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――――――それは夢という形で現れることが最も多い。
夢の『僕』は17歳で、高校2年生。
実家が道場というだけの、どこにでもいるような普通の部活が好きな子供だった。
バスケットボール。
幼少期に放送していたアニメの影響だったかで始めた。はず。
目を見張るほど強くはないけれど、弱いわけでもない。半端なチームだった。
誇れることがあるとしたらみんな一生懸命で、全力で楽しんでいたことだろうか。
…………それぞれがそれぞれ、その先の道が決まっていたから。プロになるなんて夢も見れず、ただその一瞬を楽しむのが精一杯で。
『不甲斐ない先輩で悪い』、と。よく部長が言っていた。
そんなことない、とは言わなかった。…………言えなかった。
一番それを悲しんでいるのは部長本人だと知っていたから。
毒にも薬にもならないだろう慰めなんて、言っても傷を抉るだけだと思ってた。
それでも何か言うべきだったと理解したのは、ずっと後のことで。
『お前は自由だから俺の気持ちなんて絶対に分からない』という部長の言葉が、ずっと頭から離れない。
「…………久しぶりに見たな」
意識が覚醒して真っ先に思ったのはそれだった。
ここ最近は一切見ていなかった『記憶』の夢。
あの人の顔も、久々に見た。弱弱しく笑う顔。
今の――――あのリストに載っていた見下すような冷たい目と、全く違う。
ただ、あの言葉を言われた時の顔は少し近いのかな、と思った。
最後はぎくしゃくしたまま受験だなんだとちゃんと顔を合わせることもできないまま、卒業していったわけだけど……。
あの人が、僕をどう思っていたかはもうどう足掻いても分からない。
でもきっと、良い感情は持たれていないはず。
恐らくこの夢を見たのは、偶然じゃない。
だって僕には、『虫の知らせ』というスキルが存在している。
精度は両極端な感じだけど、これは一種の予知スキルだ。
だから、きっと。
僕を狙っているという何者かとは、やっぱりあの人の可能性が高いと思う。
それはそれとして。
あれから、図書館で一切気を抜けなくなってしまった。
常にスキルを使って気配を殺し、辺りの気配に気を配って過ごしている。
その所為で隠密や気配察知のレベルが上がったし気配遮断のスキルを覚えた。喜べない。
なんたって原因は、あの先輩だから。
なんか見つかるたびにセクハラ?をされるんだ。
あの時みたいな感じではなく、本当にただのスキンシップって言えなくもない感じで。
でもやっぱり腰とか触られるのはセクハラでしかないのでは。
本当に、何を考えているのかさっぱり分からない。
何か企んでいる気は、するんだけど。
ただただ意味が分からなくて怖いから、逃げるしかない。
僕を狙っている連中も、隠れていればひとまずやり過ごせるし。
実際、隠れて行動していたらそれらしい奴らを見つけたんだよな……。
もう例の部屋に引き篭もってやろうか。疲れてきた。
というかスキルを使って隠れているのになんであの先輩にはあっさり見つかるんだ?
そんなことを考えながら、図書館への廊下を歩く。
勿論、スキルは使っている。危険なのは図書館だけの話じゃないから。
本当に、どこに居ても休まらない。
はぁ、と溜息を吐いた。
その時だ。
「何溜め息吐いてんの?」
「ひぇぁっ!?」
突然耳元で喋られて肩を跳ね上がらせる。
そのまま相手に裏拳を当てようとしたけれど毎度のことながらがっしり抑えられてしまう。
誰か、なんて考えるまでもない。
顔が認識できないせいで声はすっかり覚えてしまった。
「図書館の外居るの珍しいね」
「別にいつも図書館に居るわけじゃ……っちょっと、いい加減離し、」
「こっち」
「は!?」
ひょいと抱え上げられて、どこかに連れて行かれる。
え、ちょっと、何……!?
待った力強いんだけど逃げられないんだけど!!
夢の『僕』は17歳で、高校2年生。
実家が道場というだけの、どこにでもいるような普通の部活が好きな子供だった。
バスケットボール。
幼少期に放送していたアニメの影響だったかで始めた。はず。
目を見張るほど強くはないけれど、弱いわけでもない。半端なチームだった。
誇れることがあるとしたらみんな一生懸命で、全力で楽しんでいたことだろうか。
…………それぞれがそれぞれ、その先の道が決まっていたから。プロになるなんて夢も見れず、ただその一瞬を楽しむのが精一杯で。
『不甲斐ない先輩で悪い』、と。よく部長が言っていた。
そんなことない、とは言わなかった。…………言えなかった。
一番それを悲しんでいるのは部長本人だと知っていたから。
毒にも薬にもならないだろう慰めなんて、言っても傷を抉るだけだと思ってた。
それでも何か言うべきだったと理解したのは、ずっと後のことで。
『お前は自由だから俺の気持ちなんて絶対に分からない』という部長の言葉が、ずっと頭から離れない。
「…………久しぶりに見たな」
意識が覚醒して真っ先に思ったのはそれだった。
ここ最近は一切見ていなかった『記憶』の夢。
あの人の顔も、久々に見た。弱弱しく笑う顔。
今の――――あのリストに載っていた見下すような冷たい目と、全く違う。
ただ、あの言葉を言われた時の顔は少し近いのかな、と思った。
最後はぎくしゃくしたまま受験だなんだとちゃんと顔を合わせることもできないまま、卒業していったわけだけど……。
あの人が、僕をどう思っていたかはもうどう足掻いても分からない。
でもきっと、良い感情は持たれていないはず。
恐らくこの夢を見たのは、偶然じゃない。
だって僕には、『虫の知らせ』というスキルが存在している。
精度は両極端な感じだけど、これは一種の予知スキルだ。
だから、きっと。
僕を狙っているという何者かとは、やっぱりあの人の可能性が高いと思う。
それはそれとして。
あれから、図書館で一切気を抜けなくなってしまった。
常にスキルを使って気配を殺し、辺りの気配に気を配って過ごしている。
その所為で隠密や気配察知のレベルが上がったし気配遮断のスキルを覚えた。喜べない。
なんたって原因は、あの先輩だから。
なんか見つかるたびにセクハラ?をされるんだ。
あの時みたいな感じではなく、本当にただのスキンシップって言えなくもない感じで。
でもやっぱり腰とか触られるのはセクハラでしかないのでは。
本当に、何を考えているのかさっぱり分からない。
何か企んでいる気は、するんだけど。
ただただ意味が分からなくて怖いから、逃げるしかない。
僕を狙っている連中も、隠れていればひとまずやり過ごせるし。
実際、隠れて行動していたらそれらしい奴らを見つけたんだよな……。
もう例の部屋に引き篭もってやろうか。疲れてきた。
というかスキルを使って隠れているのになんであの先輩にはあっさり見つかるんだ?
そんなことを考えながら、図書館への廊下を歩く。
勿論、スキルは使っている。危険なのは図書館だけの話じゃないから。
本当に、どこに居ても休まらない。
はぁ、と溜息を吐いた。
その時だ。
「何溜め息吐いてんの?」
「ひぇぁっ!?」
突然耳元で喋られて肩を跳ね上がらせる。
そのまま相手に裏拳を当てようとしたけれど毎度のことながらがっしり抑えられてしまう。
誰か、なんて考えるまでもない。
顔が認識できないせいで声はすっかり覚えてしまった。
「図書館の外居るの珍しいね」
「別にいつも図書館に居るわけじゃ……っちょっと、いい加減離し、」
「こっち」
「は!?」
ひょいと抱え上げられて、どこかに連れて行かれる。
え、ちょっと、何……!?
待った力強いんだけど逃げられないんだけど!!
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