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図書館に入ってすぐ、羽佐間さんに司書室に呼ばれた。
何かと思えば、例のクラスメイト達について話したいことがあるらしい。
担任から連中が学園を去ったと聞いてから数日経っているが、一体なんだろう。
「単刀直入に言うよ。伊坂君が戻るまで、徹底的に身を隠してほしい」
「は、……ええと、今以上にですか?」
「そう考えてもらってもいい。…………今、君はとても危険な相手に目を付けられているんだ」
「え」
危険な相手とは。
確かにここのところ周囲が不穏だとは感じてはいたけど。
伊坂さんが居ないから絡んでくる雑魚ばかりだと思っていたんだけど、違うんだろうか?
「俺達の予想が正しければ、相手はこの学園で最も質が悪いと思われる生徒だ。外面がいいし家柄も上の方だから生徒も教師も騙されている者が多いし、見て見ぬフリをしている者も多い。とても厄介な男だよ」
「最悪ですね」
そんな相手というと、一人思い当たるのがいるな?
僕自身としては『記憶』での関係性が深いから徹底的に避けている人物。
伊坂さんのリストで一番前にいて、特に気を付けるようにと書かれていた。
その理由は――――
「彼は自分よりも優秀な相手を排除しようとする傾向がある。伊坂君もその一人だ。今まで全て失敗しているけどね。けれど今、彼はいない。そして唯一弱みとも言える君は一人きりだ」
つまり伊坂さんの弱みとして狙われている、と。
果たして僕が伊坂さんにとって弱みとなり得るのかは不明。でも、周りの認識はそんなものなんだな。
まあ学園に来てから毎日ずっと一緒に居たようなものだし。
実際がどうであれ、万人がそう考えるならそれが相手にとっては事実になる。
そうだとして……伊坂さんの負担になるようなことはしたくない。
となると羽佐間さんが言う通り、徹底的に身を隠すべきか。
あの人の信者がどこに居るかも分からないし。
「と、ここで例の二人の話になるんだけど」
「あ、はい」
「あまり聞かせたくない話題だけど、そういう可能性も高いことを頭に入れて自衛してほしい」
「? はい」
余程言いたくないような内容なんだろう。
羽佐間さんは、何度か深呼吸をしてから口を開いた。
「分かっていると思うけど、生徒の一人を陥れようとしたところで退学になるなんてことはない。度が過ぎれば考えるかもしれないけれど。つまりそれだけなら彼らが学園を去るなんてあり得ない」
「はい」
「彼らが学園を去ったのは、ここで過ごすのはもう不可能だと判断されたからだ。男に対して過剰なまでに怯えている。複数人いるとアウト。一人でも駄目だった。女性職員は大丈夫だったけど黙り込んで何も話さない」
痛ましそうに、でも嫌悪を隠さずに言う。
加害者に憤っているのだろう。
…………その状態が示す答えは、僕でも分かる。
これだけの情報を与えられて分からないはずがない。
同性同士でそういった関係になることもあるということは、リストを読んで知っていたから。
だけど、でも。これは。…………所謂強姦、だろう?しかも恐らく、複数。
学園内でそんなことが起きるというのか。
僕を誘き出せなかった、それだけの理由で、そんな惨いことを――――?
「落ち着いて。君は何も悪くないんだから」
「で、も、」
「言いたくはないけれど彼らのグループではこんなのは日常茶飯事だよ。標的が君でなくても起きているし、起きてきた」
「っ、なんでそんな酷いことを野放しにしておくんですか!」
あまりにも酷い事実に、つい、声を荒げてしまう。
だってそんなのただの犯罪で、忌むべきことで、放っておくべきことではないのに、
「――――出来るならとっくにやってる!!」
悲鳴のような慟哭だった。
「この学園は腐ってる!上も下も屑しかいないんだ!昔から、何も変わらない!!」
叩き付けるように吐き捨てる。
頭が一気に真っ白になるほどの、悲痛な叫び。
この人が、羽佐間さんが、ここまで感情をあらわにするなんて。
何かあったんだ。
ここまで平常心を失うほどの、そういうことに関する何かが。
学園、昔から、というあたり、この学園で起きたんだろう。
なら今回のこれはきっと、傷跡を抉るような出来事だったに違いない。
日常茶飯事だと言いながら、きっとこれ以外の事例でも心を痛めて、どうにかしようとしてきたはず。
なのに、僕は、なんてことを言ってしまったんだ。
どうしよう。
どう落ち着かせたら、どう宥めたらいい?
伊坂さんはいつもどうしていたっけ?
僕が癇癪を起した時、いつも――――、……そうだ。
いつも、こうしてくれていた。
「っ!」
羽佐間さんが息を呑んだのが分かった。
まあ、そうだよね。
突然自分より年下の子供に抱き締められたら驚くよね。
ただそのお蔭で正気に戻ったみたいだ。
少し恥ずかしいけどした甲斐はあった……かな?
何かと思えば、例のクラスメイト達について話したいことがあるらしい。
担任から連中が学園を去ったと聞いてから数日経っているが、一体なんだろう。
「単刀直入に言うよ。伊坂君が戻るまで、徹底的に身を隠してほしい」
「は、……ええと、今以上にですか?」
「そう考えてもらってもいい。…………今、君はとても危険な相手に目を付けられているんだ」
「え」
危険な相手とは。
確かにここのところ周囲が不穏だとは感じてはいたけど。
伊坂さんが居ないから絡んでくる雑魚ばかりだと思っていたんだけど、違うんだろうか?
「俺達の予想が正しければ、相手はこの学園で最も質が悪いと思われる生徒だ。外面がいいし家柄も上の方だから生徒も教師も騙されている者が多いし、見て見ぬフリをしている者も多い。とても厄介な男だよ」
「最悪ですね」
そんな相手というと、一人思い当たるのがいるな?
僕自身としては『記憶』での関係性が深いから徹底的に避けている人物。
伊坂さんのリストで一番前にいて、特に気を付けるようにと書かれていた。
その理由は――――
「彼は自分よりも優秀な相手を排除しようとする傾向がある。伊坂君もその一人だ。今まで全て失敗しているけどね。けれど今、彼はいない。そして唯一弱みとも言える君は一人きりだ」
つまり伊坂さんの弱みとして狙われている、と。
果たして僕が伊坂さんにとって弱みとなり得るのかは不明。でも、周りの認識はそんなものなんだな。
まあ学園に来てから毎日ずっと一緒に居たようなものだし。
実際がどうであれ、万人がそう考えるならそれが相手にとっては事実になる。
そうだとして……伊坂さんの負担になるようなことはしたくない。
となると羽佐間さんが言う通り、徹底的に身を隠すべきか。
あの人の信者がどこに居るかも分からないし。
「と、ここで例の二人の話になるんだけど」
「あ、はい」
「あまり聞かせたくない話題だけど、そういう可能性も高いことを頭に入れて自衛してほしい」
「? はい」
余程言いたくないような内容なんだろう。
羽佐間さんは、何度か深呼吸をしてから口を開いた。
「分かっていると思うけど、生徒の一人を陥れようとしたところで退学になるなんてことはない。度が過ぎれば考えるかもしれないけれど。つまりそれだけなら彼らが学園を去るなんてあり得ない」
「はい」
「彼らが学園を去ったのは、ここで過ごすのはもう不可能だと判断されたからだ。男に対して過剰なまでに怯えている。複数人いるとアウト。一人でも駄目だった。女性職員は大丈夫だったけど黙り込んで何も話さない」
痛ましそうに、でも嫌悪を隠さずに言う。
加害者に憤っているのだろう。
…………その状態が示す答えは、僕でも分かる。
これだけの情報を与えられて分からないはずがない。
同性同士でそういった関係になることもあるということは、リストを読んで知っていたから。
だけど、でも。これは。…………所謂強姦、だろう?しかも恐らく、複数。
学園内でそんなことが起きるというのか。
僕を誘き出せなかった、それだけの理由で、そんな惨いことを――――?
「落ち着いて。君は何も悪くないんだから」
「で、も、」
「言いたくはないけれど彼らのグループではこんなのは日常茶飯事だよ。標的が君でなくても起きているし、起きてきた」
「っ、なんでそんな酷いことを野放しにしておくんですか!」
あまりにも酷い事実に、つい、声を荒げてしまう。
だってそんなのただの犯罪で、忌むべきことで、放っておくべきことではないのに、
「――――出来るならとっくにやってる!!」
悲鳴のような慟哭だった。
「この学園は腐ってる!上も下も屑しかいないんだ!昔から、何も変わらない!!」
叩き付けるように吐き捨てる。
頭が一気に真っ白になるほどの、悲痛な叫び。
この人が、羽佐間さんが、ここまで感情をあらわにするなんて。
何かあったんだ。
ここまで平常心を失うほどの、そういうことに関する何かが。
学園、昔から、というあたり、この学園で起きたんだろう。
なら今回のこれはきっと、傷跡を抉るような出来事だったに違いない。
日常茶飯事だと言いながら、きっとこれ以外の事例でも心を痛めて、どうにかしようとしてきたはず。
なのに、僕は、なんてことを言ってしまったんだ。
どうしよう。
どう落ち着かせたら、どう宥めたらいい?
伊坂さんはいつもどうしていたっけ?
僕が癇癪を起した時、いつも――――、……そうだ。
いつも、こうしてくれていた。
「っ!」
羽佐間さんが息を呑んだのが分かった。
まあ、そうだよね。
突然自分より年下の子供に抱き締められたら驚くよね。
ただそのお蔭で正気に戻ったみたいだ。
少し恥ずかしいけどした甲斐はあった……かな?
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