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 …………8年という月日が経ち、知識を得、多くを理解した。
 その上でここまで知れば、大体は察する。
 これこそが僕が捨てられた理由だと。

 僕の生家であった日出家は多くの弟子を抱える武道の道場を営んでいて、この世界においては軍の上層部にいた。
 修練によってスキルを増やせる今の秩序において、前線で戦う者を育成する側だったんだ。
 前線を維持する軍部に所属する日出家は、優秀でなくてはならない。例外があってはならない。
 故に家族であろうと、幼い我が子であろうと、何らかの基準を設けていた。
 そして僕は、それに満たなかった。…………だから捨てられた。

 今更その辺りの事情を察したところで、どうすることもできない。
 日出家と僕の繋がりは完全に切れていて、日出姓を名乗れないからと入寮時に別姓を作らされて、更に僕のいた場所は別の存在がその穴を埋めている。
 捨てられてから2年半ほど経つ頃に新聞でその姿を見たが、僕とよく似た容姿をしていた。
 どういう仕掛けかは分からないけど、ここまで徹底されているとむしろ、今生きていることに感謝すべきなのかもしれない。処分されてもおかしくない状況だと思う。
 そこまで僕のスキルが酷かったのかは、分からないけど。
 そもそも調べられた記憶がない。僕が僕のスキルを知ったのは初等部2年生になってからだ。普通一般家庭はそうらしい。
 その時見た限りだと、一般的なものだったと思うんだけど。

 この事実を知ってからは、日出家のことは忘れようと、考えるのはもうやめようと思った。
 例え『記憶』では当たり前のような温かな家族であったとしても、ここでは違う。
 あの家には本当に僕は必要なくて。何かの間違いだったと迎えに来てくれるなんてことは、あり得なくて。
 未練がましく思うのは、もう止めよう、と。
 あの家に持つのは、別れまでの感謝だけでいい。

 未就学児には過分と言えるほど多くのことを学ばせてくれたこと。
 5歳の半ばから6歳で入学するまでの間、ギリギリまで待ってくれたこと。
 母だけだけど、手放す時に悲しんでくれたこと。
 初等部6年生までの間、学園で生活するのに必要な金額を先に支払ってくれていたこと。
 僕が自由に使える金銭をある程度振り込んでいてくれたこと。

 これが全て善意、家族に対する親愛によるものだとはもう思えない。それでも、それに助けられたのは確かだ。特に金銭関係。
 生きるにはどうしても金が必要で、庇護のない孤児となった僕では稼ぐ手段がない。12歳までは。
 というのも、12歳からは学園側の許可さえとっていれば例え初等部6年生でも稼ぐ手段がある。だからこそのそこまで必要な額+αだったんだろう。+αは手切れ金だろうな。贅沢をしなければ中等部1年生までの最低限の学費を支払えるだけの額だったから。6歳の子供(しかも勘当済み)に与えるには多過ぎる。
 とはいえ。学園生活は高等部3年生、20歳まで続くわけだからどうしたって足りていない。つまり中等部2年生からの7年分の学費は自分でどうにかしなければならない。
 学園側に申請すれば状況に応じて対応してくれるようだが、それは学園(というか国)に借金をするということだ。出来る限りは避けたい。
 今のこの国では、弱みを見せては食い物にされるだけだと思うから。

 全くもって酷い話だと思う。
 普通の6歳の子供がこんな境遇になったら荒むだろうし、中等部になってそこからは全て自分でどうにかしなければならないとなったら、どうしたらいいかも分からずに学園側の言いなりになるしかない。
 最終的に国に縛り付けられて、国の駒になるだけ。

 僕には『記憶』があったから、この金銭には限りがあると自覚して行動することができた。
 贅沢はせず、必要なものには惜しまなかったけど他は最低限にして節約し、初等部6年生から自力で稼ぐための準備に当てた。装備とか。
 おかげで必要な学費はきちんと払えているし、それ以外の貯蓄も多少は出来ている。これからも不測の事態が起こらない限りそうしてやっていける、はずだ。

 ただただ異質だと思っていた、『僕だけど僕じゃない僕』が『ここではない世界で生きていた』という『記憶』。
 僕が僕だから何か違う気がするけど、恐らくは『前世の記憶』とかいうやつ。

 余計だと、知らなければよかったと思うことも多かった。
 けれどこの絶望的に酷い現状をなんとか生きていられているのは『記憶』があればこそ。
 何が幸いするかなんて、本当に分からないものだ。

 …………これからのことなんて、何一つ予想もつかない。
 僕自身は何も持っていなくて、ただ生きるために生きているだけで。
 たった一人で、何の目的もない。
 それでも今は、前を向いて歩くしかなくて。

 先の見えない不安は計り知れないけど、今はただそうして生きるしかないんだ。
 この理不尽な現実に、負けたくないから。



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