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第1章 幼少期(7歳)

11 ★レイオス視点

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「……完全に気を失っています」
「みたいだね。流石に驚いた」
「それで済ませないでください。つまり正確に状況を理解したということですよ」
「そうだね、かなり都合がいい」


 テッドの苦言に返しつつ、倒れこんできた少女の青い髪を軽く梳きながらこれからどう動こうかを考える。
 都合がいい。実に、自分にとって都合のいい駒が手に入った。
 これなら余程のミスでも犯さない限り自らの希望を通すことができる。

「本気ですか?というのは、愚問ですね。この部屋に連れてきた時点で」
「そういうこと。さて、方々に情報の通達を――――、」


「その前に。私が納得できる説明をしてもらおうかしら」


「げ」


 もう王城の方へ行ったと思っていたのにまだ居たのかこの女。
 相も変わらず図々しい。

 ――――ルルティアナ・オードスルス。

 水属性の一族・オードスルス家現当主の妻であり、元は前王、つまり祖父の妹――父上の叔母にあたる。

 とはいえ、既に降嫁した身。王籍は抜けている。
 だから本来なら軽々しくここに入り込んでいい立場ではないんだけど。
 本当になんで居るんだろうこの女。
 いや、分かるんだけどね、理由は。


「貴方に口出しする権利はないはずだけど」
「ええ、そうね。だけど私はその子の母の母……つまり祖母にあたるの。今まで会えなかったのだから少しくらいいいじゃない」
「それは貴方が夫の言い分に納得して娘と縁を切ったからだ。繰り返すけど貴方に口を出す権利は一切ない。……オードスルス家当主夫人を王城へお連れしろ。それから父上に現状の報告、可能ならこちらにお越しくださるよう伝えてきて」
「はっ!お任せください!」
「あ、ちょっと!待ちなさい、話はまだ……っ!」

 女の抵抗など無いもののように、配下の騎士が女を連れて部屋を出て行った。
 外はまだ騒がしいが、静かになるのはすぐだろう。俺の配下は皆優秀だから。

「それで?なんでまたあれがあんな格好でここに居る?」
「それがどうも、王城への先触れが原因のようです。タイミング悪くその場におられたオードスルス家当主夫人が陛下の制止も聞かず許可も得ずに押しかけてこられたと。あの服装はいわく、変装だそうで」
「阿保か」
「殿下。どこで何が聞いているかも分かりませんよ」


 窘めるように言うテッド。
 だが本人も俺と同じ心情なのだろう、呆れや嫌悪が見て取れた。

 当然だ。
 いくら元王族とはいえ王である父上の言葉を無視したり現王族である俺の離宮に許可も無く入り込んだり、さも自分の方が身分が上とでも言うような振る舞いをするなんてあってはならない。
 それを理解していないし理解する気もないからこうして疎まれている。
 そしてそれに全く気付いていない。

 聞いた話だと先祖返り故に成長が遅く見た目が幼い期間が長かったためにかなり甘やかされていたらしいからな。
 今も年齢に比べると若々しい見た目をしているから持ち上げられているようだし。
 厄介極まりない。

「自分が不敬で罰せられるなど思いもしないのでしょう。本当に愚かな方だ」
「俺より問題発言してるけど?」
「失礼しました。つい本音が」
「事実だから不問にするけど。外では気を付けるように」
「はい」
「じゃあさっき言った通りに情報の通達を。外へは詳しいことは後回しで」
「了解しました」

 テッドが部屋を出ていく。
 部屋の中には自分とシュベーフェル家の少女の二人だけ。
 
 準王族・・・にあたる光属性の一族、シュベーフェル家直系の唯一の姫君。
 それがまさかこんな状況とは。
 オードスルス家もあんなのがいるし、状況は思った以上に酷いのかもしれない。

「いくら忙しいとはいえ、放置のしすぎだろうなこれは」
 
 最低でもあと10年はどうにもならないと父上は言うが、あまりにも悠長すぎるだろう。

 この国は、王族と7大貴族の距離が近過ぎる。濃い・薄いはあれど全ての血が繋がっているから。
 だからこそあんな不敬を不敬と思いもしない者も出てきてしまう。
 近いからこそ、一度王籍を抜けた者は王族ではないと定められているというのに。

 早めに行動しなければ、腐敗はどんどん広がっていく。
 危険の種は摘まなければならない。多少強引な手を使ってでも。

 父上にも好きに生きろと言われている。


「……小さいなぁ」
 
 まだ7歳だから当然か。
 でも、うん。きっと美しく成長するだろう。今も十分すぎるほど可愛らしい顔立ちをしている。
 あの女に似なくてよかった。
 流石にあれと似ていたら躊躇したかもしれない。
 本当に、都合のいい条件の揃った子だ。

 準王族という血筋、次期当主という立場、状況、容姿、頭の出来。
 全て俺のために誂えられたような。

「悪いけど、利用させてもらう。この国を少しでも正常な状態に戻すために」
 
 それが王にもなれず、父上の代わりにもなれない俺ができる数少ないことだから。

 利用する以上は大事にするから許してね?

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