勇者のママは環の婚礼を魔王様と

蛮野晩

文字の大きさ
上 下
61 / 103
勇者のママは環の婚礼を魔王様と≪婚礼編≫

九ノ環・氷の大公爵4

しおりを挟む
 天幕へ戻ると、温かな空気に包まれてほっとします。

「お腹は空いていませんか? 温かなスープとパンを用意しますね」

 侍女にお願いするとすぐに用意していただけました。
 でもゼロは受け取ったパンをじっと見つめたまま食べようとしません。遠慮しているのでしょうか。

「どうぞ、食べてください。おかわりもありますからね」
「…………」

 ゼロは私とパンを交互に見ます。目が合って「おいしいですよ」と促すと、ようやくぱくりと食べてくれました。
 その姿を見守っていましたが、今、私の背中にはイスラがぴったりくっついています。

「イスラ、どうしました? あなたも食べたいのですか?」
「いらない」
「それじゃあ、なに甘えてるんですか」
「……あまえてない」

 甘えてないと言いながらも私の背中にぎゅっとしがみ付いてきます。隠れてゼロをじっと見ているのです。
 友達になりたいのでしょうか。イスラは恥ずかしがりですね。
 私は背中にイスラを引っ付けたままゼロを見つめる。スープのおかわりもたくさん入れて、デザートにはちょっとしたお菓子も出しました。温かなものでお腹を満たしてあげたいのです。
 こうしてゼロの食事を終えると、用意してもらっていた寝衣に着替えます。イスラの着替えを手伝いながらゼロも同じように気に掛けます。

「着れましたか? 上手ですね、手首の釦をはめてあげます」

 イスラとゼロの寝衣の釦をはめて、これでおしまい。二人とも上手に着れました。
 私も手早く寝衣のローブに着替えると二人をベッドへ連れていく。
 大人が三人で眠れるくらいの広いベッドに二人を寝かせ、風邪を引かないように柔らかな毛布をかけてあげます。

「今夜はここで三人で眠りましょう。寒くありませんか?」
「だいじょうぶだ。……ブレイラ、だっこは?」
「ああ、そうでしたね。でも、それはまた今度にしましょうか」
「…………」

 イスラが不満そうに小さな唇を尖らせました。
 ごめんなさい、拗ねないでください。でも約束は先延ばしです。今夜はゼロもいるのに、イスラだけ抱っこして眠ることはできません。
 その小さな唇を指でちょんと抓んで笑いかける。

「そんな顔しないでください。抱っこはまた今度です」
「こいつ、いるから?」
「こら、こいつなんて言ってはいけません」
「むっ……」
「拗ねないでください」
「だって……」

 イスラはむっとしながらも、それならと自分の隣をぽんぽん叩く。ここで寝ろということです。
 可愛いおねだりに思わず笑ってしまいます。

「分かりました。お邪魔しますね」

 毛布を捲ってイスラとゼロの間に潜り込みました。
 真ん中に横になると片側のイスラがぴたっとくっついてきます。
 大きな瞳と目が合って笑いかける。

「ブレイラ、おやすみ」
「おやすみなさい」

 そう言って額に口付けを一つ。
 するとイスラは照れ臭そうにくふくふ笑い、もぞもぞと鼻まで毛布に潜っていきました。
 次は反対側のゼロを振り向きます。

「あなたも、おやすみなさい」
「…………」

 本当に無口な子どもですね。
 黙ったままじっと見上げてくるばかりで、必要最低限の言葉しか口にしようとしない。でも澄んだ蒼い瞳はとても綺麗です。
 おやすみを返してもらえなくても構いません。
 笑いかけて、濃紺の髪を撫でてあげました。
 出会ったばかりの見知らぬ私が口付けをしたら嫌がるでしょうか。それともイスラのように喜んでくれるでしょうか。あまりこういう経験がないので分かりません。
 でも頭を撫でているうちにゼロはうとうとと瞼を閉じて眠っていく。
 こうしてイスラとゼロが眠ったのを確かめ、私も睡魔に身を任せて目を閉じました。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

処理中です...