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第二章・慈悲の聖女クレディア・シーウェル
同居人(悪魔)かペットか2
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「知ってるか? 隷属には精神支配と肉体支配がある」
「それがどうしたって言うの?」
「喜べよ、お前は特別だ。全部してやる。死んだ方がマシだと思うほど抱いてやるよ」
ギルタレスの赤い瞳が鈍く光る。
本気だ。本気で殺す以外のなにもかもをする気だ。
また胸を揉みしだかれて顔を顰める。その手つきは快感を呼び起こさせようとするもので、私は淡々としたまま深く深呼吸した。
引くな。怯むな。ここで飲まれればギルタレスの思い通りになってしまう。
悪魔に主導権を握らせることは、私への侵害。それは許してはならないもの。
私はギルタレスを見上げて口元に笑みを刻む。
「じゃあ、あなたは奴隷に飼われる奴隷以下ってことになるのか。ふーん、強欲の王っておもしろいんだね、それってペットってことでしょ?」
「ああ? どういう」
「どけってことよ!!」
ガッ!!
一瞬の隙をついて膝蹴りした。
強烈な膝蹴りがギルタレスの下腹部にめり込む。
「ぐっ……!」
突然の攻撃にギルタレスが怯んだ隙に下から転がり出た。
人間ならあばら骨の五本六本は粉砕する蹴りだ。
しかし……。
「……自分がなにしたか分かってんのか」
ギルタレスの低い声。
まさに地獄の底から響いてくるようなそれ。
さっきの膝蹴りていどではギルタレスになんのダメージも与えられないということ。
しかし身体ダメージは無理だったとしても、精神的な屈辱は充分だったようだ。
空気がビリビリと張り詰めて息がつまりそう。
ギルタレスの怒りに空気が震動している。
「こんな屈辱は初めてだ。死ぬ以上の苦しみを与えてやる」
「これが屈辱って、どんだけ繊細なのよ」
ギルタレスを見据えたまま身構えた。
乱された制服はそのままだが直す暇なんかない。そもそも裸を見られる羞恥などない。そんなものにいちいち反応していたら聖女など務まらない。
「強欲の王だろうとここは人間界。悪魔はさっさと地獄に引っ込んでなさい!!」
一気に距離を詰めて背後を取った。
ギルタレスは瞬時に反撃してくるけど、それは予測済み。――――ピカリッ! 反撃される寸前、魔法陣を発動させた。
私の攻撃魔法は通じない。けれど光の眩しさは感じるはず!
「死ね!」
ギルタレスが怯んだ隙に真横から脇腹に蹴りを一発。
すかさず背後から蹴り飛ばそうとして、――――ガシリッ!!
「そこまでだ」
ギルタレスに片足を掴まれ、そのまま逆さに吊るすように持ち上げられた。
逃れようともう片方の足で蹴りつけるも嘲笑うように払われる。
ぶらんと逆さに宙吊りにされて目が据わる。気分が悪い。
「離しなさいよ」
「祈りの詠唱無しで攻撃魔法とは。やはり欲しい」
そう言ってギルタレスがニヤリと笑う。
不快すぎる。ますます気分が悪い。
「離しなさい」
「俺に媚びろ。へつらえ。奴隷にしてくださいと懇願しろ。それなら許してやる」
「離せ」
「最後通牒だ。媚びろ、へつらえ、懇願しろ」
「調子に乗るなよ」
声ががらりと低くなる。最高に不愉快だ。
「…………。いい度胸だ、そこだけは褒めてやる。だがそれは身を滅ぼすぜ」
「たとえ滅んでも、……私を侵害することは許さない!! オラアッ!!!!」
グイッ!! 宙吊りのまま腹筋だけで一気に上半身を持ち上げた。
突然の動きにギルタレスが反応するが、怯まない! ――――ガシリッ!! 勢いのまま手を伸ばしてギルタレスの首を鷲掴みにした。
「捕まえた! 食らえ!!」
ドンッ!!
手中に魔力を集中して爆発させた。
人間なら一発で首が吹っ飛んで即死もの。
でも相手は悪魔。一発じゃ足りない!
ドンドンドンドンッ!!!!
徹底した連続攻撃。手加減なんて一切しない。
しかし。
「体術と魔法、悪くない組み合わせだ。ザコ悪魔なら跡形も残ってねぇな」
しかし、そこにいるのは地獄の七大盟主の一人・強欲の王ギルタレス。
そこにあるのは人智を越えた絶望的な力の差だった。
「首、離せよ」
「うぐぅっ、く……ッ」
首を鷲掴んでいた私の手首が掴まれた。
ぎりぎりと手首を掴まれて、痛みに奥歯を噛みしめる。
指が痺れて、掴んでいた首から引き離されたが、その時。
――――ジャラリ……。
「え?」
「は?」
ふと聞こえた音、それは鎖の音だ。
しかも鷲掴んだギルタレスの首元から聞こえていて、想定外のそれに思わずギルタレスと目が合う。
お互い呆気に取られた顔をして、おそるおそるギルタレスの首から手を離すと。……ジャララ。ジャラジャラ。
「な、なんだこれ!?」
「なにこれ!?」
二人して素っ頓狂な声をあげた。
私の手の平から鉄の鎖が飛び出してギルタレスの首に繋がっている。しかもギルタレスの首には首輪があって、それはまるでペットの首輪とリード……。
訳が分からない、…………が。
「っ、ああああ!!」
心当たりが一つある!!
クレディアの手紙!!
さっき床に落とした手紙を探す。
「それがどうしたって言うの?」
「喜べよ、お前は特別だ。全部してやる。死んだ方がマシだと思うほど抱いてやるよ」
ギルタレスの赤い瞳が鈍く光る。
本気だ。本気で殺す以外のなにもかもをする気だ。
また胸を揉みしだかれて顔を顰める。その手つきは快感を呼び起こさせようとするもので、私は淡々としたまま深く深呼吸した。
引くな。怯むな。ここで飲まれればギルタレスの思い通りになってしまう。
悪魔に主導権を握らせることは、私への侵害。それは許してはならないもの。
私はギルタレスを見上げて口元に笑みを刻む。
「じゃあ、あなたは奴隷に飼われる奴隷以下ってことになるのか。ふーん、強欲の王っておもしろいんだね、それってペットってことでしょ?」
「ああ? どういう」
「どけってことよ!!」
ガッ!!
一瞬の隙をついて膝蹴りした。
強烈な膝蹴りがギルタレスの下腹部にめり込む。
「ぐっ……!」
突然の攻撃にギルタレスが怯んだ隙に下から転がり出た。
人間ならあばら骨の五本六本は粉砕する蹴りだ。
しかし……。
「……自分がなにしたか分かってんのか」
ギルタレスの低い声。
まさに地獄の底から響いてくるようなそれ。
さっきの膝蹴りていどではギルタレスになんのダメージも与えられないということ。
しかし身体ダメージは無理だったとしても、精神的な屈辱は充分だったようだ。
空気がビリビリと張り詰めて息がつまりそう。
ギルタレスの怒りに空気が震動している。
「こんな屈辱は初めてだ。死ぬ以上の苦しみを与えてやる」
「これが屈辱って、どんだけ繊細なのよ」
ギルタレスを見据えたまま身構えた。
乱された制服はそのままだが直す暇なんかない。そもそも裸を見られる羞恥などない。そんなものにいちいち反応していたら聖女など務まらない。
「強欲の王だろうとここは人間界。悪魔はさっさと地獄に引っ込んでなさい!!」
一気に距離を詰めて背後を取った。
ギルタレスは瞬時に反撃してくるけど、それは予測済み。――――ピカリッ! 反撃される寸前、魔法陣を発動させた。
私の攻撃魔法は通じない。けれど光の眩しさは感じるはず!
「死ね!」
ギルタレスが怯んだ隙に真横から脇腹に蹴りを一発。
すかさず背後から蹴り飛ばそうとして、――――ガシリッ!!
「そこまでだ」
ギルタレスに片足を掴まれ、そのまま逆さに吊るすように持ち上げられた。
逃れようともう片方の足で蹴りつけるも嘲笑うように払われる。
ぶらんと逆さに宙吊りにされて目が据わる。気分が悪い。
「離しなさいよ」
「祈りの詠唱無しで攻撃魔法とは。やはり欲しい」
そう言ってギルタレスがニヤリと笑う。
不快すぎる。ますます気分が悪い。
「離しなさい」
「俺に媚びろ。へつらえ。奴隷にしてくださいと懇願しろ。それなら許してやる」
「離せ」
「最後通牒だ。媚びろ、へつらえ、懇願しろ」
「調子に乗るなよ」
声ががらりと低くなる。最高に不愉快だ。
「…………。いい度胸だ、そこだけは褒めてやる。だがそれは身を滅ぼすぜ」
「たとえ滅んでも、……私を侵害することは許さない!! オラアッ!!!!」
グイッ!! 宙吊りのまま腹筋だけで一気に上半身を持ち上げた。
突然の動きにギルタレスが反応するが、怯まない! ――――ガシリッ!! 勢いのまま手を伸ばしてギルタレスの首を鷲掴みにした。
「捕まえた! 食らえ!!」
ドンッ!!
手中に魔力を集中して爆発させた。
人間なら一発で首が吹っ飛んで即死もの。
でも相手は悪魔。一発じゃ足りない!
ドンドンドンドンッ!!!!
徹底した連続攻撃。手加減なんて一切しない。
しかし。
「体術と魔法、悪くない組み合わせだ。ザコ悪魔なら跡形も残ってねぇな」
しかし、そこにいるのは地獄の七大盟主の一人・強欲の王ギルタレス。
そこにあるのは人智を越えた絶望的な力の差だった。
「首、離せよ」
「うぐぅっ、く……ッ」
首を鷲掴んでいた私の手首が掴まれた。
ぎりぎりと手首を掴まれて、痛みに奥歯を噛みしめる。
指が痺れて、掴んでいた首から引き離されたが、その時。
――――ジャラリ……。
「え?」
「は?」
ふと聞こえた音、それは鎖の音だ。
しかも鷲掴んだギルタレスの首元から聞こえていて、想定外のそれに思わずギルタレスと目が合う。
お互い呆気に取られた顔をして、おそるおそるギルタレスの首から手を離すと。……ジャララ。ジャラジャラ。
「な、なんだこれ!?」
「なにこれ!?」
二人して素っ頓狂な声をあげた。
私の手の平から鉄の鎖が飛び出してギルタレスの首に繋がっている。しかもギルタレスの首には首輪があって、それはまるでペットの首輪とリード……。
訳が分からない、…………が。
「っ、ああああ!!」
心当たりが一つある!!
クレディアの手紙!!
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