星屑の砂時計

一色ほのか

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4 入学式前

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 国立魔力育成専門学園。
 日本で唯一、魔力持ちに対し魔力の扱い方を教育するための学園。
 建物は背が高く、無駄に敷地が広い。
 だけど足を踏み入れた校舎は、こう言うとなんだけどフツーだった。
 魔力持ちを育成するための唯一の学園、といっても学校は学校ってか。
 
「あ。瑞月!僕達同じクラスだ」
「えー?あ、本当だ」
 
 生徒玄関前に張り出された名簿を確認していた柊夜に言われて見てみれば、確かに二人とも同じ1-Cに名前があった。
 こっちでもまた、同じクラスか。
 ……嬉しそうに、無邪気に笑う柊夜。
 真面目で少しお堅いところがあって、笑みは浮かべる程度だったアイツとは大違い。
 コイツはきっと、アイツとは違って家族に愛されて育ったんだろうな。
 素直に笑うことができるくらい。
 
「3クラス編成でA・B30人のC15人、ね。結構少ないなー」
「そうなのか?」
「そそ、高校の1クラスの人数って最大人数40人以下、ってなってたはず」
「へえ、そうなんだな。なら2クラスにした方が教師側も負担は少ないだろうに」
 
 不思議そうに首を傾げる柊夜。
 俺もそう思うけど、わざわざそうするってことは何か意味があるんだろ。
 Cクラスだけ15人、てのも変だし。
 
 っていうかナチュラルに一緒に居るな俺達。
 寮で同室、同級生、そしてクラスメイト。離れる理由もないから仕方ないのか?
 俺にはガッツリあるんだけどな!同じようで別人が原因だけどな!
 だからってやらかした相手と同じ容姿のヤツとよく一緒に居れるな俺。自分で自分にドン引き。
 そう、思いはするのになー。

「ん?どうした?」
「…………いーや、なんにも!行こうぜ」
「そうだな」

 一緒に居る理由、か。
 強いて理由を付けるなら、いくらほぼ同じでも別人だってこと。それと、この世界で今のところ俺に対して友好的なのがコイツしかいないから、ってところ?

 ――――理由付けて言い訳して、結局どうしたいんだろうな、俺。 

 
「お、俺らが一番乗りじゃん」
「そりゃあ、朝食も一番早かったし食べ終えてすぐ出てきたから当然じゃないか?」
「まあね。ちょっと教科書類見てみたくてさ、魔力関係の。なんたってなんにも知らねーんだし」
 
 自分の名前が張られた机を探し出し――ア行だから出入り口側の壁際だ――、重ねて置かれている教科書を手に取る。
 見た感じは殆どあっちの教科書と同じっぽい。違うとすれば地歴公民?
 んで、お目当ての魔力関連はっと……おお、

「いや、分厚っ!」
「うわ、本当だ」
 
 余りの分厚さに驚く俺の横で、柊夜が言う。
 それに同意しようとそっちを見れば、俺の方ではなく、俺の左隣の机の上を見ている。
 …………これは、つまり。
 
「席、隣?」
「そうらしいぞ?」
 
 こんな偶然の連続ある???
 縁があるとかいうレベルじゃねーよもう。なんだこれ。
 
「……そうだ、瑞月も外部生、なんだよな?」
「あ?うん」
「後天発現で?」
「そうらしいけど」
「うん、瑞月は外部生のこと、詳しく親に聞いて……ないみたいだな。本当に何も知らないみたいだから、今のうちに気を付けることを教えておく」
 
 外部生が気を付けること?なんかあるのか?
 正直俺は分からないことだらけだから、教えてもらえること自体はありがたい。それが本当に正しいかは分からないけど。情報源が柊夜しかいないから。
 真偽は後回しでとりあえず聞いてみるか。
 
「なんかあんの?」
「ん……、うちの両親、両方魔力持ちでここの出なんだけど。両親が言うに、内部生は外部生をかなり下に見てるらしいんだ」
「下に見てる」
「なんていうか、一番偉いのは産まれてすぐに魔力を発現した奴で、後天発現は出来損ないだ、みたいな思想が一般的らしい。幼少期から訓練してる奴と途中から発現した奴じゃそもそも経験も何もかも違うのに後天発現は弱い、足手纏い、価値がない、みたいな。下手をすると魔力無しより下に見てる奴もいる」
「やっぱクソじゃん。分かりやすい選民思想っつーか、洗脳教育もそこまでいくと手綱握れないだろ」
 
 元々は力のない、魔力を持たない人間を守るために集められた駒だろうに。
 一部の有用なヤツ以外使い捨てみたいなモンだろうになぁ。
 つまりあれか、外部生は体の良いサンドバッグ?あと、多分、身内の見栄だな。後天だろうと魔力持ちを輩出しました!ってやつ。母さんがコレっぽい。
 
「選民、か……。確かにそうだな。この学園の在り方がそれなんだな」
「そ。まあ、歴史を知ればそれも致し方ないっつーか、理由も分かるんだけどな。誰だって手間なく楽に仕事をしてほしいだろ?駒は動かし易いに限る」
「それは違いない」


 
「――――ああ、全くもって違いない」


 
「!?」
 
 二人しかいなかった教室に、突然別の声が割り込んできた。
 子供の声じゃない。これは大人の声だ。
 ってーことはつまり。
 
「随分と早い新入生が居ると思えば、今年は随分と現実的な外部生が二人も居るとはな」
 
 教室に入ってきたのは、黒のスーツに草臥れた白衣を引っ掛けた父さんと同じくらいの年の男だった。
 こいつもまたびっくりするくらい整った顔をしている。纏めもしていない長い黒髪が違和感がない。ただ、額から顎にかけて斜めに一直線に残る歪な痕が色々と台無しにしてるけど。
 
「現実的なのは結構だが、その考え方では問題を引き寄せるぞ」
「あ、そーいうのは要らないんで。頭の弱い連中のサンドバッグとか御免だわ」
「ちょっ、瑞月!」
「今この場には俺らしかいないからいいんだよ。適度な擬態ぐらいできるっつーの。まあ?巻き込まれたくないなら離れたって、」
「断る」
「ああそう、ってか近い!」
 
 離れることを提案しようとしたら、食い気味に否定された。
 お互い外部生で一応話も合うし、一人より二人の方がいい、ってのはあるだろうし。むしろよろしくした昨日の今日で拗れるのは避けたいよな。
 だからって詰め寄るんじゃねぇよ近いんだわ。
 
「…………ふむ」
 
 あっ。
 やっべまだ居たんだった。一瞬で頭から抜けてた。
 
「甘竹瑞月と葛西柊夜、か。俺は神門しもん帝人みかど、このクラスの担任だ。問題が起きた場合は俺の名を出すといい」
「え?は?何これ」
「バーチャーム?」
「ネームプレートにでも付けておけ」
 
 それだけ言って、男――神門先生は教室を出て行った。
 何?つまり?気に入られたっぽい?
 んで手渡されたこれはなんだ。
 
「バーチャームってなに?」
「アクセサリのパーツの一種で、こういう小さい細長い棒状の物のことだ。これは結構太い方。この石を埋め込むためだろうな」
「ふーん……、安全ピンにぶら下げときゃいーの?」
「多分」
 
 とりあえず、二人してネームプレートにバーチャームを引っ掛けておく。
 なんかペアって感じでちょっと……なんかちょっと……ウン。
 まあ、これ、多分あの先生の名前出していい証?っぽいし?逆に付けてないと面倒事になりそうな予感もあるし??

 …………どーしてこうなった。

 いや、ここの教師相手に大分不遜な態度取ったってか、隠しておきたいだろう部分を暴いた自覚はあるけど。
 気に入られたのかなんらかのターゲットにされたのか、それが問題だ。
 でも、それはおいおい確認するしかない。
 
「……とりあえず、教科書でも読んでるわ」
「ああ、僕もそうする」
 
 互いに椅子に座って、手元にある教科書を眺める。
 
 …………さり気なく離れようとしたの、あっさり拒絶されたな。
 こーいうの、友達でも当たり前?詰め寄ってくるのとか。
 あー、わっかんねぇ!
 コイツとの距離感、マジでどうすればいいんだ?


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