19 / 103
勇者のママは環の婚礼を魔王様と≪婚約編≫
三ノ環・崖っぷちの父子2
しおりを挟む
「行くぞ。もう少し先まで馬で行こう。そこから先は歩きだ」
「はい。楽しみです」
馬で山道を進むと、しばらく行った先に宿舎がありました。
ここで馬を降りて、ここから先は山道を歩いて登ります
先に馬を降りたハウストがイスラを抱っこして降ろそうとしてくれましたが。
「ひ、ひとりでおりられる!」
ぴょんっ! 突然イスラが鞍から飛び降りてしまう。
でもそれは馬にとって突飛な行動というものでした。
「えっ、ちょっと! わああ!」
馬が驚き、前足をあげて嘶き声をあげる。私は振り落とされそうになりましたが、咄嗟にハウストが馬を落ち着かせて私の体を支えてくれました。とりあえずひと安心です。
「ご、ごめんなさい、ブレイラ……」
見るとイスラが少し青褪めた顔をしていました。
私が落馬しそうになって驚いてしまったのですね。
「私は大丈夫です。でも馬がびっくりしてしまいますから、次からはゆっくり降りてくださいね」
「わかった……」
イスラはこくりと頷いたものの、居心地悪げにきょろきょろと視線を彷徨わせました。
普段とは違った様子に心配になってしまいます。
「イスラ、どうかしたんですか?」
「な、なにもない! オレ、さきにいく!」
イスラは頭を振ってそう言うと、狭い山道を走っていってしまいました。
護衛兵が追いかけてくれているので心配はありませんが、いつにない態度に困惑してしまいます。
「イスラはどうしたんでしょうか。ハウストはなにか知っていますか?」
「……いや、悪いが俺も分からん。それより手を」
「ありがとうございます」
ハウストの手を借りて馬から降りました。
乗馬も楽しいですが、やはり地面に足が着くとほっとしますね。
「さっきは驚かせましたね。ゆっくり休んでください」
そう言って白馬の頭を撫でると嬉しそうに鼻を寄せてくれました。
ここからは歩いて山登りです。
イスラは先に行ってしまいましたが、ここは観光地にもなっている場所なので迷うことはないでしょう。
「ブレイラ、こっちだ。転ばないように気を付けろ」
「大丈夫ですよ。あなた、私が山育ちなのをお忘れですか?」
「そうだったな」
軽口を交わしながら山道を登っていく。
山道といっても緩やかな傾斜が続く道で難所らしい場所はありません。それに私たちの周囲には常に護衛兵や女官や侍女が控えていて、あまり山を登っているという気にはなりませんでした。
でも途中には小動物や珍しい植物が見ることができて、ちょっとした散策を楽しめます。
そして木々に囲まれた山道をしばらく歩き、小高い崖の上に出る。
「これはすごいっ……」
目の前に開けた絶景に息を飲みました。
緑の山々に突如出現した巨大な白いカーテン。全長十キロ以上にも及ぶ崖の裂け目から、約二百メートルも下の川に向かって水が直下している。辺りには凄まじい大瀑布の音が響いて、水飛沫がここまで届きそうです。
正面の崖から望める迫力の絶景に、言葉も忘れてしまう。見ているだけで圧倒されて、飲み込まれてしまいそうでした。
「お待ちしておりました。魔王様、ブレイラ様」
大絶景に言葉を失っていると、先に到着していたランディに声を掛けられました。
大瀑布を案内してくれるランディは私たちの到着をずっと待っていてくれたのです。
でも昨日のこともあって、ランディはハウストと顔を合わせ難そうでした。当然ですよね、不問にされたとはいえ会議逃亡は有り得ないですから。
「あ、あの、魔王様、……き、昨日は……まことに申し訳なくっ……」
じろりとハウストが目を向けると、「申し訳ありませんでした!!」ランディが飛び上がって勢いよく頭を下げました。
そんなランディをハウストが静かに見下ろします。
「昨日の会議はつまらなかったか?」
「い、いいえ、そういう訳ではなくっ。その、あの場に……不相応な自分に居た堪れなくなってしまって、それで……」
「逃げたか」
「それは、その、……はい。……ほんとうに、不甲斐なく、申し訳ありませんでした……」
ランディの声が小さくなっていく。
ただでさえ気弱そうな男なのに、ハウストの前で完全に萎縮されていました。
「まあいい、ランドルフから詫びられて不問にしている」
「父上が……、そうですか……」
ランディはそれきり黙りこんでしまいました。
視線は地面に落ちて、肩が下がってしまっている。ハウストを前にしていることもありますが、ランドルフの名前が出てから更に落ち込んだようでした。
もう見ていられません。私はさり気なく間に入り、ランディに声をかける。
「イスラは先に来ていませんでしたか?」
「えっ?」
突然声を掛けられたランディが驚いたように顔をあげました。
ここへ来るまでの街道で浮かべていた微笑をつくり、ランディに優しい声色で言葉を続けます。
「馬を降りてイスラだけ先に走っていってしまったんです。先に来ていると思うのですが」
「は、はいっ。来ています! イスラ様なら見ました! すぐに呼んできますので!!」
ランディが急いで駆けだして行きました。
この場から解放されて内心ほっとしていることでしょう。
私は隣のハウストをちらりと見上げます。
呆れた顔で見上げていると、気付いたハウストが少し居心地悪そうに顎を引く。
「……なんだ」
「いじわるですね。昨夜は笑って話していた癖に、本人の前であんな怖い顔して。それにわざとランドルフ様の名前をだしましたね?」
「知っていたか」
「はい、昨日の孤児院でランディ様を見つけてからジョアンヌ夫人から聞きました。ランディ様はランドルフ様に劣等感をお持ちのようですね」
親子関係はいたって良好だそうですが、先代当主と現当主という関係になると駄目なようです。
ランディは後継者として力不足の自覚があるようで、少なくともこのままで良いとは思っていないのです。しかし身近にランドルフのような存在があることは、彼にとって大きな重圧でした。
先代当主のランドルフは先代魔王時代に西の領土を守りぬいた傑物なのです。ランディは素直に尊敬しながらも、何かと比べられて苦しい思いをしてきたそうですから。
「ランドルフも出たがりな男だからな。自分で当主の座を譲った癖に、息子が気になって気になって仕方ないようだ」
「……それは困りましたね」
私は親がいないので父親と息子の微妙な関係というのはよく分かりません。
でも、それでもそれが良くない傾向だというのは分かりますよ。おそらくランディの劣等感を育てまくっていることでしょう。
少ししてランディとともにイスラが戻ってきました。
「はい。楽しみです」
馬で山道を進むと、しばらく行った先に宿舎がありました。
ここで馬を降りて、ここから先は山道を歩いて登ります
先に馬を降りたハウストがイスラを抱っこして降ろそうとしてくれましたが。
「ひ、ひとりでおりられる!」
ぴょんっ! 突然イスラが鞍から飛び降りてしまう。
でもそれは馬にとって突飛な行動というものでした。
「えっ、ちょっと! わああ!」
馬が驚き、前足をあげて嘶き声をあげる。私は振り落とされそうになりましたが、咄嗟にハウストが馬を落ち着かせて私の体を支えてくれました。とりあえずひと安心です。
「ご、ごめんなさい、ブレイラ……」
見るとイスラが少し青褪めた顔をしていました。
私が落馬しそうになって驚いてしまったのですね。
「私は大丈夫です。でも馬がびっくりしてしまいますから、次からはゆっくり降りてくださいね」
「わかった……」
イスラはこくりと頷いたものの、居心地悪げにきょろきょろと視線を彷徨わせました。
普段とは違った様子に心配になってしまいます。
「イスラ、どうかしたんですか?」
「な、なにもない! オレ、さきにいく!」
イスラは頭を振ってそう言うと、狭い山道を走っていってしまいました。
護衛兵が追いかけてくれているので心配はありませんが、いつにない態度に困惑してしまいます。
「イスラはどうしたんでしょうか。ハウストはなにか知っていますか?」
「……いや、悪いが俺も分からん。それより手を」
「ありがとうございます」
ハウストの手を借りて馬から降りました。
乗馬も楽しいですが、やはり地面に足が着くとほっとしますね。
「さっきは驚かせましたね。ゆっくり休んでください」
そう言って白馬の頭を撫でると嬉しそうに鼻を寄せてくれました。
ここからは歩いて山登りです。
イスラは先に行ってしまいましたが、ここは観光地にもなっている場所なので迷うことはないでしょう。
「ブレイラ、こっちだ。転ばないように気を付けろ」
「大丈夫ですよ。あなた、私が山育ちなのをお忘れですか?」
「そうだったな」
軽口を交わしながら山道を登っていく。
山道といっても緩やかな傾斜が続く道で難所らしい場所はありません。それに私たちの周囲には常に護衛兵や女官や侍女が控えていて、あまり山を登っているという気にはなりませんでした。
でも途中には小動物や珍しい植物が見ることができて、ちょっとした散策を楽しめます。
そして木々に囲まれた山道をしばらく歩き、小高い崖の上に出る。
「これはすごいっ……」
目の前に開けた絶景に息を飲みました。
緑の山々に突如出現した巨大な白いカーテン。全長十キロ以上にも及ぶ崖の裂け目から、約二百メートルも下の川に向かって水が直下している。辺りには凄まじい大瀑布の音が響いて、水飛沫がここまで届きそうです。
正面の崖から望める迫力の絶景に、言葉も忘れてしまう。見ているだけで圧倒されて、飲み込まれてしまいそうでした。
「お待ちしておりました。魔王様、ブレイラ様」
大絶景に言葉を失っていると、先に到着していたランディに声を掛けられました。
大瀑布を案内してくれるランディは私たちの到着をずっと待っていてくれたのです。
でも昨日のこともあって、ランディはハウストと顔を合わせ難そうでした。当然ですよね、不問にされたとはいえ会議逃亡は有り得ないですから。
「あ、あの、魔王様、……き、昨日は……まことに申し訳なくっ……」
じろりとハウストが目を向けると、「申し訳ありませんでした!!」ランディが飛び上がって勢いよく頭を下げました。
そんなランディをハウストが静かに見下ろします。
「昨日の会議はつまらなかったか?」
「い、いいえ、そういう訳ではなくっ。その、あの場に……不相応な自分に居た堪れなくなってしまって、それで……」
「逃げたか」
「それは、その、……はい。……ほんとうに、不甲斐なく、申し訳ありませんでした……」
ランディの声が小さくなっていく。
ただでさえ気弱そうな男なのに、ハウストの前で完全に萎縮されていました。
「まあいい、ランドルフから詫びられて不問にしている」
「父上が……、そうですか……」
ランディはそれきり黙りこんでしまいました。
視線は地面に落ちて、肩が下がってしまっている。ハウストを前にしていることもありますが、ランドルフの名前が出てから更に落ち込んだようでした。
もう見ていられません。私はさり気なく間に入り、ランディに声をかける。
「イスラは先に来ていませんでしたか?」
「えっ?」
突然声を掛けられたランディが驚いたように顔をあげました。
ここへ来るまでの街道で浮かべていた微笑をつくり、ランディに優しい声色で言葉を続けます。
「馬を降りてイスラだけ先に走っていってしまったんです。先に来ていると思うのですが」
「は、はいっ。来ています! イスラ様なら見ました! すぐに呼んできますので!!」
ランディが急いで駆けだして行きました。
この場から解放されて内心ほっとしていることでしょう。
私は隣のハウストをちらりと見上げます。
呆れた顔で見上げていると、気付いたハウストが少し居心地悪そうに顎を引く。
「……なんだ」
「いじわるですね。昨夜は笑って話していた癖に、本人の前であんな怖い顔して。それにわざとランドルフ様の名前をだしましたね?」
「知っていたか」
「はい、昨日の孤児院でランディ様を見つけてからジョアンヌ夫人から聞きました。ランディ様はランドルフ様に劣等感をお持ちのようですね」
親子関係はいたって良好だそうですが、先代当主と現当主という関係になると駄目なようです。
ランディは後継者として力不足の自覚があるようで、少なくともこのままで良いとは思っていないのです。しかし身近にランドルフのような存在があることは、彼にとって大きな重圧でした。
先代当主のランドルフは先代魔王時代に西の領土を守りぬいた傑物なのです。ランディは素直に尊敬しながらも、何かと比べられて苦しい思いをしてきたそうですから。
「ランドルフも出たがりな男だからな。自分で当主の座を譲った癖に、息子が気になって気になって仕方ないようだ」
「……それは困りましたね」
私は親がいないので父親と息子の微妙な関係というのはよく分かりません。
でも、それでもそれが良くない傾向だというのは分かりますよ。おそらくランディの劣等感を育てまくっていることでしょう。
少ししてランディとともにイスラが戻ってきました。
42
お気に入りに追加
294
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる