12 / 77
第1章 幼少期(7歳)
11 ★レイオス視点
しおりを挟む
「……完全に気を失っています」
「みたいだね。流石に驚いた」
「それで済ませないでください。つまり正確に状況を理解したということですよ」
「そうだね、かなり都合がいい」
テッドの苦言に返しつつ、倒れこんできた少女の青い髪を軽く梳きながらこれからどう動こうかを考える。
都合がいい。実に、自分にとって都合のいい駒が手に入った。
これなら余程のミスでも犯さない限り自らの希望を通すことができる。
「本気ですか?というのは、愚問ですね。この部屋に連れてきた時点で」
「そういうこと。さて、方々に情報の通達を――――、」
「その前に。私が納得できる説明をしてもらおうかしら」
「げ」
もう王城の方へ行ったと思っていたのにまだ居たのかこの女。
相も変わらず図々しい。
――――ルルティアナ・オードスルス。
水属性の一族・オードスルス家現当主の妻であり、元は前王、つまり祖父の妹――父上の叔母にあたる。
とはいえ、既に降嫁した身。王籍は抜けている。
だから本来なら軽々しくここに入り込んでいい立場ではないんだけど。
本当になんで居るんだろうこの女。
いや、分かるんだけどね、理由は。
「貴方に口出しする権利はないはずだけど」
「ええ、そうね。だけど私はその子の母の母……つまり祖母にあたるの。今まで会えなかったのだから少しくらいいいじゃない」
「それは貴方が夫の言い分に納得して娘と縁を切ったからだ。繰り返すけど貴方に口を出す権利は一切ない。……オードスルス家当主夫人を王城へお連れしろ。それから父上に現状の報告、可能ならこちらにお越しくださるよう伝えてきて」
「はっ!お任せください!」
「あ、ちょっと!待ちなさい、話はまだ……っ!」
女の抵抗など無いもののように、配下の騎士が女を連れて部屋を出て行った。
外はまだ騒がしいが、静かになるのはすぐだろう。俺の配下は皆優秀だから。
「それで?なんでまたあれがあんな格好でここに居る?」
「それがどうも、王城への先触れが原因のようです。タイミング悪くその場におられたオードスルス家当主夫人が陛下の制止も聞かず許可も得ずに押しかけてこられたと。あの服装はいわく、変装だそうで」
「阿保か」
「殿下。どこで何が聞いているかも分かりませんよ」
窘めるように言うテッド。
だが本人も俺と同じ心情なのだろう、呆れや嫌悪が見て取れた。
当然だ。
いくら元王族とはいえ王である父上の言葉を無視したり現王族である俺の離宮に許可も無く入り込んだり、さも自分の方が身分が上とでも言うような振る舞いをするなんてあってはならない。
それを理解していないし理解する気もないからこうして疎まれている。
そしてそれに全く気付いていない。
聞いた話だと先祖返り故に成長が遅く見た目が幼い期間が長かったためにかなり甘やかされていたらしいからな。
今も年齢に比べると若々しい見た目をしているから持ち上げられているようだし。
厄介極まりない。
「自分が不敬で罰せられるなど思いもしないのでしょう。本当に愚かな方だ」
「俺より問題発言してるけど?」
「失礼しました。つい本音が」
「事実だから不問にするけど。外では気を付けるように」
「はい」
「じゃあさっき言った通りに情報の通達を。外へは詳しいことは後回しで」
「了解しました」
テッドが部屋を出ていく。
部屋の中には自分とシュベーフェル家の少女の二人だけ。
準王族にあたる光属性の一族、シュベーフェル家直系の唯一の姫君。
それがまさかこんな状況とは。
オードスルス家もあんなのがいるし、状況は思った以上に酷いのかもしれない。
「いくら忙しいとはいえ、放置のしすぎだろうなこれは」
最低でもあと10年はどうにもならないと父上は言うが、あまりにも悠長すぎるだろう。
この国は、王族と7大貴族の距離が近過ぎる。濃い・薄いはあれど全ての血が繋がっているから。
だからこそあんな不敬を不敬と思いもしない者も出てきてしまう。
近いからこそ、一度王籍を抜けた者は王族ではないと定められているというのに。
早めに行動しなければ、腐敗はどんどん広がっていく。
危険の種は摘まなければならない。多少強引な手を使ってでも。
父上にも好きに生きろと言われている。
「……小さいなぁ」
まだ7歳だから当然か。
でも、うん。きっと美しく成長するだろう。今も十分すぎるほど可愛らしい顔立ちをしている。
あの女に似なくてよかった。
流石にあれと似ていたら躊躇したかもしれない。
本当に、都合のいい条件の揃った子だ。
準王族という血筋、次期当主という立場、状況、容姿、頭の出来。
全て俺のために誂えられたような。
「悪いけど、利用させてもらう。この国を少しでも正常な状態に戻すために」
それが王にもなれず、父上の代わりにもなれない俺ができる数少ないことだから。
利用する以上は大事にするから許してね?
「みたいだね。流石に驚いた」
「それで済ませないでください。つまり正確に状況を理解したということですよ」
「そうだね、かなり都合がいい」
テッドの苦言に返しつつ、倒れこんできた少女の青い髪を軽く梳きながらこれからどう動こうかを考える。
都合がいい。実に、自分にとって都合のいい駒が手に入った。
これなら余程のミスでも犯さない限り自らの希望を通すことができる。
「本気ですか?というのは、愚問ですね。この部屋に連れてきた時点で」
「そういうこと。さて、方々に情報の通達を――――、」
「その前に。私が納得できる説明をしてもらおうかしら」
「げ」
もう王城の方へ行ったと思っていたのにまだ居たのかこの女。
相も変わらず図々しい。
――――ルルティアナ・オードスルス。
水属性の一族・オードスルス家現当主の妻であり、元は前王、つまり祖父の妹――父上の叔母にあたる。
とはいえ、既に降嫁した身。王籍は抜けている。
だから本来なら軽々しくここに入り込んでいい立場ではないんだけど。
本当になんで居るんだろうこの女。
いや、分かるんだけどね、理由は。
「貴方に口出しする権利はないはずだけど」
「ええ、そうね。だけど私はその子の母の母……つまり祖母にあたるの。今まで会えなかったのだから少しくらいいいじゃない」
「それは貴方が夫の言い分に納得して娘と縁を切ったからだ。繰り返すけど貴方に口を出す権利は一切ない。……オードスルス家当主夫人を王城へお連れしろ。それから父上に現状の報告、可能ならこちらにお越しくださるよう伝えてきて」
「はっ!お任せください!」
「あ、ちょっと!待ちなさい、話はまだ……っ!」
女の抵抗など無いもののように、配下の騎士が女を連れて部屋を出て行った。
外はまだ騒がしいが、静かになるのはすぐだろう。俺の配下は皆優秀だから。
「それで?なんでまたあれがあんな格好でここに居る?」
「それがどうも、王城への先触れが原因のようです。タイミング悪くその場におられたオードスルス家当主夫人が陛下の制止も聞かず許可も得ずに押しかけてこられたと。あの服装はいわく、変装だそうで」
「阿保か」
「殿下。どこで何が聞いているかも分かりませんよ」
窘めるように言うテッド。
だが本人も俺と同じ心情なのだろう、呆れや嫌悪が見て取れた。
当然だ。
いくら元王族とはいえ王である父上の言葉を無視したり現王族である俺の離宮に許可も無く入り込んだり、さも自分の方が身分が上とでも言うような振る舞いをするなんてあってはならない。
それを理解していないし理解する気もないからこうして疎まれている。
そしてそれに全く気付いていない。
聞いた話だと先祖返り故に成長が遅く見た目が幼い期間が長かったためにかなり甘やかされていたらしいからな。
今も年齢に比べると若々しい見た目をしているから持ち上げられているようだし。
厄介極まりない。
「自分が不敬で罰せられるなど思いもしないのでしょう。本当に愚かな方だ」
「俺より問題発言してるけど?」
「失礼しました。つい本音が」
「事実だから不問にするけど。外では気を付けるように」
「はい」
「じゃあさっき言った通りに情報の通達を。外へは詳しいことは後回しで」
「了解しました」
テッドが部屋を出ていく。
部屋の中には自分とシュベーフェル家の少女の二人だけ。
準王族にあたる光属性の一族、シュベーフェル家直系の唯一の姫君。
それがまさかこんな状況とは。
オードスルス家もあんなのがいるし、状況は思った以上に酷いのかもしれない。
「いくら忙しいとはいえ、放置のしすぎだろうなこれは」
最低でもあと10年はどうにもならないと父上は言うが、あまりにも悠長すぎるだろう。
この国は、王族と7大貴族の距離が近過ぎる。濃い・薄いはあれど全ての血が繋がっているから。
だからこそあんな不敬を不敬と思いもしない者も出てきてしまう。
近いからこそ、一度王籍を抜けた者は王族ではないと定められているというのに。
早めに行動しなければ、腐敗はどんどん広がっていく。
危険の種は摘まなければならない。多少強引な手を使ってでも。
父上にも好きに生きろと言われている。
「……小さいなぁ」
まだ7歳だから当然か。
でも、うん。きっと美しく成長するだろう。今も十分すぎるほど可愛らしい顔立ちをしている。
あの女に似なくてよかった。
流石にあれと似ていたら躊躇したかもしれない。
本当に、都合のいい条件の揃った子だ。
準王族という血筋、次期当主という立場、状況、容姿、頭の出来。
全て俺のために誂えられたような。
「悪いけど、利用させてもらう。この国を少しでも正常な状態に戻すために」
それが王にもなれず、父上の代わりにもなれない俺ができる数少ないことだから。
利用する以上は大事にするから許してね?
2
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる