星屑の砂時計

一色ほのか

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0 星に願いを

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 7月7日、深夜。雨が降っている。
 天の川どころか星も一欠けらも見えないし、だから、夜空の夫婦は会えない。
 ぶっちゃけどうでもいいことだけど、なんとなく気分は落ちる。 
 
 変な時間に寝るんじゃなかった。
 その所為で見たくもない夢を見て、こんなド深夜に目が覚めた。
 夢の内容が内容だったから目もぱっちりくっきり覚めてしまって、眠れそうにない。
 
 あの日の、中学の卒業式の夢。
 俺とアイツ、完全に道が分かれた日。

 …………あれから、3年という月日が流れた。

 忘れてたのに。
 忘れたフリを、してきたのに。
 時々こうして夢に現れて、思い出させる。

 起きたことは変えられなくて、昔に戻る、なんて不可能で。
 恨み言の一つでも言えたらまた違ったのか、とか。
 どうしてあんなことをしたのか聞けたら、答えてくれたなら、何か変わったのか、とか。

 そんなこと、考えるだけ意味ないんだって分かってる。
 きっともう二度と会えないんだって。
 あの日、互いになんでか気付いていたから。


 
「…………ん?」
 
 ぼんやりとしていた思考に響いていた雨の音が、いつの間にか止んでいた。
 雲が流れて、月の一部と天の川が少しだけ夜空から覗いている。
 
 7月7日、七夕。
 星に願いを託す日。

 ここには笹も短冊もないけれど、折角だから願ってみるか。
 どうせ意味もないし、気休めにもなんないんだけどさ。

 だけど。もし、叶うなら。
 
「やり直したい、な」
 
 何をどうやり直すんだ?って感じだけど。
 どこからやり直せば俺とアイツの関係が変わるのか、全然分かんないし。
 共有した時間は多分長かったのに、知らない時間の方が多いんだもんな。
 そもそも、そう、あれだ、知人以上友達未満、みたいな関係だったし。
 それがなんであんなことになるんだとは、今も考える。
 考えて悩んでも、答えは出ない。
 最後なのに手を伸ばしたのは、アイツの方だったから。

 分かんねーよ、馬鹿野郎。
 本当の、最後の、最後で。とんでもないことをしやがって。
 
 結局思考は迷走して、答えが出ないまま、中断する。
 
「ふぁあ……あ」
 
 欠伸を一つ。
 もう、そろそろ寝ないと不味い。明日も学校がある。
 さっさと寝よう。
 
 開いていた窓を閉め、ベッドに潜り込む。
 目が覚めればまたいつもと同じような1日が始まる。
 
 アイツが居なくても毎日は過ぎて、人には話せそうにない秘密があって悩んでいても時間は止まらない。
 全部飲み込んで、誤魔化して、紛らわせて……ただ、生きていくしかない。
 いつか、何もかもが思い出に変わるまで。
 アイツが、過去になるまで。
 
 

 ――――すうすうと、部屋に寝息が微かに響く。
 
 それを、カーテンの隙間から覗く星だけが見ていた。
 

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