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【暁後番外編】クロードが弟になって三日目のゼロス
クロードが弟になって三日目のゼロス2 ※時系列・暁本編後
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そして今日、クロードが来て三日目である。
朝。ゼロスは昨夜の胸のムカムカを覚えつつも目が覚めた。
でもムカムカはすぐに薄れてくれた。
だって側にはカエルのぬいぐるみがあって、夜中にブレイラが来てくれたことが分かったからだ。
昨夜ゼロスは眠ってしまったけれどブレイラはやっぱり来てくれたんだと嬉しくなった。
だから朝、一番にブレイラの元へ駆け出した。カエルのぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて城の長い回廊を走る。
大きな声で朝の挨拶をすれば、ブレイラは優しく笑んで『おはようございます』と返してくれる。それが聞きたくて、姿が見たくて、だから朝一番にブレイラを探した。するとすぐに見つかった。
城の回廊を女官や侍女の一団が進んでいて、その中心にブレイラがいたのだ。しかもブレイラはクロードを抱っこしていない。今ならブレイラと二人になれる!
「ブレイラ、おはよー!」
「おはようございます。ゼロス」
ブレイラが気付いて立ち止まった。
囲んでいた女官や侍女が下がって控え、ゼロスに向かって恭しくお辞儀する。
ゼロスはまっすぐにブレイラに駆け寄って、その足にぎゅっと抱きついた。
「ゼロス、昨夜はごめんなさい。あなたが眠る時、側にいてあげられませんでした」
「ううん、いいの。ブレイラ、きてくれたから」
ゼロスははにかんで、ブレイラに抱き着いたままカエルのぬいぐるみを見た。
そんなゼロスにブレイラは目を細め、膝をついて目線を合わせる。
ゼロスは嬉しくなってブレイラにぎゅっとした。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「ねむれた」
「寂しくありませんでしたか?」
「だいじょうぶだった」
もちろんうそだ。大丈夫じゃなかった。結局一人で眠ったけれど、大丈夫じゃなかったのだ。
でも昨夜ブレイラは来てくれたから我慢できる。ゼロスは眠っていたけれど嬉しかった。
「ねえ、ブレイラ。きょう、いっしょにあそぼ? もりにね、かわいいおはながさいてたの。ブレイラにおしえてあげる」
「それは素敵ですね、ぜひ見たいです。でも、ごめんなさい。今日はクロードの健康診断なんです」
「けんこうしんだん?」
「はい。クロードは三日前に王都に来たばかりですから、環境の変化で体調を崩していないか医務官に診てもらう日なんですよ」
「そうなんだ……」
ゼロスは肩を落とした。
今日はブレイラと一緒に過ごしたかったのだ。
「……けんこうしんだん、おわってからは?」
「今日は政務も立て込んでいるんです。でも一緒におやつをいただきましょうか。休憩時間は一緒に過ごせますよ」
「ほんと?!」
「はい」
「やった~! それなら、あのね、あのね……」
ゼロスが恥ずかしそうにブレイラをちらちら見た。
どうしてもお願いしたいことがある。
「……ふ、ふたりがいいのっ。ブレイラと、ふたり」
思い切ってお願いした。
クロードが来てからブレイラと二人になっていない。どうしてもブレイラと二人になって、たくさんお話しして、たくさん抱っこしてほしかった。
「いいですよ。ではクロードがお昼寝している時に、一緒に庭園でおやつにしましょうか」
「する! する~!!」
ゼロスはグッと拳を握りしめた。
ゼロスの顔はキラキラと輝いて、胸のムカムカがあっという間に薄れていく。
「ゼロスの今日の予定は算術と地学の講義でしたね。お勉強頑張ってください」
「はいっ、がんばります!!」
「お利口ですね」
ゼロスの返事にブレイラが微笑んだ。
そのブレイラの微笑にゼロスはますます嬉しくなる。
この後すぐブレイラは「クロード様がお目覚めです」と女官に呼ばれてクロードのところに行ってしまったけれど、ゼロスは笑顔で見送ることができた。
だって、今日はブレイラと二人で過ごす約束をしたのだから。
そしてとうとう約束の時間が来た。
午前中は算術と地学の講義をとても頑張った。いつもより集中して頑張ったゼロスに講師が「あのゼロス様が、こんなに真面目に講義をっ」と驚いたくらいだ。
講義を終えたゼロスは部屋を飛び出して、ブレイラが待っているはずの庭園に向かって駆けだした。
今からブレイラと二人の時間。お膝に抱っこしてもらって、たくさんおしゃべりして、美味しいお菓子を一緒に食べるのだ。あーんで食べさせてもらえたらもっと嬉しい。
ゼロスは想像するだけで浮かれて、ルンルン♪フンフン♪と鼻歌まで口ずさむ。
庭園に出ると東屋に向かう。そこはブレイラのお気に入りの場所なのだ。
東屋の周囲には女官や侍女たちが控えている。そこにブレイラがいるということ。
ゼロスは嬉しくなって、東屋に向かって走りながら大きく手を振った。
「ブレイラ~! ぼく、きたよ~!! お~いっ、お~……い、……」
大きな声で呼びながら走っていたが、……その声が萎んでいった。
声だけではない。元気よく駆けていた足もみるみる勢いをなくし、満面笑顔だった顔が次第に強張っていく。
だって、だって、そこにいたのはブレイラだけじゃなかった。
そう、ブレイラの膝にクロードが抱っこされていたのだ。
「ど、どうして……」
ゼロスは愕然とした。
ブレイラと二人だけのはずだったのに、それなのに、それなのにっ……。
「あ、ゼロス。こちらですよ」
ブレイラが笑顔で手を振ってくれる。
言いたいことがたくさんあるけれど、ブレイラの笑顔になにも言えない。
ゼロスはとぼとぼ歩いて東屋に入った。
「ブレイラ……」
「待っていましたよ」
「う、うん……」
ゼロスは頷きながらも、ブレイラが抱っこしているクロードを見た。
それに気付いたブレイラが申し訳なさそうに説明してくれる。
「健康診断にびっくりしたようでクロードのお昼寝がずれてしまったんです……。いつもならこの時間はお昼寝してるんですが……」
「そうなんだ……」
「ごめんなさい。クロードも一緒でいいですか?」
「…………。……いいよ……」
「ありがとうございます」
「うん……」
ほんとうはイヤだった。
でもイヤだなんて言えるはずがなかった。
「どうぞ、座ってください」
ブレイラに促され、ゼロスは隣に座る。ちらりと横を見た。
ゼロスが座るはずだったブレイラのお膝にはクロードがいた。無愛想な顔で「うー」とうなっている。
女官がゼロスに紅茶を淹れてくれた。ミルクたっぷりの甘い紅茶と華やかなお菓子。
毎日一流の職人が作った美味しいお菓子が用意されるが、今日はそのなかにブレイラが作ったクッキーを見つける。それに気付いたゼロスの顔がパッと輝く。
「ブレイラ、これっ」
ウサギやネコやクマなど可愛い動物のクッキーにゼロスの気持ちが明るくなった。
「ふふふ、気付いてくれましたか? 時間がなくて凝ったものは出来ませんでしたが作ってみました。あなたからの、せっかくのお誘いでしたから」
「あ、ありがとう! うれしい! ぼく、すごくうれしい!」
ゼロスは感激した。
ブレイラはゼロスの為に作ってくれたのだ。
ゼロスはさっそくクッキーに手を伸ばす。
パクリッ、モグモグ。パクリッ、モグモグ。ゼロスは嬉しそうにクッキーを頬張る。
朝。ゼロスは昨夜の胸のムカムカを覚えつつも目が覚めた。
でもムカムカはすぐに薄れてくれた。
だって側にはカエルのぬいぐるみがあって、夜中にブレイラが来てくれたことが分かったからだ。
昨夜ゼロスは眠ってしまったけれどブレイラはやっぱり来てくれたんだと嬉しくなった。
だから朝、一番にブレイラの元へ駆け出した。カエルのぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて城の長い回廊を走る。
大きな声で朝の挨拶をすれば、ブレイラは優しく笑んで『おはようございます』と返してくれる。それが聞きたくて、姿が見たくて、だから朝一番にブレイラを探した。するとすぐに見つかった。
城の回廊を女官や侍女の一団が進んでいて、その中心にブレイラがいたのだ。しかもブレイラはクロードを抱っこしていない。今ならブレイラと二人になれる!
「ブレイラ、おはよー!」
「おはようございます。ゼロス」
ブレイラが気付いて立ち止まった。
囲んでいた女官や侍女が下がって控え、ゼロスに向かって恭しくお辞儀する。
ゼロスはまっすぐにブレイラに駆け寄って、その足にぎゅっと抱きついた。
「ゼロス、昨夜はごめんなさい。あなたが眠る時、側にいてあげられませんでした」
「ううん、いいの。ブレイラ、きてくれたから」
ゼロスははにかんで、ブレイラに抱き着いたままカエルのぬいぐるみを見た。
そんなゼロスにブレイラは目を細め、膝をついて目線を合わせる。
ゼロスは嬉しくなってブレイラにぎゅっとした。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「ねむれた」
「寂しくありませんでしたか?」
「だいじょうぶだった」
もちろんうそだ。大丈夫じゃなかった。結局一人で眠ったけれど、大丈夫じゃなかったのだ。
でも昨夜ブレイラは来てくれたから我慢できる。ゼロスは眠っていたけれど嬉しかった。
「ねえ、ブレイラ。きょう、いっしょにあそぼ? もりにね、かわいいおはながさいてたの。ブレイラにおしえてあげる」
「それは素敵ですね、ぜひ見たいです。でも、ごめんなさい。今日はクロードの健康診断なんです」
「けんこうしんだん?」
「はい。クロードは三日前に王都に来たばかりですから、環境の変化で体調を崩していないか医務官に診てもらう日なんですよ」
「そうなんだ……」
ゼロスは肩を落とした。
今日はブレイラと一緒に過ごしたかったのだ。
「……けんこうしんだん、おわってからは?」
「今日は政務も立て込んでいるんです。でも一緒におやつをいただきましょうか。休憩時間は一緒に過ごせますよ」
「ほんと?!」
「はい」
「やった~! それなら、あのね、あのね……」
ゼロスが恥ずかしそうにブレイラをちらちら見た。
どうしてもお願いしたいことがある。
「……ふ、ふたりがいいのっ。ブレイラと、ふたり」
思い切ってお願いした。
クロードが来てからブレイラと二人になっていない。どうしてもブレイラと二人になって、たくさんお話しして、たくさん抱っこしてほしかった。
「いいですよ。ではクロードがお昼寝している時に、一緒に庭園でおやつにしましょうか」
「する! する~!!」
ゼロスはグッと拳を握りしめた。
ゼロスの顔はキラキラと輝いて、胸のムカムカがあっという間に薄れていく。
「ゼロスの今日の予定は算術と地学の講義でしたね。お勉強頑張ってください」
「はいっ、がんばります!!」
「お利口ですね」
ゼロスの返事にブレイラが微笑んだ。
そのブレイラの微笑にゼロスはますます嬉しくなる。
この後すぐブレイラは「クロード様がお目覚めです」と女官に呼ばれてクロードのところに行ってしまったけれど、ゼロスは笑顔で見送ることができた。
だって、今日はブレイラと二人で過ごす約束をしたのだから。
そしてとうとう約束の時間が来た。
午前中は算術と地学の講義をとても頑張った。いつもより集中して頑張ったゼロスに講師が「あのゼロス様が、こんなに真面目に講義をっ」と驚いたくらいだ。
講義を終えたゼロスは部屋を飛び出して、ブレイラが待っているはずの庭園に向かって駆けだした。
今からブレイラと二人の時間。お膝に抱っこしてもらって、たくさんおしゃべりして、美味しいお菓子を一緒に食べるのだ。あーんで食べさせてもらえたらもっと嬉しい。
ゼロスは想像するだけで浮かれて、ルンルン♪フンフン♪と鼻歌まで口ずさむ。
庭園に出ると東屋に向かう。そこはブレイラのお気に入りの場所なのだ。
東屋の周囲には女官や侍女たちが控えている。そこにブレイラがいるということ。
ゼロスは嬉しくなって、東屋に向かって走りながら大きく手を振った。
「ブレイラ~! ぼく、きたよ~!! お~いっ、お~……い、……」
大きな声で呼びながら走っていたが、……その声が萎んでいった。
声だけではない。元気よく駆けていた足もみるみる勢いをなくし、満面笑顔だった顔が次第に強張っていく。
だって、だって、そこにいたのはブレイラだけじゃなかった。
そう、ブレイラの膝にクロードが抱っこされていたのだ。
「ど、どうして……」
ゼロスは愕然とした。
ブレイラと二人だけのはずだったのに、それなのに、それなのにっ……。
「あ、ゼロス。こちらですよ」
ブレイラが笑顔で手を振ってくれる。
言いたいことがたくさんあるけれど、ブレイラの笑顔になにも言えない。
ゼロスはとぼとぼ歩いて東屋に入った。
「ブレイラ……」
「待っていましたよ」
「う、うん……」
ゼロスは頷きながらも、ブレイラが抱っこしているクロードを見た。
それに気付いたブレイラが申し訳なさそうに説明してくれる。
「健康診断にびっくりしたようでクロードのお昼寝がずれてしまったんです……。いつもならこの時間はお昼寝してるんですが……」
「そうなんだ……」
「ごめんなさい。クロードも一緒でいいですか?」
「…………。……いいよ……」
「ありがとうございます」
「うん……」
ほんとうはイヤだった。
でもイヤだなんて言えるはずがなかった。
「どうぞ、座ってください」
ブレイラに促され、ゼロスは隣に座る。ちらりと横を見た。
ゼロスが座るはずだったブレイラのお膝にはクロードがいた。無愛想な顔で「うー」とうなっている。
女官がゼロスに紅茶を淹れてくれた。ミルクたっぷりの甘い紅茶と華やかなお菓子。
毎日一流の職人が作った美味しいお菓子が用意されるが、今日はそのなかにブレイラが作ったクッキーを見つける。それに気付いたゼロスの顔がパッと輝く。
「ブレイラ、これっ」
ウサギやネコやクマなど可愛い動物のクッキーにゼロスの気持ちが明るくなった。
「ふふふ、気付いてくれましたか? 時間がなくて凝ったものは出来ませんでしたが作ってみました。あなたからの、せっかくのお誘いでしたから」
「あ、ありがとう! うれしい! ぼく、すごくうれしい!」
ゼロスは感激した。
ブレイラはゼロスの為に作ってくれたのだ。
ゼロスはさっそくクッキーに手を伸ばす。
パクリッ、モグモグ。パクリッ、モグモグ。ゼロスは嬉しそうにクッキーを頬張る。
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