とカトリーナが逆になったみたい。
 カトリーナは死なず、マーサ先生が代わりのように亡くなった。

 そんなこと、ないわよね。きっと偶然よ。

 偶然、よね?
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