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第1章 幼少期(7歳)
4 疑問と思い出したこと
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ベッドに逆戻りさせられ、ぼんやりと考える。
カトリーナはきっと夢見が悪かったからです、お休みしましょう、と私を寝かしつけて食事の後始末をするために部屋を出ていった。
こっそりと確かめたら、部屋の鍵は閉められていた。
閉じ込められている。
これは以前もそうだったのかしら。分からない。
変ね?そこだけぽっかり無くなっているような感じがする。
お母様が亡くなってから誕生日までの数日間、いったい何があったの?属性を調べるなんて一大イベント、その前を全く覚えていないなんて変よ。
カトリーナの死は覚えている。神殿での属性鑑定も。
だけど……あやふやなところも多い。
はっきりと覚えていると言えるのは、8歳の夏頃から。お父様が初めて誕生日以外でプレゼントをくれた日。
耳飾りだったわ。それを手ずからつけてくれた。
耳に穴を開けるのは痛かったけど、それからはちゃんと覚えている。
ずっと会えずにいたお父様が私を認めてくれると……そう、喜んだことを覚えているわ。
だけど今こうして振り返ってみると、変よね。
何も覚えていないということは当然として、その時どうして『認めてくれる』なんて思ったのかしら。
私を娘として?
違うわね。私はもともとお父様の一人娘よ。
その時の会話は……色々と話をしたはずだけどそれも覚えていない。
ただそれまでとは違って、お父様の言っていることが難しすぎて理解できなかったって感じだと思う。
そしてそれ以降は、お父様の意向に沿うよう教育を施され、それを完璧にこなし、お父様のためにどうでもいい第二王子との婚約を受け入れ、日々をお父様のために費やしてきた。
そこに降って湧いたのが私から全てを奪っていったイヴリンだった。
イヴリンのことを考えるとふつふつと怒りが湧いてくる。ほの暗い感情。
憎い。イヴリンが。イヴリンの存在が。
どうして?どうしてなの?
どうして私以外にお父様に子供がいるの?それも私と1歳しか違わないなんて!
おかしいじゃない!
そもそも7大貴族の当主たる者が外に子供を作るなんてあってはならないことのはずだわ!
どうしてもというなら愛人として家に迎え入れるとかしなければならないって第二王子も苦言を呈していた、それくらいありえないことなのに!
「……あら?」
それってつまり、悪いのは全てお父様、ということ?
私が全てを奪われる原因を作ったのは……お父様?
違う、違うわ、そんなはずない。
だって、だってそれって!
私は生まれてすぐ、お父様に不要だと判断された、ということになって、しまう。
だってイヴリンと私は1歳しか違わないのだから。
「い、や……」
そんな。
そんな、ことって。
それでは私の今までは、ただ家のために、お父様のためにと生きてきた全ては何もかも、無駄だった?
私は、必要とされている。
だからこそどこに出ても通用するレベルの教育を施され、第二王子が婚約者になった。
だけど――――でも。それは私自身を、ではなく。
お父様の血を引いているから、シュベーフェル家の娘、だから。
お父様は。
私という個人を必要としたわけでは……ないんだ。
だからいつも嫌な物を見るような冷たい目で私を見ていたんだ。
幼い頃から、ずっと。
「いやあぁぁぁっ!!」
突然自覚させられた絶望に、口から溢れたのは悲鳴だった。
そうだ。そうだった。
どうして忘れていたの。
どうして気付けなかったの。
どうして認識できなかったの。
私はずっとお父様が怖かった。
怖くて嫌いで、会わなければいけない時は億劫で。今日はお父様と会わなかった、と安堵して。
そんな私がお父様のため、家のために、なんて!
考えるはずがない!!
どうして?なんで?おかしい、おかしいわ!
今までの私は明らかにおかしい!
こんなことをするのは――できるのは、一人しかいない。
精神に作用し、心を癒すことができる。高レベルなら逆に使えば洗脳レベルの思考誘導すら可能である光属性の魔法の使い手、つまり――――お父様。
「あぁ――ああぁああ……っ」
今、はっきりと分かった。
理解した。
お父様は自分にとって都合のいい駒が欲しかっただけ。
それは別に、私じゃなくても良かった。
自分の血を引く子供。だから、イヴリンでも良かった。
私である必要なんてどこにもなかったんだ!!
「――――お嬢様!」
その時部屋に飛び込んできたのは、息を切らし、髪を乱したカトリーヌだった。
明らかに走ってきた、急いできたと分かる様相。
私のために。カトリーナただ一人が。
「カトリーナ、カトリーナ!」
おそらくたった一人だろう私の味方になりえる人に、私は泣き縋った。
カトリーナだけだった。幼い頃の私に優しくしてくれたのは。
カトリーナだけは……お父様の命令を無視できる。何故ならカトリーナの雇い主はお父様ではなく前当主であるお婆様だから。
だから何が何でもカトリーナを味方にしないと。生き残らせないと。
お婆様がまだ存命の今なら、お父様に対する抑止力になる!
お婆様の死の時期は分かっている。
原因は分からないけれど回避させて恩を売ればきっと二の舞は防げるはず!
「怖い、怖いの!私、私……!」
「大丈夫です、お嬢様、大丈夫ですから……っ」
私は、死にたくない。
お父様の都合のいい人形になんてなりたくないわ!!
カトリーナはきっと夢見が悪かったからです、お休みしましょう、と私を寝かしつけて食事の後始末をするために部屋を出ていった。
こっそりと確かめたら、部屋の鍵は閉められていた。
閉じ込められている。
これは以前もそうだったのかしら。分からない。
変ね?そこだけぽっかり無くなっているような感じがする。
お母様が亡くなってから誕生日までの数日間、いったい何があったの?属性を調べるなんて一大イベント、その前を全く覚えていないなんて変よ。
カトリーナの死は覚えている。神殿での属性鑑定も。
だけど……あやふやなところも多い。
はっきりと覚えていると言えるのは、8歳の夏頃から。お父様が初めて誕生日以外でプレゼントをくれた日。
耳飾りだったわ。それを手ずからつけてくれた。
耳に穴を開けるのは痛かったけど、それからはちゃんと覚えている。
ずっと会えずにいたお父様が私を認めてくれると……そう、喜んだことを覚えているわ。
だけど今こうして振り返ってみると、変よね。
何も覚えていないということは当然として、その時どうして『認めてくれる』なんて思ったのかしら。
私を娘として?
違うわね。私はもともとお父様の一人娘よ。
その時の会話は……色々と話をしたはずだけどそれも覚えていない。
ただそれまでとは違って、お父様の言っていることが難しすぎて理解できなかったって感じだと思う。
そしてそれ以降は、お父様の意向に沿うよう教育を施され、それを完璧にこなし、お父様のためにどうでもいい第二王子との婚約を受け入れ、日々をお父様のために費やしてきた。
そこに降って湧いたのが私から全てを奪っていったイヴリンだった。
イヴリンのことを考えるとふつふつと怒りが湧いてくる。ほの暗い感情。
憎い。イヴリンが。イヴリンの存在が。
どうして?どうしてなの?
どうして私以外にお父様に子供がいるの?それも私と1歳しか違わないなんて!
おかしいじゃない!
そもそも7大貴族の当主たる者が外に子供を作るなんてあってはならないことのはずだわ!
どうしてもというなら愛人として家に迎え入れるとかしなければならないって第二王子も苦言を呈していた、それくらいありえないことなのに!
「……あら?」
それってつまり、悪いのは全てお父様、ということ?
私が全てを奪われる原因を作ったのは……お父様?
違う、違うわ、そんなはずない。
だって、だってそれって!
私は生まれてすぐ、お父様に不要だと判断された、ということになって、しまう。
だってイヴリンと私は1歳しか違わないのだから。
「い、や……」
そんな。
そんな、ことって。
それでは私の今までは、ただ家のために、お父様のためにと生きてきた全ては何もかも、無駄だった?
私は、必要とされている。
だからこそどこに出ても通用するレベルの教育を施され、第二王子が婚約者になった。
だけど――――でも。それは私自身を、ではなく。
お父様の血を引いているから、シュベーフェル家の娘、だから。
お父様は。
私という個人を必要としたわけでは……ないんだ。
だからいつも嫌な物を見るような冷たい目で私を見ていたんだ。
幼い頃から、ずっと。
「いやあぁぁぁっ!!」
突然自覚させられた絶望に、口から溢れたのは悲鳴だった。
そうだ。そうだった。
どうして忘れていたの。
どうして気付けなかったの。
どうして認識できなかったの。
私はずっとお父様が怖かった。
怖くて嫌いで、会わなければいけない時は億劫で。今日はお父様と会わなかった、と安堵して。
そんな私がお父様のため、家のために、なんて!
考えるはずがない!!
どうして?なんで?おかしい、おかしいわ!
今までの私は明らかにおかしい!
こんなことをするのは――できるのは、一人しかいない。
精神に作用し、心を癒すことができる。高レベルなら逆に使えば洗脳レベルの思考誘導すら可能である光属性の魔法の使い手、つまり――――お父様。
「あぁ――ああぁああ……っ」
今、はっきりと分かった。
理解した。
お父様は自分にとって都合のいい駒が欲しかっただけ。
それは別に、私じゃなくても良かった。
自分の血を引く子供。だから、イヴリンでも良かった。
私である必要なんてどこにもなかったんだ!!
「――――お嬢様!」
その時部屋に飛び込んできたのは、息を切らし、髪を乱したカトリーヌだった。
明らかに走ってきた、急いできたと分かる様相。
私のために。カトリーナただ一人が。
「カトリーナ、カトリーナ!」
おそらくたった一人だろう私の味方になりえる人に、私は泣き縋った。
カトリーナだけだった。幼い頃の私に優しくしてくれたのは。
カトリーナだけは……お父様の命令を無視できる。何故ならカトリーナの雇い主はお父様ではなく前当主であるお婆様だから。
だから何が何でもカトリーナを味方にしないと。生き残らせないと。
お婆様がまだ存命の今なら、お父様に対する抑止力になる!
お婆様の死の時期は分かっている。
原因は分からないけれど回避させて恩を売ればきっと二の舞は防げるはず!
「怖い、怖いの!私、私……!」
「大丈夫です、お嬢様、大丈夫ですから……っ」
私は、死にたくない。
お父様の都合のいい人形になんてなりたくないわ!!
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