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第二章・慈悲の聖女クレディア・シーウェル
聖女のありふれたさいご2
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「まず、先日は任務で助けてくれてありがとうございました。私と聖女モーリスがこうして無事に帰ってこれたのはロロットさんのおかげです」
そう言ってナタリーが深々と頭を下げる。
とても真剣に礼を言われたけれど、パフェを食べながら「そう」と言った。それしか返事がないからだ。
でもナタリーはゆっくり顔をあげると、少し寂しそうに笑って決意を紡ぐ。
「私、聖女になるのを諦めることにしたの。さっき退学届けを出してきたわ」
「そう」
パクパク、モグモグ。パフェを食べる手は止めない。
そんな私にナタリーは目を丸めて、でも小さく苦笑して話しだす。
「私の実家は古くから続いてる魔道具職人なんだけど、どうしても後を継ぎたくなくて聖女になることにしたのね。聖女だったらお父さんもなにも言えないし。でも、やっぱり命が惜しくなっちゃった。だから、取り返しのつかないことになる前に自主退学することにしたの」
「そう」
パクパク、モグモグ。パフェを食べながら返事をした。
取り返しがつかないことって、どんなレベルだろ。
生き残ったとしても腕や足を失うこと? 他にも半身不随とか内臓破裂とか、死んだ方がマシだと思うほどの痛みや苦しみや恥辱がある。実際死んでしまうことだって珍しくない。
大怪我を免れたとしても発狂して精神が病んでしまうことだってよくあることだ。
ナタリーは少し迷いながらも先日の任務後のことを話しだす。
「あのあと村から教団にお礼の手紙が送られてきたんだって。あの討伐から犠牲者が出なくなったみたいで、とても感謝してたわ」
「そう」
「それとね、聖女モーリスなんだけど、……やっぱり回復は難しいみたい。第三療養施設の特別保護棟に入院したって」
「そう」
私は淡々と返事をした。
教団は悪魔討伐をする聖女のために療養施設も営んでいる。
第一療養施設は悪魔討伐で大怪我をした聖女を外科治療する施設で、世界各地から集めた優秀な医師が治療にあたっている。第二療養施設は聖女に復帰するためのリハビリ専門施設。
そして第三療養施設とは悪魔討伐で精神を病んだ聖女が入所する施設だった。しかも特別保護棟に入院する聖女は自我が崩壊しており、社会復帰するのも困難な状態になっている。
「……会話も難しい状態だけど、よかったらお見舞いに行ってあげてね」
「そう」
もちろん行くつもりはない。
モーリスとは先日の任務が初対面だ。はっきり言って情はない。同じ候補生のナタリーにも情はない。そもそも聖女が怪我をするのは日常茶飯事で、入院しただけでいちいち大騒ぎはしない。
この話しが終わった頃、丁度パフェを感触して食後のコーヒーも飲んだ。満足だ。
「それじゃあ、そろそろ行くね。お疲れさま」
私はそう言って立ち上がる。
ナタリーも立ち上がって深々と頭を下げた。
「助けてくれてありがとう。ロロットさんなら強い聖女になれるよ。さようなら」
「うん、さようなら」
私はそう言ってカフェを出た。
私が見えなくなるまでナタリーは見送っていたけど、私は振り返らなかった。
もう学園でナタリーを見かけることはないだろう。
もうモーリスが聖女として悪魔討伐の最前線に立つことはないだろう。
これは聖女のありふれた最後。今まで何百人何千人の聖女が迎えた最後の形。それは決して珍しいことじゃない。
「おい、さっきのなんだ。あの長細いガラスの筒に入ってたやつ」
ギルタレスが興味津々に聞いてきた。
さっきカフェにいた時もいろんなテーブルを見て回っては「おい、これはなんだ!」「こっちのは変な形してるぞ!」と質問攻め状態だったのだ。地獄の盟主は三千年振りの人間界に好奇心を隠しきれていなかった。もちろん全部無視したけど。
「おい答えろって。ケチケチすんな。三千年前の人間はもっと素直だったぜ」
「脅してただけでしょ。……まったくうるさいんだから。あれは筒じゃなくてパフェグラス。食べてたのはフルーツパフェ」
「なるほど、フルーツパフェか。覚えておこう」
「……パフェとか地獄にないの? 王様なんでしょ?」
「馬鹿か、似たようなのはあっても別もんだ。地獄は食材が違うんだからな。当たり前だろ、人間界じゃねぇんだから」
「…………」
呆れた顔で言われてなにも言い返せない。
それはそうだ。迂闊な質問だった……。
仕方ないので私は無視して寮に向かって歩き続ける。
「おい、なんとか言えよ」とギルタレスが纏わりつくけど前を見て歩き続けた。そもそも誰が見てるか分からない場所でギルタレスとあんまり会話することは出来ない。
こうして私はようやく寮に帰れるのだった。
そう言ってナタリーが深々と頭を下げる。
とても真剣に礼を言われたけれど、パフェを食べながら「そう」と言った。それしか返事がないからだ。
でもナタリーはゆっくり顔をあげると、少し寂しそうに笑って決意を紡ぐ。
「私、聖女になるのを諦めることにしたの。さっき退学届けを出してきたわ」
「そう」
パクパク、モグモグ。パフェを食べる手は止めない。
そんな私にナタリーは目を丸めて、でも小さく苦笑して話しだす。
「私の実家は古くから続いてる魔道具職人なんだけど、どうしても後を継ぎたくなくて聖女になることにしたのね。聖女だったらお父さんもなにも言えないし。でも、やっぱり命が惜しくなっちゃった。だから、取り返しのつかないことになる前に自主退学することにしたの」
「そう」
パクパク、モグモグ。パフェを食べながら返事をした。
取り返しがつかないことって、どんなレベルだろ。
生き残ったとしても腕や足を失うこと? 他にも半身不随とか内臓破裂とか、死んだ方がマシだと思うほどの痛みや苦しみや恥辱がある。実際死んでしまうことだって珍しくない。
大怪我を免れたとしても発狂して精神が病んでしまうことだってよくあることだ。
ナタリーは少し迷いながらも先日の任務後のことを話しだす。
「あのあと村から教団にお礼の手紙が送られてきたんだって。あの討伐から犠牲者が出なくなったみたいで、とても感謝してたわ」
「そう」
「それとね、聖女モーリスなんだけど、……やっぱり回復は難しいみたい。第三療養施設の特別保護棟に入院したって」
「そう」
私は淡々と返事をした。
教団は悪魔討伐をする聖女のために療養施設も営んでいる。
第一療養施設は悪魔討伐で大怪我をした聖女を外科治療する施設で、世界各地から集めた優秀な医師が治療にあたっている。第二療養施設は聖女に復帰するためのリハビリ専門施設。
そして第三療養施設とは悪魔討伐で精神を病んだ聖女が入所する施設だった。しかも特別保護棟に入院する聖女は自我が崩壊しており、社会復帰するのも困難な状態になっている。
「……会話も難しい状態だけど、よかったらお見舞いに行ってあげてね」
「そう」
もちろん行くつもりはない。
モーリスとは先日の任務が初対面だ。はっきり言って情はない。同じ候補生のナタリーにも情はない。そもそも聖女が怪我をするのは日常茶飯事で、入院しただけでいちいち大騒ぎはしない。
この話しが終わった頃、丁度パフェを感触して食後のコーヒーも飲んだ。満足だ。
「それじゃあ、そろそろ行くね。お疲れさま」
私はそう言って立ち上がる。
ナタリーも立ち上がって深々と頭を下げた。
「助けてくれてありがとう。ロロットさんなら強い聖女になれるよ。さようなら」
「うん、さようなら」
私はそう言ってカフェを出た。
私が見えなくなるまでナタリーは見送っていたけど、私は振り返らなかった。
もう学園でナタリーを見かけることはないだろう。
もうモーリスが聖女として悪魔討伐の最前線に立つことはないだろう。
これは聖女のありふれた最後。今まで何百人何千人の聖女が迎えた最後の形。それは決して珍しいことじゃない。
「おい、さっきのなんだ。あの長細いガラスの筒に入ってたやつ」
ギルタレスが興味津々に聞いてきた。
さっきカフェにいた時もいろんなテーブルを見て回っては「おい、これはなんだ!」「こっちのは変な形してるぞ!」と質問攻め状態だったのだ。地獄の盟主は三千年振りの人間界に好奇心を隠しきれていなかった。もちろん全部無視したけど。
「おい答えろって。ケチケチすんな。三千年前の人間はもっと素直だったぜ」
「脅してただけでしょ。……まったくうるさいんだから。あれは筒じゃなくてパフェグラス。食べてたのはフルーツパフェ」
「なるほど、フルーツパフェか。覚えておこう」
「……パフェとか地獄にないの? 王様なんでしょ?」
「馬鹿か、似たようなのはあっても別もんだ。地獄は食材が違うんだからな。当たり前だろ、人間界じゃねぇんだから」
「…………」
呆れた顔で言われてなにも言い返せない。
それはそうだ。迂闊な質問だった……。
仕方ないので私は無視して寮に向かって歩き続ける。
「おい、なんとか言えよ」とギルタレスが纏わりつくけど前を見て歩き続けた。そもそも誰が見てるか分からない場所でギルタレスとあんまり会話することは出来ない。
こうして私はようやく寮に帰れるのだった。
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