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第二章・慈悲の聖女クレディア・シーウェル
枢機卿・慈悲の聖女クレディア・シーウェル
しおりを挟む王都の中心、そこには天まで届くような巨大な大聖堂がある。
石造りの大聖堂は荘厳な造りをしていて、王都のどこにいても見えるほどだ。
そしてこの大聖堂こそヴェリタリアス教団本部である。
私が前回本部へ来たのは聖女候補生として学園に入学した時。入学式の式典は大聖堂の大礼拝堂で行なわれたのだ。
私は混雑する正門を横目に裏門へ回る。
正門には今日もたくさんの信者が集い、大礼拝堂で祈りを捧げるための順番を待っていた。民は悪魔を恐れて信者となり神に救いを求めているのだ。
大聖女は神の御使いとなって民を救っているのだという。
裏門を通ると警備の兵士が立っていた。
「ロロット・カーデリアです。クレディア様から呼ばれて参上しました」
「聞いている。入れ」
大聖堂に入ると、高い天井と重厚さに圧倒された。
壁や柱には繊細な彫刻が施されてまるで美術館のようだ。少しひんやりしているのは石造りのせいだろう。
どこからともなく讃美歌が響いていて、それがいっそ雰囲気を盛り上げていた。
案内役に連れられて大聖堂の長い廊下や回廊を歩く。これが莫大な寄付金によって造られたのだと思うと感慨深い。
私も聖女になったらたくさん稼いで城のような家を建てたいものだ。この造りは参考にさせてもらおう。
感心していると、隣を歩くギルタレスは違う意味で感心していた。
「……あんまり好きな雰囲気じゃねぇな」
「居心地の悪さを感じてくれて安心したわ」
「奴隷ならもっと媚びた発言しろ」
「奴隷ならもっと私に気遣って。たとえば地獄に帰るとか」
「安心しろ、お前を奴隷にするまでいてやるよ。帰る時はお前も一緒だ」
「そういう無茶な目標持たないほうがいいわよ。永遠に地獄に帰れなくなる」
軽口を叩きながら歩く。もちろん案内役に気付かれないように小声だ。
しばらく歩くと花の装飾が施された大きな両扉の前に連れてこられた。
どうやらここに慈悲の聖女クレディア・シーウェルがいるようだ。
「クレディア様、失礼いたします。ロロット・カーデリアを連れて参りました」
「ご苦労様です。どうぞ中へ通してください」
室内から落ち着いた声が聞こえてきた。
入室許可が出て案内役が厳しい顔で振り返る。
「失礼のないように気を付けろ。本当なら聖女候補生の身分では直接言葉を交わすことすら許されない相手だ」
「分かっていますよ」
ならば呼び出さないでほしいものだ。
私を呼んだのはクレディアの方なのだから。
両扉の片側だけが開かれる。
「ロロット・カーデリア、参上いたしました」
そう言って一礼し、ゆっくりと顔をあげる。
室内にいたのはまるで聖母のような麗人だった。
聖母といってもクレディアは女性ではなく男性だ。
クレディアの絹糸のような金髪は美しく、翡翠色の瞳は深い慈しみの色を宿している。
光を纏ったかのような美貌は中性的で性別の生々しさを感じさせず、まるで古い絵画に描かれた麗人のようだった。
クレディアが優しく微笑する。
「初めまして、枢機卿のクレディア・シーウェルと申します。突然呼びだしてしまってごめんなさい。よく来てくれました」
さあこちらにと奥へ促される。
ついていくと陽射しが差し込むガラス張りのサロンに案内され、テーブルには華やかなティーセットが用意されていた。
でもティーセットを見て緊張が高まった。
だって三人分のカップが並べられていたのだ。
……他にも客が来るのだと思いたい。
「どうぞ座ってください」
「は、はい……」
内心冷や汗を流しながらソファに座る。
クレディアは優しく微笑んだままテーブルのお菓子の説明をしてくれた。
どれも他国から取り寄せた一流パティシエのものらしいが、そんな説明頭に入ってこない。
「紅茶も淹れますから、ゆっくり召し上がってくださいね」
カップに紅茶がそそがれて、それぞれの前に置かれていく。
まず私の前、クレディアの前のカップはそのままに、最後の一つは――――ギルタレスの前へ。
クレディアはギルタレスに向かって微笑みかける。
「三千年振りの人間界はいかがですか? 人間界のお菓子がお口に合うといいのですが」
「見えていたか」
ギルタレスが淡々と答えた。
そしてどかりっとソファに座り、背もたれに凭れて尊大にクレディアを見る。
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