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勇者のママは環の婚礼を魔王様と≪婚礼編≫
十一ノ環・凍てつく国の深淵2
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翌日。
難民の保護施設へ視察に赴きました。
シュラプネルの高官に案内されながら施設を見て回ります。
視察団は私の護衛を含めて数十人にも及びました。最小限の動員ですが、難民の方々のいる場所を大人数でぞろぞろ歩くというのは気が引けます。
でもシュラプネル来訪の一番の目的は視察です。彼らが不遇な扱いを受けていないか確認しておきたいのです。
都の中心地から少し離れた場所にある難民施設は、古くから建っている塔を改築したものでした。
要塞のような頑強な造りで寒さを凌ぐ場所としては申し分ありません。
「ここは広い厨房が備わっているのですね。食材の保管も丁寧で感心しました」
「ありがとうございます。寒い土地ですから、凍ってしまわないように気を使っています。朝昼晩の三食を担当の者が交替で調理し、難民すべてに行き渡るようにしています」
「そうですか。難民の方々への心遣いには感服します」
「王は難民も同じ人間として助けたいとお考えなのです」
「それは素晴らしいですね」
まるで門を閉じていたことなどなかったように難民を受け入れています。
有り難いことですが、こうも簡単に方針が変わるというのも解せないものでした。
ひと通り視察を終え、特に問題らしいものも見当たりません。本来なら帰ってもいいのですが最後にもう一回りしておきたいです。
「案内をありがとうございました。もう少し自由に歩き回ってもいいでしょうか」
「構いません。ご自由にお過ごしください」
了承を得て、塔内を思うままに歩きました。
塔の主な場所は案内されましたが、まだ見ていない場所もたくさんあります。
私は塔の回廊を歩いて裏手に足を向けました。なにやら賑やかな声が聞こえるのです。
「ブレイラ、きこえる」
反応したイスラに思わず笑みを浮かべてしまいます。
だって聞こえてくる声は子どもたちの笑い声なのです。
「行ってみますか?」
「うん」
イスラと手を繋いで歩き出すと、案内人が慌てて制止してきました。
「お待ちください、ブレイラ様。そこから先は難民の居住区です。ブレイラ様が立ち入るには些か相応しくないかと……」
「そうでしたか。でも私は構いません。難民の方々にご迷惑でなければ見せてください」
「わ、分かりました。確認して参ります」
案内人は急いで難民のリーダーらしき男から了承を得てくれました。
「……どうぞ、構わないとのことです」
「ありがとうございます」
許可をくれた方々にお辞儀し、居住区に足を進めました。
居住区の至る所に簡易的な天幕が張られ、そこに各家族が身を寄せ合って暮らしているようです。
食事の配給はありますが、生活基盤をなくした人々の顔は疲弊していました。なんとか立ち上がろうとする人々も見えますが、心の傷が癒えることはないのでしょう。
六ノ国から命がけで逃げてきた人々の姿に胸が痛くなります。
でも居住区の奥にある中庭から聞こえてくるのは賑やかな子どもの声でした。その声に誘われるようにして自然と足が向く。
やはり思った通りです。塔の中庭では難民の子どもたちが楽しそうに遊んでいました。
ここに来るまでに怖い思いをたくさんした筈なのに、隠れんぼや追いかけっこをして遊ぶ子ども達はとても楽しそう。こうして遊んでいる時だけは辛い事を忘れられるのかもしれません。重苦しい雰囲気が漂う居住区にあって子ども達の明るい声は安らぎのようでした。
中庭の入口で足を止め、遊んでいる子ども達を見つめます。
遠目に見守っている私たちを子ども達も気にしているようでしたが、それでも遊びをやめようとする姿はありません。きっととても楽しいのですね。
見ると手を繋いでいるイスラがソワソワしています。
「イスラ、あなたも行きたいのですか?」
「で、でも……」
視察中だということを気にしているのですね。たしかにここへは政務で来ていますから。
でも少しくらいなら構いません。むしろ視察の間くらいここで遊んでいても良いくらい。公私混合かもしれませんが、イスラの周囲には同年代の子どもがほとんどいないのです。
「行ってきてもいいですよ? 帰る時に呼びに来てあげます」
「うん。でも……」
体は遊びたそうにうずうずしているというのに、私の手をぎゅっと握って離しません。
ちらちらと子ども達を見る眼差しは輝いているのに、恥ずかしそうにもじもじしています。
「ああ、恥ずかしいのですね?」
「うっ……」
図星だったようです。
同年代の子どもには弱いのですね。
もじもじするイスラに苦笑していると、見兼ねた案内人が声を掛けてくれます。
「よろしければ子ども達をここへ連れてきましょうか。ご挨拶させましょう」
「いいえ、それは無粋というものです。イスラ、遊びたいなら自分で行ってきなさい」
「…………」
「できますね?」
「…………わかった」
こくり、と神妙に頷きました。
緊張感たっぷりの顔です。冥界の怪物クラーケンに立ち向かって行った時だってこんなに緊張していませんでしたよ。
イスラがおずおずと子ども達に近づいていきます。
一番年長の子どもに声をかけて……、良かった、どうやらイスラは受け入れてもらえたようです。
無事に子ども達の輪の中に入り、鬼ごっこを始めた姿にほっと安堵しました。イスラも緊張していましたが私も緊張していたのです。
しばらく見守っていると、案内人もイスラの楽しそうな姿に安心しながら話しかけてきます。
「イスラ様が楽しそうで良かったです」
「おかげ様で。やはり同年代の子どもと一緒に遊ぶのは楽しいようです。視察中なのに我儘を許してくださってありがとうございました」
「とんでもございません、王からも自由にして頂くようにと仰せつかっていますから」
案内人はそう言うと、「実は……」と子ども達の中にいた一人の少年を見ながら話しだす。
「あの中にいる子どもの一人がいにしえの勇者と契約した末裔なんです」
「ええっ、そうなんですか?! どの子どもです?」
思わぬ言葉に驚きました。
案内人が「あそこにいる金髪の少年です」と一人の少年を指さして教えてくれます。
それはイスラより年上の十歳ほどの子どもでした。絹のような金髪が美しく、目鼻立ちのはっきりした利発そうな少年です。この少年が勇者の宝・魔鏡の持ち主。
「冥界の異変が起きてすぐに王が保護したのです。彼は不幸にも両親を早くに亡くし、幼い頃より末裔として勇者の宝を保持しておりました」
「そうでしたか……」
少年の身に降りかかった不幸に胸が痛いです。
幼いながらに契約者の末裔として勇者の宝を守っていてくれたのですね。
「契約者の末裔をご紹介するのは後の予定でしたが、今ここに連れて参りますか?」
「いいえ、邪魔をしてはいけない気がします。予定通りこの後で結構ですよ」
とても楽しそうなのに遊びを中断させてはいけません。
もちろん契約者の末裔と早くお話ししたいと思いますが今は我慢します。
こうして子ども達が遊んでいる姿を見ていると、ふとゼロのことを思ってしまう。
未だに見つかっていないゼロを、ここにはいないと分かっているのに無意識に探してしまうのです。
ゼロはいったいどこへ行ってしまったのでしょうか。あれは幻だったのでしょうか。いいえ、そんな筈はありませんよね。早く見つかると良いのですが。
「ん? ……これは」
ふと、薄っすらと花の香りがしました。
熟した芳香に違和感を覚えましたが、ふと視界に紺の髪色の子どもが映る。
「ゼロ……?」
遊んでいる子ども達を挟んだ正面。
塔の柱の影にゼロがいたのです。目の錯覚かと思いました。でも確かにゼロです。
「ゼロっ、ゼロじゃないですか! 今までどこにいたのですか!」
急いで駆け寄ろうと、子ども達が遊んでいる中庭をぐるりと回りました。
後ろからコレットが呼び止める声がしたような気がしました。でも聞き間違いかと思うほど遠い呼び声。今はゼロの姿を追いたくて足が止まりません。
見失ってしまわないように急ぎます。ローブの長い裾が回廊の石床を撫で、尾のようにひらひらと靡く。
「待ってください! どこへ行くんですか! ゼロ!」
走っても走っても追いつきません。
名前だって何度も呼んでいるのに立ち止まってくれません。
ゼロは時折振り返ってくれますが、ふわりふわりとした足取りで柱の影から影へと逃げてしまうのです。
「逃げないでください! お願いだから待って!」
ゼロ、ゼロ、何度も名前を呼んで追いかけました。
しばらく追いかけていると、ゼロが柱の影でようやく立ち止まってくれます。
隠れたまま姿を見せてくれませんが私は柱の前で立ち止まる。
乱れた呼吸を整え、ゼロ……と呼びかけました。
「どうして逃げたりするんですか? ずっと探していたんです。姿が見えなくなって、ずっと心配していたんですよ?」
柱の向こうにいるゼロに話しかけました。
でもゼロは返事をしてくれません。
「……もしかして、怒っているんですか? あなたを置いて魔界へ帰ってしまったから。怒っているなら、ごめんなさい」
まだ返事をしてくれません。
やはりゼロは怒っているのでしょう。
あの星降る夜に約束をしたのに、それを違えて置いていってしまったから。
もちろん私は約束を違えたつもりはありません。でも、ゼロを傷つけてしまったのなら謝りたい。
「ごめんなさい。許してくれませんか?」
返事をしてくれるまで何度も話しかけます。
「……お願いです、なにか話してください」
柱の向こうにはずっと探していたゼロがいるのです。
ずっと一緒にいようという約束を叶えたいのです。
「お願いですから、ゼロ……。私にできることなら、なんだってしますから」
「――――ブレイラ様にそこまで言って頂けるとは羨ましい」
柱の影からぬっと現われた大きな影。
その姿に目を見開きました。
「あなたは、ヘルメス?! どうしてこんな所に……」
そこにいたのは六ノ国戦士団団長ヘルメス。
ヘルメスは私を見て恭しく一礼しました。
老年ながら筋骨隆々のヘルメスは六ノ国が誇る砂漠の戦士です。
難民の保護施設へ視察に赴きました。
シュラプネルの高官に案内されながら施設を見て回ります。
視察団は私の護衛を含めて数十人にも及びました。最小限の動員ですが、難民の方々のいる場所を大人数でぞろぞろ歩くというのは気が引けます。
でもシュラプネル来訪の一番の目的は視察です。彼らが不遇な扱いを受けていないか確認しておきたいのです。
都の中心地から少し離れた場所にある難民施設は、古くから建っている塔を改築したものでした。
要塞のような頑強な造りで寒さを凌ぐ場所としては申し分ありません。
「ここは広い厨房が備わっているのですね。食材の保管も丁寧で感心しました」
「ありがとうございます。寒い土地ですから、凍ってしまわないように気を使っています。朝昼晩の三食を担当の者が交替で調理し、難民すべてに行き渡るようにしています」
「そうですか。難民の方々への心遣いには感服します」
「王は難民も同じ人間として助けたいとお考えなのです」
「それは素晴らしいですね」
まるで門を閉じていたことなどなかったように難民を受け入れています。
有り難いことですが、こうも簡単に方針が変わるというのも解せないものでした。
ひと通り視察を終え、特に問題らしいものも見当たりません。本来なら帰ってもいいのですが最後にもう一回りしておきたいです。
「案内をありがとうございました。もう少し自由に歩き回ってもいいでしょうか」
「構いません。ご自由にお過ごしください」
了承を得て、塔内を思うままに歩きました。
塔の主な場所は案内されましたが、まだ見ていない場所もたくさんあります。
私は塔の回廊を歩いて裏手に足を向けました。なにやら賑やかな声が聞こえるのです。
「ブレイラ、きこえる」
反応したイスラに思わず笑みを浮かべてしまいます。
だって聞こえてくる声は子どもたちの笑い声なのです。
「行ってみますか?」
「うん」
イスラと手を繋いで歩き出すと、案内人が慌てて制止してきました。
「お待ちください、ブレイラ様。そこから先は難民の居住区です。ブレイラ様が立ち入るには些か相応しくないかと……」
「そうでしたか。でも私は構いません。難民の方々にご迷惑でなければ見せてください」
「わ、分かりました。確認して参ります」
案内人は急いで難民のリーダーらしき男から了承を得てくれました。
「……どうぞ、構わないとのことです」
「ありがとうございます」
許可をくれた方々にお辞儀し、居住区に足を進めました。
居住区の至る所に簡易的な天幕が張られ、そこに各家族が身を寄せ合って暮らしているようです。
食事の配給はありますが、生活基盤をなくした人々の顔は疲弊していました。なんとか立ち上がろうとする人々も見えますが、心の傷が癒えることはないのでしょう。
六ノ国から命がけで逃げてきた人々の姿に胸が痛くなります。
でも居住区の奥にある中庭から聞こえてくるのは賑やかな子どもの声でした。その声に誘われるようにして自然と足が向く。
やはり思った通りです。塔の中庭では難民の子どもたちが楽しそうに遊んでいました。
ここに来るまでに怖い思いをたくさんした筈なのに、隠れんぼや追いかけっこをして遊ぶ子ども達はとても楽しそう。こうして遊んでいる時だけは辛い事を忘れられるのかもしれません。重苦しい雰囲気が漂う居住区にあって子ども達の明るい声は安らぎのようでした。
中庭の入口で足を止め、遊んでいる子ども達を見つめます。
遠目に見守っている私たちを子ども達も気にしているようでしたが、それでも遊びをやめようとする姿はありません。きっととても楽しいのですね。
見ると手を繋いでいるイスラがソワソワしています。
「イスラ、あなたも行きたいのですか?」
「で、でも……」
視察中だということを気にしているのですね。たしかにここへは政務で来ていますから。
でも少しくらいなら構いません。むしろ視察の間くらいここで遊んでいても良いくらい。公私混合かもしれませんが、イスラの周囲には同年代の子どもがほとんどいないのです。
「行ってきてもいいですよ? 帰る時に呼びに来てあげます」
「うん。でも……」
体は遊びたそうにうずうずしているというのに、私の手をぎゅっと握って離しません。
ちらちらと子ども達を見る眼差しは輝いているのに、恥ずかしそうにもじもじしています。
「ああ、恥ずかしいのですね?」
「うっ……」
図星だったようです。
同年代の子どもには弱いのですね。
もじもじするイスラに苦笑していると、見兼ねた案内人が声を掛けてくれます。
「よろしければ子ども達をここへ連れてきましょうか。ご挨拶させましょう」
「いいえ、それは無粋というものです。イスラ、遊びたいなら自分で行ってきなさい」
「…………」
「できますね?」
「…………わかった」
こくり、と神妙に頷きました。
緊張感たっぷりの顔です。冥界の怪物クラーケンに立ち向かって行った時だってこんなに緊張していませんでしたよ。
イスラがおずおずと子ども達に近づいていきます。
一番年長の子どもに声をかけて……、良かった、どうやらイスラは受け入れてもらえたようです。
無事に子ども達の輪の中に入り、鬼ごっこを始めた姿にほっと安堵しました。イスラも緊張していましたが私も緊張していたのです。
しばらく見守っていると、案内人もイスラの楽しそうな姿に安心しながら話しかけてきます。
「イスラ様が楽しそうで良かったです」
「おかげ様で。やはり同年代の子どもと一緒に遊ぶのは楽しいようです。視察中なのに我儘を許してくださってありがとうございました」
「とんでもございません、王からも自由にして頂くようにと仰せつかっていますから」
案内人はそう言うと、「実は……」と子ども達の中にいた一人の少年を見ながら話しだす。
「あの中にいる子どもの一人がいにしえの勇者と契約した末裔なんです」
「ええっ、そうなんですか?! どの子どもです?」
思わぬ言葉に驚きました。
案内人が「あそこにいる金髪の少年です」と一人の少年を指さして教えてくれます。
それはイスラより年上の十歳ほどの子どもでした。絹のような金髪が美しく、目鼻立ちのはっきりした利発そうな少年です。この少年が勇者の宝・魔鏡の持ち主。
「冥界の異変が起きてすぐに王が保護したのです。彼は不幸にも両親を早くに亡くし、幼い頃より末裔として勇者の宝を保持しておりました」
「そうでしたか……」
少年の身に降りかかった不幸に胸が痛いです。
幼いながらに契約者の末裔として勇者の宝を守っていてくれたのですね。
「契約者の末裔をご紹介するのは後の予定でしたが、今ここに連れて参りますか?」
「いいえ、邪魔をしてはいけない気がします。予定通りこの後で結構ですよ」
とても楽しそうなのに遊びを中断させてはいけません。
もちろん契約者の末裔と早くお話ししたいと思いますが今は我慢します。
こうして子ども達が遊んでいる姿を見ていると、ふとゼロのことを思ってしまう。
未だに見つかっていないゼロを、ここにはいないと分かっているのに無意識に探してしまうのです。
ゼロはいったいどこへ行ってしまったのでしょうか。あれは幻だったのでしょうか。いいえ、そんな筈はありませんよね。早く見つかると良いのですが。
「ん? ……これは」
ふと、薄っすらと花の香りがしました。
熟した芳香に違和感を覚えましたが、ふと視界に紺の髪色の子どもが映る。
「ゼロ……?」
遊んでいる子ども達を挟んだ正面。
塔の柱の影にゼロがいたのです。目の錯覚かと思いました。でも確かにゼロです。
「ゼロっ、ゼロじゃないですか! 今までどこにいたのですか!」
急いで駆け寄ろうと、子ども達が遊んでいる中庭をぐるりと回りました。
後ろからコレットが呼び止める声がしたような気がしました。でも聞き間違いかと思うほど遠い呼び声。今はゼロの姿を追いたくて足が止まりません。
見失ってしまわないように急ぎます。ローブの長い裾が回廊の石床を撫で、尾のようにひらひらと靡く。
「待ってください! どこへ行くんですか! ゼロ!」
走っても走っても追いつきません。
名前だって何度も呼んでいるのに立ち止まってくれません。
ゼロは時折振り返ってくれますが、ふわりふわりとした足取りで柱の影から影へと逃げてしまうのです。
「逃げないでください! お願いだから待って!」
ゼロ、ゼロ、何度も名前を呼んで追いかけました。
しばらく追いかけていると、ゼロが柱の影でようやく立ち止まってくれます。
隠れたまま姿を見せてくれませんが私は柱の前で立ち止まる。
乱れた呼吸を整え、ゼロ……と呼びかけました。
「どうして逃げたりするんですか? ずっと探していたんです。姿が見えなくなって、ずっと心配していたんですよ?」
柱の向こうにいるゼロに話しかけました。
でもゼロは返事をしてくれません。
「……もしかして、怒っているんですか? あなたを置いて魔界へ帰ってしまったから。怒っているなら、ごめんなさい」
まだ返事をしてくれません。
やはりゼロは怒っているのでしょう。
あの星降る夜に約束をしたのに、それを違えて置いていってしまったから。
もちろん私は約束を違えたつもりはありません。でも、ゼロを傷つけてしまったのなら謝りたい。
「ごめんなさい。許してくれませんか?」
返事をしてくれるまで何度も話しかけます。
「……お願いです、なにか話してください」
柱の向こうにはずっと探していたゼロがいるのです。
ずっと一緒にいようという約束を叶えたいのです。
「お願いですから、ゼロ……。私にできることなら、なんだってしますから」
「――――ブレイラ様にそこまで言って頂けるとは羨ましい」
柱の影からぬっと現われた大きな影。
その姿に目を見開きました。
「あなたは、ヘルメス?! どうしてこんな所に……」
そこにいたのは六ノ国戦士団団長ヘルメス。
ヘルメスは私を見て恭しく一礼しました。
老年ながら筋骨隆々のヘルメスは六ノ国が誇る砂漠の戦士です。
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