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第一部 アイドル始動

【第一七話 ムラムラとダッシュ】

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 はぁ……はぁ……。
 この媚薬、効きすぎでしょ!
 ムラムラムラムラ……ムラムラムラムラ……うずいて堪らないったら!

 凛ちゃんを見ると、凛ちゃんもそうなのか、顔を赤らめてぴっとりと寄り添って来る。
 時折、私の膝辺りを指でなぞるのは、落ち着かないからなのかな?

 でもその行為は私に刺激を与える事でして!

「美優ちゃん……私、もうダメ……」

 凛ちゃんが恍惚とした表情で見つめてくる。その顔が何ともいやらしくって。
 こんな可愛い子に、こんなにいやらしく迫られて拒否出来る精神は、もしかしたら通常時でも持ち合わせてないかもです!
 私の膝の上にまたがり、首に手を回して、トロンとした瞳で顔を近づけられたら……平静でなんかいられません!

 私も自然に凛ちゃんの背中に手を回していた。唇は触れ合い、お互いの唇の形を確かめ合うように……時折、舌先が触れては吐息が混じる。
 頭が真っ白だ……身体も熱い……何も考えられない……もうこのまま——!

 その時、天井の隅に物音がして、見覚えのある青い小鳥が現れたのが視界に入る。

『ふむ。間の悪い時に登場したようだ。どうする美優? われは退席しようか?』

「ロッキー!」

 一瞬にして目が覚めた。中学の時に部屋で一人でナニをしてる時にドアを開けられた事を思い出した。

「どうしてここに⁉︎ み、見ないで!」

『人間には通れなくても小鳥の大きさなら通れる換気口が建物には必ずある。そこから侵入した。しかし、助けに来てやったのに随分な挨拶だな? 我は帰るから続きをしてもらっても構わないぞ?』

「や、違うから! これは媚薬のせいなの! たくさん飲まされたの!」

『なるほど。既に飲まされておったか』

「美優ちゃん、ロッキーが助けに来てくれたの? ありがとうロッキー」

 にこやかに笑顔でお礼を言う凛ちゃんも、正気を取り戻してるのか、いつもの感じだ。
 私もまた理性を保てるようになった。ムラムラは治まらないけどね。

『凛はちゃんとお礼を言えるのだな。感心感心』

 私を横目でチラ見するのがイラッとする。

「でもロッキーが来てくれても、どうやって助かるのよ?」

『我だけで来た訳ではない。探偵が一人一緒に居る』

「探偵?」

『何だ、知らなかったのか? 美優が半年間居ない間に色々と身辺調査をしてたぞ? 店にも足しげく通ってたな』

「え、何それ?」

『まあ、それは今はどうでもいい。作戦内容を伝えるので、よく理解して行動するのだ』

「ちょ、ちょっと待ってよ! 頭働かないんだってば」

 媚薬の効果もあってか、色々と考える事が億劫になってるんだ。
 探偵とか、作戦とか、秘密道具とか……は無いか。

 あー! 考えが纏まらない!

『失敗すると色々と終わるぞ? 時間もあまり無さそうだから急ぐぞ』

「美優ちゃん、何だって?」
「あ、んとね? 探偵さんが助けてくれるって。んで、その作戦があるらしいんだけど、今から教わるの」

 急かされてるから、要約しか言えてないけど、合ってるよね?

「へぇ……やっぱり美優ちゃんて鳥の言ってる事理解出来るんだ。凄ーい!」
「まぁ、鳥って言ってもロッキー限定の鳥だけどね……」
「いいなぁ。羨ましい。プラスかっこいい!」

 凛ちゃんは目をキラキラさせながら、私に羨望の眼差しを向けてくる。
 かっこいいか? そうか? そうなのか?

「そうかな? まあそれは後にして。ロッキー! どんな作戦?」

『うむ。まずは武器を渡す。この袋の中身を確認しろ』

 よく見ると、ロッキーは背中に何か袋を背負ってる。中身を取り出すと、電子機器らしき大きめのボールペンと、それと同じ大きさ位のスプレー缶だった。

『スプレー缶は催涙スプレーだ。五秒くらいしか噴射出来んらしいから、一人か二人が限度だ。もう一つはスタンガンだ。これも五回ぐらいでバッテリーが無くなるらしい』

「らしいって何? これ探偵さんの物って事?」

『察しが良いな。その通り。起こるタイミングは決められないが、この後停電になる。電力復帰作業に人員を割くのが目的だ』

「ふむふむ」

『停電後に窓ガラスを割るらしいので、割れたらそこから脱出しろ。その時に敵が居たらそれで倒せ。以上だ』

 なるほど。武器を渡すから勝手に逃げろと言う訳ですね?
 へぇ、ふぅん……えっ⁉︎

「以上って……簡単に言うけど、大変じゃない!」

『出来ないなら大人しく抱かれろ。探偵はそう言ってたぞ?』

「ぐ……ぬぬぬ。ん? 探偵さんはロッキーと会話出来るの?」

『いや、あやつはモノガタリでは無い。我を信用して、我に言伝ことづてを頼んだだけだ』

「ここに来るまでに色々あったって訳ね……」

 人語を理解すると分かれば、後は腹を括るだけだしね!
 うちのお爺ちゃんと似たような感じでコミュニケーションを取ってたんでしょう。知らんけど。

「よし。凛ちゃん、よく聞いて」

 大体のあらましを説明する。窓ガラスが割られるまでは、何としてもこのムラムラを耐えなければならない。

 心情としては、真夏の暑い日に冷たい水を目の前でお預けされてるような感覚を耐えなければならないのだ。
 大袈裟かもしれないけど、事実そうなんだもん!

 ムラムラムラムラ……ムラムラムラムラ……。

 さっき、中途半端なキスで終わったから、余計に欲求不満だっての!

「ところで、ロッキーや探偵さんは何でこの状況に詳しいの?」

 話題を変えて気を逸らさないとヤバい。

『美優のジャケットのポケットに盗聴器を入れておいたらしいぞ? それで全部聞いている』

「え、いつの間に……」

 ポケットに手を入れると、五百円玉を二つ重ねた様な大きさの機械があった。

 探偵って怖っ!

「美優ちゃん、私も一つ作戦立てました!」

 話を聞いて少し考える素振りをしていたから何を考えてるのかと思ったら、凛ちゃんの口から出たのは驚くべき内容のものだった。

「いい? 確実に相手を倒すには、スプレーの噴射が五秒なら、二人の男の顔を近づけて噴射すれば一度に二人倒せるよね? スプレーは私が持つ。美優ちゃんはスタンガンで残りをお願いね?」
「うん、わかった」

「何人この部屋に来るか分からないけど、アニキさんは十人って言ってた事から計算すると、停電の処理に二、三人割かれて、見張りや予備に人を配置するはずだから、多くても五、六人だと思うの」
「う、うん……」

 え……凛ちゃん凄くない?

「催涙スプレーをかけられて悶絶してる男を助けに入って、私を押さえ込もうとする男の背後から美優ちゃんがスタンガンでやっつけて!」
「分かった! 任せて!」

「どんな状況で停電になるか分からないけど、奴らがこの部屋に居るなら、それで行きましょう? 大丈夫。シャイニングの臨機応変の対応力ならやれるよ!」
「うん。そうだよね。凛ちゃんは本当にしっかりしてるね。私、リーダー失格だよね」

「何言ってんのリーダー! ここぞという時の機転と気付きは美優ちゃんが断トツだよ。準備があれば、しっかり者の私が補佐するから。このムラムラ感は、あいつらをやっつける事で解消しましょう?」
「そうだね! よおし、派手にやっちゃおう!」

 凛ちゃんと二人で意気込んで装備を確認してると、ドアの鍵が外される音がしたので、ロッキーは慌てて窓の方へと飛んで行き、縁に立って置き物の様に動かなくなった。

 上手いなぁ。あれなら探偵さんの動きも見れるし、こっちの状況も把握出来るし、あいつらの目に止まらないから気付かれない。

「美優ちゃんはベッドの外に居て」
「分かった」

 ドアが開いて中に入って来たのは五人。ヘチマンカスことタカシと、ヤクザのアニキも居た。
 白いスーツ姿のままのアニキ以外はバスローブを着ている。

 お前ら、やる気満々やないか!

「さて、お嬢さん方。ご気分はいかがです
か?」
「分かってて聞くのって、感じ悪い」
「おや? 美優さんの方はまだそんな反抗心が残ってるんですね? いやいや立派だ。あれだけの量を飲んでおいて……」

 ヤクザのアニキはイスに座り顎で指示を出しながら感心していた。
 タカシを含む三人がバスローブを取り、パンツ一枚になり、残る一人はカメラマンのようだ。ビデオカメラを構えている。
 それよりもそのパンツの布面積が少なすぎて気持ち悪いったらありゃしない!

「美優は俺が相手してやるよ。嬉しいだろ? 何度も求めたこのデカいのをぶち込んでやるよ」

 ヘチマンカスタカシが私の背後にやって来て後ろから羽交締めにされる。
 やっぱり男の人の力には敵わない。
 腕一本で後ろからがっちり押さえ込まれて、太ももの内側を撫でられる。

 止めてぇ! 触れられるとヤバい!
 こいつなんかに……こいつなんかに欲情したくない!

「美優、お前も凛みたいに素直になって快楽を受け入れろよ。あの時のようにエロいお前を抱きたい。ほら、見てみろよ凛を」

 ベッドの上には凛ちゃんが半分仰け反った状態で足を投げ出している。
 その足の指を男二人がそれぞれ舐めているようだ。

「あぁ……そこそこ……もっと指の付け根がいいの……」

 え、凛ちゃんってそんな性癖あったの?

「ほら美優。お前もさ……」

 ヘチマンカスタカシが耳たぶを甘噛みしながら囁くので、全身に震えが走る。

 あ、もうダメ……理性が保て……ない。

 全てを投げ出してしまうギリギリ手前だった。部屋の電気が消えて窓から差し込む陽光の明かりだけが部屋を照らすようになった。

 停電だ!

「何だ? 電気が消えたぞ?」
「状況を確認してくる。お前たちは続けてろ。ブレーカーか何かなら直ぐに戻る」

 ヤクザのアニキは立ち上がって部屋を出て行ってしまった。チャンスだ!

「良かったな美優。続けようぜぇぐわっ!」

「ぐわぁ!」
「がぁああ!」

 私が袖に隠しておいたスタンガンでヘチマンカスタカシに一撃与えていると同時に、催涙スプレーをかけられた二人が悶絶していた。
 ベッドの凛ちゃんは私にピースしてウインクするまでに余裕があるようだ。
 良かった。さっきのは二人の顔の距離を縮めるための演技だったみたい。

「な! お前ら!」

 カメラマン役の一人が凛ちゃんに掴みかかろうとしたが、私に一瞬背中を見せたのが悪かった。
 ベッドの手前で背後からのスタンガンの一撃を受けて気絶してしまう。

「凛ちゃん!」
「気持ち良いぃ! 超スッキリした!」

 凛ちゃんは女王様が似合いそうです。

「ロッキー! 探偵さんは来た?」

『ちょうど今来た。窓から離れていろ』

 窓の外にスーツを着た三十歳くらいの男の人がやって来て、窓に円を書いている。
 手に何か釘のようなものを持っていて、蜘蛛の巣のようにガラスに傷を付けている。
 ガラス一面に書き終わったのか、釘を捨て、両手で大きな石を掲げて窓に叩きつけると、大きな音を立てて、一撃でガラスは粉々に砕けてしまった。

「さあ早く来い! 今の音で気付かれる! 破片を踏まないように布団を投げてその上を来るんだ!」

 言われた通りに布団を全部投げて、足場にする。私も凛ちゃんも裸足なのだ。
 探偵さんがエスコートしてくれて、二人とも外に出られた時にヤクザのアニキが走って部屋に入って来た所だった。

「何だお前は! 待ちやがれ!」

 気絶して倒れてるヘチマンカスタカシを踏み付けて鬼の形相で迫ってくるので、一瞬殺されるかと本気で思う。
 ロッキーがアニキの顔面にダイブして足が止まるのを見た時には、ヒーローの出現に涙が出そうだ。

『美優、早く行け!』

「よし今のうちに車に走れ!」

 下は草と土と砂利で裸足には丁度良い刺激になって、目が覚める。
 とりあえずの危機は脱した。

 後は……このムラムラはいつ治まるのか!
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