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【創世後番外編】ブレイラの髪飾り

ブレイラの髪飾り5

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 ハウストが外遊に赴いてから六日目。
 今日はハウストが王都に帰ってくる日です。
 私は朝から帰還の報せを待ちわびていました。
 彼にはお話ししたいことがあります。もちろんそれは大量のお土産のこと。これはどういう事かと問い詰めたい。
 でもそれは出迎えた後で。
 ハウストが帰ってきてくれることが一番嬉しいのです。まずは帰還の喜びで出迎えたいですからね。

「ブレイラ様、魔王様が東都よりお戻りになります」
「帰って来るんですね!」

 ハウストが帰還した報せが齎されたのは昼過ぎ。
 私は丁度昼食を終えた頃で、イスラとゼロスを連れてお出迎えに向かいます。
 城の正面玄関に向かうとそこには既に多くの士官や女官が整列していました。
 私はその最前中央に立って、ハウストの隊列が帰ってくるのを待ちます。
 間もなくして見えてきたのは魔王の軍旗と隊列。軍旗が風に靡く光景に私の胸も高鳴りました。

「イスラ、ゼロス、ハウストが帰ってきましたよ。ほらあそこ」
「わっ、ハウストだ! オレ、じょうずにおかえりなさいできるぞ!」
「あぶっ、あー、うー」
「二人ともお利口ですね。いい子です」

 いい子いい子と二人の頭を撫でる。
 そうこうしているうちにハウストの隊列が正門を潜って私の前で止まりました。
 大型馬車の扉が開き、ハウストが出てきます。
 そしてまっすぐ私の元へ歩いてくる彼に、私もゼロスを抱っこし、イスラの手を引いて歩み寄りました。

「ただいま、ブレイラ」
「おかえりなさい。お待ちしていました」
「ああ、長い六日間だった」

 そう言ってハウストが私を抱き寄せ、唇に口付けてくれる。
 私もハウストにお返しの口付けをして、手を繋いでいるイスラを前に促しました。

「おかえり、ハウスト!」
「ただいま。留守役ご苦労だった」
「だいじょうぶ、ちゃんとブレイラまもってた!」
「偉いぞ」
「まかせろ!」

 胸を張るイスラにハウストは目を細め、次に私が抱っこしているゼロスを見ます。

「ただいま。お前も留守役ご苦労だったな」
「あいっ。あーあー!」

 ゼロスが抱っこしろとばかりに手を伸ばして、ハウストが穏やかに笑ってゼロスの小さな体を抱っこする。
 久しぶりのハウストにゼロスは安心したのか、ちゅちゅちゅちゅ、いつもの指吸いです。
 ハウストはゼロスを片腕で抱っこし、留守役の重鎮たちを見回します。

「留守役ご苦労だった。何も変わりはなかったか?」
「長旅お疲れ様でした。城も万事変わりなく」
「それならいい」

 ハウストが重鎮と言葉を交わす間、私はフェリクトールを出迎えます。
 フェリクトールに向かって深々とお辞儀しました。

「おかえりなさい。お疲れ様でした」
「ああ、ほんとに疲れたよ」

 フェリクトールは相変わらずの様子で答えます。
 でもその顔はいつもより渋面なのは気の所為ではないでしょう。私にも思い当たることがあります。

「……あの、フェリクトール様、留守中にハウストから」
「その話しは今しないでくれ。思い出すだけでもうんざりする」
「ああ、やっぱり……」

 どうやら的中のようでした。
 なんだか申し訳なくなる私をフェリクトールが呆れた顔で見ます。

「外遊の度にあれでは困る。魔王は君に御執心だ」
「ハウストが……。それは嬉しいことです」
「……嫌味のつもりで言ったんだが」
「えっ、あ、すみませんっ」

 顔が熱くなりました。
 今回のお土産攻めは困ったことでしたが、それでも嬉しくないわけではないのです。

「魔王も魔王なら王妃も王妃か……。まあいい、あとは君がなんとかしたまえ。それも王妃の役目だ」
「心得ました」

 こうしてフェリクトールに挨拶していると「ブレイラ、行くぞ」とハウストに呼ばれます。
 フェリクトールにお辞儀して側に戻ると、彼が私の腰に手を添えて城へと促しました。
 ここまではいつもと同じ帰還の出迎え。
 さあ、ここからですね。



 ハウストが外遊から帰ってきて城はいつもの日常を取り戻します。
 帰還したばかりのハウストの為に私は紅茶を淹れました。

「外遊お疲れ様でした。どうぞ」
「ありがとう」

 ハウストは私の淹れた紅茶に嬉しそうに笑み、こっちに来いと隣に呼んでくれる。
 広いソファに座るハウストの隣に腰を下ろし、私も自分の紅茶に口を付けました。
 家族そろって居間で過ごす憩いの時間です。
 少し離れた場所ではイスラとゼロスが積み木遊びをしている。二人の子どもの賑やかな声に目を細め、ハウストを見つめました。

「西都と東都はどうでした?」
「変わりなく、いい所だったぞ。今度はお前も連れて行こう」
「それは楽しみです。約束ですからね」
「ああ、楽しみにしていろ」

 ハウストが満足気に頷く。
 私も笑みが零れましたが、ハウストにお話ししなければならないことがあります。そろそろ本題に入りましょう。

「ハウスト、外遊先からたくさんのお土産を贈ってくださってありがとうございました」
「喜んでくれたか?」
「それはもう、毎日送られてくるお土産に心臓がドキドキしました」

 嘘じゃないです。いろんな意味でドキドキしていました。
 しかし喜びと受け取ったハウストが「それは良かった」と顔を明るくする。
 その様子に、外遊中も私のことを思ってくれていたことに嬉しくなりました。
 たくさんのお土産は驚いたけれど、やはり嬉しいものは嬉しいのです。でも限度というものがあるのですよ。
 今、城の幾つもの広間はハウストから贈られてきたお土産で埋め尽くされています。それはもうお店が開けてしまうほど。
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