47 / 50
第三部 狙われた極上の時間
【第四五話 沸き立つ新成人】
しおりを挟む
「それでは、皆さんの成人としての日々が健やかに過ごせるように祈って、簡単ではございますが、これを祝辞とさせて頂きます」
髪の毛が半分以上は白くなった年配のスーツ姿の男性が、拍手を受けて舞台から降りて行く。彼が登壇してから、十二、三分は経過してただろうか。
やっと終わったか。何が簡単ではございますが……だ!
成人式の式典が始まってから、色んな人の長々と面白くない話を、じっと座って聞いてなくちゃならない私を含む新成人の皆んなの気持ちを考慮してくれ!
こちとら、ただでさえ着慣れてない着物を着ていて、姿勢も窮屈なんだよ。
どこのどういった人物なのかは、興味ないから覚えてないけど、こういう堅苦しくて無駄に長い時間をかけるトークは、私が所属する芸能事務所のゼノンでは有り得ないぞ。
シンプル且つコンパクト。それがゼノンの社是だ。私もゼノンに所属して、間もなく二年が経つけど、こういう所を世間に浸透してほしいと切に願うわ。
「市長、ありがとうございました。それでは最後に皆様にサプライズゲストを紹介します」
司会進行の男性がマイク越しに声を張るから高周波のノイズが耳に気持ち悪い。マイクで拾うんだから、大きな声を出さなくても聞こえるし、ノイズは本当に不快になるからと、私もゼノンから徹底されている。
もちろんライブなどで歌う時は声を張るので、ノイズカットされてる専用の値段の高いマイクを使っているから大きな声でも大丈夫だけどね。
そのマイクを、一回だけ壊した時は凄い目で睨まれたなぁ……。
それよりさっきの話が長い人は市長だったんだ。知らなくてごめんなさいだ。
それに……サプライズゲスト? こんな田舎の市町村の成人式にゲストで来るなんて、余程のヒマ人なんだな。
って、失礼か……すみません。
「ねえ、美優。仮にも芸能人でしょ? 誰が来るとか事前に何か聞いてないの?」
隣に座っている小学校からの仲の良い友達が小声で聞いてくる。
私も仕事が忙しいので、連絡は取ってるけど実際に会うのは随分と久しぶりで、変わらない友達の姿と態度に安心して嬉しかった。
他の知ってる同級生も、よそよそしくする事なく、変わらない態度で接してくれてたのは本当に嬉しかった。
「えー? 知らないなぁ。同じ事務所だって他の人のスケジュールなんて知らないのに、事務所が違うなら尚更だよ」
それに仮にじゃなく、私は正真正銘の芸能人なんですが……。
「芸能人とは限らないよ。アスリートの誰かとか、政治家の人とかかもしれないよ?」
「えー。そんなのつまんない。芸能人じゃなかったら美優が登壇してね!」
「何でよ⁉︎ 私は今日はイチ新成人なの!」
そうは言ってもマスコミの人とかは外で待機している。会場に入る時に確認した。成人式を迎えた後の私のコメントを取りたいのだろう。
こういう時くらいは、そっとしておいてほしいと思うのが普通の芸能人なんだろうけど、私の場合は少し事情が違う。
シャイニングとしての活動期間は残り二年しかないんだ!
式典は大人しくしてたいけど、実は終わった後は盛大に目立とうと考えていた。週刊誌やワイドショーなどで【アイドルグループ シャイニングの成人式】みたいなサムネイルで取り上げてもらおうと画策しているのである。
なので、マスコミが来てくれていて助かっている。もしマスコミが来てなかったらSNSなどで自ら拡散しなければならなかったからね。
同じく今日、成人式を迎えるメンバーの凛ちゃん、唯ちゃん、彩香ちゃんとも話し合い、各地でシャイニングとして目立つように頑張ろうと意気込んで来ているんだ。
この後が私の本当の式典の始まりなの!
友達には今日の私は芸能人じゃないみたいに答えたけど、終わった後の外で、サプライズ的にやらかす予定なのだ。許せ、友達よ。
会場の空気は、さっきまでの落ち着いた空気とは違い、新成人の皆んながザワザワして誰が来るのか落ち着かない様子です。
ただ、皆んなとは違う意味で私も誰か気になる。
——お願いだから、私より目立つなよ!
今日のメインサプライズはシャイニングなんだ。頼むから大御所は来ないでくれぇ。
「なあなあ、誰かな?」
「去年とかは演歌歌手が来てたらしいぜ?」
何! 去年はそうなのか!
「今年は伊吹が居るだろ?」
「ピンで紹介されたりしてな!」
それはそれで嬉しいけど、残念ながらその予定は無いです! 流石に本人や事務所の承諾無しでのセッティングは無いです。なので私ではありません。
友達たちが好きに喋ってるのを横耳で聞いているけど、誰がサプライズゲストで紹介されるのかを、この場で一番気にしているのは確実に私だろ。間違いなく。
誰だ……誰だ……誰だァ⁉︎
「それでは登場してもらいましょう。この方です!」
司会の人が言い終わる前に舞台袖から現れ、中央の台座の所へ歩いてゆく人物を見た瞬間に、私の思考は表情と共に完全に止まってしまっていた。
……ウソでしょ……。
逆に、私ただ一人以外の新成人の皆んなは、現れた人物に対して、立ち上がって盛大に拍手や嬌声を浴びせている。
——え、何で? 何で⁉︎
薄紫色の胸元が開いたドレスに身を包み、髪の毛を巻いてアップにして台座の前に立つその女性は、まるで銀座のナンバーワンキャバ嬢みたいに煌びやかな美しさに溢れていた。
会場の空気は一気に熱を帯びて、皆んなが興奮を隠し切れずに盛り上がっている。
ただ現れただけで、ものの数秒で会場の全ての人のエネルギーを一点に集めてしまった。
私ただ一人を除いて……。
「こんにちわ。トゥインクルの木田麗葉です。皆さん、ご成人おめでとうございます」
軽く会釈して、そう挨拶する麗葉さんの微笑みは、この世に舞い降りた女神と言っても過言ではないほどに魅力的だった。
髪の毛が半分以上は白くなった年配のスーツ姿の男性が、拍手を受けて舞台から降りて行く。彼が登壇してから、十二、三分は経過してただろうか。
やっと終わったか。何が簡単ではございますが……だ!
成人式の式典が始まってから、色んな人の長々と面白くない話を、じっと座って聞いてなくちゃならない私を含む新成人の皆んなの気持ちを考慮してくれ!
こちとら、ただでさえ着慣れてない着物を着ていて、姿勢も窮屈なんだよ。
どこのどういった人物なのかは、興味ないから覚えてないけど、こういう堅苦しくて無駄に長い時間をかけるトークは、私が所属する芸能事務所のゼノンでは有り得ないぞ。
シンプル且つコンパクト。それがゼノンの社是だ。私もゼノンに所属して、間もなく二年が経つけど、こういう所を世間に浸透してほしいと切に願うわ。
「市長、ありがとうございました。それでは最後に皆様にサプライズゲストを紹介します」
司会進行の男性がマイク越しに声を張るから高周波のノイズが耳に気持ち悪い。マイクで拾うんだから、大きな声を出さなくても聞こえるし、ノイズは本当に不快になるからと、私もゼノンから徹底されている。
もちろんライブなどで歌う時は声を張るので、ノイズカットされてる専用の値段の高いマイクを使っているから大きな声でも大丈夫だけどね。
そのマイクを、一回だけ壊した時は凄い目で睨まれたなぁ……。
それよりさっきの話が長い人は市長だったんだ。知らなくてごめんなさいだ。
それに……サプライズゲスト? こんな田舎の市町村の成人式にゲストで来るなんて、余程のヒマ人なんだな。
って、失礼か……すみません。
「ねえ、美優。仮にも芸能人でしょ? 誰が来るとか事前に何か聞いてないの?」
隣に座っている小学校からの仲の良い友達が小声で聞いてくる。
私も仕事が忙しいので、連絡は取ってるけど実際に会うのは随分と久しぶりで、変わらない友達の姿と態度に安心して嬉しかった。
他の知ってる同級生も、よそよそしくする事なく、変わらない態度で接してくれてたのは本当に嬉しかった。
「えー? 知らないなぁ。同じ事務所だって他の人のスケジュールなんて知らないのに、事務所が違うなら尚更だよ」
それに仮にじゃなく、私は正真正銘の芸能人なんですが……。
「芸能人とは限らないよ。アスリートの誰かとか、政治家の人とかかもしれないよ?」
「えー。そんなのつまんない。芸能人じゃなかったら美優が登壇してね!」
「何でよ⁉︎ 私は今日はイチ新成人なの!」
そうは言ってもマスコミの人とかは外で待機している。会場に入る時に確認した。成人式を迎えた後の私のコメントを取りたいのだろう。
こういう時くらいは、そっとしておいてほしいと思うのが普通の芸能人なんだろうけど、私の場合は少し事情が違う。
シャイニングとしての活動期間は残り二年しかないんだ!
式典は大人しくしてたいけど、実は終わった後は盛大に目立とうと考えていた。週刊誌やワイドショーなどで【アイドルグループ シャイニングの成人式】みたいなサムネイルで取り上げてもらおうと画策しているのである。
なので、マスコミが来てくれていて助かっている。もしマスコミが来てなかったらSNSなどで自ら拡散しなければならなかったからね。
同じく今日、成人式を迎えるメンバーの凛ちゃん、唯ちゃん、彩香ちゃんとも話し合い、各地でシャイニングとして目立つように頑張ろうと意気込んで来ているんだ。
この後が私の本当の式典の始まりなの!
友達には今日の私は芸能人じゃないみたいに答えたけど、終わった後の外で、サプライズ的にやらかす予定なのだ。許せ、友達よ。
会場の空気は、さっきまでの落ち着いた空気とは違い、新成人の皆んながザワザワして誰が来るのか落ち着かない様子です。
ただ、皆んなとは違う意味で私も誰か気になる。
——お願いだから、私より目立つなよ!
今日のメインサプライズはシャイニングなんだ。頼むから大御所は来ないでくれぇ。
「なあなあ、誰かな?」
「去年とかは演歌歌手が来てたらしいぜ?」
何! 去年はそうなのか!
「今年は伊吹が居るだろ?」
「ピンで紹介されたりしてな!」
それはそれで嬉しいけど、残念ながらその予定は無いです! 流石に本人や事務所の承諾無しでのセッティングは無いです。なので私ではありません。
友達たちが好きに喋ってるのを横耳で聞いているけど、誰がサプライズゲストで紹介されるのかを、この場で一番気にしているのは確実に私だろ。間違いなく。
誰だ……誰だ……誰だァ⁉︎
「それでは登場してもらいましょう。この方です!」
司会の人が言い終わる前に舞台袖から現れ、中央の台座の所へ歩いてゆく人物を見た瞬間に、私の思考は表情と共に完全に止まってしまっていた。
……ウソでしょ……。
逆に、私ただ一人以外の新成人の皆んなは、現れた人物に対して、立ち上がって盛大に拍手や嬌声を浴びせている。
——え、何で? 何で⁉︎
薄紫色の胸元が開いたドレスに身を包み、髪の毛を巻いてアップにして台座の前に立つその女性は、まるで銀座のナンバーワンキャバ嬢みたいに煌びやかな美しさに溢れていた。
会場の空気は一気に熱を帯びて、皆んなが興奮を隠し切れずに盛り上がっている。
ただ現れただけで、ものの数秒で会場の全ての人のエネルギーを一点に集めてしまった。
私ただ一人を除いて……。
「こんにちわ。トゥインクルの木田麗葉です。皆さん、ご成人おめでとうございます」
軽く会釈して、そう挨拶する麗葉さんの微笑みは、この世に舞い降りた女神と言っても過言ではないほどに魅力的だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる