勇者のママは環の婚礼を魔王様と

蛮野晩

文字の大きさ
上 下
12 / 103
勇者のママは環の婚礼を魔王様と≪婚約編≫

二ノ環・西の大公爵2

しおりを挟む
 陽が沈む頃、私たちは予定どおり西都の城門を潜りました。
 西都は険しい山々に囲まれた自然豊かな都です。流れる河川は光を弾いたように輝き、目にも鮮やかな自然の緑が都のいたる所で楽しめます。広大な都でありながら自然と共存する素晴らしい場所でした。
 馬車が停車し、ゆっくりと扉が開かれます。
 一番先にイスラが馬車からぴょんっと飛びだして、次にハウストが降りていきます。
 そして最後の私を振り返り、手を差し出してくれました。
 知っています。こういう時は手に手を置くのですよね。
 こういったエスコートはやっぱり慣れませんが、パートナーからのそれは素直に受け入れるのがマナーだと学びました。ましてや私はハウストと結婚するのですから尚更です。

「足元に気を付けろ」
「ありがとうございます」

 馬車から降りると、ずらりと整列していた西都の方々に出迎えられました。西の大公爵ランディとその関係者の方々です。

「ようこそいらっしゃいました!」
「よ、ようこそおいでくださいましたっ」

 公爵家の家紋を身に着けた二人の男性が近づいてきました。見るからに豪快そうな巨漢とひょろりと縦に長い長身の青年です。
 二人の姿にハウストは穏やかな笑みを浮かべる。

「久しぶりだな。息災か?」
「お陰様で。魔王様もお元気そうでなによりです」

 巨漢の男が親しげにハウストと話し、次いで私を見て恭しく礼をしました。

「初めまして、先代当主のランドルフです。そしてこっちが息子の、おい、ランディ」
「は、はい父上っ。お初にお目にかかりますっ、当主のランディと申します……!」

 ランドルフにせっつかれるようにしてランディが挨拶してくれました。
 なるほど、こちらの巨漢が先代当主のランドルフ。ハウストがまだ現役で通用すると言っただけあってとても壮健です。
 そしてこちらの高身長の青年が現当主のランディ。彼は豪快なランドルフと並んでいるせいか頼りなく見えてしまいます。でもこの若さで当主の座を譲られた訳ですから、きっととても頼もしい方なのでしょう。
 彼らの自己紹介が終わると次は私とイスラです。でも先にハウストが間に入ってくれます。
 ハウストは私の背中に手を当て、ランドルフとランディに紹介してくれる。

「紹介しよう。俺の婚約者のブレイラ。この子どもが勇者イスラだ」
「初めまして、ブレイラと申します。この子がイスラです」

 そう言ってイスラの手を引いてお辞儀しました。イスラも手を繋がれたままぺこりと頭を下げます。

「オレがゆうしゃだ」
「こ、こらイスラ。そうじゃなくて、ほら、最後は『です』ですよ」

 言葉足らずすぎて太々しいイスラの自己紹介に私の方が焦ってしまいます。
 私の言葉にイスラもハッとして、またぺこりと頭を下げて最初からやり直します。

「ゆうしゃのイスラ、です」
「ガハハハハハッ、これはこれはご丁寧に! 三界の王の一人、勇者様にこうしてお会いできるとは恐悦至極!」

 ランドルフは大きな声で豪快に笑いました。
 そして一頻り笑うと、ハウストと私に向き直ります。

「魔王様、ブレイラ様、この度はご婚約おめでとうございます!」
「おめでとうございます」

 ランドルフとランディが改めて婚約をお祝いしてくれました。
 婚約宣言をした時に書簡を頂きましたが、こうして直接お祝いされると嬉しいものです。

「ありがとうございます」
「ありがとう」
「仲睦まじくて結構なことです。まさかあの人間嫌いの魔王様が人間を妃に迎えられるとは」
「いろいろあってな」
「先代魔王の件は聞いております。でもだからこそ、人間をお迎えするとは驚きました」

 ランドルフの直球すぎる言葉にハウストは苦笑し、私は笑ってしまいそうになります。
 豪快な見た目どおり裏表のない方なのですね。いささかまっすぐ過ぎるようですが。

「さあ、魔王様、ブレイラ様、勇者様、こちらへどうぞ。視察でいらっしゃっていることは存じていますが、どうぞごゆるりとお過ごしください。といっても西の領土の自慢は豊かな自然だけですが」
「それを楽しみにきている。名所の大瀑布をブレイラとイスラにも見せてやりたい」
「それは良いっ。ランディに案内させましょう!」
「は、はいっ。ご案内いたします!」

 後ろを歩いていたランディが慌てて返事をしました。
 現当主はランディの筈なのですが、この影の薄さではどちらが当主か分かりませんね。私が想像していた人物像と少し違っていました。でもランドルフ同様、悪い方ではないようです。
 そのまま私たちは西都の中心にある大公爵の城館に案内されました。
 この後、ランドルフやランディと食事会があるのです。
 有りがたいことに到着した今日は盛大な催しが開かれることはありません。西の領土の貴族たちとの夜会は明日からの催しでした。
 そう、明日からは予定がぎっしり詰まっています。
 ハウストは朝から会議があります。そして私はというと、王妃外交の一環で西都を視察します。といってもまだ本格的なものではなく、視察という名の散策のようなものです。西都を案内して頂けるのです。
 でも私にとっては初めての王妃外交。しかもハウストと別行動なので緊張します。
 明日に備えて今日はゆっくりしたかったので、今夜は食事会だけで助かりました。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

処理中です...