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第二部 ライバル?バトル・アイドル!

【第二七話 アトランティスの遺産】

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「で、あのペンダントは何なの? ただのモノじゃなさそうだけど?」

 駅のホームに向かってる間に聞きたい事をロッキーから聞いておきたい。
 イヤホンマイクを耳にあてて話をしているので、周囲には電話をしているように見えているだろう。
 ロッキーはコートのフードの中だ。

『うむ。簡単に言うと、われの能力をコピーした宝石と言えば良いかな』

「何それ。過去の出来事を書き換えるってやつ?」

『そうだ。シャレアティス女王の死後、神の遺物を利用する研究は盛んに行われ、我も協力した』

「へぇ。何かそんなイメージ無いけど」

『我は女王から頼み事をされていた。女王の輪廻転生後の魂を見つけ出し、それを庇護せよとな。しかし、どうやって見つけ出せばよいのか方法が分からずだったので、その方法を探すのが目的だったのだ』

「なるほど。肝心な所が抜けてる女王様だったのね」

『自分の前世をあまり悪く言わない方が良いぞ?』

 あ、そう言えばそんな事言ってたっけ。直接的にあんまり関係無さそうだから、すっかり忘れていたよ。

「何の記憶も無いし、前世だろうと赤の他人よ」

『ふっ。そうかもな。結局その方法は分からず美優に出会ったのだが、研究の過程で作り出された我の能力をコピーしたモノは十二体ある。その一体が、さっきのパタソンだ』

「そんなに居るの⁉︎」

『アトランティスの滅亡後に存在が確認されたのはパタソンが初めてだ。他のモノ達も精神感応金属オリハルコンと合成されてるので、滅多な事では風化や劣化はしないと思うが、我は知らん』

 ロッキーのように過去を変える能力があるなら、木田麗葉も私のように?

「パタソンも過去を書き換えられるの?」

『神の遺物にアクセスするのに、我はモノの魂をエネルギー源にしているが、パタソンは人間の精神波をエネルギー源にしている。精神感応金属オリハルコンと合成しているのも、その精神波を媒体にする為のものだ』

 あのう……素人向きの説明をお願いします。

 駅の自動改札にスマホをかざして、ホームに入る。電車はまだ来てないようだった。
 平日の昼間なので、人の流れも多くなく、会話を聞かれる心配も無さそうだ。

「そのオリハルコンって何よ?」

『アトランティスが生み出した奇跡の金属と言えばいいかな。丈夫さ、柔軟さ、耐久性と、どれを取っても今の時代では作れまい。人間の精神波に反応して変化する特性がある』

 はあ。良く分からん。とにかく凄いものだってことにしとこう。

「まあ、それは別にいいわ。パタソンも百日以内の過去を書き換えられるの?」

『書き換える対象の人間の精神力によるだろうが、二~三時間が良いとこだろう。それだけ我は特別なのだ』

 あぁはい。そうですか……と。でもそうすると、木田麗葉も自分の都合の良い過去歴に書き換えて、今の立場に居るのかもしれない。私がそうであったように。

「それってズルくない⁉︎」

『何がだ? 過去の書き換えがか?』

「そう! 私はアイドルにしてらっただけ。そこから先は実力だけでやってきてる。その書き換えの力を使えば、簡単にのし上がれるじゃない!」

 興奮して、やや声高になりすぎてしまったのかもしれない。
 ちょっと離れた所に居る女子高生らしい二人組がこっちを見ていた。

『美優よ。事の大小はともかく、やってる事は同じなのだから非難するいわれは其方そなたには無いと思うが? トゥインクルにもなれず、シャイニングにも抜擢されずに帰っていった子達にも同じように胸を張って言えるか?』

「そ、それは……」

『我と巡り会ったのも美優の運。木田麗葉とパタソンが出会ってるのも運。それを活用出来てるのも運だ。気に病む必要も、負い目を感じる必要も無い。そしてそれを自慢げに語る必要も無い。ただそうだったと、その事実を受け入れるだけで良いのだ。分かったか?』

「うん……ありがとうロッキー」

 そっか。そうだよね。それに麗葉さんが過去歴の書き換えをしてるかどうかはまだ分からないんだしね。
 それに、麗葉さんが書き換えをやってたとしても、私は私でやる事をやるだけだ。

 そうこうしてる間にホームの電車の乗り入れ口付近に到着する。

 麗葉さんなら、こうしてホームに立ってるだけでも人目を引くんだろうか。
 生憎と私の知名度はそんなでもないので、ニット帽とマスクをして目だけを露出している格好だと、芸能人だと思われない。

 オーラが違うんだね。

 麗葉さんからは芸能人としてのオーラを感じるけど、私からは私自身が感じない。
 こうして駅を歩いていても、誰も気にかけないのだから、それが証明している。
 自分の才能の無さを棚に上げて、麗葉さんが売れてるのはパタソンの能力のおかげだと非難していたんだ。何とも恥ずかしい人間だろうか。

 はあぁ……。

『深いため息だな。老けるぞ?』

「ロッキーが言うと迫力があるよね。さすが最年長の生物だと——」

「あの、すみません。伊吹美優さんですか?」

 ロッキーにキツいツッコミを入れようとしたら、不意に声をかけられた。
 声のした方を見ると、制服を着た女子高生が二人。何やらソワソワした様子で立っている。
 さっきからこっちを見ていた二人だ。

「え……あ、はい。そうですけど」

 答えた次の瞬間に、めちゃくちゃ後悔した。街中で声をかけられるのが初めてだったので、何も考えずに、ごくごく普通に答えてしまった。

 私、全然芸能人らしくないじゃん!

「やっぱりぃ! どうしよ、どうしようー!」

 二人ともキャイキャイとはしゃいで嬉しそうにしてくれている。
 ライブ後の路上挨拶や、営業先での握手会など、ファンと触れ合う機会は沢山あるが、その時は予め心の準備が出来ている。
 でも今は完全に気が抜けていた。メイクもナチュラルに留めていて、シャイニングなのに輝いてない時のファンとの対応なのか!

「あ、ごめんね? プライベートなので、あまり大した事出来ないけど……」

 一応、事務所からはプライベート時に写真撮影は厳禁だと言われているので、握手するならって事で両手を差し出す。

「握手してくれるだけで嬉しいです! 私、シャイニングが大好きです!」
「私も! 応援してます。頑張って下さいね!」

 握った手からは熱い感情が伝わってきて……二人とも可愛いなぁ!

「ありがとう! 頑張るね!」
「伊吹さんは、今日はお休みなんですね?」
「うん、まあ……」

 どこに居るとか、どこに行くとかも明かしてはならないとも言われているので返事を濁すしかない。
 まぁ、芸能人じゃなくても、わざわざ自分から明かす人は居ないと思うけどね。

「私の推理だと、伊吹さんは来年成人式だから、これから実家の群馬県に帰る所。違いますか?」

「え!」

 この子、何で知ってるの⁉︎ 超能力か!

「年齢とか出身地とか、公式のプロフィールにも書いてあるし、暇な芸能人ならともかく、伊吹さんみたいな忙しい芸能人がこの時季に休みが取れるって事は、そういう事でもないと休めないじゃない?」

「えっ?」

 いや、ていうか私は忙しい芸能人だったのか。知らなかった。

「ごめんなさい伊吹さん。この子ミステリーオタクだから!」

 鼻高々に自分の推理を披露する子に、もう一人の子が慌てて静止に入る。

「その反応だと、その通りみたいですね。大丈夫! 誰にも何も言いませんから」
「当たり前でしょ! 何言ってるんだよ!」

 可愛くウインクする推理オタクの子に再度ツッコミを入れる子。
 この二人を見てると、唯ちゃんと彩香ちゃんを見てるみたいで面白かった。
 ちょうどホームに電車が入ってきたので、この子達ともこれでお別れだ。

「じゃあ、電車来たから行くね。応援してくれて、ありがとう! またどこかで会えたら良いね!」

「ライブ行きますね!」
「会えて嬉しかった!」

 手を振って別れて、電車に乗って座席に座る。電車でも、極力座るように事務所から言われている。座ってる方が人目につかないからだ。

『美優、こんな事は初めてじゃないか?』

「うん……」

 電車に乗ったので、ロッキーに話しかけるのは控える。車内での通話はお控え下さいってね。

 麗葉さんと違って自分は芸能人のオーラなんて無いと嘆いてた時にファンから声をかけられたので、落ち込んでいた心が救われた。
 芸能人として、アイドルとして、シャイニングとして、頑張ってる私をちゃんと見てくれてる人が居るんだ。応援してくれてる人が居るんだ。

 良かった……本当に頑張ってきて良かった……。

 ポロポロと涙が溢れる。

 悲しいんじゃない。そんな事で落ち込む自分が情けないのと、救ってくれるファンが、確かに居る事が嬉しくて泣けてくるんだ。
 静かに泣いてたんだけど、いきなりスッと目の前にポケットティッシュが差し出される。

「ふえ?」

 右隣に座っている六十代くらいの男の人が、ニコニコしている。

「アイドルさんが人前で泣くもんじゃあない。折角の綺麗な顔が台無しですぞ? ほら涙を拭いて」
「ありがとうございます……」

 ティッシュを受け取ってお礼を言う。え? アイドルさんって言ったよね。

「あの、私の事……」
「シャイニングなんちゃらの、なんとか美優さんじゃろ? 直ぐに分かったよ」

 えぇえっ! 普通にバレてる——!

「細かい事は気にしなさんな。リーダーたる者、もっと堂々としとりゃええんじゃ」
「はい。ティッシュありがとうございました」

「そうそう。シャイニングは皆んなを笑顔にしてくれるんでしょう?」

 今度は左隣のご婦人が声をかけてくれる。

「え?」
「そんなに驚かなくてもいいわよ。たぶん周り皆んな気付いてるわよ?」

 パッと顔を上げて見ると、周囲の人が皆んな私を見ていた。

「えぇえええっ!」

 皆んな気付いてて、そっとしておいてくれてるの?

「ほれ、皆んなこうして温かく見守っとるんじゃ。あんたも気合い入れてこの想いに応えにゃならんの」

 右隣の男の人の言葉が心に刺さる。
 泣きそう……私……私……。

 電車はドアが閉まり、ホームには発車を告げるベルが鳴っていた。
 ホームを見ると、さっきの女子高生二人組が手を振っている。

 ありがとう。皆んな、ありがとう!

「皆さん、あり——りゃあっ!」

 お辞儀をしてお礼を言おうと立ち上がった瞬間に電車が走り出すので、盛大にズッコケてしまった。
 車内は混んでおらず、人もまばらだったので、誰かにぶつからずに済んだけど……けど!

「ぶっははは! 大丈夫かい? 急に立つのは良くないぞ」

「すみません。ありがとうございます」

 右隣の男の人に手伝ってもらって、座席に座り直して赤面するしかなかった。
 辺りには失笑が混じった、生温い空気が流れるだけだった。

『見事に皆んなを笑顔にしたな。流石は美優だ』

 おい、ロッキー! それは褒めてるのでしょうか? どうなんだよ!
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