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第一部 アイドル始動

【第五話 一人〇〇〇大作戦】

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「う、う~んん……良く寝たぁ!」

 昨日のサプライズから一夜明けて、今日は丸々休み。早速明日から仕事が始まるらしい。
 なんと明日から半年間は会社が用意した合宿所で、泊り込みでアイドルとしてのレッスン漬けが待っているらしい。
 そこで今日一日を使って、各自のアルバイト先や各SNSサイトの身辺整理をする事になっている。
 ユーチューブからツイッターから何から何までアカウントを削除しておくようにとの徹底ぶりだった。

 まぁ仕方ないか。アイドルだもんね。

 最近は私のユーチューブのチャンネル登録者も増えてないし、元々はアイドルの真似事のような活動だったし。
 それが本物のアイドルになれるんだから喜んでいいでしょ!

 しかしこの何日かで、私には別のストレスが発生している。今までは部屋で一人きりだったので自由だった。
 それがロッキーが家に来てから、部屋にはいつもロッキーが居る。

 ……アレが出来ない……。

 ロッキーが寝ている間に試そうとはした。しかし、いつ起きるか分からない不安が勝って出来ずにいた。
 ほぼ毎日のようにシてきていて、自分にとってルーティーンのような行事と化している。

 ……完全に欲求不満だ……。

 明日から半年間は出来ないのが確定しているので今日は何としてもシておきたい!
 なので今日の私の任務は決まっている。部屋で安心してアレが出来る様に、ロッキーを外出させる事だ!
 アルバイト先への連絡も、アカウントの削除も昨夜のうちに全て終わらせている。
 私が今日するべき事はただ一つ。

 時刻は現在、午前六時半。
 家族と朝食を一瞬に食べる為の早起きだ。この時から私の作戦はもう始まっている。

「おはよう! ロッキー! 朝だよ! 朝ご飯だよ!」

 まだ枕元で、目を瞑って寝ているロッキーを指で小突いて起こしにかかる。
 起きろ! 起きて家族と一緒に朝食だ!

『むぅ……もう朝か……おはよう美優』

「本当にプログラムなの? まるで人間みたいじゃない」

『人間臭くない同種も居たが、われは人間臭いらしいな。文句なら我を作った者に言ってくれ』

「文句なんて無いわよ。さ、ご飯食べよ!」

 肩にロッキーを乗せて二階のリビングへと降りて行くと、お爺ちゃん、お婆ちゃん、お母さんと全員居て、これから朝食のナイスタイミング。
 心の中でニヤリと微笑む。

「おはよう! 私とロッキーも一緒に食べる」
「あれま。美優が早起きなんて珍しい。どしたの急に?」
「だってこれから仕事で早起きになるから慣らさないとだし、明日から半年間は家に居ないんだよ? 皆んなと過ごしておきたいじゃん?」

 驚くお婆ちゃんに家族思いの美優を演出する。すまん、お婆ちゃん。でもその気持ちは嘘じゃないんだ。その気持ちもあるんだ。

「まぁまぁまぁ? 流石アイドルさんは言う事も可愛くなるねえ?」
「えへへぇ。今日、味噌汁な~に?」
「キャベツと油揚げよ。お魚は鮭」
「良いねぇ!」

 ロッキーの分も小皿に取り分けて、伊吹家の朝食会は和やかに始まる。
 私にとってはギラギラの戦いの始まりなのだがね。

「しっかし、味噌汁を飲むとは変わった鳥じゃな、お前さんは」

『うむ。この味噌汁というスープは本当に美味い。今まで食してきたスープで別格に美味い』

「ロッキーも美味い、美味いって言ってるよ?」
「何じゃ? 美優は鳥の言葉が分かるのかいな? こりゃ傑作だ」

 本当に解るとは言えない。

「美優が夢叶ってアイドルになれたのも、この鳥のおかげかしらねえ? ほら、言うじゃない? 幸せの青い鳥って、この子の事じゃない?」

 お母さん、ナイスアシスト!
 ようし、作戦決行! 仕掛けるなら今しかない!

「そうだよ、ロッキーのおかげだよ! ね? お店もあやかってさ、看板娘ならず、看板鳥って事で店頭に立たせてみたら?」

『おい、美優! 我を見せ物にする気か?』

「どうせ私、明日から半年は家に居ないんだし、ロッキーも退屈しなくて済むんじゃない?」

 これはロッキーと家族と両方に話して聞かせている。もう一息だ。頑張れ私!

「その子がそれで逃げたりしないかい?」
「大丈夫だよ、お婆ちゃん! 鳥籠だって自分で錠を外して出入りするんだもん。知能は高いし、もうウチを実家と思ってるよ!」
「それじゃったら、その鳥をモデルとした菓子を作った方がええのぉ」

 ここでピーンと閃く我が頭脳。私が提案する前に、まさか向こうから願ってもない展開が来るとは思わなかった。

「お爺ちゃん、ナイスアイデア! それいい! 今日からやっちゃえば?」
「そんなら、お前さん今日はワシのモデルさんじゃの」

ご祖父上殿ごそふうえどの、美しく頼むぞ?』

 ロッキーよ。文句言ってた割には案外乗り気じゃん。だがこれはツッコミではない。賛辞だ。

「ロッキーも乗り気みたいよ? 良かったね!」

「わが伊勢屋に新しい銘菓の誕生じゃわい」
「お父さん、名前はそのまま幸せを呼ぶ青い鳥でいいんじゃない?」
「おおっ、ええの」

「んじゃあ、決まりね! 頑張ってねロッキー!」

『我もアイドルデビューと呼べるな』

 いや、かなり乗り気じゃん……。


 そこからの展開は私の思い描いた通りに事が進み、ロッキーに頼らなくても〝神の遺物〟とやらの力を使ったんじゃないかって疑うくらいだった。
 お爺ちゃんとロッキーは店の厨房で創作に余念が無いし、お婆ちゃんは接客で忙しいし、お母さんは新しい銘菓のポップ作りに忙しい。

 で、私はと言うと、部屋で一人でアレ三昧です!
 今までの溜まってた分と、これからの不満解消にと、二時間強はシてたと思う。
 おかげでとってもスッキリ出来たし、お肌もツヤツヤな気がする。

 これで暫くは出番無しね、私の右手よ。名残惜しいけど、また今度ね?
 半年後にまたいっぱいシてね……。

 お昼になって、皆んなで昼食を済ませた後、私の部屋で何やらロッキーが神妙な面持ちでこちらを見てくる。

『美優。美優に言っておきたい事がある』

 何だ? 私の作戦がバレたのか?
 ファブリーズも撒いたし、匂いなど残ってないと思うが。

『美優はモノガタリとして覚醒したばかりで、その能力は自身でコントロール出来てはおるまい?』

 何だ。バレてないんじゃん。ホッとして、深い溜め息と共に安堵する。

「何だ、そんな事ぉ? う~ん。確かに意識してないなぁ。そんなもんじゃないの?」

『ゆくゆくは自身でコントロール出来る様になっておいた方が良い。と言うのも、恐らくだが美優のモノガタリとしての能力は、かなり秀でている方だ。我の意思は、はっきりと聞こえてるのであろう?』

「うん。普通に会話してる感じ」

『普通はカタコトの単語の繰り返ししか聞こえなかったり、ある条件下でないと発揮されない能力だったりする。ところが美優の能力は日常会話として溶け込んでいる。アトランティス時代のモノガタリに近い精度だ。なので気をつけろ? 無意識のうちに能力を扱っていると、脳に負担を掛ける。寿命を縮めるぞ? それに今は伝達機能だけのようだが、いずれ魂の創造と消去も出来る様になるかもしれん』

 魂の創造って……ヤダぁん。私、まだお母さんになれなぁい。
 ――って、違うか。

「へぇえ、私って凄いのね。でも大丈夫!  なるようになるし、そん時ゃそん時よ。それに私にはロッキーがついてる。何かあったら助けてくれるんでしょう?」

『無論だ。全力でサポートする』

「ありがとう。頼りにしてるわよ!」

『それが我の存在意義だからな』

 胸を張って自身の存在意義を主張するロッキーだけど、それはちょっと違う気がするんだよね。

「う~ん違うなぁ。ロッキーはもう私の家族なの。家族を頼るのは当たり前でしょう? 少なくとも私はロッキーを〝モノ〟として見てないからね! お爺ちゃんもお婆ちゃんもお母さんだって、ロッキーを家族として見てると思うから!」

『それは我を普通の鳥と思ってるからだろう』

「それでも家族なの! 分かった?」

『心得た』

「だから何かあったら遠慮なく言ってよね?」

『ふむ。ならば言っておこう……』

 ロッキーの目がキラリと光った……気がするだけ。何だ何だ? この間が妙に怖い。

「何なに?」

『美優。一人で淫らな行為をするには、やはり昼間よりも夜の方が良いぞ? 我は気にせず眠っておるから夜にすれば良い』

「なっ! な、何で知って――!」

 何で知ってるんだよぉ! 恥ずかしくて、顔が真っ赤になって熱を持ってるのが分かる。

『どんなトリックであざむいても名探偵の眼は誤魔化せん』

 何だそれは。最近見てるサスペンスドラマの影響か何かか?

「むがーっ! そこは知ってても、言わないのが礼節ってもんでしょうがーっ!」

『はっはっは! 我はモノゆえ、人間の礼節とは知らんのだ!』

 そう言い残して窓から飛んで逃げて行ってしまった。もうっ!

「夕飯までには帰って来んのよー!」

 空に向かって小さくなってくロッキーの背中にそう告げる。
 さぁてと、明日からは合宿だ。
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