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「そうと決まったら、そうだな。今から言う3つを守ってほしい」

 無事何事もなく送り出せそうだと思っていたら、伊坂さんがそう言い出した。

「え?はい」
「1つ、人目のない所は避けてできる限り一人にならないこと。2つ、授業に関係ないものは相手が誰であろうと受け取らないこと。関係があったとしても相手を見て判断すること。3つ、俺が出るまでに部屋にリストを届けておくから、それに記載された人物には近付かないこと」
「え、っと。はい」

 何かお使いに行く子供へのお約束みたいなことを言ってるな??
 行くのは伊坂さんで、僕はどちらかというと留守番なんだけど。

「ピンと来ていないみたいだね」

 苦笑する伊坂さん。

 いや、言っていること自体は分かるけど。
 何か裏があるのもなんとなく。
 でも、一体何が?

「分からないかい?でも今は説明している時間がないから、リストを見て察して自衛してほしい。生活面はいつも通りだからとやかく言わないから」
「はい……」

 察するとは一体。
 自衛というあたり、何か危険なことがあるということなんだろうけど……とにかく言われたとおり、自衛はしよう。
 後はリストを見てから考える。

「少し心配だけど……それじゃあ、準備もあるからもう行くよ」

 そう、軽く僕の頭を撫でてから、伊坂さんは去って行った。

 完全に子供扱い。
 4つも違えばそんなものだろうか。
 今の僕は『記憶』よりも小さいから身長差が大きいのもある気がする。
 …………生活の違いだろうか。同じように鍛えているつもりなんだけどな。

 そんなことをぼんやりと考えていると正午を告げるチャイムが鳴り響いた。
 昼食の時間だ。
 ついさっき釘を刺されたところだし、ひとまず食堂へ行こう。



「おっ、ガリ勉ヤローだ」
「またサボりかよ」

 図書館を出てしばらく歩いたところで、同じく食堂へ向かっているのだろうクラスメイトと出くわした。
 相も変わらず低俗なことばかりを言う、品位に欠けた連中だ。
 ほんの少しの言葉だろうと交わす価値もない。

 …………ガリ勉は言われても仕方のない状態だったから認めるけど、授業はサボっている訳じゃない。受ける必要がないから許可を取って別の必要なことを自学しているだけだ。それが可能な制度がこの学園にはある。
 テストで9割以上の点数をキープしていれば授業は受けなくてもいい、というもので、知能の高い生徒への優遇制度だ。
 千里は俺と同じようなタイプのようだから、と、伊坂さんが申請してくれた。
 そのお蔭で初等部の1年時、2年生に無事に進級できたようなものだ。テスト以外全ての授業を受けずにいたからなぁ……。
 このことに関しては伊坂さんに感謝しかないし、心を許す一端にもなった。

「おい!スカしてんじゃねぇよテメ――――ッぐが?!」
「うわっ!?」

「あ」

 あー……。

 どうしてこう、低俗な連中はすぐ手が出るのか。
 いつもなら適当に躱すんだけど、伊坂さんのことで少し動揺していたんだろう、接近を許してしまった。
 そのせいでつい投げ飛ばしてしまったんだけど……どうしたものかな。
 一応手加減をして受け身をとれるように投げたから怪我はしていないと思うけど。

 生徒同士の私闘は、基本的に禁止されているのだ。そして割と重い罰則がある。
 僕にとってはそうでもないんだけどね。ダンジョンでの狩りと変わらないし。

「っ、行くぞ!」
「え、待っ、置いてくなよ!」

 ひとまず相手側の反応を黙って見ていたら、視線を泳がせた後、慌てて走り去っていった。
 何かと辺りを見回すと、少し離れたところに居た顔なじみの図書館の司書と目が合った。
 互いに軽く会釈をする。
 目撃者がいるとなれば、どちらが悪いかなどすぐに分かるから逃げるのも無理はないか。
 司書は学園側の人間だし。

「一応担任の教師に報告しておいた方がいいよ」
「はい」

 近寄ってきた司書にそう言われ、肯定を返す。
 どうせバレるし、ないとは思うが、嘘を吐いたり脚色される可能性もある。

 という訳でその足で職員室へ行き、司書と一緒に一部始終を担任教師に伝えた。
 結果、僕は御咎めなし。手を出したクラスメイトは罰則で、見てるだけで止めなかったクラスメイトは厳重注意となった。
 まあ妥当かな。

 ちなみに昼食だが、その判断が出るのに少し時間がかかったため食べ損ねてしまった。
 知られたら多分、怒りはしないだろうが淡々と諭してくるんだろうな……あれ結構苦手なんだよなぁ。



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