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2 二度目のよろしく
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入学式は、入寮から2日後だった。
つまり2日間、暇。
新入生は外出許可とか取れないから寮から出られないし、マジ、暇。
ちなみに俺、入寮したの最後から2番目だか3番目らしい。寮の管理人が言ってた。
『毎年居るんですよね、学園に来ることを嫌がって最終日に強制連行されてくる外部生』
ってめっちゃくちゃ嫌そうに言われた。俺を見る目も極寒だった。
これが洗脳教育の結果。選民教育の末路とも言う。
自分達は選ばれたのではなく利用されてるだけの少数だと気付かないように教育されたヤツの末路だ。
そんなヤツがゴロゴロ居るんだよな、この学園。
溜め息しか出ねぇわ。
「憂鬱そうだな。大丈夫か?」
「あー……、大丈夫とは言い切れねーけど大丈夫」
コイツも問題だ。
葛西柊夜。
元の世界では小、中学校と同級生だったヤツ。
友達……かは、少し分からない。特別親しかったわけでもないし。
ただ中学3年の最後の1年以外ずっと同じクラスで、話し掛けられたら話して、たまに皆で馬鹿やって……なんだろ。知人以上友達未満ってやつ?
嫌いではなかったけど、『皆の中の一人』だった。
今は、どうだろ。
俺にとってはもう3年も前の事で、だけど決して忘れることはできない記憶。
こっちの世界のコイツには一切関係ないことだけどさ。
殆ど同じ見た目だから、どうしても意識してしまう。
思い出してしまう。
あの日アイツは、一体何を思ってあんなことをしたんだろう。
「なあ、本当に大丈夫か?」
「ひっ?!」
意識の外から触れてきた手を、思わず思い切り振り払った。
目の前には、驚いたように目をまんまるにしたアイツが立っている。
不味い。
何故か、そう思った。
「ごっ、ごめん!その、俺、人に触られるの苦手でっ!」
「え、あ、僕こそすまない」
慌てて弁解すると、その必死さに驚いたのか、困惑した感じに謝られた。
変、だったよな。多分。
頼むからおかしく思うな。誤魔化されてくれ……っ!
「うん……、他に何か、気を付けておくことはあるか?」
「へっ?」
「だってこれから1年、同室で過ごすんだ。お互いに知っておいた方がいいことがあったら話しておいた方がいいだろう?」
「それは、……そう、だけど」
「ああ。で、どうだ?」
「えっと、俺は多分、それだけ。そっちは?」
「僕はぱっとは思いつかないな。思い出したら言うよ」
少し悩む仕草をしてから、言う。
……誤魔化せた、か?
いや、ぶっちゃけアイツ本人じゃないんだから誤魔化すも何もないんだけどね。
おかしいとか思うわけもなく、その通り受け取るだけ。
コイツは知らないんだから。
やっぱ世界は違えど同じ人間だからかな。すっげー焦った。
「ところで、そろそろ名前を教えてもらえないか?名字はネームプレートを見て知ってるんだが」
「……言ってなかったっけ?」
「ああ。聞いてない」
「うえ、ごめん。俺、甘竹瑞月」
そういや名乗ってないわ。コイツはすぐに名乗ってくれたけど。
でも仕方ないじゃん?驚きすぎて、それを隠そうと必死だったんだし。
「ん、……名前で呼んでいいか?僕のことも名前で構わないから」
「え?ああ、いーよ。分かった、そうする」
名前呼びの許可を求められ、軽く了承する。
俺としても正直有り難い申し出だったから。
なんでって、あっちでは名字で呼び合っていたから、さ。
混同する点は、少しでも減らしておきたい。主に俺の精神的なダメージを避ける意味で。
ああ、でも。
「改めて、よろしく。瑞月」
「よろしく。柊夜」
まさか、コイツを名前で呼ぶ日が来るなんてな。
あの日を思えば、本当ありえねーや。
…………これって、ある意味叶ったのか?俺の願い。
コイツとの時間をやり直したい……って。
今目の前にいるコイツは何も知らなくて、俺とは初対面で。
まあ、同じだけど別人、だけど。
アイツじゃないんじゃあ、やっぱり意味ないのにな。
知りたかった答えも――――ああ、いや。
やり直しだったら、あの出来事もなくなって、答えなんて知れないままなんだ。
何が良かったんだろ。
どうしたら、良かったんだろうな。
もう会えないアイツに、今更。
つまり2日間、暇。
新入生は外出許可とか取れないから寮から出られないし、マジ、暇。
ちなみに俺、入寮したの最後から2番目だか3番目らしい。寮の管理人が言ってた。
『毎年居るんですよね、学園に来ることを嫌がって最終日に強制連行されてくる外部生』
ってめっちゃくちゃ嫌そうに言われた。俺を見る目も極寒だった。
これが洗脳教育の結果。選民教育の末路とも言う。
自分達は選ばれたのではなく利用されてるだけの少数だと気付かないように教育されたヤツの末路だ。
そんなヤツがゴロゴロ居るんだよな、この学園。
溜め息しか出ねぇわ。
「憂鬱そうだな。大丈夫か?」
「あー……、大丈夫とは言い切れねーけど大丈夫」
コイツも問題だ。
葛西柊夜。
元の世界では小、中学校と同級生だったヤツ。
友達……かは、少し分からない。特別親しかったわけでもないし。
ただ中学3年の最後の1年以外ずっと同じクラスで、話し掛けられたら話して、たまに皆で馬鹿やって……なんだろ。知人以上友達未満ってやつ?
嫌いではなかったけど、『皆の中の一人』だった。
今は、どうだろ。
俺にとってはもう3年も前の事で、だけど決して忘れることはできない記憶。
こっちの世界のコイツには一切関係ないことだけどさ。
殆ど同じ見た目だから、どうしても意識してしまう。
思い出してしまう。
あの日アイツは、一体何を思ってあんなことをしたんだろう。
「なあ、本当に大丈夫か?」
「ひっ?!」
意識の外から触れてきた手を、思わず思い切り振り払った。
目の前には、驚いたように目をまんまるにしたアイツが立っている。
不味い。
何故か、そう思った。
「ごっ、ごめん!その、俺、人に触られるの苦手でっ!」
「え、あ、僕こそすまない」
慌てて弁解すると、その必死さに驚いたのか、困惑した感じに謝られた。
変、だったよな。多分。
頼むからおかしく思うな。誤魔化されてくれ……っ!
「うん……、他に何か、気を付けておくことはあるか?」
「へっ?」
「だってこれから1年、同室で過ごすんだ。お互いに知っておいた方がいいことがあったら話しておいた方がいいだろう?」
「それは、……そう、だけど」
「ああ。で、どうだ?」
「えっと、俺は多分、それだけ。そっちは?」
「僕はぱっとは思いつかないな。思い出したら言うよ」
少し悩む仕草をしてから、言う。
……誤魔化せた、か?
いや、ぶっちゃけアイツ本人じゃないんだから誤魔化すも何もないんだけどね。
おかしいとか思うわけもなく、その通り受け取るだけ。
コイツは知らないんだから。
やっぱ世界は違えど同じ人間だからかな。すっげー焦った。
「ところで、そろそろ名前を教えてもらえないか?名字はネームプレートを見て知ってるんだが」
「……言ってなかったっけ?」
「ああ。聞いてない」
「うえ、ごめん。俺、甘竹瑞月」
そういや名乗ってないわ。コイツはすぐに名乗ってくれたけど。
でも仕方ないじゃん?驚きすぎて、それを隠そうと必死だったんだし。
「ん、……名前で呼んでいいか?僕のことも名前で構わないから」
「え?ああ、いーよ。分かった、そうする」
名前呼びの許可を求められ、軽く了承する。
俺としても正直有り難い申し出だったから。
なんでって、あっちでは名字で呼び合っていたから、さ。
混同する点は、少しでも減らしておきたい。主に俺の精神的なダメージを避ける意味で。
ああ、でも。
「改めて、よろしく。瑞月」
「よろしく。柊夜」
まさか、コイツを名前で呼ぶ日が来るなんてな。
あの日を思えば、本当ありえねーや。
…………これって、ある意味叶ったのか?俺の願い。
コイツとの時間をやり直したい……って。
今目の前にいるコイツは何も知らなくて、俺とは初対面で。
まあ、同じだけど別人、だけど。
アイツじゃないんじゃあ、やっぱり意味ないのにな。
知りたかった答えも――――ああ、いや。
やり直しだったら、あの出来事もなくなって、答えなんて知れないままなんだ。
何が良かったんだろ。
どうしたら、良かったんだろうな。
もう会えないアイツに、今更。
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