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9 早まったかもしれない
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「待った、待って、やりすぎっ!」
「わっ、あ、すまないっ」
殆ど叫ぶみたいに言って柊夜の身体を押し返す。
それに柊夜は慌てたように俺から離れて、ベッドから降りて縁に腰かける。
もっと離れてほしいんだけど??!
思いながらも、なんとか平静に努めて身体を起こす。
「っこういうの、必要、ないだろ」
「そう、か?ちゃんと偽装するならフリでも必要だと思ったんだが」
「寮の部屋内で流石に要らないだろっ!というかそもそもお前、男同士、ってなんも思わないわけ!?」
マジでこれ。
普通付き合うなら男女だし、番いって言葉の意味もそもそもは夫婦に対して使われる、みたいなものだったはずだし。
提案受けといて言うのはなんだけど、そういうのどう思ってんだコイツ!
「? 魔力持ちなら普通らしいぞ?」
「は、」
普通?
普通……普通????
男同士でそういう関係になるの、普通なの?この世界。
え?
「ああ、瑞月は知らないんだな。魔力持ちなら同性で結婚できるし、子供も作れるんだぞ?仕組みはよく分からないけど。さっきの番いの説明にも書いてあっただろう?」
ほら、とさっき見せられたページを、もう一度見せられる。
…………確かに、あるいは同性、とか夫夫って書いてある……。
でも、え?は?
子供作れる、って、何?男同士で?
…………………………マジで?
「だから、というか、寮内こそ気を付けないといけないというか……そういう偽装も多少は必要だと思う」
「うっそだろ……?」
そういう偽装て。
ええとつまり、ヤッてるフリ、みたいなの?
俺と、柊夜で?偽装なのに?
柊夜はそれも込みで、分かってて、偽装を持ち掛けてきたのか?
…………そういう対象として、俺を見れる、ってこと?
でもって、柊夜にとって俺は下――――つまり組み敷きたい、と思っているわけで。
「ええ、と。瑞月が駄目そうなら、別の方法を考えるぞ?」
俯いて黙りこくってしまった俺を気遣うように、柊夜はそう言う。
その表情には心配の色しかなく、拒絶した形になる俺に対する苛立ちとかは見て取れない。
…………そう言ってくるってことは、俺が嫌がってる。ないし、尻込みしてるってのには気付いたってことだよな。
だとして。
「別に方法、ってなんかあるの」
「今は何も。番いに関しては先輩達が言っていたから思い付いただけで……一から調べないといけない」
まあそうだよな。
この提案は、先輩らからのヒントがあったからこそだ。すぐに調べることができたから。
今から別の方法を、って言ったって、ノーヒントでこれと同等の都合のいい方法が見つかるかって言うと、多分難しい。時間がないし。偽装するなら最初からじゃないと付け入る隙を与えてしまう。
どうしよ。
多分これ以上にいい案なんて、出ない気がする。
お互いに不安があるから協力しようってだけの話なのに。この学園の、魔力持ちの置かれた環境が単純な方法を許さない。
今取れる最善手は。
俺が取るべき選択肢は。
…………これからの平穏を含む大きな問題と、決して小さくはないけど個人的な問題じゃ、そっちを選ぶしかないよなぁ……。
一応。一応だけどコイツに対して冷静に対応できてるし。
再会なんてしたら、もっと、取り乱すもんだと思ってたんだけどなぁ。
「いーよ、調べなくて。番いの偽装は決まりでいい。ただし!今みたいな過度な接触はナシ!」
「わ、分かった。少しやり過ぎた自覚はあるし」
「自覚あるのかよっ!マジで勘弁してくれ……」
「ああ、すまない。急いで決めることじゃなかった」
そう、しゅんとした様子で謝ってくる。
なんかちょっとズレてね???
でも突っ込んだら藪蛇しそう。
「……偽装として、そこらへんが必要は必要かもしんないけど、まず口で言えよ」
「分かった。次からはそうする」
了承が帰ってきて、ようやっと安堵する。
釘は刺せた、ってことでいいよな?
「じゃあ、番いを偽装するのは決定で。どの程度偽装していくかは追々考えよう。瑞月が慣れない間は変な手出しはしないから」
「おう……」
手出しってなんだ手出しって。
慣れない間、って慣れたらどうする気なんたコイツ。
突っ込みどころが多すぎるけど、今は頷いておくしかない。
そうするしか、ないよな。
自分で決めたんだし、納得するしかない。
自分の過去の傷より、これから先の避けられないだろう未来を少しでも平穏になるように選択するのはきっと間違いじゃない。
間違いじゃない、よな?
言い聞かせるように、頭の中で繰り返す。
柊夜は機嫌良さそうに、俺のベッドの縁に腰かけたまま教科書を読んでいる。多分、問題が一つ解決?したから。
それはいい、いいんだけど、さ。俺もそうっちゃそうだし。
だけど、さぁ。
柊夜が、俺を、そういう目で見てる、かもしれない。って気付いたから、流石に。
コイツを信用しすぎるの、あんまりよくない、よなぁ。
俺、これ、マジで早まったかもしれない。
「わっ、あ、すまないっ」
殆ど叫ぶみたいに言って柊夜の身体を押し返す。
それに柊夜は慌てたように俺から離れて、ベッドから降りて縁に腰かける。
もっと離れてほしいんだけど??!
思いながらも、なんとか平静に努めて身体を起こす。
「っこういうの、必要、ないだろ」
「そう、か?ちゃんと偽装するならフリでも必要だと思ったんだが」
「寮の部屋内で流石に要らないだろっ!というかそもそもお前、男同士、ってなんも思わないわけ!?」
マジでこれ。
普通付き合うなら男女だし、番いって言葉の意味もそもそもは夫婦に対して使われる、みたいなものだったはずだし。
提案受けといて言うのはなんだけど、そういうのどう思ってんだコイツ!
「? 魔力持ちなら普通らしいぞ?」
「は、」
普通?
普通……普通????
男同士でそういう関係になるの、普通なの?この世界。
え?
「ああ、瑞月は知らないんだな。魔力持ちなら同性で結婚できるし、子供も作れるんだぞ?仕組みはよく分からないけど。さっきの番いの説明にも書いてあっただろう?」
ほら、とさっき見せられたページを、もう一度見せられる。
…………確かに、あるいは同性、とか夫夫って書いてある……。
でも、え?は?
子供作れる、って、何?男同士で?
…………………………マジで?
「だから、というか、寮内こそ気を付けないといけないというか……そういう偽装も多少は必要だと思う」
「うっそだろ……?」
そういう偽装て。
ええとつまり、ヤッてるフリ、みたいなの?
俺と、柊夜で?偽装なのに?
柊夜はそれも込みで、分かってて、偽装を持ち掛けてきたのか?
…………そういう対象として、俺を見れる、ってこと?
でもって、柊夜にとって俺は下――――つまり組み敷きたい、と思っているわけで。
「ええ、と。瑞月が駄目そうなら、別の方法を考えるぞ?」
俯いて黙りこくってしまった俺を気遣うように、柊夜はそう言う。
その表情には心配の色しかなく、拒絶した形になる俺に対する苛立ちとかは見て取れない。
…………そう言ってくるってことは、俺が嫌がってる。ないし、尻込みしてるってのには気付いたってことだよな。
だとして。
「別に方法、ってなんかあるの」
「今は何も。番いに関しては先輩達が言っていたから思い付いただけで……一から調べないといけない」
まあそうだよな。
この提案は、先輩らからのヒントがあったからこそだ。すぐに調べることができたから。
今から別の方法を、って言ったって、ノーヒントでこれと同等の都合のいい方法が見つかるかって言うと、多分難しい。時間がないし。偽装するなら最初からじゃないと付け入る隙を与えてしまう。
どうしよ。
多分これ以上にいい案なんて、出ない気がする。
お互いに不安があるから協力しようってだけの話なのに。この学園の、魔力持ちの置かれた環境が単純な方法を許さない。
今取れる最善手は。
俺が取るべき選択肢は。
…………これからの平穏を含む大きな問題と、決して小さくはないけど個人的な問題じゃ、そっちを選ぶしかないよなぁ……。
一応。一応だけどコイツに対して冷静に対応できてるし。
再会なんてしたら、もっと、取り乱すもんだと思ってたんだけどなぁ。
「いーよ、調べなくて。番いの偽装は決まりでいい。ただし!今みたいな過度な接触はナシ!」
「わ、分かった。少しやり過ぎた自覚はあるし」
「自覚あるのかよっ!マジで勘弁してくれ……」
「ああ、すまない。急いで決めることじゃなかった」
そう、しゅんとした様子で謝ってくる。
なんかちょっとズレてね???
でも突っ込んだら藪蛇しそう。
「……偽装として、そこらへんが必要は必要かもしんないけど、まず口で言えよ」
「分かった。次からはそうする」
了承が帰ってきて、ようやっと安堵する。
釘は刺せた、ってことでいいよな?
「じゃあ、番いを偽装するのは決定で。どの程度偽装していくかは追々考えよう。瑞月が慣れない間は変な手出しはしないから」
「おう……」
手出しってなんだ手出しって。
慣れない間、って慣れたらどうする気なんたコイツ。
突っ込みどころが多すぎるけど、今は頷いておくしかない。
そうするしか、ないよな。
自分で決めたんだし、納得するしかない。
自分の過去の傷より、これから先の避けられないだろう未来を少しでも平穏になるように選択するのはきっと間違いじゃない。
間違いじゃない、よな?
言い聞かせるように、頭の中で繰り返す。
柊夜は機嫌良さそうに、俺のベッドの縁に腰かけたまま教科書を読んでいる。多分、問題が一つ解決?したから。
それはいい、いいんだけど、さ。俺もそうっちゃそうだし。
だけど、さぁ。
柊夜が、俺を、そういう目で見てる、かもしれない。って気付いたから、流石に。
コイツを信用しすぎるの、あんまりよくない、よなぁ。
俺、これ、マジで早まったかもしれない。
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