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教師に見つかると面倒だからと促され、躊躇いつつも部屋に足を踏み入れた。
最初に思ったのは、『何もない』だった。
家具はベッドとローテーブルと大きめのハンガーラックくらい。それは別に変でもなんでもないんだけど、生徒の寮室に比べ大分広いこの部屋だとなんていうかこう、殺風景、に感じられる。
「先輩は、どうして教師寮に?」
普通なら生徒は学生寮で暮らす。極稀に自宅から通っている生徒もいるけれど、それも結構特殊な事情があったはず。
だから余程のことでもない限り、教師寮に住んでいるのはおかしい。
「簡単に言えば、千里と似たような理由。面倒なのに付き纏われて寮に居辛くなった。違うのは、俺に首輪を付けときたかった当時の担任から条件付きで話を持ち掛けられたことかな」
「首輪って」
「あー、なんていうか……当時その件以外にも色々あって荒れてて。大分迷惑をかけたというか……あの人――先生はその年が終わったら軍部に異動が決まってたから。その前に悩みの種をどうにかしときたかったらしい。あと先生の目的に俺が使えそうだったから?」
ちょっと聞きたくなかった情報が出てきた。
つまり先輩は、軍部の紐付?
僕としては生家のこともありできるだけ関わりを避けたい状態なんだけど。
「それって大丈夫なんですか?行動を軍部に把握されるとか……」
「確実とは言えないけど大丈夫だと思う。あの時点ではまだ教師だし、条件に従う代わりに俺の情報を漏らさないようスキルで縛ってある。そもそも先生の目的はこの学園にあるから、俺っていう戦力をここに留まらせたいんだって」
……なら大丈夫、だろうか?
先輩のスキルがどんなのかは分からないけど、あの説明の時のことを考えると精神干渉スキルを持っているのはほぼ確実だし。
でも僕としてはその先生とやらを信じられない。知らない相手だし当然のことだ。大人は平気で嘘を吐くから。
まあ僕も生家のことを考えれば監視されていないとは言えないから……うん。ここはひとまず目を瞑ろう。
それにしても戦力として学園に留まらせることが目的とはどういうことだろう?ここで戦力が必要となるとダンジョン関連だとは思うけど。先輩にダンジョンを攻略させたいんだろうか?
実際先輩は推奨されている階層よりも下に潜っているし、更にその下へ潜るつもりがあるようだし。
だけどソロの先輩では大分難しいと思うけど……教師側に味方もいないようだったし、必ずどこかで手詰まりになる。というか多分今なってる。
つまり協力してほしいことっていうのはそれだろうか?
「軍部に関しては少し気になりますけど、先輩の事情は概ね分かりました。…………しばらくの間部屋を使わせてもらえるのはありがたいし助かりますが、本当に良いんですか?その、隠したいんじゃ」
僕はいまだに先輩の名前も顔も素性も何もかも知らない。
一緒の部屋で生活するということはそれを隠しておけないということだ。
それは、いいんだろうか?
「千里に知られること自体は別に問題ないよ。隠したいんじゃなくて隠れたい、だし」
「付き纏いをしている生徒からですか」
「そ。あれ本当に厄介なんだよ……スキルで近付けないようにしたりしてるんだけど、段々とスキルの効果時間が短くなってるし」
「厄介どころではないのでは??」
「本当に。いい加減諦めればいいのにしつこくて嫌になるよ。いずれスキルの使い過ぎで対抗スキルとか生えてきそうだし。まあ、この1年以内にケリは付けるつもりだけど」
溜め息混じりにそう言う。
付き纏い、か。装備とか隠れているような様子はそういうことだったんだな。そしてそれは結構長い間続いている、と。
ダンジョンの攻略に面倒な相手の対処って、かなり大変なのでは。
僕の方は……色々含めて伊坂さんが戻ってこないことには、根本的な解決はしない気がする。
先輩みたいに長々と続くのは嫌だけどなぁ。
「この話は一旦置くとして。千里こそいいの?俺が言うことじゃないだろうけど、色々やらかしてるけど」
「本当に先輩自身が言うことじゃないですよね?」
事態に焦ってその事が頭から抜けていたのは確かだけど。
当の本人から言われるのはどうなんだ???
最初に思ったのは、『何もない』だった。
家具はベッドとローテーブルと大きめのハンガーラックくらい。それは別に変でもなんでもないんだけど、生徒の寮室に比べ大分広いこの部屋だとなんていうかこう、殺風景、に感じられる。
「先輩は、どうして教師寮に?」
普通なら生徒は学生寮で暮らす。極稀に自宅から通っている生徒もいるけれど、それも結構特殊な事情があったはず。
だから余程のことでもない限り、教師寮に住んでいるのはおかしい。
「簡単に言えば、千里と似たような理由。面倒なのに付き纏われて寮に居辛くなった。違うのは、俺に首輪を付けときたかった当時の担任から条件付きで話を持ち掛けられたことかな」
「首輪って」
「あー、なんていうか……当時その件以外にも色々あって荒れてて。大分迷惑をかけたというか……あの人――先生はその年が終わったら軍部に異動が決まってたから。その前に悩みの種をどうにかしときたかったらしい。あと先生の目的に俺が使えそうだったから?」
ちょっと聞きたくなかった情報が出てきた。
つまり先輩は、軍部の紐付?
僕としては生家のこともありできるだけ関わりを避けたい状態なんだけど。
「それって大丈夫なんですか?行動を軍部に把握されるとか……」
「確実とは言えないけど大丈夫だと思う。あの時点ではまだ教師だし、条件に従う代わりに俺の情報を漏らさないようスキルで縛ってある。そもそも先生の目的はこの学園にあるから、俺っていう戦力をここに留まらせたいんだって」
……なら大丈夫、だろうか?
先輩のスキルがどんなのかは分からないけど、あの説明の時のことを考えると精神干渉スキルを持っているのはほぼ確実だし。
でも僕としてはその先生とやらを信じられない。知らない相手だし当然のことだ。大人は平気で嘘を吐くから。
まあ僕も生家のことを考えれば監視されていないとは言えないから……うん。ここはひとまず目を瞑ろう。
それにしても戦力として学園に留まらせることが目的とはどういうことだろう?ここで戦力が必要となるとダンジョン関連だとは思うけど。先輩にダンジョンを攻略させたいんだろうか?
実際先輩は推奨されている階層よりも下に潜っているし、更にその下へ潜るつもりがあるようだし。
だけどソロの先輩では大分難しいと思うけど……教師側に味方もいないようだったし、必ずどこかで手詰まりになる。というか多分今なってる。
つまり協力してほしいことっていうのはそれだろうか?
「軍部に関しては少し気になりますけど、先輩の事情は概ね分かりました。…………しばらくの間部屋を使わせてもらえるのはありがたいし助かりますが、本当に良いんですか?その、隠したいんじゃ」
僕はいまだに先輩の名前も顔も素性も何もかも知らない。
一緒の部屋で生活するということはそれを隠しておけないということだ。
それは、いいんだろうか?
「千里に知られること自体は別に問題ないよ。隠したいんじゃなくて隠れたい、だし」
「付き纏いをしている生徒からですか」
「そ。あれ本当に厄介なんだよ……スキルで近付けないようにしたりしてるんだけど、段々とスキルの効果時間が短くなってるし」
「厄介どころではないのでは??」
「本当に。いい加減諦めればいいのにしつこくて嫌になるよ。いずれスキルの使い過ぎで対抗スキルとか生えてきそうだし。まあ、この1年以内にケリは付けるつもりだけど」
溜め息混じりにそう言う。
付き纏い、か。装備とか隠れているような様子はそういうことだったんだな。そしてそれは結構長い間続いている、と。
ダンジョンの攻略に面倒な相手の対処って、かなり大変なのでは。
僕の方は……色々含めて伊坂さんが戻ってこないことには、根本的な解決はしない気がする。
先輩みたいに長々と続くのは嫌だけどなぁ。
「この話は一旦置くとして。千里こそいいの?俺が言うことじゃないだろうけど、色々やらかしてるけど」
「本当に先輩自身が言うことじゃないですよね?」
事態に焦ってその事が頭から抜けていたのは確かだけど。
当の本人から言われるのはどうなんだ???
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