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勇者のママは海で魔王様と
Ⅵ・船長と幼馴染と4
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「エルマリス、明日の処刑は正午からでしたよね」
「はい」
「太陽が真上にあがる頃、天に召されるのですね。彼らとはいろいろありましたが、私に鎮魂を祈られれば海賊だって喜びますよね。ね、エルマリス?」
「はい、そのとおりです。ブレイラ様」
エルマリスは表情一つ変えずに答えました。
口調も淡々としていますが、それでも端々が強張っているのが分かります。
優秀な執政補佐官とはいえ、プライドの高い子どもの一面もまだ残しているのでしょう。どんなに大人びて見えてもアベルと同じ年頃の若い男です。
でも、だからこそ私は賭けてみたい。
「知っていましたか? 船長のアベルは私に恋しているみたいなのですよ。私が魔王の寵姫だと知らずに……、可哀想なことです」
このセリフ、もしアベルが聞いたらまた自意識過剰だと怒鳴られますよね。
ここにアベルがいなくて良かったです。
「私を好きになったばっかりに、処刑までされるのですから実に不幸なことです。まあ、その私に見守られて処刑されるのですから、アベルもきっと本望でしょう」
私はそう言うと、挑発的にエルマリスを見つめます。
口元には薄い笑みを刻み、愉しげに言葉を紡ぐ。
「ふふふ、でもああいう年下の男に慕われるというのも悪い気はしませんでしたね。彼、とてもかっこいいじゃないですか。ハウストとはまた違ったタイプでしたから」
「お言葉が過ぎるかと。魔王様が耳にすればお気分を害されます」
なるほど、やはり黙って言われっぱなしでいてくれませんか。
予想していましたが思ったとおり反撃してきましたね。
特にアベルの話になると顔色を変えるので面白いです。
「それは私を脅しているのですか?」
「いいえ、滅相もありません。ただ魔王様のお怒りに触れるお言葉は慎まれるべきかと」
「ふふふ、では心配してくれたのですね。ありがとう。でも大丈夫ですよ。もし、あなたがハウストに告げ口したとしても、私がハウストに否定すればいいだけです。私とあなた、ハウストはどちらを信じるでしょうね。試してみますか?」
「っ、それは」
エルマリスの顔が悔しそうに歪みました。
握り締めた拳が怒りに震えています。そろそろでしょうか。後もうひと押しでしょうか。
では更なる挑発と煽りの言葉を口にしましょう。アベルの名を使って。
「私はアベルを」
「――――お前がアベルの名を口にするな!!!!」
「ええええっ、もう?!」
後もうひと押しと思ったのに、エルマリスが飛びかかってきました。
アベルの名前を口にしただけなのに、ちょっと短気すぎませんか?!
ガターン!!!!
勢いに負けて尻餅をついてしまいました。
その上にエルマリスが伸し掛かり、握り締めた拳を振りあげます。
衝撃に身構えて体を硬くしましたが、バターン!! 扉が勢いよく開かれました。
物音を聞いて別の侍女や衛兵が駆けつけてきたのです。
「ブレイラ様、何ごとですか!!」
「エルマリス、貴様?!」
「キャアアッ、エルマリス様がブレイラ様をっ!」
侍女たちは驚き、衛兵は私に伸し掛かるエルマリスを引き剥がす。
騒然とする部屋の中で、エルマリスは抵抗せず、愕然とした顔で衛兵に取り押さえられました。顔は絶望と悲壮に真っ青になっています。
「――――静まりなさい!」
私が声を上げた瞬間、室内がシンッと静まり返る。
侍女と衛兵が動きを止めて私を凝視しました。
私はゆっくりと立ち上がり、乱れたローブを直して笑いかけます。
「エルマリスを離してください」
「え、ですが」
「大丈夫ですよ。エルマリスは転んだ私を助けてくれただけなんです」
「そうは見えませんでしたが」
ですよね。さっきのエルマリスは明らかに私を殴る気満々でしたよね。
私もちょっと怖かったです。今も腰を抜かしそうですよ。
でも、今はそれを認める訳にはいきません。
「私が間違っているとでも?」
「し、失礼しました」
「納得してくれてありがとうございます」
礼を言うと、エルマリスを捕らえている衛兵を見つめます。
目が合うと「失礼しました」と衛兵は慌ててエルマリスを解放してくれました。
エルマリスは驚愕した顔で私を凝視しています。当然ですよね、挑発した私が庇ったのですから。でも私も好きで庇っているわけではありません。ちゃんと理由があります。
「エルマリス、さっきはありがとうございました。お陰で怪我をせずにすみました」
そう言ってエルマリスの手を取り、両手で握手するようにぎゅっと握りしめます。
するとエルマリスの表情が一瞬変わりました。
驚愕の顔で私を見つめましたが、すぐに何ごともなかったような顔になり、いつもどおり慇懃にお辞儀します。
「ブレイラ様がご無事で何よりです」
「はい、あなたのお陰です」
私はエルマリスに笑いかけると、駆けつけてくれた侍女や衛兵を振り返りました。
「皆さんもご心配おかけしました。このとおり私は大丈夫ですので」
そう言って衛兵を部屋から出しました。
侍女は部屋に残り、飛びつかれた拍子に倒れてしまった衝立や置物を片付けてくれる。
「ありがとうございます」と私はそれに感謝しながら何ごともなかったように過ごし、エルマリスも普段通りに振る舞います。
そして昼前には、私のワガママを聞いてくれた侍女たちが戻って来たのでした。
昼食を終えた後、私はワガママのお詫びに五人の侍女たちとデザートをいただきました。
ラズベリーのババロアはもちろん、選んできてくれた紅茶と異国のフルーツやお菓子で小さなお茶会です。焼き菓子と紅茶の相性はとても良くて、ハウストの言っていたとおりとても優秀な侍女たちです。
デザートに誘った時の侍女たちはとても恐縮していました。でも何もしないままでは私の気が収まりません。だって、なんのフォローもなしでは、ただの性格が悪い人になってしまうじゃないですか。
目的があったとはいえ、なかなか面倒なワガママだったと思います。ここはしっかりフォローしなければ。
こうした挽回目的の小さなお茶会でしたが、久しぶりに誰かと食べた食事は美味しかったです。
「はい」
「太陽が真上にあがる頃、天に召されるのですね。彼らとはいろいろありましたが、私に鎮魂を祈られれば海賊だって喜びますよね。ね、エルマリス?」
「はい、そのとおりです。ブレイラ様」
エルマリスは表情一つ変えずに答えました。
口調も淡々としていますが、それでも端々が強張っているのが分かります。
優秀な執政補佐官とはいえ、プライドの高い子どもの一面もまだ残しているのでしょう。どんなに大人びて見えてもアベルと同じ年頃の若い男です。
でも、だからこそ私は賭けてみたい。
「知っていましたか? 船長のアベルは私に恋しているみたいなのですよ。私が魔王の寵姫だと知らずに……、可哀想なことです」
このセリフ、もしアベルが聞いたらまた自意識過剰だと怒鳴られますよね。
ここにアベルがいなくて良かったです。
「私を好きになったばっかりに、処刑までされるのですから実に不幸なことです。まあ、その私に見守られて処刑されるのですから、アベルもきっと本望でしょう」
私はそう言うと、挑発的にエルマリスを見つめます。
口元には薄い笑みを刻み、愉しげに言葉を紡ぐ。
「ふふふ、でもああいう年下の男に慕われるというのも悪い気はしませんでしたね。彼、とてもかっこいいじゃないですか。ハウストとはまた違ったタイプでしたから」
「お言葉が過ぎるかと。魔王様が耳にすればお気分を害されます」
なるほど、やはり黙って言われっぱなしでいてくれませんか。
予想していましたが思ったとおり反撃してきましたね。
特にアベルの話になると顔色を変えるので面白いです。
「それは私を脅しているのですか?」
「いいえ、滅相もありません。ただ魔王様のお怒りに触れるお言葉は慎まれるべきかと」
「ふふふ、では心配してくれたのですね。ありがとう。でも大丈夫ですよ。もし、あなたがハウストに告げ口したとしても、私がハウストに否定すればいいだけです。私とあなた、ハウストはどちらを信じるでしょうね。試してみますか?」
「っ、それは」
エルマリスの顔が悔しそうに歪みました。
握り締めた拳が怒りに震えています。そろそろでしょうか。後もうひと押しでしょうか。
では更なる挑発と煽りの言葉を口にしましょう。アベルの名を使って。
「私はアベルを」
「――――お前がアベルの名を口にするな!!!!」
「ええええっ、もう?!」
後もうひと押しと思ったのに、エルマリスが飛びかかってきました。
アベルの名前を口にしただけなのに、ちょっと短気すぎませんか?!
ガターン!!!!
勢いに負けて尻餅をついてしまいました。
その上にエルマリスが伸し掛かり、握り締めた拳を振りあげます。
衝撃に身構えて体を硬くしましたが、バターン!! 扉が勢いよく開かれました。
物音を聞いて別の侍女や衛兵が駆けつけてきたのです。
「ブレイラ様、何ごとですか!!」
「エルマリス、貴様?!」
「キャアアッ、エルマリス様がブレイラ様をっ!」
侍女たちは驚き、衛兵は私に伸し掛かるエルマリスを引き剥がす。
騒然とする部屋の中で、エルマリスは抵抗せず、愕然とした顔で衛兵に取り押さえられました。顔は絶望と悲壮に真っ青になっています。
「――――静まりなさい!」
私が声を上げた瞬間、室内がシンッと静まり返る。
侍女と衛兵が動きを止めて私を凝視しました。
私はゆっくりと立ち上がり、乱れたローブを直して笑いかけます。
「エルマリスを離してください」
「え、ですが」
「大丈夫ですよ。エルマリスは転んだ私を助けてくれただけなんです」
「そうは見えませんでしたが」
ですよね。さっきのエルマリスは明らかに私を殴る気満々でしたよね。
私もちょっと怖かったです。今も腰を抜かしそうですよ。
でも、今はそれを認める訳にはいきません。
「私が間違っているとでも?」
「し、失礼しました」
「納得してくれてありがとうございます」
礼を言うと、エルマリスを捕らえている衛兵を見つめます。
目が合うと「失礼しました」と衛兵は慌ててエルマリスを解放してくれました。
エルマリスは驚愕した顔で私を凝視しています。当然ですよね、挑発した私が庇ったのですから。でも私も好きで庇っているわけではありません。ちゃんと理由があります。
「エルマリス、さっきはありがとうございました。お陰で怪我をせずにすみました」
そう言ってエルマリスの手を取り、両手で握手するようにぎゅっと握りしめます。
するとエルマリスの表情が一瞬変わりました。
驚愕の顔で私を見つめましたが、すぐに何ごともなかったような顔になり、いつもどおり慇懃にお辞儀します。
「ブレイラ様がご無事で何よりです」
「はい、あなたのお陰です」
私はエルマリスに笑いかけると、駆けつけてくれた侍女や衛兵を振り返りました。
「皆さんもご心配おかけしました。このとおり私は大丈夫ですので」
そう言って衛兵を部屋から出しました。
侍女は部屋に残り、飛びつかれた拍子に倒れてしまった衝立や置物を片付けてくれる。
「ありがとうございます」と私はそれに感謝しながら何ごともなかったように過ごし、エルマリスも普段通りに振る舞います。
そして昼前には、私のワガママを聞いてくれた侍女たちが戻って来たのでした。
昼食を終えた後、私はワガママのお詫びに五人の侍女たちとデザートをいただきました。
ラズベリーのババロアはもちろん、選んできてくれた紅茶と異国のフルーツやお菓子で小さなお茶会です。焼き菓子と紅茶の相性はとても良くて、ハウストの言っていたとおりとても優秀な侍女たちです。
デザートに誘った時の侍女たちはとても恐縮していました。でも何もしないままでは私の気が収まりません。だって、なんのフォローもなしでは、ただの性格が悪い人になってしまうじゃないですか。
目的があったとはいえ、なかなか面倒なワガママだったと思います。ここはしっかりフォローしなければ。
こうした挽回目的の小さなお茶会でしたが、久しぶりに誰かと食べた食事は美味しかったです。
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