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勇者のママは環の婚礼を魔王様と≪婚礼編≫
九ノ環・氷の大公爵4
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天幕へ戻ると、温かな空気に包まれてほっとします。
「お腹は空いていませんか? 温かなスープとパンを用意しますね」
侍女にお願いするとすぐに用意していただけました。
でもゼロは受け取ったパンをじっと見つめたまま食べようとしません。遠慮しているのでしょうか。
「どうぞ、食べてください。おかわりもありますからね」
「…………」
ゼロは私とパンを交互に見ます。目が合って「おいしいですよ」と促すと、ようやくぱくりと食べてくれました。
その姿を見守っていましたが、今、私の背中にはイスラがぴったりくっついています。
「イスラ、どうしました? あなたも食べたいのですか?」
「いらない」
「それじゃあ、なに甘えてるんですか」
「……あまえてない」
甘えてないと言いながらも私の背中にぎゅっとしがみ付いてきます。隠れてゼロをじっと見ているのです。
友達になりたいのでしょうか。イスラは恥ずかしがりですね。
私は背中にイスラを引っ付けたままゼロを見つめる。スープのおかわりもたくさん入れて、デザートにはちょっとしたお菓子も出しました。温かなものでお腹を満たしてあげたいのです。
こうしてゼロの食事を終えると、用意してもらっていた寝衣に着替えます。イスラの着替えを手伝いながらゼロも同じように気に掛けます。
「着れましたか? 上手ですね、手首の釦をはめてあげます」
イスラとゼロの寝衣の釦をはめて、これでおしまい。二人とも上手に着れました。
私も手早く寝衣のローブに着替えると二人をベッドへ連れていく。
大人が三人で眠れるくらいの広いベッドに二人を寝かせ、風邪を引かないように柔らかな毛布をかけてあげます。
「今夜はここで三人で眠りましょう。寒くありませんか?」
「だいじょうぶだ。……ブレイラ、だっこは?」
「ああ、そうでしたね。でも、それはまた今度にしましょうか」
「…………」
イスラが不満そうに小さな唇を尖らせました。
ごめんなさい、拗ねないでください。でも約束は先延ばしです。今夜はゼロもいるのに、イスラだけ抱っこして眠ることはできません。
その小さな唇を指でちょんと抓んで笑いかける。
「そんな顔しないでください。抱っこはまた今度です」
「こいつ、いるから?」
「こら、こいつなんて言ってはいけません」
「むっ……」
「拗ねないでください」
「だって……」
イスラはむっとしながらも、それならと自分の隣をぽんぽん叩く。ここで寝ろということです。
可愛いおねだりに思わず笑ってしまいます。
「分かりました。お邪魔しますね」
毛布を捲ってイスラとゼロの間に潜り込みました。
真ん中に横になると片側のイスラがぴたっとくっついてきます。
大きな瞳と目が合って笑いかける。
「ブレイラ、おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言って額に口付けを一つ。
するとイスラは照れ臭そうにくふくふ笑い、もぞもぞと鼻まで毛布に潜っていきました。
次は反対側のゼロを振り向きます。
「あなたも、おやすみなさい」
「…………」
本当に無口な子どもですね。
黙ったままじっと見上げてくるばかりで、必要最低限の言葉しか口にしようとしない。でも澄んだ蒼い瞳はとても綺麗です。
おやすみを返してもらえなくても構いません。
笑いかけて、濃紺の髪を撫でてあげました。
出会ったばかりの見知らぬ私が口付けをしたら嫌がるでしょうか。それともイスラのように喜んでくれるでしょうか。あまりこういう経験がないので分かりません。
でも頭を撫でているうちにゼロはうとうとと瞼を閉じて眠っていく。
こうしてイスラとゼロが眠ったのを確かめ、私も睡魔に身を任せて目を閉じました。
「お腹は空いていませんか? 温かなスープとパンを用意しますね」
侍女にお願いするとすぐに用意していただけました。
でもゼロは受け取ったパンをじっと見つめたまま食べようとしません。遠慮しているのでしょうか。
「どうぞ、食べてください。おかわりもありますからね」
「…………」
ゼロは私とパンを交互に見ます。目が合って「おいしいですよ」と促すと、ようやくぱくりと食べてくれました。
その姿を見守っていましたが、今、私の背中にはイスラがぴったりくっついています。
「イスラ、どうしました? あなたも食べたいのですか?」
「いらない」
「それじゃあ、なに甘えてるんですか」
「……あまえてない」
甘えてないと言いながらも私の背中にぎゅっとしがみ付いてきます。隠れてゼロをじっと見ているのです。
友達になりたいのでしょうか。イスラは恥ずかしがりですね。
私は背中にイスラを引っ付けたままゼロを見つめる。スープのおかわりもたくさん入れて、デザートにはちょっとしたお菓子も出しました。温かなものでお腹を満たしてあげたいのです。
こうしてゼロの食事を終えると、用意してもらっていた寝衣に着替えます。イスラの着替えを手伝いながらゼロも同じように気に掛けます。
「着れましたか? 上手ですね、手首の釦をはめてあげます」
イスラとゼロの寝衣の釦をはめて、これでおしまい。二人とも上手に着れました。
私も手早く寝衣のローブに着替えると二人をベッドへ連れていく。
大人が三人で眠れるくらいの広いベッドに二人を寝かせ、風邪を引かないように柔らかな毛布をかけてあげます。
「今夜はここで三人で眠りましょう。寒くありませんか?」
「だいじょうぶだ。……ブレイラ、だっこは?」
「ああ、そうでしたね。でも、それはまた今度にしましょうか」
「…………」
イスラが不満そうに小さな唇を尖らせました。
ごめんなさい、拗ねないでください。でも約束は先延ばしです。今夜はゼロもいるのに、イスラだけ抱っこして眠ることはできません。
その小さな唇を指でちょんと抓んで笑いかける。
「そんな顔しないでください。抱っこはまた今度です」
「こいつ、いるから?」
「こら、こいつなんて言ってはいけません」
「むっ……」
「拗ねないでください」
「だって……」
イスラはむっとしながらも、それならと自分の隣をぽんぽん叩く。ここで寝ろということです。
可愛いおねだりに思わず笑ってしまいます。
「分かりました。お邪魔しますね」
毛布を捲ってイスラとゼロの間に潜り込みました。
真ん中に横になると片側のイスラがぴたっとくっついてきます。
大きな瞳と目が合って笑いかける。
「ブレイラ、おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言って額に口付けを一つ。
するとイスラは照れ臭そうにくふくふ笑い、もぞもぞと鼻まで毛布に潜っていきました。
次は反対側のゼロを振り向きます。
「あなたも、おやすみなさい」
「…………」
本当に無口な子どもですね。
黙ったままじっと見上げてくるばかりで、必要最低限の言葉しか口にしようとしない。でも澄んだ蒼い瞳はとても綺麗です。
おやすみを返してもらえなくても構いません。
笑いかけて、濃紺の髪を撫でてあげました。
出会ったばかりの見知らぬ私が口付けをしたら嫌がるでしょうか。それともイスラのように喜んでくれるでしょうか。あまりこういう経験がないので分かりません。
でも頭を撫でているうちにゼロはうとうとと瞼を閉じて眠っていく。
こうしてイスラとゼロが眠ったのを確かめ、私も睡魔に身を任せて目を閉じました。
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