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【暁後番外編】クロードが弟になって三日目のゼロス

クロードが弟になって三日目のゼロス3 ※時系列・暁本編後

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「おいしいですか?」
「おいしい~!」
「良かった。また作ってあげますね」
「うん!」

 大きく頷いたゼロスにブレイラは目を細めると、次は抱っこしているクロードに構いだす。

「クロード、どうぞ。あなたはこちらです」

 ブレイラが赤ちゃんでも握りやすい細い形のクッキーを差し出した。
 クロードの為に用意された赤ちゃん用のクッキーだ。これもブレイラの手作りである。
 ゼロスは内心ムッとしたが、『クロードのクッキーはぼくのオマケだから』と自分を宥めた。

「うー、……むにゃむにゃ……、うー」

 クロードが小さな手でクッキーを握り、低くうなりながら口に入れてむにゃむにゃしている。
 目を据わらせて不機嫌そうな顔をしているがクッキーは離さないので食べたいのだろう。

「おいしいですか?」
「うー」
「ふふふ、可愛いですね」

 ブレイラが目を細めて笑いかけた。
 ゼロスには分からない。いつもムッとした顔でうなっているだけなのに、いったいどこが可愛いのか。
 でもブレイラはニコニコしながら抱っこして、「可愛いですね」と話しかけている。

「あっ、クロード、つぶれてます」
「うー」
「うー、じゃありません。手をみせてください」

 ブレイラがクロードの小さな手を慌てて拭く。
 小さな手には唾液で溶けたクッキーがべっちょりついていたのだ。
 しかしクロードはクッキーを取り上げられたと思ったのか。

「うぅ~っ、あぶっ!」

 べちゃり!
 ブレイラの綺麗な衣装に小さな手形がついた。よだれで溶けたクッキーの手形。
 怒ったクロードが手を振り回し、ブレイラの衣装が汚れてしまったのだ。
 それを見たゼロスが怒った声をあげる。

「あああっ、ダメなのに~! クロード、ダメ! そんなことしちゃダメ~!!」

 ゼロスがプンプン怒りだす。
 だってこれはいけない事だ。お行儀が悪いし、食べ物をおもちゃにしてはいけないし、ブレイラの綺麗な衣装まで汚れてしまった。
 ゼロスは期待する。ブレイラだって絶対怒ってるはずだ。クロードを『こらーっ』てするはずなのだ。クロードなんて、たくさん怒られればいいのだ。

「ブレイラも、クロードをダメってして!」
「……ええ、ダメってするんですか?」
「して! クロードに『こらっー』ってして!」

 ゼロスは駄々をこねるように言うと、今度はキッとクロードを睨む。

「クロード、すわって! すわりなさい!」

 ゼロスは腰に手を当ててクロードに声を上げた。
 正座だ。叱られる時は正座するのだ。ブレイラに叱られる時、ゼロスはしている。
 しかし。

「ふふふ、クロードはまだ一人で座れないんですよ」

 ブレイラがおかしそうに笑いながら言った。
 怒っていると思ったのにブレイラはクロードを見つめて「ね?」と優しく言葉をかけている。

「おこってないの?! ブレイラのおようふく、よごしたのに?!」
「怒りませんよ。クロードはまだ赤ちゃんですから」

 ブレイラはクロードを抱っこしたまま、「クッキー、取られたと思ったんですか?」と楽しそうに話しかけている。
 ゼロスはプンプン怒っているのに、ブレイラはクロードにばっかり話しかけて、笑いかけて……。ムカムカムカ。ゼロスの胸のムカムカが広がりだした。
 さらに追い打ちをかけるように女官がブレイラに声をかける。

「王妃様、お召し物をお着替えください。汚れたままでは……」
「このままで大丈夫ですよ。拭けば綺麗になります」

 ブレイラはそう返したが、「ですが……」と女官が困ってしまう。

「王妃様のお召し物がそれでは示しがつきません。どうかお着替えを」
「そうでしたね、ワガママを言いました」

 ブレイラは苦笑して頷くと、ゼロスを振り返った。
 その顔は申し訳なさそうでゼロスは嫌な予感がする。聞きたくないなと思ったが、ブレイラが口を開いてしまう。

「ゼロス、ごめんなさい。着替えに行かなくてはならなくなりました。だから私はこれで失礼しますね」
「えっ、ブレイラ、もういくの?!」
「着替えが終わる頃には政務に戻る時間になっていますから。あなたは時間までゆっくりおやつを楽しんでください」

 ブレイラはそう言うと、クロードを抱っこして立ち上がった。
 女官や侍女を従えて東屋を出ていくブレイラ。
 遠ざかるブレイラの後ろ姿をゼロスは愕然と見送った。

「なんで……、どうしてっ……」

 がくりっ、ゼロスはその場に崩れ落ちた。
 地面に両膝をつき、拳をぎりりっと握りしめる。
 そんなゼロスに世話係りのマアヤが「……ゼ、ゼロス様、大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけるが、もちろんゼロスの耳には届かない。
 ゼロスは震えた。
 東屋に一人残り、握りしめた拳をふるふると震わせていた。
 それは、怒りの震え。

「クロードおおぉぉぉぉ~……!」

 地底から響いたような声。
 ゼロスの胸のムカムカが炎のようなメラメラになっていく。――――嫉妬。嫉妬。嫉妬。
 嫉妬の嵐が巻き起こり、憤怒が爆発したのだ。
 ゼロスはぎりっと唇を噛みしめて、メラメラの瞳で顔を上げた。
 ……クロードのせいだっ。
 ブレイラがおやつの時間を切り上げたのも、自分がブレイラと二人きりになれないのも、たくさんおしゃべりできないのも、たくさん抱っこしてもらえないのも、たくさん構ってもらえないのも、一緒に眠ることができないのも。ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶぜ~~んぶ、クロードのせいだ!!
 ゼロスは決意する。
 必ず、必ずクロードからブレイラを取り返すことを!!
 あの赤ちゃんの魔の手からブレイラを取り戻し、ブレイラにたくさん甘えて構ってもらうのだ!!!!




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