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勇者のママは環の婚礼を魔王様と≪婚約編≫
二ノ環・西の大公爵4
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「ご迷惑をおかけします」
「お気になさらないでください。とても嬉しく思っているんです」
ウフフッ。ジョアンヌは上機嫌に笑っています。
ルンルンと鼻歌でも歌いだしそうな様子に私の方が困惑してしまう。
「ど、どうかしたんですか?」
「ブレイラ様が、このように小さな孤児院を気に掛けてくださる御方で嬉しいのですわ」
そう言うとジョアンヌは孤児院を見つめたまま十年以上前のことを語りだしました。
そう、ハウストの父親である先代魔王の時代です。
「先代魔王の時代、魔界はもちろん精霊界にまで脅威が及び、多くの秩序が破滅的な破壊を受けました。当代魔王のハウスト様が叛逆していなければ、今頃は魔界や精霊界、人間界すらどうなっていたか分かりません。滅びの一途を辿っていたことでしょう」
「多くの魔族の方が亡くなったと聞いています」
「はい。ここの孤児院にも、その時に両親を亡くした子どもが何人かいると思います」
ジョアンヌは語りながら視線を落としましたが、次には明るい笑顔を浮かべます。
「でもハウスト様が魔王になってから、魔界の秩序は甦りました。先ほど視察に行った王立士官学校も以前は貴族の子息しか通うことが許されない学校でした。しかし魔王様はすべての子どもたちに門戸を開いてくださったんです。もちろん試験はありますけど、それは貴族の子息も一緒。魔界のすべての子どもたちに等しい救いのある仕組みを整えてくださいました。この小さな孤児院のような所にも便宜が図られるようになって、支援が叶うようになったんです」
「そうでしたかっ……」
この気持ちをなんと表現すれば良いのでしょうか。
誇らしさと愛おしさが込み上げてくる。
私はハウストの一面しか知らないのです。もちろんその一面は私を愛してくれているハウスト。一人の男としてのハウストです。
そして今、語られているハウストは魔界の統治者、魔王としてのハウストでした。
知っているようで知らなかったハウストの統治者としての姿が誇らしい。もっと聞いていたくなります。
嬉しくなって無意識に顔が綻んでしまう私に、ジョアンヌが笑いかけてきました。
「魔王様が妃にとお求めになられたのがブレイラ様のような方で良かったです。心無いことをおっしゃる方もいるかもしれませんが、魔王様と仲睦まじくお過ごしくださいね」
「ありがとうございます!」
心強い言葉に感謝しかありません。
できることならメルディナに聞かせてやりたいくらいですよ。
「ウフフッ、私ども西の者は敬愛する魔王様のご婚約を心から喜んでいますわ。あ、ブレイラ様、どうやら孤児院の方々がお許し下さったそうです。参りましょう」
さっそくとばかりに孤児院に案内されました。
手を繋いでいたイスラは、自分と同じ年頃の子どもたちの姿に目を輝かせます。
イスラは同年代の子どもとなかなか接点を持てないこともあって、子ども同士で遊んだことがないのです。いつも森で魔狼と勇者ごっこをしています。
「イスラ、声をかけてみてはどうです。遊んできてもいいですよ?」
「…………で、でも」
イスラが照れ臭そうに私の足にしがみ付きました。
しかしチラチラと子どもたちを見ています。遊んでいる子どもたちに混ざりたいのに勇気が出ないようです。
おかしなものですね。大人相手には太々しい態度をとることもあるのに、子ども相手では緊張するようでした。
「仕方ないですね。最初だけですよ?」
苦笑するとイスラの手を引き、遊んでいる子どもたちに近づきました。
イスラは相変わらず私の足にしがみ付いたままですが子どもたちの遊びを興味津々で見ています。
「こんにちは。よかったら、この子とも一緒に遊んでくれませんか? ほらイスラ、ご挨拶は?」
「イ、イ、イスラ、です!」
教えた『です』付きの挨拶をしました。とても緊張しているようですが大人を相手にする時より上手です。
そんなイスラを子どもたちが満面の笑顔で迎えてくれる。
「いいよー!」
「いっしょにあそぼー!」
「こっちであそぼうよ!」
「いく! オレもいく!」
イスラの顔がパァッと輝いて、子どもたちとともに駆けていきました。
初めて同年代の子どもと遊べて興奮しているのか、いつもよりはしゃいで見えるのは見間違いじゃないでしょう。相変わらず無愛想ですが瞳だけがやたらとキラキラしています。
「勇者様にもお友達ができそうで良かったわ」
「はい、お陰様で」
私とジョアンヌは孤児院の施設内を案内されます。
一応名目は視察ということになっているので、政務らしきことはしておかなければ。
こうして施設内を歩いていましたが、ふと、孤児院の広間から賑やかなはしゃぎ声が聞こえました。
子どもたちの楽しそうな声に誘われるようにして広間へ行くと、そこには子どもたちの遊び相手になっている一人の男性がいます。
ですが、その姿を見て私とジョアンヌは驚愕する。
「な、なな、なんでここにっ……」
「ラ、ラララ、ララ、ランディ!!」
悲鳴のような声で名を叫んだジョアンヌ。
そう、そこにいたのはランディ。
今、ハウストと同じ会議のテーブルに着いているはずの西の大公爵だったのです……。
「お気になさらないでください。とても嬉しく思っているんです」
ウフフッ。ジョアンヌは上機嫌に笑っています。
ルンルンと鼻歌でも歌いだしそうな様子に私の方が困惑してしまう。
「ど、どうかしたんですか?」
「ブレイラ様が、このように小さな孤児院を気に掛けてくださる御方で嬉しいのですわ」
そう言うとジョアンヌは孤児院を見つめたまま十年以上前のことを語りだしました。
そう、ハウストの父親である先代魔王の時代です。
「先代魔王の時代、魔界はもちろん精霊界にまで脅威が及び、多くの秩序が破滅的な破壊を受けました。当代魔王のハウスト様が叛逆していなければ、今頃は魔界や精霊界、人間界すらどうなっていたか分かりません。滅びの一途を辿っていたことでしょう」
「多くの魔族の方が亡くなったと聞いています」
「はい。ここの孤児院にも、その時に両親を亡くした子どもが何人かいると思います」
ジョアンヌは語りながら視線を落としましたが、次には明るい笑顔を浮かべます。
「でもハウスト様が魔王になってから、魔界の秩序は甦りました。先ほど視察に行った王立士官学校も以前は貴族の子息しか通うことが許されない学校でした。しかし魔王様はすべての子どもたちに門戸を開いてくださったんです。もちろん試験はありますけど、それは貴族の子息も一緒。魔界のすべての子どもたちに等しい救いのある仕組みを整えてくださいました。この小さな孤児院のような所にも便宜が図られるようになって、支援が叶うようになったんです」
「そうでしたかっ……」
この気持ちをなんと表現すれば良いのでしょうか。
誇らしさと愛おしさが込み上げてくる。
私はハウストの一面しか知らないのです。もちろんその一面は私を愛してくれているハウスト。一人の男としてのハウストです。
そして今、語られているハウストは魔界の統治者、魔王としてのハウストでした。
知っているようで知らなかったハウストの統治者としての姿が誇らしい。もっと聞いていたくなります。
嬉しくなって無意識に顔が綻んでしまう私に、ジョアンヌが笑いかけてきました。
「魔王様が妃にとお求めになられたのがブレイラ様のような方で良かったです。心無いことをおっしゃる方もいるかもしれませんが、魔王様と仲睦まじくお過ごしくださいね」
「ありがとうございます!」
心強い言葉に感謝しかありません。
できることならメルディナに聞かせてやりたいくらいですよ。
「ウフフッ、私ども西の者は敬愛する魔王様のご婚約を心から喜んでいますわ。あ、ブレイラ様、どうやら孤児院の方々がお許し下さったそうです。参りましょう」
さっそくとばかりに孤児院に案内されました。
手を繋いでいたイスラは、自分と同じ年頃の子どもたちの姿に目を輝かせます。
イスラは同年代の子どもとなかなか接点を持てないこともあって、子ども同士で遊んだことがないのです。いつも森で魔狼と勇者ごっこをしています。
「イスラ、声をかけてみてはどうです。遊んできてもいいですよ?」
「…………で、でも」
イスラが照れ臭そうに私の足にしがみ付きました。
しかしチラチラと子どもたちを見ています。遊んでいる子どもたちに混ざりたいのに勇気が出ないようです。
おかしなものですね。大人相手には太々しい態度をとることもあるのに、子ども相手では緊張するようでした。
「仕方ないですね。最初だけですよ?」
苦笑するとイスラの手を引き、遊んでいる子どもたちに近づきました。
イスラは相変わらず私の足にしがみ付いたままですが子どもたちの遊びを興味津々で見ています。
「こんにちは。よかったら、この子とも一緒に遊んでくれませんか? ほらイスラ、ご挨拶は?」
「イ、イ、イスラ、です!」
教えた『です』付きの挨拶をしました。とても緊張しているようですが大人を相手にする時より上手です。
そんなイスラを子どもたちが満面の笑顔で迎えてくれる。
「いいよー!」
「いっしょにあそぼー!」
「こっちであそぼうよ!」
「いく! オレもいく!」
イスラの顔がパァッと輝いて、子どもたちとともに駆けていきました。
初めて同年代の子どもと遊べて興奮しているのか、いつもよりはしゃいで見えるのは見間違いじゃないでしょう。相変わらず無愛想ですが瞳だけがやたらとキラキラしています。
「勇者様にもお友達ができそうで良かったわ」
「はい、お陰様で」
私とジョアンヌは孤児院の施設内を案内されます。
一応名目は視察ということになっているので、政務らしきことはしておかなければ。
こうして施設内を歩いていましたが、ふと、孤児院の広間から賑やかなはしゃぎ声が聞こえました。
子どもたちの楽しそうな声に誘われるようにして広間へ行くと、そこには子どもたちの遊び相手になっている一人の男性がいます。
ですが、その姿を見て私とジョアンヌは驚愕する。
「な、なな、なんでここにっ……」
「ラ、ラララ、ララ、ランディ!!」
悲鳴のような声で名を叫んだジョアンヌ。
そう、そこにいたのはランディ。
今、ハウストと同じ会議のテーブルに着いているはずの西の大公爵だったのです……。
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