星屑の砂時計

一色ほのか

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22 多分藪蛇

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「ッ……、はぁ。瑞月、怪我はないか?」
「ない……ありがと」
「ああ。まさかこうなるとは思わなかったな」
「ん」
 
 伊坂が具象化した火、やばかったもん。
 すぐ消えたけど、机を黒く焼け焦げさせるレベルの火だったわけで。
 俺、もうちょっと近かったら、柊夜が引っ張ってくれなかったら、火傷程度じゃすまなかったよな……。



「こ、れ。俺……?」
 
 唖然とした様子で、伊坂が机を指差す。
 自分がしたことだと信じられないらしい。
 今まで自分の青を水属性だと思っていたのだから仕方ないだろうけど。
 
「お前しかいないだろ。てか、俺もやばかったんだけど」
「ごめんね!?でも、だって……ッ」
 
 狼狽える伊坂。
 どうしても目の前の現実を受け入れられないみたいだ。
 そりゃ、青は水属性の色で、火属性の赤とは正反対の色。
 先入観があって、周りの共通認識だってそれで。この世界の常識で。
 気付けという方が、無理があるのかもしれない。
 
「お前達、怪我はないか」
 
 駆け付けてきていたらしい神門先生が聞いてきた、
 そういや声聞こえてたわ。

「私はありません」
「僕も無いです。瑞月は」
「俺も大丈夫」
 
 答える俺達。それぞれ、怪我はしていない。
 一方、伊坂は顔を逸らして何も答えないでいる。
 何故。
 暫く待ってみたけど、そっぽを向いたまま。

 何、なんかあんのこの2人。
 すっげー気まずい空気が流れてんだけど。
 
「伊坂、怪我は?」
「…………ない」
 
 とりあえずこのままにもしておけないから聞いてみる。
 ちょっと間はあったけど、返答はあった。
 
「ないって、センセー」
「…………そうか」
 
 それだけ言って、神門先生は教卓の方へ戻っていく。
 ちらっと見た顔は無表情だったけれど、なんかこう、不機嫌さは感じられた。
 一体何に対して苛立っているんだろう?
 備品を壊したことか伊坂自身にか。
 
 備品といえば、机マジで凄いことになってんな。
 これ、焼け焦げてるっていうより、炭化してね?
 
「伊坂ー、机の中身は?」
「んん、……辛うじて無事っぽいよぉ。机は交換しなきゃだろうし、中身は鞄に入れておこうかなぁ」
 
 何事もなかったかのように軽い調子で伊坂が言う。
 触れるなってことだろうな。
 まあいいけど。
 わざわざ藪蛇することじゃないし、こっちもされると困るし。
 結論、放っておこう。
 少なくとも、本人から言ってくるまでは。
 
「…………貴方達はいい加減離れたら?」
「え? あっ、ああ、うん」
 
 佐々に指摘され柊夜から離れる。
 助けられた時のままだったわ……。
 
 それとほぼ同じタイミングで、チャイムが鳴り響く。
 4限目の終わり。
 つまり昼休みだ。
 
「昼どうする?」
「今日は購買で買って教室で食べよう」
「私もそうしようかしら。学食は行く気にはなれないし」
「絶対絡まれるだろうからねぇ」
 
 と、全員の意見が一致したところで行動開始。

 佐々と伊坂に変に走ったり急いだりすると逆に目立ったり絡まれそうだと言われてとりとめのない話をしながら4人固まって移動する。
 めちゃくちゃ見られてたし寄ってこようとしてたのもいたけど全て無視して昼食を買い、教室に戻ってきた。
 残っているクラスメイトは2人だけで、他は学食かまだ戻ってきていない模様。
 


「俺らはもう目標を達成してるから、今後の行動について決めたいんだけど。どうしたい?」
 
 昼食を食べる前に、小声で話す。
 人数が少ない今の内にざっくりとしたものでも決めておきたかった。
 周りはもうこの4人をグループとして見てるだろうしな。
 
「色々と考えていたけど全部白紙になったのよね」
「それー。とにかくまず具象化!だったけどできちゃったし」
「目立たない、はもう無理だから早い内に実力を付ける方向で行くしかないと思う。敵は同級生と言うより上級生だろうから」
「確かに。じゃあみんなで知識の共有をして、自重しないで行くってことでいい?」
「ああ」
「いいと思うわ」
「俺もおっけー」
 
 うん。ひとまずの指針はこれでいいだろう。
 分からないことの方が多いし。
 魔力の扱い方も、向こうの出方も。ここに集められている目的であるファンタジー連中との戦い方も何もかも。
 上級生を一人でも味方にできればなー。

 あの2人、どうだろう?Cクラスだし。
 だからこそ余計な爆弾を抱えたくないか?


 
「なぁそれ、俺達も混ぜてくんね?」
 


 決まったからさあ食べよう、となったところで。
 誰かに声をかけられて、動きが止まる。
 
 こいつ……、俺と同じで神門先生の問いに手を上げなかった奴だ。
 確か、大野。
 「達」ってことは他にも居るんだよな?
 少し体をズラして見てみると、隠れるように大野の背中にくっついている女子が一人。
 リア充か???
 
「えっと、俺は大野雅之。こっちは渡部芹佳。同中出身で健康診断で魔力持ちって分かった。どっちも一般家庭で身内に魔力持ちはいない」
「ふぅん。貴方達、どっちも甘竹君と同じで手を上げなかったわよね。そんな状況で、よく魔力を流せたわね?」
 
 問い質すように言う佐々。
 俺からは見えてなかったけど、渡部も手を上げてなかったのか。
 ん?ってことは?
 
「それはそのあのぼくが空想大好きで大野君を巻き込んで色々ともうそ、いや想像していたからでその、上手くいくとは一切思っていなくてですねその、」
「落ち着け」
「うぐ」
 
 にょっと顔を出してきた渡部が物凄い勢いというか早口で話す。
 で、それを大野が止めた。
 
 ああ……うん。こういうタイプの子か。
 でもまあ納得はした。そういう子だからこそ成功したんだろう。
 こんな状態の世界でもいるもんだなぁ。俺は特殊例だし。

 そしてやっぱ一人称『ぼく』。
 神門先生が手を上げなかった3人に今日初めて魔力を操作したのか、って聞いてきた時、『ぼく』って言ってたもんな。声の高い男だと思ってたわ。女子だったんだな。



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