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「階層ごとの分布はこんなものです。他に何か聞きたいことはありますか?」
「ん……、あるならモンスターのドロップの情報がほしいけど、それ以上に――――30階層以上の情報。あるよね」
「っ!」
空気が、突然変わった。
問いではなく確定。威圧を含めた声音は、確信を持っている。
今までの、どこか気の抜けた感じはない。ダンジョンでモンスターと対峙しているような感覚だ。
スキル、なのか?なんのために……いや、そうまでして知りたい、と?
正直なところ逃げたいけど、いつの間にかがっちり手首を掴まれているため無理そうだ。
なんでこんなことに……いや、振りほどこうと思えばできるんだけど。
ただ、そうした場合後々に面倒が起きそうで。
それに……多分だけど、この人は僕の情報がなくてもいずれはそこに足を踏み入れる。
…………ただの知り合い程度の人だ。
名前も顔も何も知らない。どうでもいい相手。
それでもやっぱり、死なれるのは寝ざめが悪い、と思う。
ああもう、最初から関わらなければよかった
「…………情報は、あります。一応、40階層まで。ただ、内容から考えていくつか条件を付けさせてもらいます」
「へえ?条件ね」
「いくつかの質問と、確認程度ですが。その返答によっては諦めてもらいます」
「ふうん、いいよ。で?」
「では、パーティですか?それともソロですか」
「ソロ」
やっぱりソロ……。
今の時点でもう話したくないんだけど。
どういうスタイルで戦闘を行っているのかは知らないけど、殲滅力が足りないのは確実だろう。隠密スキルが高いし。
それじゃ死にに行くようなものだ。
「駄目ならその理由」
有無を言わせないような口調。
威圧は続いている。
なんでこの人はそんなに先に進みたいんだ。金を稼ぐだけなら29階層でも十分なのに。
質と量は必要だけど。
「…………30階層以上は、ソロでは足を踏み入れない方が」
「だから、理由」
………………言わなければ、諦めてくれそうにないな……。
ソロで26階層以上まで来ているのだから、パーティを組む気もないんだろう。
というか、組める相手が居ないはず。そこまで行ける生徒はそうそういない。
僕は付き合ってやる義理もないし、話して諦めてもらうしかないのか。
「…………先行してダンジョンを調査する調査員は、実戦経験も豊富でダンジョンやモンスターに精通している人達です。基本的に5人から6人の編成で動くそうです」
「ふうん」
「8割です」
「何が」
「30階層よりも下に向かった調査隊の、全滅率ですよ」
「…………は?」
流石に開いた口が塞がらないようだ。動揺が見て取れる。
むしろそうじゃないと困る。
自分ならいけるとか思うような阿呆なら、もう見捨てるしかない。
「8割、全滅している。つまり相当数の死人が出ているんです」
まあそれも、随分前の話も合わせてだけど。
この学園が出来るよりも前か、出来てすぐの頃の話。
だからと言って軽く考えていいことじゃない。
ここのダンジョンは、いまだに最奥が確認されていないのだから。
「禁帯出図書指定されている資料、手記は多くありません。全てが手書きですから。そのほとんどは30階層で情報が止まっています。それ以上はないとでもいうように。学園側は分かっているから、それより下の情報を隠しているんです。無駄死にを避けたいから」
まあそれは、僕の憶測にすぎない。
手記の状況から考えて、学園側の意思じゃない可能性もあるんだよな。
それでも恐らく、進んでダンジョンを攻略させたいわけじゃないのは分かる。
そもそも攻略が難しいというのもあるんだろう、でも完全にダンジョンを攻略した場合、ダンジョンがどうなるのか不明だから。貴重な資源を無くすことは避けたいはず。
だから生徒達には上階層で数を狩らせ、進める者にはギリギリの30階層までを開いている。
それ以上についてはよく分からないけど自己責任の領域だろう。僕をスルーしているし。
「30階層以上は本当に危険なんです。一人で行くなんて以ての外で、自ら死にに行くようなものなんですよ」
「…………帰ってきた人が居るから情報があるんでしょ?」
「そうですけど……でもそれはそもそも条件が、」
「ソロとパーティ、ね。そんなに違う?」
「当たり前でしょう、圧倒的な火力不足です。パーティで全滅しているのにソロで数百のモンスターを相手にするなんて、絶対に無理で、す?」
――――――あれ?
どうして、今、
詳しい情報なんて話す気はないのに、
「つまり物量戦ってわけか。確かにソロには厳しいね。他には?」
「え、っと、あの、」
「ん?」
先輩が小さく首を傾げる。
威圧感は、無い。けど。
なんだ、これ。
何か、おかしい。おかし、い?
頭がふわふわする。まるで霞でもかかったような、意識がはっきりとしない。
なにが、
「他に注意することは何?」
俯いていた顔をぐいと手で持ち上げられる。
顔は、認識できないのに。
確かに目が合ったと、分かった。
「ん……、あるならモンスターのドロップの情報がほしいけど、それ以上に――――30階層以上の情報。あるよね」
「っ!」
空気が、突然変わった。
問いではなく確定。威圧を含めた声音は、確信を持っている。
今までの、どこか気の抜けた感じはない。ダンジョンでモンスターと対峙しているような感覚だ。
スキル、なのか?なんのために……いや、そうまでして知りたい、と?
正直なところ逃げたいけど、いつの間にかがっちり手首を掴まれているため無理そうだ。
なんでこんなことに……いや、振りほどこうと思えばできるんだけど。
ただ、そうした場合後々に面倒が起きそうで。
それに……多分だけど、この人は僕の情報がなくてもいずれはそこに足を踏み入れる。
…………ただの知り合い程度の人だ。
名前も顔も何も知らない。どうでもいい相手。
それでもやっぱり、死なれるのは寝ざめが悪い、と思う。
ああもう、最初から関わらなければよかった
「…………情報は、あります。一応、40階層まで。ただ、内容から考えていくつか条件を付けさせてもらいます」
「へえ?条件ね」
「いくつかの質問と、確認程度ですが。その返答によっては諦めてもらいます」
「ふうん、いいよ。で?」
「では、パーティですか?それともソロですか」
「ソロ」
やっぱりソロ……。
今の時点でもう話したくないんだけど。
どういうスタイルで戦闘を行っているのかは知らないけど、殲滅力が足りないのは確実だろう。隠密スキルが高いし。
それじゃ死にに行くようなものだ。
「駄目ならその理由」
有無を言わせないような口調。
威圧は続いている。
なんでこの人はそんなに先に進みたいんだ。金を稼ぐだけなら29階層でも十分なのに。
質と量は必要だけど。
「…………30階層以上は、ソロでは足を踏み入れない方が」
「だから、理由」
………………言わなければ、諦めてくれそうにないな……。
ソロで26階層以上まで来ているのだから、パーティを組む気もないんだろう。
というか、組める相手が居ないはず。そこまで行ける生徒はそうそういない。
僕は付き合ってやる義理もないし、話して諦めてもらうしかないのか。
「…………先行してダンジョンを調査する調査員は、実戦経験も豊富でダンジョンやモンスターに精通している人達です。基本的に5人から6人の編成で動くそうです」
「ふうん」
「8割です」
「何が」
「30階層よりも下に向かった調査隊の、全滅率ですよ」
「…………は?」
流石に開いた口が塞がらないようだ。動揺が見て取れる。
むしろそうじゃないと困る。
自分ならいけるとか思うような阿呆なら、もう見捨てるしかない。
「8割、全滅している。つまり相当数の死人が出ているんです」
まあそれも、随分前の話も合わせてだけど。
この学園が出来るよりも前か、出来てすぐの頃の話。
だからと言って軽く考えていいことじゃない。
ここのダンジョンは、いまだに最奥が確認されていないのだから。
「禁帯出図書指定されている資料、手記は多くありません。全てが手書きですから。そのほとんどは30階層で情報が止まっています。それ以上はないとでもいうように。学園側は分かっているから、それより下の情報を隠しているんです。無駄死にを避けたいから」
まあそれは、僕の憶測にすぎない。
手記の状況から考えて、学園側の意思じゃない可能性もあるんだよな。
それでも恐らく、進んでダンジョンを攻略させたいわけじゃないのは分かる。
そもそも攻略が難しいというのもあるんだろう、でも完全にダンジョンを攻略した場合、ダンジョンがどうなるのか不明だから。貴重な資源を無くすことは避けたいはず。
だから生徒達には上階層で数を狩らせ、進める者にはギリギリの30階層までを開いている。
それ以上についてはよく分からないけど自己責任の領域だろう。僕をスルーしているし。
「30階層以上は本当に危険なんです。一人で行くなんて以ての外で、自ら死にに行くようなものなんですよ」
「…………帰ってきた人が居るから情報があるんでしょ?」
「そうですけど……でもそれはそもそも条件が、」
「ソロとパーティ、ね。そんなに違う?」
「当たり前でしょう、圧倒的な火力不足です。パーティで全滅しているのにソロで数百のモンスターを相手にするなんて、絶対に無理で、す?」
――――――あれ?
どうして、今、
詳しい情報なんて話す気はないのに、
「つまり物量戦ってわけか。確かにソロには厳しいね。他には?」
「え、っと、あの、」
「ん?」
先輩が小さく首を傾げる。
威圧感は、無い。けど。
なんだ、これ。
何か、おかしい。おかし、い?
頭がふわふわする。まるで霞でもかかったような、意識がはっきりとしない。
なにが、
「他に注意することは何?」
俯いていた顔をぐいと手で持ち上げられる。
顔は、認識できないのに。
確かに目が合ったと、分かった。
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