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勇者と冥王のママは創世を魔王様と
第九章・魔界騒乱~王と月と~12
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「ブレイラ、うれしそうだ」
「はい、嬉しいんです。ほんとうに」
隣のイスラも嬉しそうに私の顔を覗き込んでくれる。
まだ問題は山積みですが少しだけ気持ちが落ち着きました。
いい子いい子とイスラの頭を撫でて抱き寄せます。
これからも私とイスラとゼロスの三人でいられるのですね。ほんとうに良かった。
私はハウストに向き直って深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「……何も終わっていない。これからだ」
「はい。それでも今は礼を言わせてください」
そう言ってまた頭を下げた私をハウストは黙ったまま見ていました。
そんな私たちにフェリクトールが声を掛けてきます。
「で、玉座奪還には魔王みずからも行くつもりなのか?」
「当たり前だ。気にいらんと言っただろう」
当然のようにハウストが答えました。
魔王の決定事項にフェリクトールは呆れたようなため息をつく。
「反対しても無駄なようだな。……まあいい、今の冥界に転移するには神格の王の力が必要だ、仕方ない」
「ああ、魔界の守りを頼む」
こうしてハウストが冥界に行くことが決まり、他にもジェノキス、アベル、イスラ、そして冥王ゼロスも行くことが決まります。
それなら当然私も一緒ですよね。だってイスラとゼロスが行くのに親の私が同行しないなど有り得ません。
決行が明日に決まって緊張が高まります。
「イスラ、ゼロス、頑張りましょうね」
「うん!」
「あぶっ!」
元気に頷いた二人に顔が綻ぶ。今夜はゆっくり休んで明日に備えなければいけませんね。
気合いを入れていると、ふとハウストが私を見ます。
「ブレイラ、お前は魔界に残っていろ」
「え?」
予想外のことに目を丸めました。
待ってください。今、ハウストはなんて……。
反応が遅れた私にハウストは更に続けます。
「今の冥界は魔族や精霊族でさえ危険な場所だ。お前が同行することは認められない」
「で、でもイスラとゼロスが行くなら、私もっ」
「イスラは勇者、ゼロスは冥王だ」
「私は二人の親ですっ。あなただって私が親だと認めてくれてるじゃないですか!」
「だが、お前は人間だ」
「っ……」
反論できなくて唇を噛みしめました。
私は魔力が無いばかりか、自分の身を守ることも出来ないのです。
でも諦めきれない。
ゼロスの戴冠は必要なこと。勇者イスラや冥王ゼロスが冥界へ行くのは仕方ないこと。二人が行くのに私だけ留守番なんて嫌です。我儘だと分かっています、でも。
「ブレイラ、魔王の言葉は尤もだ。今の冥界に君が立ち入ることは危険すぎる」
「フェリクトール様までっ……」
フェリクトールまでハウストに同意しました。
いいえ、彼だけではありません。仕方ない事だと言いたげに皆が私を見ている。ジェノキスもアベルも同じ気持ちのようでした。
……反論したくてもできなくなる。
きっとそれが正しい判断なのでしょう。
皆は私が憎くて残れと言っている訳じゃない。
それは分かっています。分かっていますが……。
視線が落ちて、イスラが私を見ていることに気付きました。
いつもは一緒がいいと言ってくれるイスラも黙って私を見ています。
あなたも同じ気持ちなのですね。それは私を心配してくれているから。
「……すみません。少し頭を冷やしてきます」
これ以上この場所にいたら皆の気持ちを無視する我儘を言ってしまいそうでした。
勝手は承知でしたが一人になりたくてゼロスをイスラに預けます。
私は静かに立ち上がり、応接間を後にしました。
◆◆◆◆◆◆
「ブレイラ、かなしくなったかな……」
残されたイスラがゼロスを抱っこしたままぽつりと呟く。
側にいたアベルが「大丈夫だ」と慰めるが、応接間を出て行ったブレイラの背中は寂しそうなものだった。
でも、イスラもブレイラには今の冥界に行ってほしくなかった。もちろん一緒に行きたいけど、今の冥界がとても危険な場所だということは間違いない。イスラはブレイラを守りたいのだ。
だが。
イスラは少し離れた位置に座っているハウストを見た。
ずっと、ずっと違和感を覚えている。
イスラの知っているハウストは、ブレイラに寂しい思いをさせないのだから。
こうして応接間の話し合いが終わる。
明日、冥界へ行くのはハウスト、イスラ、ゼロス、ジェノキス、アベルの五人。
目的は冥王の玉座の奪還。そして冥王ゼロスの戴冠。
それは新しい時代と平穏をもたらす為の決断だった。
◆◆◆◆◆◆
「はい、嬉しいんです。ほんとうに」
隣のイスラも嬉しそうに私の顔を覗き込んでくれる。
まだ問題は山積みですが少しだけ気持ちが落ち着きました。
いい子いい子とイスラの頭を撫でて抱き寄せます。
これからも私とイスラとゼロスの三人でいられるのですね。ほんとうに良かった。
私はハウストに向き直って深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「……何も終わっていない。これからだ」
「はい。それでも今は礼を言わせてください」
そう言ってまた頭を下げた私をハウストは黙ったまま見ていました。
そんな私たちにフェリクトールが声を掛けてきます。
「で、玉座奪還には魔王みずからも行くつもりなのか?」
「当たり前だ。気にいらんと言っただろう」
当然のようにハウストが答えました。
魔王の決定事項にフェリクトールは呆れたようなため息をつく。
「反対しても無駄なようだな。……まあいい、今の冥界に転移するには神格の王の力が必要だ、仕方ない」
「ああ、魔界の守りを頼む」
こうしてハウストが冥界に行くことが決まり、他にもジェノキス、アベル、イスラ、そして冥王ゼロスも行くことが決まります。
それなら当然私も一緒ですよね。だってイスラとゼロスが行くのに親の私が同行しないなど有り得ません。
決行が明日に決まって緊張が高まります。
「イスラ、ゼロス、頑張りましょうね」
「うん!」
「あぶっ!」
元気に頷いた二人に顔が綻ぶ。今夜はゆっくり休んで明日に備えなければいけませんね。
気合いを入れていると、ふとハウストが私を見ます。
「ブレイラ、お前は魔界に残っていろ」
「え?」
予想外のことに目を丸めました。
待ってください。今、ハウストはなんて……。
反応が遅れた私にハウストは更に続けます。
「今の冥界は魔族や精霊族でさえ危険な場所だ。お前が同行することは認められない」
「で、でもイスラとゼロスが行くなら、私もっ」
「イスラは勇者、ゼロスは冥王だ」
「私は二人の親ですっ。あなただって私が親だと認めてくれてるじゃないですか!」
「だが、お前は人間だ」
「っ……」
反論できなくて唇を噛みしめました。
私は魔力が無いばかりか、自分の身を守ることも出来ないのです。
でも諦めきれない。
ゼロスの戴冠は必要なこと。勇者イスラや冥王ゼロスが冥界へ行くのは仕方ないこと。二人が行くのに私だけ留守番なんて嫌です。我儘だと分かっています、でも。
「ブレイラ、魔王の言葉は尤もだ。今の冥界に君が立ち入ることは危険すぎる」
「フェリクトール様までっ……」
フェリクトールまでハウストに同意しました。
いいえ、彼だけではありません。仕方ない事だと言いたげに皆が私を見ている。ジェノキスもアベルも同じ気持ちのようでした。
……反論したくてもできなくなる。
きっとそれが正しい判断なのでしょう。
皆は私が憎くて残れと言っている訳じゃない。
それは分かっています。分かっていますが……。
視線が落ちて、イスラが私を見ていることに気付きました。
いつもは一緒がいいと言ってくれるイスラも黙って私を見ています。
あなたも同じ気持ちなのですね。それは私を心配してくれているから。
「……すみません。少し頭を冷やしてきます」
これ以上この場所にいたら皆の気持ちを無視する我儘を言ってしまいそうでした。
勝手は承知でしたが一人になりたくてゼロスをイスラに預けます。
私は静かに立ち上がり、応接間を後にしました。
◆◆◆◆◆◆
「ブレイラ、かなしくなったかな……」
残されたイスラがゼロスを抱っこしたままぽつりと呟く。
側にいたアベルが「大丈夫だ」と慰めるが、応接間を出て行ったブレイラの背中は寂しそうなものだった。
でも、イスラもブレイラには今の冥界に行ってほしくなかった。もちろん一緒に行きたいけど、今の冥界がとても危険な場所だということは間違いない。イスラはブレイラを守りたいのだ。
だが。
イスラは少し離れた位置に座っているハウストを見た。
ずっと、ずっと違和感を覚えている。
イスラの知っているハウストは、ブレイラに寂しい思いをさせないのだから。
こうして応接間の話し合いが終わる。
明日、冥界へ行くのはハウスト、イスラ、ゼロス、ジェノキス、アベルの五人。
目的は冥王の玉座の奪還。そして冥王ゼロスの戴冠。
それは新しい時代と平穏をもたらす為の決断だった。
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